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74 合成飼料




「マルフクたちは元気にしてたか?」


 目指すは付与具技師の資格取得。

 夜、1冊本を読み込み終わったタイミングで思い付いて聞いてみる。

 夜の居室。妹らは栗を炊きながら、縫い物をしていた。


「うん。元気、元気。栗拾いに連れていって貰ったよー。

 ついでにトンボも狩ったけど」

 信頼のある現地冒険者とのコネは結んでおくに限るので、紹介状をつけて下の子たちを送り出しておいた。

 顔通しだけのつもりだったが、人のいいあのパーティは引率までしてくれたらしい。


「【秋山ダンジョン】の浅層にお邪魔しましたの。

 柳葉トンボの羽はクリスタル系の生体金属で、きらきらしていて素敵でしたわ。

 工作技術がないので、換金対象でしたけど」

 ああ、天然でラメが入っていて、ビーズとかを作るやつの原料の虫な。


「おにい、『雷鳴仗』貸してくれてありがと。メイドさんに返しといたけど、いいよね?」


「それでいい。攻撃スキルがついた道具を使うのは、未成年は保護者がいる。なるべく持って歩かない方がいいな。

 必要な時だけ申請して持ち出してくれ」


「はあい。虫って苦手だと思ってたけど、狩りの獲物だと出てくるとおっしゃあ!ってなるのなんでだろーね?」

 妹が逞しい。

 柳葉トンボってデカイし、エイリアンっぽい顔してるのに。


「でも食べるところがないんですよね」

 あったら食う気あるのお前?!


「皆さま、スフレオムレツを焼きましたから休憩なさってください」

 プライベートダンジョンに入っていたサリーが顔を出した。


「スフレ!」

「オムレツ!」

 夜のおやつに妹らがはしゃぐ。


「萎まないうちにどうぞ」

 白い粉糖が掛かったスフレオムレツとやらは、ほんのり檸檬の香りがする。

 ふわふわで、蕩ける。

 これはうまい。


「美味しい!」


「本当に美味しい。サリーさまのお料理って、プロの味なんですのね」


「料理の塩梅がわからないので、実は教えられたことをその通りに作っただけでして」

 手料理を絶賛されて、サリーがはにかむ。


「えっ。凄い。おねえに料理習っても、私おねえの味にはならないもん」

 サリーの料理は薬学の延長にあるせいか、きっちり分量と手順が決まっている几帳面なお菓子とかはかなり上手だ。


「サリーは、まだ薬草園の作業があるのか?」


「一先ずやっておきたい土仕事は終わりました。薬草園とはいってもまだベリーしか植えてませんし。

 今はグリセリンや、カルシウムの『抽出』をしています」

 そうか薬師の作業中だったか。


「カルシウムならマグロの骨やらを、桃子に貰ってきたけど使うか?」

 あとグリセリンなら、『解体』練習用に魔鳩がある。

 成分からして廃棄予定の内臓からも『抽出』出来るよな?


 『体内倉庫』を使った『解体』はスキルの伸びが悪いけど、塵も積もればなんとやら。マメに修練を重ねている。

 なにしろオレには桃子がいるので、生ゴミも量がそこそこ欲しい。

 あいつ、なんであんなに食いしん坊なんだろ。千代子はおっとりとした癒し系なのに。

 桃子があんまりすくすく育つもので、中庭は拡張する羽目になった。

 レベル2の雫石が『調律』可能になるまでは、なんとかこれでしのぎたい……なんてな、実際はそんなに大きくはならないだろうけど。セコイアトレント並みに大きくなるとか、桃種の限界を超えてしまう。

 それでなくても吸血種の蟠桃なんて、神聖なんだか邪悪なんだかようわからん進化をしているのに。


「はい。『抽出』後の生ゴミは中庭の水玉コンポストに入れておきます」


「サリー。『抽出』はものにしておきたいから、わたしも参加したい」

 美味しく食べてご馳走さま。

 『洗浄』で食器を綺麗にしておく。その食器はサリーが回収する。


「おや。お手伝い頂けるので?」


「報酬はピスタチオのクッキーでいいぞ。この前の旨かった」

 ピスタチオの大袋を渡す。

 朝にオルレアから貰ったアレだ。

 妹たちにお使いを頼んでマルフクのところにお裾分けしたけど、まだまだ沢山残っている。


「ダンジョンマスターを雇える工賃じゃないんですよね」


「ふふ、栗が炊けたらわたくしたちは部屋に引き上げますわね。お休みなさいませ、お兄さま、サリーさま」


「お休みなさい!」


「お休み」

 挨拶をしてから、サリーに手を引かれて薬草園にうつる。

 パーティー運用を考えて建てられた山小屋は、玄関を広めに取っている。

 出現ポイントは2箇所設定してあって、外の広場とこの玄関だ。

 小さな鳥かごに入れた雫石を掛けられるように、そこには専用の籠掛けが設えている。


「作業は調合室で?」


「いえ、キッチンでしてました。『抽出』は『体内倉庫』でしていましたので」

 それで手の空いた本体は、料理をしていたと。


「マグロの骨ならキッチンで出してもいいか?」


「ええ、内臓からの『抽出』は私がします」

 『解体』済み魔鳩のあれこれを、手を繋いで『体内倉庫』に直接送る。

 そして床にポリバケツを置く。


「立派な骨ですね」


「そうだな」

 15メートルもあれば、クジラだよな?

 中落ちがキレイにこそぎ落とされた中骨は、魚の物とは思えない大きさだ。


「海鮮嫌いじゃなかったら、どんぶりもあるぞ?」

 これは手渡しで中身を見せる。


「大好きです。ノベルに通う楽しみがまたひとつ増えました」

 なら、良かった。いっぱいあるので多めに渡しておく。

 こちらのマグロは1匹が大きいので、お安く提供出来て良い。

 レトルトパウチのツナを開発すると調理部長が息巻いていた。


「では、『抽出』物はこのボウルに入れて下さいますか」

 10個ほど、目盛のついたガラスのボウルを渡される。

 指に発動体を嵌めて『抽出』開始だ。

 手にしたボウルには、カルシウムの粉末が砂時計のように貯まっていく。


「この『抽出』物はなにに使うんだ?」

 薬師の仕事は『体内倉庫』に任せ、サリー自身はピスタチオを『殻割り』をし始めた。どうやらリクエストを聞いてくれるらしい。


 しかし料理と薬師のスキルってシナジー多そうだ。素材の下処理なんて特に。

 ピスタチオの固い殻が剥かれて行くのをまじまじと見ていると、口に幾つか放り込まれた。

 そんなに物欲しそうにしていただろうか。

 噛めば、緑が香った。ナッツ旨い。


「私が依頼を受けたのは、サプリとニワトリの合成飼料の材料です。

 乾燥剤や還元剤としても使うそうですが、そちらは依頼を受けていませんね」

 おお、薬師っぽい。職能ギルドのクエストとか、わくわくするな。

 広く浅くしか手をつけてないから、今のところ冒険者ギルドだけで事足りているんでそっちは全くの未知の世界だ。


「では、これはニワトリ用のだな」


「大きい魔物ほど魔力たっぷりですから、喜んで食べてくれるでしょう。

 サリアータのニワトリは古々々米を食べてますから、魔力の補給剤としても添加物があるとやっぱり良いようです。

 ノベルみたいにダンジョンで育成している養鶏場は稀ですから。

 よそで卵を食べると、やはり違います」

 そなの?


「卵はすべて旨いから気がつかなかった」


「リュアルテさまのそのようなところが好きです」

 サリーはくっと小さく笑う。


 わあ。選り好みしなくて偉いと褒められただけなのに、サリーに好きって言われると動揺するな。

 リュアルテくんは普通に照れているだけだけど、オレの方が。


 サリーの中の人が男だと信じていた時は良かったけど、佐里江さんを知ってしまうと何気ない好意が悩ましい。

 だって年上の可愛い人が隙を見せてくれるんだぜ。

 サリーも佐里江さんも見た目はクールな美人だけど、性格は知るほどに可愛いもん。


 男って馬鹿だから。あんまり優しくされるとさ、勘違いしたくなって困る。



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