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63 『診断』結果



 午後からはセクシー大根の収穫だ。

 名前からして足が二股になっているタイプを思い浮かべると、それは間違い。

 セクシー大根の由来は、腰をうねらせて闊歩するその姿による。

 あいつら『念動』を持っているので、自分や仲間にそれを掛けて体当たりしてくる魔物野菜だ。

 1本3キロ級の巨大大根のダイレクトアタックは、HPの盾があっても当たるとかなり衝撃がある。

 野菜そのものの評価としては、食感、辛みも爽やかで、えぐみのない味わいだ。

 栄養豊富で、特に消化器のトラブルならお任せらしい。

 とてもいい大根だがしかし倒した後に見聞しても、腰を色っぽくくねらせる器官が何処にも見受けられない摩可不思議なところはやっぱり魔物だったりする。


「畝を作る手間もなしに、立派な野菜が採れるもんやの」

 感嘆したのか悔しいのか、爺さまが目をすがめる。


「この大きさなら規格外で売り物になりませんね」

 そう冷静なのは婆さま。

 爺さまは婆さまを迎えついでに白菜を納品しに来たので、大根の収穫に誘ってみた。

 爺婆孫お揃いのジャージ姿だ。

 この服、『保護』が掛けられている品だ。

 護衛さんのカッチョいい野戦服と同じランクのものだったりする。そこら辺で売ってそうなジャージな癖に。


「爺さま、婆さま。前に出ないでね」


「流士さん。バフは?」


「ありがとう。貰いたい」


 『増幅』を例えるなら、ギターだけだったバンドにドラムとベースが追加されるようなものだ。

 リズム隊の後押しに、テンションが上がるボーカルの気分。


 魔力を練る。

 バフがあるので、威力は低め。

 ただ範囲は全域。一網打尽に薙ぎ尽くす所存。

 視界に入るすべての魔物に『ターゲット』を配る。


 入ったか?

 よし、入った。


 ここで打ち出すのは気持ちがいいだろう。そのタイミング。


「『サンダー!』」

 一斉掃射。

 雷光が落ちる。ドドドと轟音。

 自然の稲妻より『サンダー』の音は控え目だが、一挙に落とせば圧倒的な爽快感だ。


「お見事」

 ありがと、サリー。


「バフ頼りだけど、巧く撃てた」


「流。いつの間に雷神さんになっとったのか」


「爺さまもエルブルト系だったんでしょ。そのうち使えるようになるんじゃない?」

 そして婆さまは狐っ子だったらしい。

 うちは女系で農家の血筋だから、なんとなくそれっぽい。


「どっちかが『念動』で引っこ抜いて、もう片方が『洗浄』掛けるといいよ。

 魔石は花芽がつく場所にあるから。

 あとカウンターも忘れないで」


「わかっています。半分を切ったらお休みさせて頂きます。無茶はしません」

 婆さまが応じる。

 スキル以外は熟練農家の2人はテキパキ作業をし始めた。

 うっかり大根が生きていたらコトなので、オレもそのすぐ側で『採取』する。


「なんや、流。違うスキルつかうてるのか」

 爺さま、目敏い。


「そ。『念動』と『鋏』と『ターゲット』の内包した複合スキル。『採取』っていうんだけど便利だよ。茄子やトマト、キュウリの収穫なんて、ぐっと楽になると思う。

 オレはそれに『体内倉庫』も合わせている」


「独りで2馬力っちゅうわけだな」

「物事を覚えるのは、順を追ってということですね」

 爺さまが『念動』ですっぽ抜いた大根を、婆さまが花切り鋏で魔石をとる。箱が満杯になったら『洗浄』して『体内倉庫』に仕舞っていく。阿吽の呼吸だ。


「…魔力が多いのは、お血筋ですねえ」

 刺股を手にした護衛のお兄さんが、なにやら頷いている。


「多いんですか?」


「レベル0の時、日本人にMPはありません。だからでしょうね、レベル1で10もあれば御の字だったりもします。

 お祖父さま方はまだレベル5にもなっておられないのでしょう?

 それなのに揃って150もあるとか、才能としか言えません」

 なるほど、現代日本では芽の出ない才能でしたね?


「農家や林業といった自然に携わる方は魔力が多くなるとされますから、そのせいもあるのでしょうが」

 なるほど、そっちだ。

 半世紀農業しているもん、爺さま婆さま。

 爺さまは婿入りしてから農業を始めたから、婆さまの方がMP多いの説明つくし。


 あ、こいつ生きてた。

 鉈で葉っぱの部分からサクッといく。

 ピクピクしていたセクシー大根が息絶えた。するとぴんと真っ直ぐな姿になる。

 やはり威力低めを狙うと、撃ち漏らしが出るな。


「婆さま、この大根で漬物食べたい」


「良いですよ。酢漬けのですか?芥子漬けのですか?」


「両方。あと千枝に水キムチ作ってって頼んで欲しい」


「ああ、千枝さんのあれ、美味しいですわよね。うちの分も頼んでしまいましょう」


「ワシはふろふきとおでんだな。婆さまのおでんは、なにしろ大根が一等賞やから」


「いいなあ、おでん」

 オレは里芋と蒟蒻も好き。あと卵とちくわぶと。


「わかりました。今晩にでも作って、明日にでも持ってきましょう。

 ……魔力を使うと本当に空腹になりますのね。胃袋だけ40年前に戻ったかのよう」

 婆さまが胃の辺りを押さえる。

 ご飯の話題出したらお腹空いちゃったのか。丁度3時、おやつの時間だ。


「あー、婆さま。ひょっとして『内臓強化』がついたのかも。ゲーム内に出たって聞いたけど、こっちでもさ」

 スキルは血縁で似るって言ってたし。


「よろしければ、『鑑定』致しますが」

 護衛のお兄さんのひとりが申し出てくれる。この人、スキル『鑑定』持ちなのか。


「あら。それではお願いします」


「はい。………出ていますね。『内臓強化』。他にも伺ったスキルより増えているので、帰りにでも鑑定機をご利用されるといいですよ。スキルの資料もそこには置いてありますのでご参考にどうぞ」

 ゲームでもそうだが、スキルは個人情報の保護はない。少なくとも現時点では。

 なのでスキル隠してオレつええは出来たりしなかったりする。夢のない話だ。


「ご親切にありがとう。そうしますね」


「流士さん、レベルは幾つになりました?」


「ん、8だな」


「では、今日の位階上げはここまでにしましょう」


「了解」

 ステータスを見ると、前世のスキルがぼちぼち増えてる。


 ステータス


 位階8 HP320 MP880


 生活スキル


 ステータス

 魔力の心得☆

 洗浄【洗口】

 ライト

 造水

 解体

 地面操作

 鋏

 念動

 生体倉庫

 チャクラ

 そよ風

 製氷


 体育スキル


 整体

 美髪

 内臓強化

 骨格強化

 体幹

 共鳴腔強化

 リズム


 生産スキル


 魔石加工【精製】

 念動+鋏+ターゲット→【採取】

 エンチャント

 そよ風+造水→【散水】

 そよ風+ターゲット→【受粉】


 戦闘スキル


 ターゲット☆

 雷光

 ターゲット+雷光→【サンダー】

 剣術【鋭利 パリィ】

 結界

 ヒール

 治癒

 診断

 ターゲット+製氷+念動→【氷柱】


 特殊


 緑の指

 魔力循環



 メモリ654



 スキル欄は自分で好きに編集出来るんで、そろそろやった方が見易いかも。

 でもどうせ自分しか見ないしなー。

 やっぱり使い倒していたスキルは出やすいって……あ。『診断』が出た。


「爺さま、『診断』が出たから、腰に『治癒』掛けさせて」

 医師免許なしに『治癒』を掛けてお金を貰うことは、ゲームと同じくリアルでも違法だ。しかし身内に使うのなら問題ない。


「『治癒』?なんやね?」


「爺さまヘルニアの気があるでしょ。ヘルニアなら『治癒』で治るから」

 病気は知識がなくて無理だけど、骨系や外傷、損傷系はいける。

 前世では周りが怪我人だらけだったから、骨や神経、創傷の治療は散々やった。

 金は取らなかったから、資格なくてもセーフだ。

 ゲームでもお医者さんになりたければ、資格取らなくちゃいけなくてさ。なんでだと、当時は憤慨したけれど。

 ゲームの裏側知っちゃうと、そりゃ免許はいるなと納得しかない。


「婆さまも、そんなわけで休憩していて」

 安全地帯に椅子と机を出す。


「食べてね」

 あと出したのは、カルシウム補給に牛乳と餡ドーナッツ。

 椅子に爺さまを座らせる。


「掛けるよー。『診断』、『治癒』」

 『診断』で確認しながら『治癒』を掛ける。

 『診断』がなければ、怖くて外傷でもない『治癒』なんて掛けられない。


 損傷を示す赤いマーカー部分が、正常の青になるまでスキルを使う。


「お、おお?なんか、温いの」


「診た感じ酷くはないけど、微妙なとこは治しておくね。………終わったよー。

 カルシウム、暫く多めにとっておいて」


「おお、針を打って貰ったように調子ええの!」


「婆さまも、膝の軟骨治しとく?」

 働き者の婆さまは、膝の軟骨が磨り減りがちだ。


「まあ、そんなこともできるのね。お医者さまは、覚えることが多くなりそうですこと」


「だよね。オレが『治癒』出来るの仲間うちだけだもん。お金を貰ったらアウトだし、病気のことはさっぱりだし。

 『治癒』ってさー、専門家はガンの治療も出来るらしいよ」

 実際にやればできそうだけど、怖いからやれない。人さまの命に関わるには、オレには足りないものが多すぎる。

 主に覚悟と学力な。


「それは、いいこと。……あと、数年早ければ。そう思ってしまいますね」

 婆さまの大親友も胃ガンだっけ。

 我慢強い人だったから、発見が遅れたと聞いている。


「重篤患者に限って、治験が始まったところです。

 お医者さまも慣れない位階上げに苦労しながら頑張ってますよ」


「そうなのですのね。お若い方が励む姿は目映いものです」

 サリーと婆さまが世間話をしている間に『診断』する。

 そして『治療』っと。

 軟骨が磨り減っているところを、少しばかり再生させる。


「……婆さま、ちょい骨粗鬆症の気が出てる。カルシウム多目にとって。

 あとコラーゲンっぽいものも。

 婆さまは、何回かにわけて施術したほうがいいと思う。

 それに向けて栄養とっておいて欲しい。

 あと診た感じ、内臓が若いね。20代女子と同じくらいにピチピチしてる」

 凄くね?

 年の割に婆さま、肌が綺麗な人だけどさ。

 なんか婆さまが病しらずの理由がわかった。


「悲しんでいいのか、喜んでいいのか分からなくなる見立てですのね。

 ……あら、本当に楽ね」


「そ、良かった。あと腱鞘炎も治しておいた。痛いなら我慢しないで、病院行って。

 今度からはオレに言うでもいいけれど」


「年寄りになれば、体のあちこちが悪くなるものですよ。でも、どこも痛くない体は素晴らしいですわね」

 そんな内臓してなに言うか。


「爺さまー。婆さま全っ然反省してないから、気をつけてやってー」


「おう。そうするわ」


「2人で、少し休憩してて。オレはもうちょいやってくる」

 ドーナッツをひとつ咥えて作業に戻る。

 『採取』は神スキル。手を汚さず収穫できる。


「あ」


「あ?」


「『地面操作』してみてもいいか?」

 ステータス確認するまで忘れてた。

 塹壕掘るのにしか使ってこなかったけど、芋掘りとかに便利そうだなって思っていたやつ。






「そんなわけで『診断』が出たから、右のかかとを診せてみろ」

 こいつサポーターを右だけしてるんで、気になっていた。

 夕食後、魔石をじゃらつかせる前にエンフィを確保する。

 場所は、ヨウルの部屋だ。

 単身赴任が多いこの施設はファミリー向けのダンジョン内住居が余ってたので、同じ棟の並びで皆それぞれに割り振られた。


「なにエンフィ、怪我してたん?」


「剣を使う動きは、こう強く踏み込むから時々痛めることもある」

 エンフィはゆっくり一連の動作をしてみせる。


「………かかとだけじゃなくて、オーバーユースになってるし。

 お前、これ痛いだろ」

 『診断』だと、腰や、右のかかとが特に赤い。

 剣道は左右の動きが違うから、体が歪みやすいもんだけどさあ!

 それを見越して声は掛けたけど、お前、これはないだろう!


「ちょい本気で施術するから、ここ座れ」

 ソファーを指すと、エンフィは素直に座る。


「はい、先生」


「『治癒』」

 うーん、赤い。これは痛いぞ。特に腰周り。こいつ血尿とか出るんじゃね。

 体を酷使しすぎている。

 剣道って防具するからさ。外野が心配するほどには、怪我はしたりしないんだけど!


 赤い場所を青く慰撫する。


 幸いエンフィは経験値を貯めている。

 そこから引っ張ってきて容赦なく使わせて貰う。


「……これは、駄目になりそうだな」


「しゃっちょさん、キラキラの石買って。ないよりマシな『整体』を入れるから。他にスキル使わない時はつけといて。

 ……………。

 よし、こんなもんだろ」


「エンフィ、どうした?」


「気だるくて、気持ち良くて、起きたくない」

 ずるずるとエンフィがソファーに沈む。

 なんか珍しいもの見たな。


「寝ている時もこいつぴしっとしているのに、『治癒』って怖いのな」


「怖くないぞ。ちょっとした怪我なら。エンフィはあちこちやってたんで、MPのゴリ押しをしたからこうだけど。

 ……まあ、星がないオレが下手っぴだってのもある。

 上手くやれば、気だるさはないかな」

 戦乱イベントでは切り落とされた腕をくっ付けたりとかしたもんだ。


 あの頃は感覚が麻痺してた。今思うとぞっとする。

 アバターの心が強いっていうか、自棄っぱちが振り切れてたんでなんとかなったようなものだ。

 平和になって、一息ついて。アバターの心が折れたのはもう仕方ないよな。


 ヨウル?

 診たところバッチリ健康だった。

 歯が少し欠けたのがあって、それを治したくらい。

 胃潰瘍くらいあるかな。そう思っていたけど全くの杞憂。


 そして、サリーは。

 うん。

 健康なことは、素晴らしく健康だった。

 それ以外の所で衝撃の事実を知ってしまったけど、これは秘密にしておく。


 でも驚いた。

 アバターに寄るってそういうことか。



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両性具有…ってこと!?
[気になる点] 九話では千枝で、今話では千恵になってます どっちが正しいのでしょうか?
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