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92 コロッケの中身はカボチャとツナ



「『美髪』スキルの盛り上がりを受けて、皆さまには是非とも『美肌』スキルを出して欲しいと上の方から要望があります」

 オレらに協力を要請した、当の佐藤さんは困惑している。

 この忙しいのになんで?って顔だ。


 でも佐藤さん、口には出さなかったけど『発毛』スキルにはかなり期待を寄せてる態度じゃなかった?

 この手の気持ちはわかるんじゃないの?


 お世話になっているんだから、こっそりと無心してくれてもいいのにな……って、研究所の所長さんになるくらいのお人は職業倫理も筋金入りか。

 ワルの道に誘っちゃダメだな、うん。

 しっかり効果ありそうなくらい星がついたら、売店にそっと置いておくくらいにしよう。


「国税で最新鋭のエステマシンが納入されてしまいましたので、何卒ご協力よろしくお願いします」

 また、お高そうなものを。

 うちの政府ちゃんったら、ホント民意に弱いんだから。

 それとも『美肌』スキルって、税収や国民の幸福度がものすごーく上がったりするのだろーか?

 健康には良さそうだけどさ。


 そんなわけで人生初エステを受けた。

 わけわからん機械に掛けられ、あっちこっちを揉まれたり塗られたり浸けられたり蒸されたりでグロッキー気味だ。

 コールドスリープされちゃう?っていうドーム型の機械に掛けられた時ばかりは、かなりワクワクしちゃったけどさ。


 ちなみに蜘蛛狩りの後は、0.1や0.2程の雫石の『調律』を試してみた。

 その後に夕飯を済ませてのんびりしてたら、意識高そうなお姉さん軍団に問答無用で拉致されてしまって、何事かと思ったわ。

 今日も合唱部に顔出そうとしてたのに。


 あ、実験結果、極小サイズの『調律』はやっぱりハードルがぐんと下がった。

 今までやってたのが棒高跳びなら、0.1のはハードル走の高さぐらい。

 白玉ダンジョンの必要数にくらくらしてたけど、これならなんとか目処がたちそうでそこは良かった。


「うう、毛穴の中までピカピカにされてしまった」

 艶々になったヨウルがテーブルに懐く。

 そこも洗うの?ってところまで、洗われてしまったもんな。

 エステってこんなことまでしなきゃならんの?

 えげつないわー。

 綺麗なおねーさんが顔を揉まれているイメージしかなかったわ。


「あちらで『美肌』が出ているのはリューだけだろう?果たして私たちは必要だったのだろうか!」

 必要に決まっている。オレの心の安寧的に。


「ははは。オレがお前らを逃がすと思うか?

 …っと、『美肌』がつくと『免疫』とシナジーがあって、体が丈夫になるみたいだぞ?」

 2つとも妹たちにも出ているんで、うちら兄妹ゲームでは風邪知らずだ。


「今、とってつけただろお前。寂しんぼか」


「どちらかと言えば、道連れ沼から伸びる手だったな!」


「エンフィ、お嬢さま時代に『美肌』とか出てたりしなかったのか?」


「………ノーコメントだ!」


「そっか。オレはさておき、お前らは頑張れ」

 ヨウル。そんなこと許されると思うか?

 エンフィと2人してブーイングだ。


「エステマシンは皆さまのために購入したので、使ってください。勿体ないので。

 全員『美肌』がついた暁には、研究施設の備品になりますので、女性陣は楽しみにしているそうですよ」


「…うら若い女性に施術していただくのは、恥ずかしいのですが!」


「オレもー!」


「お互いに機械の使い方や、マッサージを覚えたいのなら、それでも構いませんよ。お教えします。

 ……流士さんは私の研鑽のために付き合ってくださいますよね?」

 あ。これは急遽エステで担当変わって貰ったことを、根に持たれている。

 そりゃゲーム内で、エステティシャン研修を真面目に受けているって知ってるけどさ。

 ちゃうねん。

 プロの人がいいとかじゃなくて、サリーにマッサージされたらさ、ヤバいじゃん。

 オレが月に吠えちゃってもいいと?

 全年齢なセーフティがあるリュアルテくんとオレは違う。

 好きな子にあんな熱心に触られたら、見せられないよ!みたいになる予感しかしないじゃん?

 『診断』したところ、サリーならその気持ちはわかってくれそうなものだけど……男より女の人の方がもともと我慢強いってきくから、こういうところもそうなのかな。

 サリーは性的にかなりクールな印象だし。

 これは、がっつかないようにしないとな。嫌われるの怖い。


 ……イチャイチャは許してくれるだけ良しとするか。


「…その、サリーに触られるのは恥ずかしくて」

 よし、ウブな振りで押し通そう。


「あ、こいつ照れたふりして逃げようとしてるだけなんで、引き取ってどうぞサリーさん」


「ピカピカのキラキラにしてやってください!」

 お前らなんなん?!

 オレを追い詰めて楽しいのか!


「お任せください。…人前が気になるのでしたら、次回からは自宅に伺うことにしますから」


 サリーのバカ!おたんこなす!

 いくら腕っぷし自慢だとしてもさ、嫁入り前の娘さんだという自覚を持とう?

 もっと自分を大切にして!






 37日目は嵐が起きた。


 天気?

 空は晴れてたよ。

 つまりは比喩だ。

 今ごろは、ご領主さまが大鉈振るって、スパイ組織や職務違反の密通者をジャカジャカ処断している時間だ。


 オレらはサリアータを脱出して空の下だ。

 領内の片付けの邪魔になるといけないから、ダンジョンマスター組はそれぞれ避難させれられている。

 率先して囮猟に勤しんでいるエンフィはさておき、女子組は一足早く療養目的で温泉巡りに出たし、ヨウルは護衛の人数が足りなくなると上の人が困るんでオレの用事に同行している。


 足になってくれたのは、十字を組んでの飛行連隊。

 精鋭部隊の力をお借りして、サリアータを南下し、一路トロット跡地へだ。

 馬車だと3日かかる距離だけど、ウィングブーツだとすぐそこだ。


「ご覧になってください、あちらが海です」

 煌めく海面からは、小島が無数に突き出ていた。その島の上には木々が繁る。

 海鳥が好みそうな環境だ。


「ああ、トロットの海は碧なんだな」

 それと砂浜が薄いピンク色だ。なんてメルヘン異世界情緒。

 これが人魚のいた海か。


 色々支度してから出たというのに、ギリギリ午前中にはついてしまった。

 悪巧みしている人たちも流石に空を飛んでいかれたら追いつけないもんな。

 安心を購うための空中移送だ。

 空飛べる人って士官教育受けたりして、基本は昇殿資格持っている。生活に困る層ではないし、犯罪がバレると失うものが多すぎる人らだ。

 例えるなら医者や弁護士。約束された高収入帯なわけで、金持ちは喧嘩せずだ。


 …うん。貴族や高位冒険者って本質は暴力装置だからさ。そうでもなければ危険すぎて始末におえないよな。

 日本の神さまとかよろしく暴れん坊だけど、普段から礼儀正しく顔繋ぎしておけば、面倒見てやらんこともない大やくざ感ある。つるかめ、つるかめ。


 件の斥候らもそうなわけで、だからこそお上の追求は厳正なものになっている。

 ここで彼らを野放しにすると治安が下がるだけではなく、冒険者に対する民衆の不安が高まるからだ。

 因ってこの層の職能を使った犯罪は、非常に高くつくものになる。そのことは誰でも知っている常識なのに。

 一体何が起きているのやら。






「なにこれ、浜が薄桃色」

 ヨウルはしげしげと砂を観察する。

 星の砂のように尖った粒子は、指先で押し潰すとクシャリと潰れる。

 海は驚くほど透明で、沖の方はエメラルドグリーンに染まっている。


「沖に無数の小島が見えるでしょう?

 あれは夢見貝が年を経て、巨大化したものです。

 彼らのおかげでトロットの海は清浄に保たれています」

 なるほど。自然が豊か過ぎて栄養過多になりそうだもんな海も。


「砂浜が花びら色なのは?」


「半分は夢見貝の風化によってですが、もう半分は家亀の一大産卵地だからです。

 彼女らは夜な夜な卵を産み付けにくるので、ここは水麗人の狩場だったそうですよ。

 家亀の甲羅は見事に赤いので、化粧品や、塗料としてよく使われています。

 北国の屋根が赤いのは、家亀のお陰でして」


「魔力を通すと、雪を溶かしてくれる、あの?」

 あの三角屋根は、動物染料だったのか。

 どれだけ狩られているんだ亀は。


 一瞬強く思い出す。


 セイランの長い冬は、悲しい童話のようだった。

 赤い屋根に積もる雪。遭難防止の街灯が一定間隔で立てられて。

 人気の消えた街に、自動点火で点る街灯が余計侘しい光景だった。

 今は賑やかになっているはずだが、最初の印象ばかり強い。


「よくご存じで!

 はい、家亀が育つのは北海なので、彼女らは時には氷壁を砕いて旅をするそうです。

 種族的な生命力も強靭なので、間引きをどんどんしていかないと海に帰れなくなると、水麗人は危惧していました」


「トロット村の跡地ではなく、こちらにゲートを繋げるのはそれでか?」


「それもあるでしょうね。ゲートを使えば夜に狩りをして、昼に戻って寝ることもできますから」

 それなんて飛行機通勤。お大尽な勤務体制だな。


「オーナー、駅の設置、よろしいでしょうか?」

 世話になった飛行士と話し込んでいると、声をかけられた。


 初めての空中飛行にガクブルしていた水麗人らは、海についたことで少し回復したらしい。

 青い顔でヨロヨロと駅の縄張りを進めている。


 とめないのかって?

 だって休憩しろって言っても聞かないんだもんあいつら。

 彼らはノベルから南海に繋がる駅を建てるって通達した時から、ずっとフィーバー状態で、なにかしてないと落ち着かないらしい。

 今の我らは無理目の女と初デートに漕ぎ着けた童貞みたいなものですと、真顔で申告された時のオレの気持ちがわかるだろうか?

 わかり味が強すぎて止められやしない。


 しかし水麗人と言えばウィングブーツの印象だったので、空を飛んだことで彼らが精神的半死半生になってしまったのには意表を突かれた。

 オーキッドらは巧みにウィングブーツを駆使していたが、どんな種族にもはみ出しすぎて一角になる、例外というものはいるらしい。

 空飛ぶクラゲがいる世界だから、水麗人だって空を飛んでもいいと思う。


「今、行こう。…本当にここを使ってしまっていいのか?」

 まだ海の魔物が少なくて、船が有用な移動手段として使われていた時代は灯台として使われていた場所だ。

 上からも確認しやすい開けた場所なので、飛行着陸の目印としても使わせて貰った。

 塔は崩れて見る影はないが、地盤は確りと残っている。


 中々に立派な史跡じゃないか?

 勿体ない。


「この灯台跡地は結界を張るのに丁度いいよう仕立てられていますので、活用しましょう。

 基礎が立派でしたので、少し削っただけで水平も充分にとれます。

 階段やらは新しくした方が安全でしょうが。…昔の人もやるものです。負けてはいられませんね」


「そうか。

 灯台跡地だと、後世の人たちにもわかるように石碑を建てたいのだが、手配をして貰えるか?

 知識人に伺いを立て、由来を掘ったものが欲しいな」

 なんでも『異界撹拌』内配信で、ウォーク系ゲームが実装されるらしい。

 たくさん歩くと良いことがあって、出先でもアプリから現地の依頼を受けられて便利そうなやつだ。


 リアルで配信するのを見越して、先に不具合を潰しておきたいなーって政府ちゃんの目論見だろう。

 撹拌世界で運用したら、管理AIがバグの処理もしてくれるしさ。


 システムとしては野良ダンジョンの発生グラフなんかもついていて、危険地帯がバッチリわかる。


 ちな、サリアータの危険指数はおわかりになりますよね?


 それとこなしたクエストによっては、現地のお得なクーポン券もついてくる。

 なのでオレのダンジョンも協賛店側として加盟をすることにした。

 サリアータに来てくれる冒険者へのサービスに、うちのダンジョンモニュメント近辺で、スターを踏んでいくとサービス券をプレゼントだ。


 こういう史跡もスターポイントになるそうなので保護をしなければなるまい。


「よいですね!長老たちにも話を聞いておきます!」



 クエスト!


 歴史を紐解いて。1の巻が解放されました!

 栄枯たるものは世の流れ。しかし人は歴史に学ぶもの。

 埋もれていた物語を掘り起こし、世に残そうという貴方は、一介の歴史学者として一歩を踏み出しました!


 報酬


 功績ポイント1500点


 海洋史学会会員銅バッジ


 称号 時の守り人 が贈られます!



 なんか久々にまともな現世利益がある報酬が出たな。


 …んん?でも史学会入ると、年会費とられるんじゃん?

 あ、でも会報が出たり専門書も買えるのか。なら、いいか。


 さては、こいつ。スポンサー枠の称号だな?

 歴史の研究って集金するのが大変って聞くから、撹拌世界でもそうなのかも。


「オーナー?」


「いや、なんでもない。頼んだ」

 会話の途中でクエスト出るのが悪い。


 ラインを書き込まれた床に沿って、まずは駅前広場になるモニュメントを建てた。

 その中に入り、駅前に向かう。

 広場駅前、波模様のタイルは、この駅の為に頑張った。

 相変わらずうちのデザイナーはやれるギリギリを攻めてくるな?

 最近パズルをしているようで、楽しくなってきたんだが。


 そういうわけで細かな工事はこれからだが、床を歩く分には平気だ。


 事前準備で既に南海駅の雫石は嵌め込み済みだ。対になるものは、ノベル駅に設置してきた。

 後は起動させるだけ。


 魔力を通してスイッチを入れる。

 すると空間が繋がった。


 よし、距離はギリギリかと心配したが、不足なく動いている。


「ん、繋がった」


「確認して参ります!」

 駅にぬるりと入っていった水先案内人は、直ぐにアスターク教官やメイドさんらを連れて戻ってきた。予定どおりの行動だ。


「それでは我らはこれで失礼します!」

 任務を終えた飛行士たちは、踵を揃えて敬礼する。


「協力を感謝する。

 ご領主さまには気遣いを嬉しく思っていたと伝えて欲しい。

 それともし貴卿らの時間が押してないのなら、うちの者が昼を用意しているだろうから、少し休まれていくといい。


 卿らに連れられて飛ぶ、空の道は素晴らしかった」

 飛行士と言えば虎の子だ。

 戦働きではないとはいえ、こうもぽんぽん貸しだされると少しばかり期待が重いです、ご領主さま。


「はっ!こちらこそダンジョンマスター殿のお役目に参加できて光栄でした!

 この駅があるかぎり、自慢の種がひとつ増えます」

 おおう、爽やかだな、飛行士のにーさんらは。

 テキパキと撤収していく、その背を見送る。


「お前さー。どこでそんな猫の被りかた覚えてくるの?」

 ヨウルに肩で軽く体当たりされる。


「…慣れてないから、失礼がないかドキドキするな?」


「嘘つけ」


「いや本当に。普通に農村育ちだぞ?」

 リアルでもコンビニすら徒歩圏内になかったりするぞ。スーパーと道の駅なら近所にもあるけどさ。


「仲良くしゃべってないで、鍵はしめとけ。

 サリアータは大掃除のまだ途中だ」


「はい、教官」

 そういやそうだ。油断は禁物。

 忠告通り、ダンジョンに『施錠』を掛ける。


 そうしている間にも天幕や休憩所が設えられて、屋台車から焼きもろこしの香りが漂ってきた。

 醤油の焦げる匂いって、なんでこう、そそるのか。


「マスター!ヨウルさまー!お昼は焼きそばとカレーどちらが良いですかー?」


「両方!」

「うん、わたしも」

 夜は浜でバーベキューだけど、これからたっぷり遊べば腹も空くだろ。


「お腹がペコペコなんですね!

 それでは愛情モリモリ海の家スペシャルで!」


 どん、どどん!


 ドライカレーの乗ったサフランライスには目玉焼きonフライドオニオン。

 ヤキソバは王道のソース味。

 タコやらイカやらエビやら足の沢山あるものが豪快に混ぜられて、たっぷり掛けられたカラシマヨが美味しそう。

 彩り野菜は茹でブロッコリーと揚げトウモロコシに紫キャベツのマリネ。

 無言で添えられたコロッケには、大根の酢漬けが盛られている。

 なんという腕白かつ華やかな布陣…!


 大皿にてんこ盛りされた豪華チャレンジメニューにあげた悲鳴は、歓声だった。




 誤字報告、いいね、評価ありがとう御座います。


 コメント貰うと、書いてて良かったなと思います。


 ええと、人を選ぶ話なのはご免なさい。

 読み手さんの一時の楽しみになれたら嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 子供たちの活躍の後ろで、キャー領主様-!という声援を送りたくなる大人の世界も垣間見えて良いですね 崩落以来リュアルテ視点でも書類でお仕事してる形跡見えていたから、忙殺されてる隙にちょっかい…
[一言] 確かに読む人を選ぶタイプの作品かもだけど俺はかなり好き。応援しているのでぜひ頑張って欲しい。
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