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44 倫理スキル



 倫理スキル。メモリ消費400ですって。

 殲滅系爆破呪文より習得コスト重いってどーゆーことよ。入れたけど。

 記録媒体は精石を使う。場所はといえば、『体内倉庫』の大事なものにスロットが増えていた。そこに入れる。

 針蜥蜴の精石なら約1年分をレコードできるらしいけどさ。これ、本の編集はマメにしないとわからなくなるやつだ。



「依頼取ってきました!ご指名ありがとう御座います!」

「「ありがとう御座います」」

 リーダー格の丸い少年が頭を下げると、残りの2人が追随する。

 初心者ながら統制のとれたパーティーだ。


「こちらこそ、急な依頼を受けてくれてありがとう。【キラキラ亭食材調達班】の皆。

 わたしはリュアルテ。隣が教官のアスターク先生。あとは有志の仲間たちだ。彼女らはネームプレートの名前で呼んで欲しい」

 被った猫は速攻で剥がす。

 偉そうなチビッ子ですまんな。だって『礼法』がそうしろって示唆するから。

 ………威張ることもお仕事なのです?


 メイドさんらは基本クラシカルなスタイルなのに、右胸の手書きのタグだけは話に聞くメイドなんちゃら風だ。


「改めまして、紹介します。

 僕は暫定リーダーのマルフクです。本来のチームリーダーは父ですが、若手でチームを回すときはリーダーを務めさせて貰ってます。

 『探索』『食材鑑定』『体内倉庫』『ヒール』あとは生活スキル担当です。


 次に従姉のフレデリカ。

 このチームでは武力担当です。

 『薙刀』『パチンコ』『ターゲット』『第六感』。僕らはこのリカがペースメーカーで、彼女が一撃で倒せない魔物は避けています。


 最後にうちの見習いコックのドルチェ。

 料理人は体力勝負ですから、位階上げに参加して貰ってます。

 『盾術』『採取』『洗浄』あとはメイスを練習中です」


「わたしは普通の冒険者の知識に欠けている。そしてそれをそのままにしておくのはよろしくない職につく予定だ。

 歩きがてら、皆の話を聞かせて欲しい」


「リュアルテは魔力は強いが、体力は錬成中だ。歩くのはゆっくりになる。頼むな」


「構いません。というか都合がいいです。

 僕ら食材探して、同じところをうろうろするんで!」


「さっき話していた鮭のダンジョンは近くだろうか?」


「歩くと1時間。駅の使用なら2分です」

 古参のダンジョンは、駅で繋ぐ工事をされることも多い。

 あと公営ダンジョンも。


「駅だな。こいつの足なら2時間だ」


「歩けませんかね?」

 体力錬成したいです。


「午後も歩くんだ止めとけ。

 お前さんら代金はこっちでもつから同行してくれ」


「やったあ!…じゃなくて、はい!」

 フレデリカが手を叩いて喜ぶ。


「すみません。いつもは歩いているもので」


「歩くのはいい鍛練だな」

 熊教官の相槌にマルフクはない首を振る。


「いえいえ、経費削減ですよ。最近野菜が高いですから。

 料金を値上げするのは最後の手段にしたいので」


 ギルドに併設された駅を通り、入場料を払って【イクラ大好き】ダンジョンに入る。

 急な飛び込みなのに、待ち時間がなくてラッキーだ。

 ダンジョンに入るなり、ざざざざと、水の音が聞こえる。


「このダンジョン凄い名前でしょ?

 ここのダンジョンマスターさんのダンジョン、全部わかりやすいの!」

 フレデリカはきゃらきゃら笑う。

 ピンときた。


「【建材ダンジョン】の人ですかひょっとして」


「そうそう。ここのダンジョンは鮭だけに特化してるから、他にはなにも獲れないけど。

 …なあ。リュアルテさん。俺ら本当に、エラを取って血抜きしたり内臓を抜いたりするだけでいいのか?

 それで冒険者のバイト代貰うのは申し訳ないぜ?」

 ドルチェはなにが心配なのかそわそわしている。

 鮭の処理って苦労だろう?

 イワシや鯵とは違うのに。

 それとも慣れた作業だから、料理人には楽な仕事なのかな。


「いや、わたしは量を狩りがちだから…むしろ追加を払う羽目になるかも」

 広場から降りた先、その光景に言葉を途切れさせられる。


 川幅は15メートルといったところだろうか。

 その川いっぱいに鮭の群れが遡上していく、その迫力たるや。

 なんてダンジョンだ。

 そわっと浮き足だってしまう。


「うちの人ら鮭料理は得意かな?」


「それはもう!サリアータっ子なら当然ですっ!」

 力強いなメイドさん。皆尻尾がぶんぶんだ。

 鮭はお好き?

 オレは好き。

 焼き塩じゃけに醤油をひと滴ししたのを白いご飯と食べたい。

 いくらはそれだけで尊いし、白子の天ぷらは秋の楽しみだ。


 メイドさんらは、魚をしまうトロ箱を山のように積み重ねている。

 知ってるか。これ、マルフクたちを雇うのにギルドで手続きした少しの間に用意してくれたんだぞ?

 はー。メイドさん有能。


 そのトロ箱をタライやら小さな椅子やらと一緒にセットしている。

 さあ、どうぞと存分にといった具合だ。


「皆さま『解体』はお持ちでしようか」


「はい、それは職業柄。全員星3ついています」

 メイドさんの質問にマルフクは自信を持って頷いた。


「それはよろしゅう御座いました」


「鮭は気絶させるぐらいですか?」

 大きな魚は活き絞めの筈。


「『解体』星3ありゃ、絞めちまっても問題なかろうよ」

 へー。やっぱりスキル便利だな。


「はい、では『サンダー』」

 飛沫が散ってもアレなのでちょい控え目。

 それでもゾロリと鮭が浮かぶ。

 メイドさんらがそれを『念動』で広げた網でザックリ捕らえる。

 網から外れたのもそのまま『念動』で確保だ。

 持ち込まれたそれに、マルフクたちはテキパキと魚の処理を始める。

 まず血抜きを掛けて、エラを取り、腹をかっ捌く。

 スキル使っているけど、早いし上手い。

 うーん、余裕だな?


「もっと範囲を広げてもいいだろうか?」


「はい、マスター!」


「水を煮立てるのは止めろよ。鮭が煮える」


「しませんよ。…………………多分」






「鮭も魔物だったんだな。サイズが一緒だから気づかなかった」

 ごとっと壺を渡された中身は、でっかいイクラじゃなくて魔石だった。

 鮭の魔石はオレンジがかった赤なんだな。


「自然界の鮭漁は雷流すの禁止ですよ?!」


「そうなのか。そうかもな。水産資源は守らなくては」

 やったら『倫理』スキルに叱られてしまう。


「若くてもダンジョンマスターさんの魔力ってスゲーんだな。

 経験値ゴチです!」

 ドルチェが両手を叩き合わせて合掌する。

 チリが積もればなんとやら。

 本日大漁のおかげさまで、初心者さんならそこそこのレベリングになったようだ。

 ま、うちのメイドさんらにはハシタ経験値だったんだろーけどさ。

 トロ箱が満杯になったので終了だ。

 この3人だけで、殆どの鮭の下処理をしてしまった。若いのに仕事人だ。

 メイドさんらも感心してたから相当だろう。


「その分、働いて貰ったから。流石に食堂勤務は『解体』が上手い」

 キラキラさんらに魚を捌くコツを習ったら『解体』スキルがニョッキリ伸びた。

 これは色々経験してってね♡そんな政府ちゃんの親心か。


「うちの食堂の下積みはダンジョンに放り込まれるんで、武芸も囓ってきたつもりですけど、やっぱり僕らは料理人の卵ですね。

 狩りより、どれだけ上手く魚を捌けるか試行錯誤するほうが性にあってました。

 位階上げは『体内倉庫』を広くしたいですし、頑張るつもりはありますけど」


「あたしはむしろ、これからの作業が楽しみかなー?

 中骨煮たのなら作っていいって、おじさんから許可おりたし」


「そんなわけで、少し買い取りさせて下さい!」


「いいよ。どれくらいいる?」


「5箱分なら『体内倉庫』に入りますのでいいですか?」


「じゃあ、それはよく働いてくれたボーナスで」


「いいの?ありがと、今日はいい日ねっ!」


「あと、これは食券。うちもご飯屋さんをしているから、友達誘って遊びに来て欲しい」

 サービス券を渡して営業しておく。


「ありがとう御座います。こちらはうちの割引券です。ご笑納下さい!」

 そしてすかさずお返しがきた。


「テイクアウトやってる?」


「はい。承ってます」


「よかった。うちのに買いにいって貰うかもしれないが、よろしく」


「あ、キノコのお店の人なんですね。いってみたいなあって思ってたんです。

 キノコ狩り放題って本当なんですね。僕らみたいな業者が入ってもいいんですか?」

 マルフクは券を確かめて相好を崩す。


「大丈夫だ。追加設備があるだけで、普通のダンジョンだから」


「そうなんですね。わぁ踊り子豆も狩れたんですか。あの、豆乳を業者に卸してたりします?」

 踊り子豆はダンジョン外でも発芽するので、加工品にして出すのが基本。


「連絡はしておく。詳しい話は現場で頼む。

 それと名物マップ写させて貰っていいか?

 ずっと気になってたんだ」


「はい。ダンジョンマップと、シティマップのどちらでしょうか。

 お取り寄せグルメ帳なんかもありますよ」

 リングノートから付箋がビョンビョン飛び出している。これは読み応えありそうだ。


「凄いな。手書きってことは、自分で全部調べたのか?」

 ダンジョン情報も美味しいものに片寄っていて面白いが、店舗情報がまた凄い。

 見取り図や料理のイラストが生き生きとした筆致で描かれている。

 野生のプロがこんなところに。


「ええ。好きなものこそってわけで。勉強ではなくて趣味ですね。お陰でこの腹です」

 ポンと打った腹鼓は、確かに詰まっていそうな音がする。

 地図に目を落とす。

 全部揃ったサリアータのマップを見るのは初めてだ。


「こうして見ると。サリアータは、いい店が沢山あったんだな」


「半分滅してしまいましたから。本当に悔しくて堪りません。

 数世代に渡って仲良くして頂いたご贔屓筋や、名店が一辺にですからね。

 僕、夢で食べに行ったりするんですよ。まだ。

 ああ、美味しかったまた来ようと思って目が覚めると泣いちゃいますよね」


「リーダー!湿っぽいの禁止!」


「もっと旨いもん作ってサリアータの腹は俺らで満たすって誓っただろ!」


「………これ、本にしたら欲しいやつ多そうだな」

 横から覗いていた教官が呟く。


「ええ、まさか!ただの食い倒れ記録ですよ?」


「少なくとも、俺は欲しい。嫁さんと行った、もうない店のこととかよ。

 絵もいいけど文もいい。

 店主口は悪いが、いつも旨いもん食わせてくれたよな。とか久しぶりに思い出したわ」

 しみじみとした教官の声音に思うとこのがあったのか、フレデリカが発破をかける。


「リーダー。お客さんに書店の人がいるじゃん。見てもらったら?」


「いいな。本ができたらわたしも欲しい。買うからその時は教えてくれないか。

 もし自費出版するなら、スポンサーになりたい」

 画像データは取り込んだけど、ほら、本は別腹なので。



 クエスト!



 若き芸術家への支援。

 お気に入りの作家を育てましょう。

 薩摩治郞八よろしくド派手に生きるのもまた楽しや。



 報酬 称号 パトロン



 貴方は一定の社会的地位を確立しました!

 名声を得て社交界で名を馳せるもよし、政界の道を志すもよし。

 あるいは地元の名士として地域貢献をするのもよしです。



 称号 ブルーブラッド が送られます。



 …………………なんだか面倒臭いのが。


 ま、いっか。その道に行かなきゃいいだけだし。

 【パトロン】は、社交界で田舎者と侮られなくなる効果が。

 【ブルーブラッド】は、高貴なる義務を果たす時、周囲の理解を得やすくなる効果があるとされるが、このテキストデータじゃよくわからん。

 …これが役に立つシナリオ踏みたくないなあ。

 


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