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59 春よ



 20日目、午前中の授業だ。

 今日は自己紹介から始まった。


「わたくしは主に女性陣の引率に回ることが多かったので、殿方は知らない方もいるでしょう。

 わたくしはエステル フリーダム。

 貴方たちが体術を極めたいのなら、お役に立てると思います」

 秋薔薇の老女は優雅に微笑む。

 耳が目覚めるような、玲瓏たる声だった。

 品よく纏めたグレイヘアに襟高のロングドレス。

 極めて淑女らしい装いだが、足音ひとつないなめらかな歩法の美しさが、老女が只者ではありえないと知らしめている。


 この人、アリアン嬢とクロフリャカ嬢を抱えて空飛んでなかったっけ?

 件のゲルガンの時に見た顔だ。


 エステル教官の自己紹介に、目をキラキラさせたエンフィ、ルート兄弟は、いったいどこを目指してるんだろう。


 場所は【睡蓮荘】の小宴会場を貸しきった席だ。


「今日は針仕事の初歩を習うということで、特別な先生をお招きしています。

 どうぞ、お入り下さい」

 エステル教官の許しを受けて赤銅の髪を複雑に結い上げた人が、歩揺を鳴らして入ってきた。

 何の配慮か、扉は閉めない。


「初めまして皆さま。拙はミズイロ。

 我らに姓はありません。夢魔はそのような種族であります」

 渦巻く角に、虹の瞳。

 あと10キロ太れば絶世の美貌を誇っただろうその顔は、窶れていても尚麗しい。

 全面に刺繍を刺したローブを纏い、その人は深々と頭を下げた。

 チェルとマリーが服の端を掴んでくるのは、アバターから来る感情の由縁か。


「拙の種族は針仕事をことのほか得意としております。

 ですが今日は、お話しから致しましょう。

 拙らの悪名はこの地でも鳴り響いていますでしょうから。聞きたいことがあればお答えします」

 チェルとマリーの緊張した様子に、ミズイロは淑やかに目を伏せる。


「夢魔族の発生は過酷な地であったとか!

 その頃からの歴史を伺いたい!」

 トップバッターを切ったエンフィに、ミズイロはひとつ頷く。


「我らの命は、凍てつく夜と昼の灼熱の砂漠。その2つの地獄と、洞窟に生える僅かな苔から始まりました」

 神話を奏じるように、ミズイロは語る。


「我らの古き祖先は苔を食べ、岩に這う水滴を嘗めて暮らしたそうです。

 そのころの拙らは成人でも今の貴方たちより背が低く、痩せていました。

 飢餓は常に共にあり、寒さや暑さに苦しみ悶え、衣服という概念もなく。

 その苦境の果てに、我らは高い魔力を持つようになりました。

 それでなければ、無慈悲な世界では淘汰されていたからでしょう。

 なんにせよ我らの祖先は生き延びました。


 当時の我らの繁殖期は、千日に一夜。

 それも15から25ほどの若者のみ。

 だからこそ、古き世においてその春は尊ばれ、生涯の思い出になれたのでしょう。

 春を詠んだとはとても思えない、美しい詞が今も壁画に残されています。


 現在の我らにとって春は病です。


 狂わしく、汚らわしく、おぞましい。

 青少年の自殺が多くあるのは15の成人を境です。

 耐えきれると思った、ああはならないと誓った。

 それなのに我慢ができないからと、自分の男を切り落とす者もいます。

 ……拙ら夢魔に高位の『治癒』持ちが多い由縁です。

 大怪我をした時ほど『治癒』は出現しやすいスキル。

 故郷で暮らしていた時より軟弱になり、遥かに魔力が低くなった我らですが、それでも生存本能から漏れ出す発露は止められるものではありません。


 話がそれました。

 慎ましく暮らしていた夢魔族に、転機が訪れたのは大麦の実る狭間の発見と、そこに住み着くようになったからでした。


 緑豊かな大地、掌いっぱいに溢れる水に我らはたちまち魅了されました。

 衣服を纏う事を発明したのもこの時です。

 それまで繊維になるようなものは自らの髪の毛ぐらいしかなく、それらは貴重な資材だったのでおいそれと使えるものではなかったからでしょう。


 ダンジョンは危険もありましたが、故郷の自然のほうが余程厳しいということもありました。

 我らはついに安住の地を手にいれることになったのです。


 苦くえぐい苔に比べ、麦のなんとふくよかなことか。


 我らは初めて腹一杯に物を食べ、体格も良くなり…………そして去らない春を迎えたのです。

 それが拙らの始まりとなります」


「えっと、じゃあ何で人を浚ったり、戦争したりしたんすか。

 今は暮らしに困る感じでもないんっすよね?」

 ヨウルは困惑しきっている。

 無理もない。エンフィ以外の子供たちは皆そんなだ。

 地球の戦史は飢えと貧困がセットだし。

 こちら側はむしろ魔物が天敵だ。文明を守る為には人類の協力が必要すぎて、大きな戦争が起きる土壌がない。

 夢魔の歴史は異文明だ。


「我らは本能的に同族より異族のほうが好きだからです。

 同族は身内の情があります。

 ですが同族に恋する者は、ごく少数。

 なので伴侶は他から迎えたいというのが我らの本音です。

 本音ですが………人攫いは、それに続く悪行は。

 なんでそんな馬鹿な真似をしたと、大半の夢魔は呪いたくなるものでした。


 ええ、拙らの種族はどうしようもなく淫らです。

 まっとうな顔をしても一皮剥けばただのケダモノ。

 その評価は正鵠を射ています。


 だからこそ政策を練り、法を整備し、出会う異界の方々と交流してもいいように厳しく規制を敷いてきたと言えます。

 その不断の努力で積み上げてきたものが、一瞬で崩されたのですから怨嗟の声も上がるもの。


 なにより。

 やりたいことと、やっていいことは違います。

 妄想は独り寝の夜、夢の中だけにしとけと。


 拙とて異族の伴侶は、喉から手が出るほど欲しいです。

 嫁か婿に来てもいい、行ってもいいと言われれば狂喜乱舞じゃすまないでしょう。

 唐突に申し込まれたなら、勢い余って奮死する危険もあります。ええ、そんな人がいてくれたら一生涯大切にします。

 夢魔が一番引っ掛かりやすい犯罪は、異界人による結婚詐欺です。

 むしろ詐欺でもないのに貢ごうとして、異界人に引かれる同族のなんと多いことか。

 それぐらい頭が春。阿保な種族なのです、夢魔族は。


 まさか、こっそり界を渡って人攫いするどころか、現地の政権に喧嘩を吹っ掛けるタイプの愚者が纏まって出てくるとか今でも信じられません。

 非モテを拗らせて、そこまでするとか。

 もう、もう。

 ……いくらなんでも。

 お前らいつの時代の人間かと」

 ミズイロは顔を赤くし憤怒の形相だ。


 現代スペイン人がコロンブスの所業を直に見ちゃった的な感想だろうか。

 同じ国の人だからこそ許せないみたいな?

 でもあの人、偉人カテゴリなんだよな歴史的に。

 時代が時代で常識からして違ってたからのアレソレだけど、現代人的にはドン引きなやつ。


「何百年前なら英雄でした?」


「何百年前でも犯罪です。いえ、拙の言葉が誤解を招きました。

 夢魔の歴史には現地の政権に追われた民族を匿ったこともあります。

 こちらの世界とは全くこれっぽっちも関わりのない話ですが。

 夢魔の青少年ならその時代のロマンスを1度は夢を見るものです」


「つまり自作自演したと。

 同族は騙せても、トロフィー枠の伴侶には嫌われませんか、それ」

 こちらの一般人がダンジョンに浚われたら、抵抗できないにしてもさ。

 後始末どうつけるつもりだったんだろ。

 いくら夢魔が武闘派揃いでも、1万にも満たない数じゃ植民地の経営なんてどだい無理だ。

 荒らすだけ荒らして、逃げ切るつもりだったのか、そうか。


「その通りです。こちらとはあまりに遠すぎて……この地と界が繋がっていることすら我らは知りませんでした。それ故に発覚が遅れました。

 すべて言い訳になってしまいましたが。


 被害者には、蛇蝎の如く嫌われて当然でしょうね。

 彼らは拙らにとっても許しがたい犯罪者で、一緒にされたくないという気持ちもあります。

 ですが事が大きくなりすぎましたし、我らの手は遅すぎました。


 拙らに出来た後始末は、捕まえられた犯罪者を本国の監獄に収容したことぐらいです。

 今は手探りで関係の修復を試みている段階です。

 我らが用意した詫び金は、結局現地の政府には受け取って貰えなかったとの広報を聞きました」


「え、なんでもらっときゃいいじゃん?」

「ですよね!」


「許す気がなければ、受け取らないんじゃないか?」

 受け取ったら和解しなきゃいけないもん。


「あっ、そーいう。……でも通商は結んだんだろ。いいの?」


「相手を知らなければ始まらないからな!

 それに友達ではなくても商売は出来るだろう!」


「あの。監獄って、どんなところなのですか」

 チェルが恐る恐る尋ねる。


「本国の僧房に併設されています。

 夜は極寒、昼は煉獄。

 草の1本も生えぬ我らが故郷です。

 『洗浄』以外の総てのスキルを封印された、現代の夢魔族が逃げ出せる場所ではありません。

 水もなしに砂漠の真ん中を越えるのは不可能ですから。

 夢魔族の性犯罪以外で特に重い罪を犯した者が収容される施設です」


「先生はなぜ渡航を決意されたのですか?

 あと、10年後ならまだしも、今は針の山に座するようなものでしょう」

 思慮深く尋ねたのはルート。


「勿論理由があってのことです。拙の首もとを御覧になって下さい」

 ミズイロは襟元を寛げ、細い首を晒す。

 そこには銀色のリングが嵌められていた。


「セイランが捕虜とした夢魔を無力化する為に開発した首輪です。

 常に魔力を吸い上げてくれるため、現在、拙の春は停まっています。

 拙どもはセイランとの仲を修復し、この首輪を本国に持ち帰りたいのです。ひとつでも多く。

 拙は一定の技術があり、犯罪歴がなく、1通り身は守れる民間人として出稼ぎの許可が下りました」


「ええと、どうしてですか。

 魔力が減ると辛いですよね?」

 と、アリアン嬢。

 オレら魔力枯渇は注意しててもやりがちだから、その苦しさは知っている。


「夢魔は魔力を振り絞らなければ滅びるしかない、過酷な環境で産まれた種族です。

 故に魔力が2割まで減ったくらいなら、少しぼんやりするぐらいで済むのです。

 そうですね。体調によっては立ちくらみを覚える者もいるかもしれません。

 ですがその副作用を引いても、着けていたい理由があるのです」

 ミズイロは引っ掛けないよう慎重な仕草で首のホックを嵌める。


「拙はこの首輪を嵌めてから、成人以来初めて朝の麦粥以外を口にしました。

 我らは春に怯えるものほど節食をします。

 本国の僧ほどストイックに生きれば、春は迎えずにすむと知りつつも、飢えに苦しむのもまた辛いのです。

 …首輪を嵌めて、15年ぶりに食べた甘味は………涙が落ちる味でした」


「でも首輪欲しいって言ったら、セイランの人困らなかった?

 なんか意図とは違う使われかたしてない?」

 困惑している面々を代表してヨウルが問う。

 異種族に興味があるにしろ、困る話ばかり出てくるのだから質問しづらい様相だ。

 発情期の話なんて、学術であってもしづらいわ。思春期のボディなめんな。


「犯罪者用に開発された品だとは、ええ、承知しています。

 この首輪は、手続きした相手じゃない人物を襲おうとすると、締まる構造をしているのです。

 犯罪者ならまだしも一般人につけるものではない!

 偉い人同士の話でもそう窘められてしまったそうですが、理性を飛ばしがちな夢魔族にとっては非常にありがたい仕組みです。

 この首輪が有る限り、拙は人間でいられます。

 理想と現実に苦しんでいる夢魔なら喜んでこの首輪を嵌めるでしょう。

 望んで不貞を働きたいわけではない質の者は特に。

 どうしようもない本能にようやく手綱がつけられたのですから。


 そうです、これだけは覚えて下さい。

 決められた場所以外で、健康で首輪をしていない夢魔がいたら、上手く血の混じったミックスなのかもしれません。

 ですが、まだ捕まっていない犯罪者の可能性もあります。

 前者は兎も角、後者の可能性がありそうなら全力で逃げて大人を呼んで下さいね。

 誤解で職務質問を繰り返されても、現在渡航している夢魔はそれを覚悟して来ているので」


「先生も首輪を外すと、理性が失くなったりしますか?」

 1人1回は質問しろと事前に言い含められている。マリーは小さく手を挙げた。


「その通りです。今は予備の予備を買う為にお金を貯めています。

 それから本国に仕送りします」


「それほど必要とするならば、同じものを自分たちで作ったりしませんの?」

 チェルがちょこんと首を傾げる。


「現在仲を修復したいお国の方が作られた品を無断コピーとか、やった者の首が飛びます。

 ライセンスの発行を交渉する、環境を整えている最中ですので…セイランに蔓延する悪感情が薄まらないことにはどうにも」



 なんか胃が重い。

 話がもたれる。



「単にエロエロな夢魔もいますか?」

 よし、ヨウル勇者だな。頼もしいぞ!


「います。大勢。というか3割方はそうですよ。人生楽しそうで羨ましいです。

 趣味と実益を兼ねてこちらの界の娼館で働きにも出ています。

 友達たちも来てますが、凄く幸せそうでした。

 レベル100超えなんて化け物じゃないかと思うんですが、可愛い女の子として扱ってくれる心の広いお客さんたちと巡り会えたようで」

 あ、なんかやっと普通の夢魔らしい話しが出た。


「なんか、そのお客さんたちにもしもがあったら修羅と化しそうで怖いんですよね。

 人生初のガチ恋なので。

 むしろお金を頂くより貢ぎたいんじゃないですか奴ら。

 治安を乱すことをしたら本国に強制送還なのでトラブルだけは起こさないよう振る舞っていますが………技能者か篤実な実績を詰んだ高位冒険者でもなければ、渡航許可下りないので。

 娼館働きをしているのは、一般夢魔から見ても化け物揃いです」

 ふわふわした話は一瞬で消えたな。怖いわ。

 色と金で現地民スポイルするのやめて欲しい。

 これ夢魔が客に金を渡すようになったら、強制送還一択だな。

 夢魔の情人としてしか生きられないの量産されたら事だもん。

 プレイヤー?

 うん、それは自己責任で。


「夢魔さんはどんなひとと仲良くなりたいですか?」

 と、クロフリャカ嬢。


「本能として成長期にある者は慈しみの対象です。

 拙としては25以上の男女はすべからく好みのゾーンです。

 夢魔にとって容貌は関係ありません。

 ただ魔力の小さい人はお可愛らしく、大きな人はお美しい。

 そちらの可愛い派や美人派はいますね」

 節操ないんだよな夢魔。子供除いた老若男女総て好きとか、誰でもよさげ。

 それにクロフリャカ嬢は友達としてのあれそれを聞いたと思う。反省して。


「1対1の婚姻は夢魔的にアリですかナシですか?」

 これはアリアン嬢。


「素晴らしいですね。物語のようで憧れます。

 そのような運命の相手を迎えられた夢魔は、番が失くなると春が消えるのだそうですよ。子育てが必要でもない限り、後追いする者も多いですが」


 ………うーん。

 どうもさっきからよろしくない。

 夢魔は悪感情のバイアスが掛かるから、面倒な上に重く感じる。

 真っ当に生きている人に抱く感想じゃないんだけど、どうも夢魔は苦手っぽい。

 長く友達付き合いすれば、緩和するかもだけど。


「沢山質問してくれてありがとう。

 なるべく本音で話したつもりではありますが、何分、個人として、民間人としての言葉です。

 夢魔のひとりとしてこのような人もいると認識してくれれば幸いです。

 では授業に入りましょう。

 まずは糸通し、たま止めから……………





「裁縫的には凄く為になる授業だったわね」

 アリアン嬢が遠い目をしている。

 今日は前置きが濃かったから。

 場所はそのまま、授業が終わってこれから昼食の時間だ。

 なんとなく皆、精気を失っている。

 『ドレイン』されたわけでもないのに。


 あと授業としては、非常に質が良かった。

 1単位受けただけで全員に『運針』が生えたぐらいだ。

 なるほど凄腕教師なんだな。


「夢魔せんせー、きれーだけど、なんか怖い?

 らんぼーでもないのに変」

 クロフリャカ嬢は二の腕あたりを擦っている。

 生理的嫌悪をそそるような話も出たから無理もない。

 男性的にはおえってなったし。

 情念にあてられるというか、カルチャーショックというか。疲れる。



「それよか、おにい。そろそろ紹介して欲しい」

 肘の辺りをつつかれる。


「そうだな、仕切り直そう。

 皆、昨日野良ダンジョンから救出された妹の、チェルエットとマリエールだ。

 保護者のわたしの都合で時々授業に混じると思う。

 わたし達と同じよく寝るタイプで物知らずだから、少し気にかけてくれると嬉しい」

 こいつら寝坊したんで朝食の席で紹介出来んかったんだよなー。

 部屋に入るのもギリギリだったし。

 その原因になったマリーは特に反省しろ。と言いたいが、遭難直後だからなあ。


 そういやサリーも起きて来なかった。

 まだ仕事かな。そわそわする。


「チェルエットと申します。どうぞ皆さまよしなに」

「マリエールです!マリーって呼んでね!」


「おー。噂のリューの妹。オレはヨウルな。よろしくさん」


「私はエンフィだ!

 そしてこちらが弟のルート。

 妹君と同日に救出された組だ。

 ダンジョンの沸き潰しが進むと、同じケースが増えるやもしれん!

 低位階のうちに雫石の宿主になると、私たちと同じようになるらしい。

 チェルエット嬢、マリエール嬢と同じ立場の聴講生だ、よろしく頼む!」


「ご紹介にあずかりました。ルートです」


「一緒に勉強する仲間が増えるのは歓迎よ。私はアリアン」


「クロフリャカです!

 あのねっ。クロはクロって呼んで欲しいの!」

 自分より小さい子にクロフリャカ嬢は興味津々だ。


「クロちゃん?」

 性格のキツそうに見える美少女が無邪気ににこにこしてくるものだから、チェルは速攻で陥落している。


「うん、そう!

 それでね。りゅーくんも、えんくんも、そろそろクロって呼んで欲しー」

 おおっと、飛び火。


「そうよね。私は呼び捨てしてるのに、いつまでも敬称つけるのだもの」


「わかった。クロ、アリアン。

 女性を名前でそのまま呼ぶのは照れるな!」


「了解。うっかり間違えたら済まない」

 気を抜くと『礼法』が仕事したがるから。

 実際、クロちゃん、アリアンって最初は呼んでいたのに、仲良くなるうちに修正されてた。いつの間にか。


「裁縫は釦つけ、『運針』、刺し子、『刺繍』、小物制作、大物制作、『糸巻き』、『機織』、『編物』、『なめし』、『革加工』。

 好きなコースに行っていいって話だけど、どうする?

 私は1通り参加するけど、出来れば参加者は多い方がいいなあって」

 道連れは大勢がいいです?

 1人じゃ耐えきれなさそうってのはわかる。


「あーちゃんがやるなら、クロも頑張る」


「わたくしも参加させて下さいませ」


「私もー」


「………教わった方が、覚えはいいと思うんで、時間が合えば参加する」


「逃げたかったら、止めといたら?

 生理的に辛いなら仕方なくね?」


「ミズイロ先生に含むところはないんだ。ただ種族全般に苦手意識があるだけで。

 自分でも偏見だと思うから、今のうちに彼らとのつきあい方を学んでおきたい」

 妹が頑張るのに兄が逃げるというのも。

 男なんて小さい見栄で生きている生き物だからさ。


「そうだな。伝え聞くのは犯罪者としての彼らのものだから、普通の夢魔というものを私も知らない。

 今日は勉強だから明け透けに話してくれたが、本来はあまり大っぴらにしないことまで語ってくれたのだと思う!

 手先の訓練がてら参加したい!」


「僕は、服飾、特に『革加工』あたりに興味があるので参加します」

 ルートは革職人希望か。


「夢魔の刺繍やレースは見事だかんなあ。んん、オレも『陣形』らへんは気になるんで時々行くかも。

 なんか予定に追われてるんで、きっと全部はムリだよな。勿体ねえけど」

 『陣形』は確かに知りたい。モノに出来るかは置いとくとして。


 やっぱり小学校とかそんなのあるといいのになー。

 広く浅く取っ掛かり作るのに重宝しそう。





 

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