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68 たい焼き焼けた



「おにい、湯あたりしたの。怠い顔してる」

 マリーが首を傾げる。

 台所のオーブンスペースだ。


 『マップ』のプレイヤーGPSはダンジョン内は基本無効。

 そこで妹らに渡したパスポートの出番となる。これに登録することで【ノベルの台所】限定、どこに居るのか『マップ』表示してくれる優れものだ。

 うちのダンジョンの従業員は全員このパスポートを配布し、ゲストには貸与している。

 ノベルも広くなってきたから、合流が簡単に済むのはありがたい。

 


 弟妹組は神輿の見物客の需要を見込んであんこの生産に励んでいる。

 ヨウルが金型を作ってくれたんで、たい焼きを売り出すことにしたらしい。


「お兄さま、作業前にひとつお召し上がりになります?

 林檎カスタードと、肉そぼろの試作品がありますけど」


「貰う。どっちがお薦めだ?」


「肉そぼろは温かいうちにお召し上がりになってくださいまし。

 林檎カスタードは冷めても美味しく食べられるのではないかしら」


「熊さんは林檎の方が好きだって!

 でもお値段的に肉そぼろの方が売れそうって言ってた」


「アスターク教官はどちらに?」

 GPSの反応もなし。

 朝に挨拶をしたっきりのまま、姿を見てない。


「ギルドの人に連れてかれたよ。なんか忙しいっぽい?」


「星砕きの後は冒険者が消耗しますから、資格ある医療スキル持ちは頼りにされますね」

 そうサリーの補足が入る。


 砕かれた雫石はオレらが『精製』しきれない分は、いつもの駅まで輸送しなくちゃいけなかった。

 サリーやジャスミン、教官やら、護衛があるような人は免除だったけど、『体内倉庫』持ちは、老いも若きも手当たり次第に声を掛けられ、引っ張られてきた。

 マルフクやその親父さんも参加しているのをちらりと目撃した。

 おかげでギルドの医務室は疲労困憊したトドの群れで埋まったそう。


 一夜あけてとはいえ、そんなお疲れモードで神輿が担げるのかと思いきや、そこで根性を振り絞るのが冒険者だ。

 晴れの舞台。約束されたスーパーちやほやタイムだからな。さもありなん。


「リューさん。兄さんたちは一緒じゃなかったんですか?」

 ルートがたい焼きを渡してくれる。

 おお、『体内倉庫』を持っているのか。この年で優秀だ。


「ヨウルが『解体』を覚える気になったんで、皆で運動公園下の解体スペースに行った。

 魔力が増えたら案内しよう。

 あそこは大物専門だから魔力か技術がないときつい」

 レッドバイソンはまだしも、セコイアのエルダートレントとか背丈が100メートルを越えてるんだぜ?

 地下の解体場、早速、役に立ってしまった。


「わたしもあんこを『裏漉し』したら、そちらに参加してくる」

 立ったまま、行儀悪く食べられるのがたい焼きの良いところ。

 肉そぼろはピリ辛で山椒と筍が入っている。皮はカリっとモチモチだ。

 たい焼きに入っていること、猪鹿肉なことを除けばこのそぼろ、篠宮家の味だ。


「こいつ、金魚になってないか?」

 皮がはみ出て焼けているので、長いヒレがついてしまっている。


「そこは試作品なんで。味は悪くないでしょ?」


「ああ。しょっぱい味のたい焼きもいいな」

 皮がカリカリなのが特にいい。金属に挟んで焼くと、どうしてこんなに旨いんだろう。ホットサンドとか、そこらへん。


「コーンマヨも焼きますのよ。後はミートソースのを。

 甘いのは林檎のと、あんこですわね」


「試作品はルートが持っているのか?」


「はい。『体内倉庫』係です。少し持たれますか?」


「手際よく仕上げる練習も必要だろう?

 『裏漉し』している間に焼いてくれ。

 客に出せないのは引き取ろう」





 もりもりと『裏漉し』したんでスキルが生えた。あと『治癒』も生えていた。ひゃっほい。

 レベル上げたのと、角を治したのが効いたなこいつは。


 他人さまのお役に立てるのは『治癒』だけど、地味に嬉しいのは『裏漉し』だ。

 なんといっても、オレにとっては初めての料理スキル。

 『カット』も料理に使うけど、実はあれ、生活スキルの分類だ。

 料理スキルは生産スキルなんで、分類が違っていたりする。

 まあ、細かいことはいいんだよと梯子を外されればその通りだが。


 『裏漉し』要員として妹らへの義理を果たした後、宣言どおり次に顔を出したのは解体スペースだ。


 運動公園の地下、解体場の天井の高さは25メートル。

 丈夫な梁を張り巡らせて、フックやロープを掛けられる仕様だ。

 天井を支える柱がなくて済むのは、ダンジョン建築ならではのもの。

 だだっ広い床スペースにどどんと、セコイアトレントの巨体が横たわる。

 これらは規格外過ぎて冒険者ギルドや、建材ダンジョンでも処理しきれなかったブツだった。

 プライベートダンジョン持ちのダンジョンマスターが、現地に揃ってなかったらこれらの巨大セコイア群はその場に放置されていただろう。

 オレも急遽倉庫を増やした。そのどれもがこの巨木でみちみちである。


「セコイアは大きく育つんだな」

 樹皮の厚さだけで30センチはあるんだぜ?

 丸太にするだけで一苦労だ。本来ならば。


「はっ!」

 紫電一閃。

 メイドさんのスカートが翻ると、大人が20人手を繋いでもまだ足りない胴回り、その幹が一刀両断される。

 天井の梁からぴょーんと飛び降り、狙いたがわず、剣を1振り。華麗に着地だ。

 遅れて、どごん。ずしん、と地響きを立てて、印を付けたところから断面がずれる。

 思わず拍手をしてしまう。

 大太刀を装備しているが、精々が2メートルかそこらの刃物だ。なんでこの分厚い木を両断できるんだろう。何度見ても不思議だ。

 褒めると「生きている魔物には効かない余芸ですので」と謙遜されてしまうが、凄いよな?


 建材ダンジョンから出張していた職人たちがそれっとばかりに取り掛かり、枝打ち、『皮剥ぎ』をこなしていく。


「お前ん家のメイドさん、どんなに可愛くても強いのな?」

 さっきよりヨウルが萎れている。どした?


「バイソンの『解体』は、衝撃的だったな!」

 あー。なんでこっちにいるのか謎だったが、ギブアップしたのか。


「……雀はなんとかなったから、見学してきたけど。

 今のオレじゃ役に立てなさそうだから出直すことにする」


「女性陣は?」


「クロの実家は牛飼いだぞ!」


「ほら、アリアンは友情に厚いから」

 アリアン、本当にガッツある。


「なるほど。ところで、2人はなにをしてるんだ?」

 『皮剥ぎ』した樹皮を前にごそごそと。


「セコイアトレントの樹皮は優れた耐火性があるので繊維を『抽出』して、糸に『錬金』している!

 本を読んだばかりでな、試してみたかった!」

 『抽出』はエンフィ。

 『錬金』はヨウルがもっていたな。

 2人合わせると錬金術師っぽい工程がこなせるのか。


「というわけで、はい。リューの指輪。白い石が『抽出』で、金色のが『錬金』な。レシピはこれ」

 指輪とレシピ本、【糸の世界】が渡される。

 ざっと全ページを『録画』して、該当ページを読み込む。

 へー。熟練の『錬金』持ちなら、樹皮から直接糸にすることが出来るのか。

 慣れない内は繊維から『錬金』する、と。

 『抽出』はセコイアの保有魔力を取り込みながら繊維の取り出しをする。

 なるほど、このワンアクションを挟むんだな。


「セコイアトレントは山ほど狩ったが、樹皮は全部繊維にするのか?」


「手が回らなきゃウッドチップにするってよ。さらに無理なら水玉のメシだろ。流石にこの量だ」

 1本2本じゃないしなあ。

 樹皮だけで何百、何千トンとかその世界。


「……良いタンニンが採れますね。薬師ギルドに回してもいいかもしれませんよ。

 1瓶『抽出』してみましょうか?」

 樹皮に『鑑定』を掛けていた、サリーが提案する。

 オレもスクショしたんで一般『鑑定』は通るが、サリーは薬学系の知識がある。


「何かの役に立つならその方がいいな」

 見本があれば、オルレアが話を通してくれるだろ。

 需要があると、廃材が減って嬉しいな。





「タンニンは化粧品の材料になります」

 とのこと。

 すっ飛んできた薬師ギルドの人は大喜びで素材を引き取ってくれると約束した。

 大量取引な筈なのに、雀の涙しか減らないのは草。

 あとの殆んどは水玉のご飯か、しゃあないなと思ってたら、冒険者ギルド経由で連絡を受けた織物、製糸ギルドの人が駆けつけてきた。

 量が量なんで、しばらくうちで間借りして、繊維を作っていくらしい。

 なんかフットワーク軽いね。現地の人。

 駅が通って、利便が良くなったせいかあっという間に物事が進む。

 プロが来たので知見を得たかったが、ここでタイムアウトだ。

 時を知らせる鐘が鳴る。





 眼下を神輿が通っていく。

 

 沿道にずらりと人が並ぶなか、わっしょい、わっしょいとお神輿が通る。

 その度、わーわーと歓声が上がった。

 ねぶた祭りのアレをファンタジーナイズして、なおかつ人が担げるような形におとしこんだような。

 縁起ものやら、美人像、躍動する動物に妖怪などなど。

 正にハレの日。

 凄まじくカオスで数寄で婆娑羅なお神輿たちがせいやせいやと流れていく。

 本格的な楽隊を組んでいるのも珍しくない。実にど派手だ。

 冒険者なのに皆、多芸だな。


「水玉部屋がそろそろ限界です。ギルドに納品したタイプの水玉工場、ここにも造りましょう」

 オルレアは見慣れた光景なのか、通常運転だ。


「そうだな。そうしようか、後で。

 ところで。この神輿はうちでも出した方がいいんだろうか?」

 巨大うちわや垂れ幕、吹き流し。ノボリらには冒険者グループ名や、商店、スポンサーの名前が誇らしげに掲げられている。


「お抱えの冒険者が居れば、それに合わせて仕立てた方がいいですね。

 ご覧になって下さい。

 チーム尾長鳥の、尾長鶏神輿の見事なこと」

 赤い鶏冠に白地の羽。それに入る差し色の黒。

 長い、長い、その尾羽は地面についたりしないよう、それだけで持ち手が12人もついている。


「尾長鳥のチームで、鶏って。鶏は飛ばないけど、いいの?」

 ヨウルか横から口を挟む。

 そういやトレント狩りの時、このチーム空を飛んでいたな。

 鳥をチーム名に入れている所は、航空戦力に自信がありますよという意思表示だそうだ。


「普通の人間も飛びませんよ」

 あいつら可笑しいと言いたげなヘンリエッタ女史。

 冒険者や空軍の人とかは、飛ぶけれど。

 まあ、一般人は飛ばないか。

 ヨウルとヘンリエッタ女史は、たい焼きを半分ずっこにして、全種食べ比べをしている。仲良しか。


「お神輿担いでいる人は帰りに寄ってくださーい!」

「振る舞いのお菓子用意してありますよー!」

「お疲れさまでしたー!」

 メイドさんらから声援が飛ぶ。

 それを受け、担ぎ手の顔も誇らしげだ。


「お前さんらは主役みたいなもんだろ、あっち側でなくていいのか?」

 ジャスミンが行動したのって、こーゆーところがあるからだろうな。

 テロされたらヤバい、ダンジョンマスターは護衛が側に侍れないのに人が密になる行事から外されがちだ。

 なまじエンフィが見目に合わず、物分かりのいい大人なだけに、イラってくるのか。

 でも最後にちょこっと参加しただけで、主役扱いは図々しいぞ?


「ジャスミン、神輿は年齢制限があるよ。

 担ぎ手はあちこちで振る舞い酒も出るしね。

 んでもって酔っぱらってやらかしたら、ああなる」

 テルテル教官が指先で示す。

 沿道の女性に抱きついた男が、周りの仲間に拳で殴られ引っ立てられている。

 女性が満更でもなさそうなのは幸いだ。


「神輿は担ぐより作ってみたいなあ」

 ヨウルはそっちか。


「じゃーんっ!見ておにい、セーラー服!」

 赤いスカーフ、赤い帽子、赤い靴。膝下スカート。

 レトロなセーラー服でめかし込んで、その場でくるりと1回転。階段を駆け上がってきたマリーは、息を弾ませご機嫌だ。


「おっ、どーした可愛いじゃん」


「えっ、えと、着せて貰いました?」

 ヨウルに褒められて、マリーが照れる。

 兄には褒めろと要求するのに、慣れない相手には弱いなお前。


「見習いさんの制服なのですって。ほら、ルートさんも」

 ルートはまんま水兵さんだ。白いセーラー帽子が凛々しいな。


「女子が黒いセーラーに赤いスカーフで、男子が白いセーラーに青いスカーフか。

 3人とも、よく似合っている!」

 人種が同じだから、似た格好で並べると親和性がある。

 あとエンフィ、うちの制服、実は男女兼用だったりするんだ。すまん。


 白と黒はスカートかパンツかの差。

 だからメイドさんの中には男の子がいたりする。

 もちろんスカートが嫌な子もいるんで、執事服を着ている子もいる。こちらのグループにも女の子がいる。

 そのまんまイッヌな子も多いから、制服に違和感ないし、従業員の性別把握しきれてないんだよなー。オーナーのくせに。

 だってさ。雄のわんこにも、可愛いお洋服着せる飼い主さんいるじゃん?

 イッヌなら、どんな服を着ても自由なのかな、と。


「いいわね。リュアルテのところ、制服がどれも素敵」


「たい焼き屋さんはもういーの?」


「ええ、せっかくなので見ていらっしゃいって休憩を頂いてしまいましたの。お姉さま方、ご一緒してもよろしくて?」


「うん!いーよ!」

 妹らはナチュラルに女子と合流してお喋りを始めたので、ルートを手招く。


「兄さんたち、こんなとこにいたんですね」

 ダンジョンモニュメントの上はスタッフオンリー。

 2階屋上ほどの高さなので、通っていく神輿がよく見える。特等席だ。


「ダンジョンマスターの特権だ」


「私たちはこの後、沿道の屋台を冷やかしにいく。ルートはどうする?」


「たい焼き屋台の続きをします。お客さんが大勢来てくれて楽しいですよ」

 はい、預かりものですと、ルートが紙吹雪の入った袋をそれぞれに配る。

 なるほど、撒けということか。


「オレ、たい焼きはこし餡派だけど、肉のも好きだわ」

 ヨウルが紙吹雪を撒くと、ヘンリエッタ女史が『そよ風』を吹かせた。

 色とりどりの紙片が舞う。

 階下からわっと歓声が上がった。


「ミートソースは衝撃でした」

 ルートはそうかもな。いっぱいトマトを食べるといい。


「クロはリンゴのが甘くてすき!」

 このクラス食いしん坊が揃ったな。

 食べ物の話題は食い付きがいい。


「たい焼き、ひとり100個とか買う人いてビックリしたー。屋台でも焼いているけど、間に合わなくて殆んどはダンジョンの中で焼いているもん」

 妹のおしゃべりを聞きながら、オレも女史を真似して『そよ風』を吹かせる。

 皆の掌から零れた紙片が運ばれ、神輿を担ぐ冒険者の頭上に祝福の紙吹雪が降った。



 クエストクリア!


 貴方はサリアータ300号ダンジョンを踏破しました!

 一般参加者として、名誉ポイント1000点が贈られます!


 貴方は星砕きに参加したダンジョンマスターです。

 そのことが住人に認識されました!

 ブルーブラッド+1が贈られます!


 称号 星を砕くもの が贈られます!


 頼もしき勇者に栄光あれ!



 星砕き直後にはなかったリザルトが流れる。

 祭りの最中、このタイミングでくるのか。

 ワアッと上がる歓声は、恐らくプレイヤーのものだ。

 …意外と、いるもんだなプレイヤー。


 オレらは最後だけの参加だけど、クリアを目指していた彼らにとってはこのパレードは喜びも一入だろう。

 狙って彼らの上に、紙吹雪を舞わせる。おめでとう。


「あんこは残ったら使い回しを考えていましたのに、売り切れてしまいそうですわ」

 え。あれを使いきるの?

 MPにあかせてスキルを覚えるほどに『裏漉し』したのに。


「『体内倉庫』が便利だから。ない人は控え目でしょ?

 冒険者はよく食べるけど、それ以外でもMPを使う職業に就いている人も多いもの。

 片手で食べられる軽食はいくらあってもいいんじゃないかしら。

 職人に差し入れとかしたら、喜ばれそう」

 アリアンは食堂の娘だったので、そこら辺は詳しいか。


「お兄さま、ノベルに機材やレシピをお譲りしてもよろしくて?

 販路が大きいほうが、なにかと便利そうですわ」


「うん。バイトで雇って貰った方が仕入れとか考えなくてよくて楽」


「3人で、そう相談してたんです。思ったよりも売れ足がよくて。

 僕ら明日からまた寝てしまう周期ですし」


「お前たちがそれでいいなら、聞いてみる。

 オルレア、担当者に話を通して貰えるか?」


「はい。配当はバイト代と同じ口座に振り込んでおきますね。

 従業員と同じく、税務や保険の扱いもこちらですまさせます」


「おにい、保険ってあるの?」

 ファンタジーなのに?

 そんな目だな。

 身分制度は維新前だけど、社会制度は昭和っぽいぞ、ここ。

 ただ、国民保険や年金みたいな国が管理するような大きいものはないんで、そこら辺は企業が引率している。

 んでもって学業は江戸時代な。

 寺子屋みたいな塾があちこちにある感じ。


「ある。従業員は医務室でのケアが無料になるし、外部機関への補助もつく。

 規定日数以上働けば、バイトでも有給があるぞ。

 わたしたちみたいな実働日数の少ない寝坊助は関係ないが、その代わりに社宅の手配はある。

 寝ている間に、家賃の滞納で追い出されたら事だからな」

 ばっちり貴種教育を受けたオルレアが采配しているから、うちの保証は手厚いぞ。


「しばらくはお兄さま方とお暮らしになるそうですが、書類を出してくだされば社宅等は手配します。

 詳しい数字は人事の者とお話をしてくださいね」


「個人経営のダンジョンもやることが多いな!」


「そうだな。オルレアがいてくれなければ、わたしはこじんまりとしたダンジョンを運営していたな」

 オルレアはなんといってもコネが強い。

 一声で何百人も集められるとか、最初のうちは想像出来なかった。

 でも維新前の庄屋なら、おらが村さことだからと橋を掛けたり土手の補修したりと手弁当で人を集めて色々やってたから、そんなものかと納得した。

 現代日本と社会背景が違う。


「小さいダンジョンはラクだよな。オレ、大きいの造るの面倒臭い。人雇うの憂鬱」


「ヨウル、鉄鉱山運営することにしたのね?」


「初めは箱を造るだけで良いっていったのに、なんかしょっちゅう周辺設備が増える」

 それな。嫌だって言わない限りどんどん増えるぞ。

 ダンジョンは後の世に残す財産だからさ。

 ホテルで暮らしていると、腕の良いダンジョンマスターって快適さを追及するんだなあって染々する。

 あのクラスのホテルを備品付きで被災のお見舞いにってポンと寄付する先輩スゲえ。


「そんなものだな。無理は言われてないんだろう?」


「経験者は余裕ね?

 なんかさー。オレはもっとコツコツゆっくりやりたいわけよ。

 なのにどんどこ事が進んで、置いてきぼり感がすごい」


「わかる」

「わかるわ」

「皆、仕事が早すぎる!」


「寝ているあいだに、おもしろいことが終わるのはいつものことなの。

 美味しーものでも食べて我慢するのよ」

 クロが常備しているジャーキーを配って慰めてくれた。

 小さくして寝坊助体質になった猛者は達観している。

 ジャーキー旨い。

 


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