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89 ワールドクエスト



 36日目は、朝寝をした。

 なにもしないで惰眠を貪るとか贅沢じゃないか?

 そう思っての犯行だ。

 しばらくごろんごろんしていたが、どうもリュアルテくんは退屈してるっぽい。

 これが若さか。


 結局30分ほどで起き出して、妹らと一緒に朝食を取る。

 ノベルで育てていた牛が子牛を産み始めたので、乳製品が手に入るようになった。

 新鮮なバターは幸せの味がする。

 それで作った卵液がしみしみのクロワッサンのフレンチトーストとか、美味しいに決まってるんだよなー。

 フランスパンで焼いたのと同じくらいに好き。


「サリーさまは召し上がりませんの?」


「すみません。私はこれから寝ますので」

 プレートにアイスを乗せてくれたサリーは、ここしばらくすれ違いも多い。

 ゲーム中の夜はこちらで寝ていても、昼は時々リアルで活動しているデスマーチ中である。


「サリーさん、忙しいんだ。

 リアルでちゃんと、ご飯食べてる?」


「それはもうしっかりと。むしろ体重の増加が恐いですね。

 たくさん食べて鍛えてますよ。

 先日は握力計の自分的最高値を更新してしまいました」

 うん。嬉しそうに報告してくれたよな。


 新しい測定器が研究所に届いたんで、それを玩具に同僚らときゃらきゃら楽しそうだった。

 今までのやつは、握ると測定器が振りきれてたらしいよ?

 申請した備品が後回しにされて中々届かないことも多いのは、政府ちゃんったらゲームに持てる力を全て注ぎ込んでいる感がある。


「ないすばるく?」

 マリーはむぐむぐと口に朝食を詰め込んでいる。

 こいつ、リスとかの頬嚢がある生き物みたいだな。


「立派な見せ筋こそはないですけど、マラソンは得意ですよ」

 つまり実用的な筋肉でしたらありますよってことだな。

 うん。佐里江さんは美脚だった。


「走るのって楽しいよねえ。みっちゃん、じゃなくて友達は、理解してくれないけど」

 お前と仲良しの近所のみっちゃん、運動とか嫌いじゃん。

 料理や刺繍だったら、喜んで付き合ってくれるだろうからお前の方が合わせてやったら?


「私も昔はそれほど好きではありませんでしたよ。散歩から布教してみては?」


「まーちゃん。強引な宗教勧誘は嫌われましてよ?」


「しないよ!でも、おねえはもうちょい外に出てもいいと思う」


「細々とした、おうちの仕事って楽しいですわよね。つい、時間を忘れてしまって」


「…おにい、おねえが女子力マウントとってくる」


「諦めろ。チェルの奴は他意はない。引きこもり最高と言っているだけだ」


 さて、やりたいタスクは沢山あるけど、優先してこれを、というものはなくて迷う。

 こういう時にこそ、【やることリスト】の出番だ。最近は通知をオフにしているんでステータスから改めて開く。



 【5人目の教官の謎を追え!】


 【恋人に忍び寄るストーカー退治!】

 

 【怪奇!妖怪アイドル伝説!】



 それらのお題が新しくポップしている。

 開いたリストをそっと閉じた。

 しばし黙考。


 やっぱり、リスト任せはよくないな!



 ……ただ、そうだな。


 他意はまったくないけれど、サリーの意向を無視した付きまといがあるのは漠然とした不安があるよな?

 サリーがこのあと休むなら、ぽろっと誰かにその苦しい気持ちを溢してしまうかも知れない。

 なにせ【わたし】は総てを一瞬で失くした経験がある。

 親しい身のまわりの人の安否にはとても、とてーも、ナイーブになるのも仕方ないよな。

 ストーカーなんて、オルレアのような淑女に相談するのは気が引けるから、教官や、メイドさん部隊の男の子とかに相談をしてみようか。


 犬族はさぞかし探し物も得意だろうって?

 いやいや、そんな。…コネって使うものだよね?



 そう、これが好ましい人物の話はつい耳目に入ってしまうといった微笑ましい話であってくれるならどんなにいいか。


 本当に【やることリスト】ろくでもないな。

 開くと知りたくなかった話ばかりポップするのって、どうなの。


 このクエストなら君は動かないなんてことはないだろうね、そう言いたげなGMの邪悪な微笑みを幻視しそうだ。


 その通りだよ。こんちくしょう。

 朝から血圧、心拍数を上げさせてくれる。


「おにい、なんか悪い顔してる?」

 ははは。

 嫌だなマリー。今のオレはリュアルテくんのプリティフェイスぞ?

 内面が腹黒でも、色白は七難を隠すものだ。


 なにを言っているか、わからないな?

 そんな風に小首を傾げて見せてみる。


 すると、チェルがカトラリーをたおやかに置いた。


「…お兄さま、ご自重なさって下さいましね?

 憎い仇でも、故郷には家族がいましてよ」

 そう、切々と訴える。


 妹らカンがよすぎやしないか?

 まだなにもしてないぞ?

 いや、本当に。


「剣呑だな。時間に余裕が出来たからと、【やることリスト】を久しぶりに確認しただけだぞ?

 ただ、犯罪を教唆されてしまってな。リストに思うところがあっただけだ」

 うちの者に手を出されたら、なあ。


 穏やかに済ませる自信がないので、先手を打っておきたいところ。

 血の雨を降らせない為の、努力はしてみる。


「………リュアルテさま、くれぐれも御一人での行動はお控えくださいますよう。

 なにかする時は、周囲の者に相談をお願いします」

 先行プレイヤー的に、さんざん振り回されてきたのだろう。

 あのリストは本当にと、サリーはぷりぷりお冠だ。


「もちろん。約束しよう」

 努めて真面目に頷いた。心配させたいわけではない。


 まあ……一概につきまといとは言っても色々ある。

 口説くためにタイミングを計っていました、その程度の範囲に収まるのなら、やきもきはしても見守りはしよう。

 本音は嫌だが我慢する。


 しかし邪悪な魔術師が生け贄を探してうろついてたり、不認可の薬を水源にぶちこんで実験しようとするマッドサイエンティストが跋扈するのがこの『異界撹拌』である。


 リストのストーカーは普通の人であってくれるならいいな?

 こちらの対応もまだ穏便に済ませることが出来る。


 目には目を、歯には歯を。

 人倫にもとる相手には相応の鉄槌を。


 オレが基本いい子ちゃんでいられるのは、周りの環境が穏やかな時のみだ。

 それは前世での行動が証明している。


 争乱イベントでは敵のマーカー相手には、カルマシステムは凍結された。

 そうでなければ、オレの現行カルマ値も他人さまにはお見せできない数字のはずだ。


 ネズミですら追い詰められれば猫を噛むのだから、まして知恵の実を噛った人間ならいわんや。


 さて。1人で行動しないと約束したからには、ダンジョンマスターの権力はどれだけ人を動かせるのか試してみよう。

 サリーが忙しくしている間に片付くといいな。






 午前中は急遽、水麗人用の赤ちゃんプールを仕立てるつもりだ。

 だって旧トロットから第1陣の水麗人がサリアータに到着したって報告あったから。

 働くなと言われたけど、これはボランティアみたいなもの。教官も苦笑いで許してくれたし、石の『調律』は既に終わっているからセーフだ。


 赤ちゃんプールといっても、仕様としてはまんま海だ。

 子供たちが温かい物も食べられるようにと猫の額ほど設えた浜辺と、少しの浅瀬。メインになるのは水深20メートルほどの海域で、他には境界の目印になるような岩場があるくらいだ。

 特筆するのは、しびれクラゲやイモガイみたいな危険な生き物は入らない設定をしているくらいか。

 水玉みたいな有用な魔物は入れるけど、赤ちゃん用ということで基本は安全地帯にしてある。


 ノベルに顔を出したら、オルレアは面会中とのこと。

 なのでいつの間にか設えられてしまったオーナー室に通される。


 窓に掛かるカーテンはレース。

 光に透けると、銀糸で淡く縁取りされた野薔薇の陰影が淡い緑の絨毯に落ちる。

 部屋は明るい色合いの木材をふんだんに使ってるので、高級感はあっても嫌味ではない。

 あまり使わないのにオーナー室を設えられるのは勿体ないけど、住みもしない館を建てられるよりは順当だ。


 天鵞絨の椅子に腰をおろす。

 オレの身丈に合わせて作られた家具は、しっくりとした座り心地だ。


 オルレアの用件が終わる前に、まず情報をチェックしておこう。


 【やることリスト】のクエスト情報からすると、サリーに向けられる妖しい視線があるとのこと。

 思い当たる節がなかったので、ものは試しと『倫理』スキル内の『録画』で確認してみれば、普通にいた。


 中肉中背の男がサリーの後を付いてきている。

 サリーは注目慣れしているので、それを気にした様子もない。

 『録画』内『検索』機能で【サリー 向けられる 視線】で呼び起こしたら、沢山候補が出てきてしまった。


 だけどこいつが一番怪しい。

 数が多く映っているのと……なんていうか、実験動物を見る目をしている。

 若いお嬢さんとかと比べると差が酷い。【今日も会えた、嬉しい】【いつ、話しかけようかしら】そんな風に煌めく瞳、上気する頬と、珍しい症例が出たマウスに対する研究者の態度なら、同じくらいの熱心さでも表情の出方がまるで違う。


 こいつが第1候補だが、問題は他にも強い視線をおくる者もいたりすることだ。


 容疑者2番手。こっちはどうも怨恨っぽい。

 ぶつぶつ呟きながら、恨みがましいねっとりとした目で睨み付けてる中年男の画像は……なにがあったの、サリー。

 男にゃ外に七人の敵がいる系?


 えー。

 こんな怪しいの今まで気がつかなかったのって、よほど鈍かったりするんだろうか、オレって?

 『録画』で映ったのなんて、意識してなきゃ偶然のはずで、なのにこの人だけで5箇所も映っている。


 おまけの3、4番手は普通の冒険者っぽい人ら。

 でも、こっちはオレの方をメインで観察してるついでっぽいんで、今はいいや。


 有能すぎやしないか『倫理』スキル内蔵統率魔道AI。

 こんなにさっくり出てくるなんて想定外だ。


 サリーと別行動しているのも良くあることだし、なにより『倫理』を入れたのだって最近だ。

 なのにこの頻度で映るって、ストーカーじゃなければ探偵か、はたまた他所の諜報員じゃん。

 ちょっと頭を抱えたい。


「見てもらいたいものがあるのだが」

 メイド部隊のドーベルマン。

 とりわけ賢く機敏なベアトリーチェに、そっと気掛かりを溢すに決めた。


 彼は親兄弟そろって警察勤務という子で、産まれた時に体が弱くて女名をつけられて無事を祈られた系男子だ。

 名前の加護を受けたせいか、ベアトリーチェは凛々しいがドーベルマンにしては優しい顔立ちなのでメイド服も似合っている。

 獣相が祖の姿に近いほど、同族にはモテ要素なのでメイド服を着てなけりゃ、彼はものすごーくモテモテだったに違いない。


 そうそう、仕事着に異性の服を着るのって、恋人募集してませんの合図なんだってさ。この前こっそり教えて貰った。

 うちの衣装倒錯って、そんな現地ルールがあったらしい。


 問題の『録画』データを再生機器に接続する。

 ベアトリーチェは教官と2人してそれを覗き込んだ。


「偶然気付いてしまって。

 『録画』で確かめたところ、彼らはわたしではなくサリーを監視しているかのようだ。

 内々につけられた護衛というにも、毛色が変わっていて不審に思っている」


「わかりました。確認をしてみましょう。

 ……ああ、なるほど。

 比較しますので、サリーさんに注目している他の方のデータもお預かりしてもいいですか?」

 彼に編纂した『録画』データを渡すと、真剣な面持ちで閲覧していく。


 オレに向けられる視線はダンジョンマスターだからぶっちゃけ多い。

 物珍しい珍獣であり、護衛対象でもあるからだ。

 気にせずのほほんと過ごしてきたが、大らかだったんだなリュアルテくんは。


 【わたし】が話しかけられでもしない限り、見られることに関しては意識の外に置いていたなんて、こういう機会がないと気付かなかった。

 常に衆目に晒されているのにストレスフリーなのはリュアルテくんが、常に人が側にいる『礼法』を叩き込まれる立場で生まれたせいだろう。

 一般人で、これだけどこに行ってもじろじろ見られると、気の弱い者は病みそうだ。


 …アリアンは少し心配だな。

 ああ、クロとセットの行動は彼女の精神の負荷を考えてのことか。

 【わたし】はどうも繊細な心の機微とは縁遠い。


「は?…こいつら、なにしてやがる。街中だぞ?」


「確かにおかしいですね。これだけ目立つのに警戒報告が回ってきておりません。

 彼ら、『錯視』か『隠密』か、なにかしらのスキルは使っていますよね。

 それもかなり高位のものを、です」

 オレが鈍すぎるわけじゃなかったのか。ひと安心だ。


「もし、泳がせている最中の諜報員なら、気が付かないふりをしてもいいが」


「はい、いいえ。そのような問題に慣れる必要はありませんマスター。

 自分や親しい人が監視されて、気持ち悪くならない方がおかしいのです。

 ……その、私共も護衛としてホテルに待機していますが、ご負担でありましたでしょうか?」

 いや、全く…言い出されるまで気付きもしなかったし、不快とかは思いもしなかったな。そういや。


「わたしは人の視線は気にならない質のようだ。

 それにホテル内なら公共の空間だ。

 むしろ歩哨が入るのは頼もしいと思う。

 瑕疵があるならいざ知らず一般人の感覚でも、きっとそうではないか?」

 警官が立ち寄るコンビニとか、シール貼って宣伝してるくらいだし?

 寝室まで入ってこられたら、それはもちろん困るけど。


「ただ、サリーは質の悪いストーカーに悩まされたこともあるから、心配で。

 色恋ではなくとも、人目を引くということはそれだけで厄を呼び込むこともあるだろう。

 まして、わたしの側仕えを担ってくれているのだから。余分に振りかかる悪意もあるのではないか、と。

 しかし警察も証拠がなければ、相談されても困るだろうし」


「いくら腕がたつからといって身内は心配しないということはありませんよ。

 畏まりました。

 私共にお任せください。各所方面に協力を要請してまいります」


「頼む。

 気を立てすぎかもしれないが、周りの者が厄介ごとに巻き込まれるのは、苦手のようだ」






 連絡を取りに散ったベアトリーチェ班の代わりに急遽ハラノ班が従士についた。

 ハラノ班は『倫理』スキルを入れている者も3名、いるらしい。


「これより『倫理』持ちの私服随行は50メートルほど離れた位置から全景を目に入れることにします。

 今日はサリーさんはお休みになっているようですが、安全が確保されるまでは、なるべく行動をともにしたく存じます。

 つけ回している相手は手練れ。

 できればサリアータの外に出るのがよろしいかと」

 教官も映像の供出に参加してくれて、改めて『録画』を『検索』すれば出てくる出てくる。怪しい人物の画像の山に、メイドさんらは阿鼻叫喚だ。

 容疑者が多すぎる。

 いや、サリーのだけじゃなくてさ、オレらダンジョンマスター、本気で色んな所から狙われてんのな。

 ちなみに街中で『隠密』や『錯視』といった斥候系スキルは、申請なく使うと現行犯逮捕だそうだ。

 教官は頭を抱えている。


 この手のスキル取得って、信用がものを言うらしい。

 教官曰く資格を取るときにも、悪いことしませんって誓約書を提出するものだとか。

 それぐらい管理されているものだから、これが原因で捕まると一発でスキル封印刑務所コースだそうだ。


 だというのにそれを押して彼らにスキルを使わせた黒幕がいるというのが恐ろしい。

 貴重な高技能者を使い捨てにするとかさ、ちょっと信じられなくない?


「俺の目を盗むクラスの斥候なんてよ、冒険者ならどこに行っても歓迎されたのに、勿体ねえ……」

 有資格者が犯罪を犯すと法律は厳しい。

 アスターク教官が溢した通りに非常に勿体ないことになる。

 冒険者が足りてないのに、なんてことをしてくれるんだ。


 しかし人や魔物は欺けても『録画』は残るんだな。知らんかった。

 『倫理』スキル、メモリが重いだけある。


 ははは。

 サリアータはスパイ天国だったらしいな。

 知りとうなかった。知らなかったら不味いけども!


「わかった。休暇だからと、外に出掛けるのをねだってみる」


「護衛の層は厚く付けさせて頂くことになりますがご了承くださいませ。

 クラスメイトの皆さまのところにも、すぐさま護衛の追加の要請と通達を飛ばします」


「わかった。皆を頼む」






 なんのキャンペーンなのか、導入酷いな。

 情報が集まるまえから精神的ボディーブローを受けてしまった。

 ストーカーはせめて個人であって欲しかった。

 下手すりゃ組織ぐるみとか、どうしろと。



 ざざん、ざざん。

 荒んだ心が波の音に洗われる。


 黒々とした砂浜に、打ち寄せては泡立つ白波。

 ダンジョンの海はプラスチック塵のひとつもない。

 水玉による海の浄化プロジェクトが軌道に乗ったら、リアルの海もこのような姿になるのだろうか。


 もっとも水麗人はこちらの世界しかいないだろうけど。


 海の波間に水麗人の頭が浮かんで、また沈む。

 彼らは陸の呼吸は口や鼻から、海の呼吸はエラからこなせるハイブリッドな人類だ。

 オレが造った箱庭をより暮らしやすくするべく、せっせと環境を整えている。


「海というには少し狭いが、プールよりはましか」


「いいえ、赤ちゃんの揺り篭なら満点です。

 外敵に襲われることがないなんて、まるで海じゃないみたい」

 隣の人魚はオルレアの友人だ。

 3人の子供の母親で、そのうち1人を亡くしたと聞いた。

 彼女は保育園の園長としても、ノベルに常駐して貰うことになる。

 そのための顔通しだ。


 シンプルなワンピースに裸足姿。

 まるでアンデルセンの童話からでてきてしまったかのような少女めいた面持ちの、とても声の美しい水麗人だ。


 私立ノベル幼稚園は本日開園。皆さまのご要望にお応えして24時間営業だ。

 保育士さんは募集をかけるまでもなく、あっという間に集まった。

 同時に子供たちも大勢集まったので、海エリアはやや手狭そうだ。

 代わりに浜辺はガランとしている。


「大人のほうが、はしゃいでいるのはなんでだろう?」

 奥の方で水柱があがる。

 岩場に上がった水麗人たちは、尾びれで水面を叩いていてはきららかに鱗を光らせている。


「久しぶりの海の者もいますから。

 幼児用プールで大騒ぎする大人ばかりでごめんなさい。

 陸の人用の海水浴場はとても綺麗だけど水深が浅いから、わたしたちには向かないみたい。

 人の姿に化けられても、私たちは海の生き物。

 尾を悠々と伸ばせるのって、大事だから」

 彼女はあまり人慣れしていないのか、訥々と、だが一所懸命話してくれた。

 オーシャンブルーの瞳に見詰められる。


「オルレアはだんだん狭くなる海に縛られる私たちとは違う、本当は誰よりも早く遠くを走る人。

 とても優しいけど、強すぎて少し鈍感だわ。

 まだ小さな貴方に無理をさせてない?」


「むしろわたしが彼女に面倒をみて貰っているが」

 それも沢山。

 オルレアが有能なのをいいことに、振り回している自覚はある。


「……私はあの子に追い付けなかったけど、貴方も足が早いのね。

 良かった」

 ひとつ、微笑んで彼女はその肢体の『変化』を解いた。


 大降りの花弁の形の鱗はオパールのように光に煌めく。

 金属光沢のある髪が水のようにとろりと流れた。

 尾びれの長さ、しなやかさはそうあれかしと創られた芸術品だ。

 このチリチリとした感覚は、彼女が平民じゃないからだろう。

 人の姿はただ可愛らしい女性だったが、水麗人の本性は、見間違うことなき貴人である。


「私は海のレイ ディンシー。貴方の友達にして下さる?」


「よろしく、レイ。

 リュアルテ ノベル サリアータは海の人を友にしたい」


「待っていてねリュアルテ。

 私ひとりの足は遅いけど、我が一族はいつか貴方たちの隣に行くわ」



 クエスト達成!


 リュアルテ ノベル サリアータ 貴方は水麗人の親愛を得ました!



 報酬 称号 王女の友



 陸の友人の手引きにより末の王女とその子供たちがトロット跡地から離れ、安寧の地で槍を研ぎ始めることとなりました!


 世界軸に水麗人貴種の生存確定が刻まれました!

 今日の、この日この時より、海のトロットの再興が始まります!




 ワールドクエスト!


 水麗人のコミュニティの充実により、サリアータにて海のクエストが解禁されます!



 そして流れるワールドクエスト。


 わー……サリアータ関連でワールドクエストって崩落したとき以来なんじゃないかなー。

 他所じゃ色々あるのにな。


 ……………レイって、やっぱり偉い人だったんじゃん?!

 オルレア、オルレア。

 オレ、王女とか聞いてないよ?

 料理人じゃなかったの?!

 オルレアの友達なら、そりゃあお嬢なんだろうとは思ったけどさ!


 …休暇はトロット跡地に駅を通すことになるのかな。

 でも、なんでドラマのひとつもなく、王女がそこらに転がっているの?


 ……わかってる。


 つくづくダンジョンマスターは舞台装置であるわけだ。

 ワールドクエストを受けてやってくるプレイヤー相手に、ロマン回路や胸のトキメキをギュンギュン感じさせるような演出をしてね、よろしくね♡

 そういうことだろう、この裏口からの引き合わせは。


 運営AI、無茶振りじゃね?





 いいね、評価、誤字報告ありがとう御座います。


 なんか90話の後あたりで、やっぱりエロが入りそうです。

 それがメインの話でもないんで、書くだけ書いてお蔵入りしてもいいんですが。

 ……。

 朝チュンの技法って素晴らしいですよね。考えた人は天才だと思います。

 こちらで朝チュンしたら、こいつら仲良くしたんだなと深読みしてください。



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