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「うちの孫に危ない事をやらせるくらいなら、わしがやる!」


 爺さまがそう啖呵を切ってくれたので、一緒に白玉狩りをすることになった。


 得物は文明の利器、虫取ラケットである。

 そうね。面積広い分当たりやすいよね。棒である必要なかったわ。

 

「こりぁ、楽しいの!」

 爺さまは訓練された農筋なので、同歳の年寄りよりは体力がある。

 ジャケットを脱ぎ、童心に返っておおはしゃぎだ。


 ぽすん。コロン。

 ラケットに当たって白玉が消える。

 転がった魔石は傾斜によって自動回収される仕組みだ。

 流石は親方日本。頭いい。


「慣れてますね?」


「サリアータでも似たことを少々」

 白玉の動きには慣れているので、そりゃあ多少は。

 ラケットはひとふりで2、3個落とせたりする。

 大変、楽だ。なんてこったい。


「ではやはり、ビリビリ棒は篠宮さんのところでしたか!

 サリアータと聞いた時から、そうではないかと期待したんですよ」

 佐藤さん、サリアータは田舎なのによく知っているな。


「同グループに子供たちの親分がいまして」

 ヨウル大丈夫かな。あいつ。

 エンフィは、まあ、平気だろ。


「彼らも参加してくれると良いのですが。こればかりは個人の事情がありますからね」

 そうか。住んでいる場所によってはオフ会になるのか。


「流。ちと、休憩せんかの?」

 ああ、爺さま。そんなにはしゃぐから。

 背にびっしょり汗を掻いてるじゃん。

 今日は洒落こんで、いいシャツ着ているのにさ。


「なにかお飲み物でも用意しましょう。動かれた後ですから冷たいものがよいでしょうか」






「白玉魔石は1つ100円。これは税金が既に引かれた数字です。

 それプラス一時間1400円。送迎、弁当、おやつ付です。

 時間調整を気にせず沢山いらしてほしいので、篠宮さんには税理士がつきます。

 税制で優遇こそできませんが、税理士の給料は国が持ちます。

 レベル2か3になったら鳩の駆除をしましょう。あいつら飛べませんので」

 守秘義務のあれこれからバイト代の振り込み先まで、佐藤さんは細々説明してくれる。

 メモとってないと忘れそうってなことで書き物が出来る部屋、会議室だろうか、そこに案内して貰った。

 行き交うお兄さん、お姉さん。みなムッムキムキね。体温高そう。


「……個人的な信条として、食べもしない生き物を狩るのは抵抗が」

 四つ足とか魚とか。そのあたり。

 スライムぐらいファンタジーなら別だけど。害虫駆除も平気だけど。心の棚はそこそこあるけど。うん、鳥はなー。


「魔物の鳩は食用です。大丈夫、美味しいですよ。

 鳩も買い取り対象です。

 坂井くん。例のものをお出しして」


「はっ。どうぞ、魔鳩の唐揚げ、焼き鳥各種です。右から胸、モモ、ハツ、つくねです」

 坂井さんとやらは『体内倉庫』もちか。

 爺さまは吃驚している。そりゃそうだ。


「お兄さんマジシャンだねえ」


「種も仕掛けも有るところは一緒です!」

 坂井さんは爽やかな笑顔、厚い胸板の自衛官だ。

 オレの知らないところで大人は色々やってんだな。

 未曾有の危機をマイルドに啓蒙するのにゲームで下地造りとか。もうね。

 そりゃゲームにエロがあった時点で、この技術をよっぽど広めたいんだろうなと思ったけどさ。

 広めたいのは技術じゃなくて、テキストデータの方だったのか。そこは盲点。


 現実って想像より奇なりだ。


 手に取った串をまじまじと見詰める。

 普通の鳩は知らないが、赤身の肉だ。

 甘く芳しい匂いがする。


 なにがあるかわからんもんだな。

 ああ、でも道理で納得だ。

 『異界撹拌』に生き返りがなかったわけだ。

 いつか来たる日のために作られたゲームなんだから、死に慣れたプレイヤーや、気軽にPKするプレイヤーなんて作りたくないよなあ。

 ゲームの快適さが、阻害されてもこれは致し方なし。


「鳥肉、美味しいです。

 地鶏って言われたらそうなのかって納得しそうです」

 焼き鳥は塩味なのに、信じられないほどふくよかだった。

 皮がぱりっとして、そこから旨味が溢れる。

 いかん。鳩を見る目が変わってしまう。

 もちろん魔鳩だけですよ?


「魔物を食べると僅かに経験値を獲ます。

 レトルトをご用意しましたのでお持ちになってください」


「美味しいねえ。佐藤ちゃん、これ家族に食わせてもいいのかい?」


「どうぞ、どうぞ。体に害はありません。

 むしろ健康にもいい肉です。

 ただ、政府がニュースを出すまでは、少し珍しい鳥の肉ですが」


「守秘義務っちゅーやつだな。外国さんとの兼ね合いかね?」


「それもありますね。

 日本だけならバレたらバレたで、今の段階でもなんとかなりそうとの意見もあるのですが、他所では血の気が多かったりしますし。

 ええ、自信過剰と笑ってください。

 ただ何かしらの暴動の引き金を日本が引くのは、避けたいですね、と。

 今は啓蒙活動に力を注いでいます」

 そのうち情報は漏れるだろって達観はあるのか。


「ほーん?

 ようわからん。

 年寄りでも、やっぱりゲームでお勉強さんしといたほうがええか。

 前は地権者ちゅーことで貰ったけど、買うとしたらどれくらいかね」


「そのことですが、流士さんと血の繋がりがある三等親まではゲーム機の無償譲渡が許可されております。

 統計によりますと近い血縁ほどスキルの出現傾向が似ていますので」


「柳下の二匹目の泥鰌を狙うっちゅーわけだな。

 うちの孫みんないい子だけどよ。運動苦手だったり、生き物に暴力振るうなんてとんでもないって子もおるよ?」

 十和子伯母さんちの従姉さんらのことかな?

 従姉さんらはほら、体力分のスペックが頭にいっているだけだから。運動神経まで良くなくても充分じゃない?


「だからゲームで適正を判断するんですよ。VRで普通にレベル上げが出来るかたは大丈夫です。

 流士さんはその点理想的です。

 ゲーム中、一度も死んでいませんから」


「ゲームの中で死ぬのん?」


「無茶をしたら死にます。運が悪くても、勇敢すぎても、馬鹿なことをしても。

 現実と一緒です。

 ゲームと現実を混同させないように、開発陣が頑張りました」


「それなら、やっぱりやりたい子の分だけ用意してもらいたいねえ。

 流は、うん、ちと重石があったほうがええ子だから。妹2人ほどぶら下げときたいんよ。

 ちぃとまぁは、ゲームやりたいってゆうてたろ。

 あと、ババさんはどうかねえ」

 娘3人、孫4人バッサリ省いたあたり爺さまも家族を把握している。

 かーさんも伯母さんたちも、従姉さんたちも農筋以外の筋肉は鍛えなくてもいいってタイプだし。農業に携わらなければ完全にインドアタイプ。

 そしてとーさんは出張も多い企業戦士だからなあ。


「婆さまは爺さまが誘えば、やるよ。

 デート代わりに誘ったら」


「あれ、恥ずかし。うん、いいね。ババさん昔はおキャンだったんよ。かーいくてね」


「一応聞くだけ聞いてみたら。オレ、『美髪』や『美肌』がスキルに出たよ。

 女の人なら欲しがるかも」

 のろけが始まる前にスパッと話の腰を折る。

 爺さま、それ他所さまの前でする話じゃないよな?


「それは、男でも欲しい、ですよ?

 失礼。本音がつい。

 お2人の現在のステータスを拝見しても宜しいでしょうか」

 その頭はやや寂しげだ。

 男として立派すぎるから、少しくらい隙があってもいいんじゃないかな。佐藤さん。


「ステータス?構わんよ」


「はい。どうすれば?」


「篠宮さんはまだステータスの表示は出来ないと思いますので、こちらの測定器に手を当てて下さい。

 ゲームで十分に習熟すれば位階が1でも自分で見れる人もいますが」


 ふうん?


 お、出た。



 ステータス


 位階1 HP150 MP200


 生活スキル


 ステータス

 魔力の心得

 洗浄

 ライト

 造水

 解体

 地面操作

 鋏

 念動

 体内倉庫

 チャクラ



 体育スキル


 整体

 美髪

 内臓強化

 骨格強化


 生産スキル


 魔石加工【精製】

 念動+鋏+ターゲット→【採取】

 エンチャント



 戦闘スキル


 ターゲット

 雷光

 ターゲット+雷光→【サンダー】

 剣術【鋭利】

 結界



 特殊


 緑の指

 魔力循環



 メモリ0



 んん、結構消えている。でも想像よりはずっと多いし、前世の人のスキルも混じってるな。


 ………えっ。マジでこれ使えちゃうの。不味くね?

 特に生活系と戦闘系!


「ステータス見れました。スキル使うのって何らかの規制がありますか?」


「警察や自衛官が民間に先立って訓練している理由がお分かりいただけたと思います。

 犯罪を犯した場合はゲームと同じくスキル封印、裁判、収容です。そんなことにならないのが一番ですが。

 あとゲームでも資格が必要なスキルが出た場合は、資格取得まで封印されます。

 スキルはなるべく守秘義務のない方々には隠していただきたく存じます。

 指針となる制度の発表もなく、身も心も若い方にお見せするには、いささか危険がありますので。

 国民の皆さまには可能な限り素晴らしい形で新世界に馴染んで頂きたい。と、いうのが政府の方針です」

 そこで爺さまが膝を打つ。


「ちょうどええ。流、おまんに家やるわ。お志津ねえのやつ」


「志津子ばーちゃんの?

 あの家は鎌倉のおばさんや、沖縄のおばさんが継ぐんじゃないの。実家でしょ」

 第一あの家広いじゃん。管理が面ど、いやいや簡単に貰えるもんでもないだろ?


「お前が大学でて他所に行かれるくらいならくれてやれとさ。

 お志津ねえはお前ら兄妹、実孫扱いやろ。それに娘はもう帰らんよ。旦那衆と仲良いもん、あそこの2人。

 一応確認に連絡とるからそのつもりでいろし。

 何なら管理人扱いで小遣いも出す。

 スキル使うにゃ必要やろ。

 娘らに話していい時まで、わしらが悪さするのはそこやな」


「オレ料理はできないんだけど」


「この際、覚え。無理な時はウチでも実家でも食いにおいで。

 佐藤ちゃん。流がバイト代で家買ったら節税にならんかね?」


「はい、相談してみます。

 流士さん。ステータス、いいですか?」

 バーコードリーダーみたいな機械を寄せられる。手のひらをぴぴっとして終了だ。


「爺さまは何かスキル出た?」


「『洗浄』や『造形』ちゅーのがあったよ」


「いいスキルだよそれ。『洗浄』は便利で『造形』は面白い。

 オレは『造形』、ゲームでは取れたんだけど消えちゃってさ」


「ありゃあ、残念ちゃんね」


 ガタッ!

 佐藤さんが立ち上がった。

 そして座る。

 しわぶきをひとつ。


「流士さん。『魔石加工』、ありますね」


「ありました。良かったです。バイト代って上がったりします?」

 光明が見えて安心した。

 ご近所の崩落は頑張れば何とかなるかもしれない。

 サリアータみたいな大穴だったら、うん。どうしようもないかもだけど。


「上がります。『魔石加工』の内職代も加えると節税対策、本気で取り組まないと行けないかもしれません。

 ですが、それはさておき」

 え、さておかれるの困るけど。


「貴方には護衛が必要です。

 篠宮さん。新しい家の側に空いた家屋はありませんか」


「わしの持ってる戸建ての空きはあと2件やけど、押さえとこか。アパートならも少しあるよ。どないする?」


「全部拝見させてください」


「その前に、オレが本当に『魔石加工』できるか試してからにしませんか?」

 佐藤さん。沈着冷静な強面の内実、かなりテンパっているのでは?


「坂井くん。すまないが」


「はい。どうぞこちらでお試しください」

 用意されたのは、もうお馴染み白玉の魔石。

 リアルでは初めましてなのに、そう思えない不思議さよ。


「『精製』、『エンチャント』、『ライト』でいってみますね?」



 その結果。

 仲間で相談したいからとゲーム機を取りに行って貰った。つまり成功したんで、この日はお泊まりになったわけだ。

 明後日からの学校ってどーなるんだろ?

 護衛引き連れて授業とか話題になりすぎるよな。

 オレだけリモートとか。はは、まさかね。………やだなあ、ありうる。


 皆になんて言い訳すればいいだろ。あまり嘘はつきたくないんだけど。



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