54 佐里江さん
研究所でむかえる朝だ。
うちの爺さまと婆さまは、仲良く白玉狩りデートに行っていたらしい。
早朝の5時から。
年寄りは朝が早い。それは仕方ないけど、周りの迷惑を考えて自重しよう?
2人に付き添ってくれている女性職員さんは眠そうだ。
「仕事があるから、取り敢えず帰るわ。夜にまた来る」
一晩泊まって納得したのか、朝食を一緒に食べたところで爺さまは帰ってしまった。
ちな、白玉狩りの後は風呂やサウナを堪能していったらしい。人生楽しんでいるな、うちの爺さま。
代わりに残ったのは婆さまだ。
婆さまは昨日ゲーム機を取りに行って貰った際、爺さまの言伝てでピックアップされてやって来た。
食堂で茶を啜っている婆さまは、借り物の黒いジャージがお世辞にも似合っていなかった。
うちの婆さま、お出掛け着は小紋やレースのフリルシャツを着るクラシカルなマダムなので。
まあ、うちじゃモンペで過ごしてるけどな。落差が酷い。
「それにしても流士さんはお遅い朝ですことね」
苦笑する。
爺さま、婆さまに比べりゃ、それはもう。
食器は洗浄をかけて返し、代わりにもう一杯茶を貰う。
先ほどまでは爺さまが座っていた、婆さまの前に腰をかけた。
「ゲームで起きる時間を決めているんで、朝はいつもこの時間だよ」
「そうですか。お勤めご苦労様です。
世の中のなんて目覚ましいこと。面白い時代に産まれたものです」
「婆さまはゲームしてみてどう?」
「若き日のよう動けるのは、嬉しいものですね。
うっかりはしゃいでしまって、旦那さまに呆れられたのではないかしら」
いい空気吸ってきたんだな。爺さま、婆さま。
「楽しかったら良かった。スキルって出た?」
「ええ、こちらの話でしたら『体内倉庫』がありました」
お、ラッキーじゃん。
「じゃあ、これ婆さまにプレゼント。
右が『洗浄』、左が『念動』。
爺さまが『造形』持ってたから、アクセサリーか根付けにでもして貰って。便利だから」
「まあ、旦那さま以外の男性に素敵な石を貰えるなんて長生きするものですね。
ありがとう流士さん。大事に使わせていただきますね」
婆さまはモノは試しと、『念動』を付与した石で、胸ポケットに差していたペンを浮かせたりしている。
呑み込みが早い60代だ。
「ああでも、売店にレシピや生体金属って売っているかな?」
「見に行きましょうか。その後、もう少し狩りをしてみませんか?
時に流士さん。『解体』はお持ちになって?
お夕食に頂いた鳥を狩ってみたいのだけど、いけないかしら」
あー……。楽しかったんだな、婆さま。
でも白玉はまだしも、生き物の姿をしたのはどうだろ?
主に血や臓物とか。
「オレが狩ったのを渡すのじゃ駄目?」
「我儘かしら?
『解体』の練習をしたいのだけど、他人さまの戦果を台無しにするのは気が引けますでしょう?」
あっ、これ覚悟完了してるわ。
「じゃあ、やっていいか聞いてみようか。『念動』があると羽根をむしったりも楽だから。
でもさ、婆さま血の表現やスプラッタ苦手じゃなかったっけ?」
テレビでその手のシーンが流れると、問答無用でチャンネルを変えられてしまうし。
「実写で人が死ぬ映像は、作り物でもいい気がしませんもの。
女は男よりも血を流します。必然、血が嫌いといってられませんよ。
ホラーやスプラッタは、単に気にくわないだけです。
特に死体を冒涜されるとイラっとしますね。
旦那さまには内緒ですわよ。
怖い表現が苦手な可愛い女で通してるので」
いや、気付かれていると思うな。
思ったが、賢い孫は口をつぐむ。火中の栗は拾わない。
「ご歓談中、失礼を。
紹介したい者が到着しましたので、挨拶しても良いでしょうか」
佐藤さんは朝だというのにネクタイ姿だ。
「それじゃ、婆さま行ってくる。
祖母をよろしくお願いします」
婆さまに付き添ってくれている、女性職員に頭を下げて立ち上がる。
「誰が着きましたか?朝になったら移動と聞きましたが」
ドアの側で待っていた佐藤さんの後ろを歩く。
「はい。念のためダンジョンマスター候補の皆さんはそうしましたが、職員はその限りではないので」
通されたのは応接室だ。
ソファーに座っていた女性が立ち上がる。
背が高い。
遅れてきた成長期で180を越えたオレより目線が上だ。
すらりとした脚にはストッキング。ロングスカートに入るスリット。靴のヒールは5センチ程度。
年の頃は20代の半ばか。
画像の中でしかお目に掛かれないような、凛然とした美女だ。
それ故に頭がバグる。
「サリー?」
「……………はい。佐里江伽凛と申します。
サリーです。リュアルテさま」
「篠宮流士です。
……。
サリーには、ここ数日で一番驚かされた」
年上なら敬語がデフォルト。
でもな。ううん。
迷って結局はいつも通りの口調で、サリーの名前を呼んだ。
すると、ほっとしたように表情が緩む。
「それはこちらの台詞です。年齢こそ18以上なのは知ってましたが、リュアルテさまは鈴を振るようなボーイソプラノでしたでしょう?
なのに流士さんは艶のある青年の声で。
あんまり素敵な声で、吃驚しました。
……成長を喜んでいいのか哀しんでいいのか複雑です」
うん。声だけはリアル友人にも誉められる。
歌うと普通に上手いだけで、聞いてて退屈扱いされるが。
情感込めて歌うのって苦手だ。
「喜んでくれ。成長痛を乗り越えて背が伸びたんだから」
「わかります。骨の伸びる音で目が覚めるんですよね」
おお、お仲間だ。
「そう、成長痛は健康優良児のオレに車椅子登校させたすごい奴だ」
サリーはまじまじと顔を見詰める。なんだ?
「オレ呼びするリュアルテさまは、新鮮ですね」
「オレもスカート姿のサリーのインパクトに愕然としている」
主に性別的な意味合いで。
頼れる中年高学歴男性官僚。
ジム通いもしていて、ちょっぴり意識高いタイプ。サリーはオレの中でそんなイメージだったんだが。
オレの目の節穴っぷりには、もはや笑いも出てこない。
「ええ、出だしが肝心かと思って普段は履かないスカートを引っ張り出しました。
なんでサリー口紅塗っているの?と無邪気に聞かれる前の予防線で」
いや、いやいや。いくらサリーが背が高くても、男と間違えたりはしないだろ。
でも口紅してなかったら、絶世の美青年と思い込んだかも。サリー、胸の辺りもスマートだから。いや、すまん。
オレにはオルレアの前例がありましたね。
「サリー、ずれてる。
オレは年上のお姉さんに介護されていた事実に羞恥でいっぱいだぞ?」
思い出されるあれやそれ。風呂にも入れて貰ったし、マッサージとか、際どいところを除いてほぼ全身…っ。
背中の傷に薬を塗り込む慈愛の指先。
フラッシュバックした感触は、鮮烈だ。
心臓がうるさい。
「言わないでください。
年頃の青少年に猥褻行為を働いてしまったのでは?
そんな疑惑が現在、私の中で渦巻いてしまっているので」
サリーの目元や頬が赤い。
オレは、聞くな。
叫びたくなる口許を押さえて、視線をさ迷わせる。
「いや。ゲームじゃオレ、小さい子だったし」
その上、出だしが虚弱だったし!
「ええ、申し訳ありません。サリーの体だと父性愛がどうも強くて。
初めての主で、テンションの引きが強いというか」
ああ、サリーもアバターに引っ張られるのか。
「わかる。あの体だとベリーソースやアラザンが嬉しい」
駄菓子屋の知育菓子なんて超楽しい。
「えっ可愛いですね」
失言と口を押さえるサリーのほうこそ可愛く思えて混乱する。
サリーと仲の良い友人になれたらいい。
その気持ちは嘘じゃなかった。
でも頼りにしていた大人の男が、見目麗しいお姉さんになって出てきてしまったら、戸惑うよな!
オレ、さんざん甘え倒していたんだけど!
介護的な意味合いで!
ちょっと、待て。
エンフィや、ヨウル、きちんと男だよな?
嘘付いてないよな?
相手が女の子ならアウトなことしかしてこなかった所業の数々が浮かんでくる。
なんてことだ。
「なんか……オフ会って恐ろしいな」
「ええ、本当に」
2人して、ため息を付いてしまったのは仕方ない。
「佐里江くん。残りの2名が到着するのは午後になるだろう。
それまで流士さんと親睦を深めるのはどうだろうか。
たしかこの施設には君も、何度か足を運んでいたな。
適切な場所に流士さんをお連れしてくれるかな?」
佐藤さんの顔が怖くて見れない。きっと生ぬるい目で見られている。
「はい。それでは流士さん、ステータスを拝見しても?」
サリーに部屋備え付けの、スキルリーダーを向けられる。
ステータス
位階3 HP200 MP460
生活スキル
ステータス
魔力の心得
洗浄【洗口】
ライト
造水
解体
地面操作
鋏
念動
体内倉庫
チャクラ
そよ風
体育スキル
整体
美髪
内臓強化
骨格強化
生産スキル
魔石加工【精製】
念動+鋏+ターゲット→【採取】
エンチャント
そよ風+造水→【散水】
そよ風+ターゲット→【受粉】
戦闘スキル
ターゲット
雷光
ターゲット+雷光→【サンダー】
剣術【鋭利 パリィ】
結界
ヒール
治癒
特殊
緑の指
魔力循環
メモリ168
「スキル多いですね?」
「レベルが上がったら、前世のスキルも増えた。メモリは自動消費してこれだった」
リュアルテくんはレベル1の段階でMP500越えてたけど、レベル3のオレはそれより低い。それ以外はまあ、そこそこ。
「これだけ沢山スキルがあると、位階を上げるのが困難になりそう………でもないですね。高魔力の『サンダー』持ちなら。
剣術もおありですから、どちらを優先して育てるかに依りますでしょうか。ご希望は?」
経験値は体と精神をなりたい自分へ成長させてくれる栄養素だ。
位階を積むのも、スキルを磨くのも経験値が消費される。
レベルダウンが起きるのは、他所で経験値が消費されてしまうせいだ。
本当は魔素とかの方が合っているのかもしれないけど、魔物を狩って得られるものは経験値だと相場は決まっている。
「とりあえず今は半分くらい魔力を生産で消費して、それから少し体を動かしたいな。
どう育てるかはまだ考え中」
魔力特化型になるにしても、最低限は鍛えないと詰む。
「レベルアップ前の経験値が満ちた状態で、生産や鍛練をするのはいいですね。習熟が捗ります」
MPを200消費するなんて、あっという間だ。
なので柔軟や体操を自衛官の兄さんらにねっちり指導されてから5キロのコースを1本走った。そうなんだけど、サリーったら足早い。
オレ、そんなに足は遅くはないのにさ。オレが1本こなす間に余裕で3本走るんだもん。っていうか訓練所の皆、恐ろしく足が早い。
これが新人類の力か。
これから先スポーツ界はどうなるんだろ。
サッカーや野球とか、殺人ボールになってしまう。
それは誰にとっても面白くないな。
ご贔屓筋のスポーツ選手が怪我をしにくくなるのはいいことだけど。
………あ、デバフ盛ってすればいいのか?
どうだろ。わからん。
「それでは、体が温まったところでサフランの収穫に行きましょうか」
運動場から出て、建物に入った。
ズラリとならぶ扉の中から初心者エリアを選ぶ。
「ここですね」
サリーは青紫の花の画像が掛けられた場所を示す。
確かにプレートには【サフラン】と書かれている。
推奨レベルも3で丁度だ。
鳩が2だったから、順番通りだ。
「サフランって、香辛料の?」
「そのサフランです。例によって植物系魔物種で、リュアルテさまの得意なやつです」
サリーはパスを翳して扉を通る。
安全地帯の周囲の他は、一面の花畑だ。
濃い青紫色の花弁に、黄色い雌しべ。
高さは腰たけよりも上だろうか?
なんとも幻想的な光景だった。枯れ草のような甘い香りが漂っている。
「ちなみに、魔物種ではないサフランの全長はこれくらいです」
サリーは親指と人差し指で、緩めのLを作る。
へー、サフランって小さい花なんだ。
「収穫部分は雌しべ、あの黄色い部分ですね。それと魔石です。あとは水玉のご飯になります。
サフランの攻撃手段はほぼないに等しく、初心者向けです。
ただ鳩とは違って集団ですので、レベル3相当になります。
囲まれてぺちぺちぐらいはされますよ。
水玉のご飯部分は私や彼らが回収しますので、先に『採取』をお願いします」
そう厚手の収穫袋を渡された。
台車に籠を詰んだお兄さんらが、任せろと言わんばかりにビシッと敬礼してくれる。
そうだよな。『体内倉庫』がなければ、文明の利器を使えばいいよな。
特にここはドア直結だし。
「スキルは星がなくなったから、感覚が狂いそうだ。
広範囲低威力で、まずは撃ってみる。
皆さんよろしく、お願いします」
護衛さんらにも挨拶して、前提スキルを起動させる。
『魔力の心得』、『チャクラ』。うん、この2つは同時に扱えそう。
『サンダー』を、乗せるのは、重い引っ掛かりがある。でも、威力は低めに纏めるのはなんとかなりそう。
でも『サンダー』をキープしたまま『雷光』を散らす誘導は、コントロールが難しいな。
今は無理と諦める。
「『サンダー』」
雷が暴れそうになるのを、『ターゲット』で誘導する。
魔力をブン回すのは、しばらく避けた方が良さそうだ。
「ゲームのようにとはいかないな」
狩り漏れがちらほら残ってしまう。
「なにを言われます。レベル3の魔力じゃあありませんよ?」
サリーが寄ってきたサフランを棒で仕留める。
リュアルテくんも前世も『サンダー』は大の得意だから、リアルだとショボく感じてしまう。
「寄ってくるサフランは始末するので、収穫をどうぞ」
護衛さんらが周りに立ってくれたので、スクショを取る。
ステータスの機能に最初からついているんだよなスクショ。
これ、倫理スキル内の『録画』とかのスイッチになってそうだ。失敗したわ。
サフランの雌しべを毟ると、花弁の中に魔石が見えた。
これなら『採取』も『解体』も簡単だ。遠慮なく習熟率の糧になって貰おう。
スキルを片っ端から掛けていく。
しかしパエリアとかに入っているサフランは赤かったけど、この雌しべは黄色いな。
魔物だから、そういうもの?
「あっという間に魔力が枯渇する」
『サンダー』を1本撃って、『採取』してたら魔力が3割を切って停められた。
そんなわけで10時前のおやつだ。
リンゴジュースをぐぐっと呷る。糖分、旨い。
「1戦で1レベル稼げば充分すぎますよ。攻撃スキルが最初から使えるのはチートです」
協力して貰った周りのお兄さんらが頷いている。
へー。
「リアルで最初から攻撃スキルあった人ー?」
そしたら全員手を挙げやがった。騙されるとこだった。なんだよ、もう。
「スキルはありましたが、徒手格闘術は自衛官の嗜みなもので」
「剣道歴20年です」
「トライアスロンと柔道歴は、それぞれ足して30年です」
「空手でインターハイに3度出ました」
「正直、遠距離スキルが羨ましいです」
「レベル20でようやくMPが200を越えました」
「………と、まあ。肉体を鍛えている方が魔力は高くなるそうですが、それでもこんな感じです」
「『魔力の心得』かな。要因は」
「それもあるでしょう。道具を頂いてから、サリーの魔力は伸びましたから」
「それは販売されますか?!」
がたっと席を立つもの数名。
「作ってもいいけど、上の人がオッケーだしたらかな?
とにかく沢山白玉魔石を精製して欲しいみたいなこと言われたし」
あ、なんか座っていると眠い。あくびが出そう。エンフィが言っていたのはこれか。
ゲームよりも魔力の減り慣れしてないせいか、反応が顕著だ。
「やはり魔物種の食材じゃないと、魔力の回復が遅いのでしょうね。
と、いうことでどうぞ」
渡されたのは出来立て熱々のミートパイだった。
サリーはリアルでも『体内倉庫』持ちか。オレが持ってるくらいだからそりゃそうか。
「あっちじゃ、パイは珍しいから嬉しいな」
そういやアスターク教官最初に会った時、バターの香りがする菓子を持参してたっけ。
あれは張り込んでくれていたんだな。
パイの中身の肉は多分、猪鹿。香辛料が効いていてパンチのある味つけだ。
こっちでも猪鹿が食べられるのは良いことだ。
「食べたいものがあったら、仰ってください。優先して手配してくれるそうですよ」
魔力回復は重要ですね。
頷いたところでヤジが飛ぶ。
「佐里江さん、贔屓だ贔屓」
「やっぱり若い子の方がいいのか」
「佐里江さんが優しいなんて天変地異か」
「筋肉達磨のむさ苦しい集団と、十代の青少年なら態度が違って当然でしょう。
年を考えなさい年を。
貴方たちは私に尊敬に値する年長者としての態度をまず見せて下さい。
それから振る舞いを考えます」
ぴしゃりとやりこめられたお兄さんらの嬉しそうなことよ。
サリーったらアイドルね?
「サリー。可愛がられているんだなあ」
「そのように見えますかっ!」
「うん、割と。オレも爺さまのところでバイトさせて貰うけど、パートの大きい姐さんらはいつも大体こんな感じ。
隙を見せたら、からかい倒されるところとか。
時々ならいいけど、集団で毎回オモチャになるのは仕事にならなくて困るやつ」
「………ご苦労されてますね?」
「パートさんらは休憩も必要だからいいけど、オレが仕事しないのは遊びにきて小遣い貰うようなものだから、それがなー」
可愛がってくれてんのがわかるから、なんともしがたい。
ふわ、と欠伸が漏れる。失礼。
「10時からの部で3時間ほど休まれますか?」
耳をとんと、示唆される。ゲーム機を嵌める場所だ。
「いま寝ると夜眠れなくなりそうだ。
これって、MP消耗すると眠くなったりって皆もそうなんですか?」
「目眩や吐き気はします」
「立つのが困難にはなります」
「腹が減ります!」
「イライラします」
「同じですね、眠くなります」
「残り3割でこれなら、無理はできなそうだな」
眠い。テーブルに突っ伏したい。
生欠伸ばかり出てしまう。
「ゲーム機を使わないにしても、少し休まれた方がいいかもしれません」
サリーが進めてくれたので、部屋に戻った。
ベッドに腰掛けてから記憶がスポンと抜けている。
時計を見れば、11時50分。
おやつをして休んだはずなのに、猛烈に腹が空いている。
「お目覚めですか?」
「おはよう。リアルでMP消費するのってえげつないな?」
口の中が粘ついているので、『洗口』ですっきりさせる。
変な時間に寝てしまった。
「腹の虫塞ぎにどうぞ」
「ふぐ」
渡されたのは冷製抹茶入り玄米茶と思いきや、フルーツ青汁か、これ?
不味くはないけど予想外だ。
「魔物種の野菜ジュースなんですけど、味がいまいちで。
作ってしまったからには自力で消費しているのですが……効能は悪くないんですよ。これでも」
薬師って趣味だったのかな、サリー。
「ケールっぽいのが、難しいのか」
飲むと一際個性的なやつがいる。
「栄養は豊富でつい、いれたくなってしまって。失敗でした。
すみません。昼食は美味しいものを食べましょう」
「ご馳走さま。ヨウルじゃないけど肉の気分だ。腹が減りすぎて、気持ち悪かったんで助かった」
でもちょっと待って。今は立てない。なんかくらくらする。
それを見取って、サリーがゼリーを出してくれる。袋タイプの啜るやつ。
あ、駄目だ。全然足りない。
それで桃饅頭やら春巻きやらを出してくれるけど、これサリーの非常食じゃないの?
後でキチンと補填しよう。
「位階上げをするようになって、私は3倍じゃ効かないほど食事をとるようになりました。いつも通りに食べたのなら、断然足りていませんよ」
「皆良く食べるなって感心したのは筋肉もりもりのせいじゃなかったのか。
ゲームの食事も美味しいから、食べ歩きしやすいようにそっち特有のものだと勘違いしていた」
だって背は同じぐらいでも体の厚みが違うもん、護衛さんら。
佐藤さんもムキムキだったけど、同じぐらいマッチョマンだ。
「食事が美味しいのはいいですよね。私は効率を求めて、魔力を回復する組み合わせで『調合』した結果、やっぱり食事は合理性を求めすぎてはいけないというひとつの真理にたどり着きました」
「魔界料理してしまいました?」
「新生物の誕生まではいきませんでしたね。ただ染々と不味かったです。100年の恋も3日これを食べさせたら醒めるようなかんじの」
さっきの野菜ジュースは条件を緩めて作ったやつか。
「その料理はどうしたん?」
「自戒を込めて完食しました。腹は壊しませんでしたよ。
むしろ肌艶は良くなりましたが、二度と同じ過ちは繰り返さないことを刻みました。ええ、舌に。
……少し食べて落ち着いたら、昼間の内に買い出しもしましょう。
特に魔物種を食材にした料理のストックを増やしたほうがいいです」
なんか、サリーはサリーだな。
真面目なのに、私生活は突拍子がないところもあって。その辺りはゲームのままだ。
いきなり綺麗なおねーさんになって現れたから動揺したけど、なんとかなりそうじゃないか?