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43 5階はなにをする人ぞ



 13日目だ、ご機嫌よう。

 【ノベルの台所】5階は養鶏、狩猟エリアでスタッフオンリー。その予定だ。

 5階の住人たちを紹介しよう。



 エントリーナンバー1。

 魔鶏。

 この魔物種の鶏は大型で長生きだ。そして餌さえあればどんどん卵を産んでくれる。

 卵が気軽に食べられるのは、この鶏のおかげと言ってもいい。

 ただし魔物なので気性が荒い。同族同士でサドンデスの喧嘩もする。

 そんな彼女らを入れるケージは個室かつ高床式だ。ニュースでよく見るブロイラーとかが飼育されているようなケージを思い浮かべて欲しい。その籠がでかくてゴツくなったとすれば、ニュアンスは伝わることだろう。

 ダンジョンの良いところは餌台と卵収集器以外は、定期ダンジョンリセットで掃除の手間要らずなこと。

 鶏糞はとれないがしゃあない。

 卵かけご飯をするには清潔が大事。

 この種類を平飼いするには、飼育員が危険すぎる。檻に収容は絶対だ。


 でも、この魔物の鶏、可愛い顔してるんだよ。黒目がちで、羽毛がふっくらして尻のラインがまあるくてさ。

 お触り厳禁の凶暴さが残念だ。

 うっかりこいつらに近づいて、酷い目に合う冒険者のなんて多いことか。



 エントリーナンバー2。

 牛。

 なんの変哲もない、ただの牛だ。ホルスタインみたいな斑のと、茶色いの。

 こいつらは乳牛だ。

 普通の動物だから、搬入が少しばかり大変だったそう。

 これさ、携帯用ダンジョンあったら楽だったはずだ。失敗した。

 オルレアに社用として、後で1基押し付けとこう。

 牛は牧草地で放し飼いをする予定。チーズやバター界の希望の星だ。



 エントリーナンバー3。

 猪鹿。

 猪に鹿の角が生えた魔物種だ。

 食肉って言ったらこいつだ。旨い、安い庶民の味方。

 個人的にはこいつの脂で揚げたトンカツが好き。

 この猪鹿の角から抽出したゼラチンで作るマシュマロはポピュラーな風邪薬なんだそう。

 少し漢方っぽい味がする。

 このマシュマロはオヤツとして食べてもいいそうだ。のど飴みたいな扱いなのかも。



 エントリーナンバー4。

 赤昆布。

 北の海からこんにちわ。

 魔物種の昆布は船を沈める嫌われものだが、普通に旨い。昆布だもん。

 この昆布出汁だとトマトスープのように味噌汁が赤くなる。

 昆布茶も赤い。

 まあ、そこらへんは気にするな。

 このエリアでは、ついでにホタテの養殖も始めている。



 エントリーナンバー5。

 香り飛び魚。

 帆を張ると、そこに飛び込んでくる特攻野郎だ。

 魔物種なんで一般飛び魚の3倍はでかい。こいつもよく船を沈めるんで嫌われてる。

 羽から香料が取れたりするが、それよりも身の旨さに注目したい。

 アゴ節でひいた出汁の滋味深さときたら絶品だ。

 オレはこれでうどんや雑煮を食べたい。

 エンフィは良いものを贈ってくれた。ありがたや。





「予定は猪鹿と魔鶏だけだったのに、人手足りるのか?」

 お陰で0レベルダンジョン使って冷凍庫を増設する羽目に陥った。

 あと要望に押される形で、1階に白玉フロア2つ新設し、踊り子豆のフロアを3つ増やした。

 これで一先ず【ノベルの台所】は完成だ。

 すぐに増築が始まりそうだが一応は。


 場所は1階応接室。

 アイスコーヒーで祝杯だ。


「うちは一族総じて位階上げに励むので。

 バイト代の出る位階上げは大歓迎ですよ」

 それは聞いた。

 見処のあるバイトさんから社員を選抜するらしいけど。


「でも、冒険者の方が稼げるだろう?」


「オーナーの意向で武器防具はこちらで用意してますでしょう?

 低位階者にとって、ここまで安全で快適なダンジョンはありません。

 一般教養さえクリアすれば、自動で位階上げをするカリキュラムを組んでいますから、それが強いです。

 牛飼いだけは専門家を指導員に頼みましたが、クロフリャカさまの伝手で快く引き受けて貰えましたし。

 あと話は変わりますが、白玉のポイントカード。あれは良いですね。

 お金で買えない景品も。

 子供たちが羨ましいと、スタッフが噂していましたよ」

 さっと資料を渡される。

 ヨウルのとこで集めたデータだ。

 

「10歳以下でも1回30分で200マ稼ぐ子がいるのか。有望すぎやしないか?」

 白玉の魔石は1個1マの買い取りだ。

 おお、稼ぐ稼ぐ。とんだ腕白坊主だな?

 そう思ったら女の子だった。いや、失礼。


「白玉狩りは面倒臭いものの筆頭だったんですけど、やっぱり道具ですね」


「ビリビリ棒、まだ需要はありそうか?」


「都市部でこれですから、農村では余計に欲しがるでしょう。

 うちの荘園でも話題になってます」

 ああ、白玉食べると魔物が強化されるんだっけ。それなら魔物が身近な荘園はそうか。


「うん。それなら少し頑張ろうかな。支度金を独りで沢山使ったから、皆のために補充していきたい」


「寄付金は皆の気持ちだ。気にせず使え」


「ですが、教官。金銭はあまりプールしておくのも良くないのでしょう?

 個人資産、食事ぐらいしか使う機会がなくて」

 衣住や教育関連費、無料だもん。優遇されるに程があるから還元したい。


「ダンジョンマスターなら個人ダンジョンに邸宅を構えるものですよ」

 オルレアはそう言うけどさ。

 個人ダンジョンに家建てるのは、人を雇うのが不安なんだよな。

 ゲームまで家事はしたくないし、かといって寝ている時間は、ダンジョンは閉めっぱなしになるんだろうし。

 人は光と水があれば生きていける桃子と違う。

 なにかあってゲームができなくなったら、そう思うと怖い。


「ホテルが快適で、しばらく出なくてもいいな、と。

 書籍はまだまだ読みきってないし。ホテルの図書室は、ものを食べたり飲んだりしてもよくて居心地がいいんだ」


「本がお好きなら図書室を作りましょうか【ノベルの台所】に。看板に偽りなく」


「図書室を?」

 え。マジで?


「蔵書が増えたら私立図書館の体裁でリニューアルも容易かと。

 ダンジョンなら蔵書の管理も適切に保てますから」

 温度とか湿度とか?

 そうか、紙魚も生き物だから設定で弾けば管理下には入り込めない!


「いいな、それは!

 教官。私立図書館造るのに、功績ポイント足りないので、ギルド依頼を受けたいです」

 これは、わくわくしてしまう。

 幼少期に発症してしまった、気に入った本は手元に置きたい病は不治の病だ。

 そしてお気に入りの本は布教したい病にもかかっている。こちらは軽度。親しい人に迷惑を掛ける程度だ。

 本好きが罹患する病としてはありふれたものでしかない。


 それはそれとして私立図書館はロマンだ。

 現状では夢にも見なかったソレが持ててしまうとは、MMOってすごい。

 政府ちゃん愛してる。

 次も必ず選挙に行く。


「功績ポイントで何を買うんだ?」


「本に掛ける破損、劣化防止の守護スキルが欲しいです」

 ホテルの本に掛かっているやつ。あれはいいものだ。

 本は面白いものほどボロボロになるから、長く大事に使いたい。


「それって人を雇うのじゃ駄目か?」


「趣味ですよ?蔵書の管理は司書に頼むでしょうけど」

 貸し出しとか返却とか、するようになったら人は要る。


「趣味…となると家具も采配なさりますか?」

 今までが、任せっきりだったからなあ。

 ううん。ちょっと気の効いた図書館の、キッズスペース。その大人バージョンで、靴を脱いで足を伸ばして座れるスペースとかあるといいな。

 足湯とかできたりすると更によさげ。


「本棚は選ぶか発注したいな。他はプロに任せるにしても」

 土地の心配がないのなら、リアルじゃ利便性に負けて選べなかった木製の本棚とか作り放題なのでは?

 これはトレント狩らなきゃ。


「そうか。書斎を持ち運べるのか」

 ふと、気付く。

 家の管理は億劫だけど1部屋だけならアリなのでは?

 ダンジョンマスターやれてよかった。


「お前さんはメモリが余っているうちに、倫理スキルを入れて置いた方がいいな。

 ギルド行くならついでに手配しちまおう。

 その間に守護系スキルのスイッチになるような教材を集めておく」


「倫理スキル。してはいけないことをしようとした時、教えてくれるスキルですよね?」

 やばい。なにか問題起こしていたか?

 唐突に思わぬスキルを勧められてドキリとする。


「そうだ。『自動録画』、『自動録音』スキルもここで取れる。なにか容疑に掛けられた時に無罪なら、これを提出しただけで放免だ。

 守秘義務を背負うと、記録媒体を丸ごと差し出せんから、データの切り抜き、ラベリングも簡単だ。

 つまりだ、わかるだろ?」

 ん?

 ひょっとして。


「本のデータベースも作れる?」


「その通り。倫理スキルは、ギルドランクが低いうちは必要ない。が、そのうち入れなきゃならんなら先に便利な使い方をするといい」


「何度でも読みたい本が、すぐ読めるのはいいですね!」

 それこそ喫茶店で漫画が読めてしまう。


「それでは図書室はお辞めになりますか?」


「えっ」


「えっ?」


「いや、紙の本は別腹だから」

 なんなら保存用と布教用でわけるつもりだったが?





 冒険者ギルド、なう。


 冒険者ギルドは瓦と漆喰、それと木で建てた市役所っぽい建物だ。

 採光の為の高窓がステンドグラスで、木材でモザイク張りした床が洒落ていること。その2点が特に目を引く。


 そういや自分でギルドの手続きするの、リュアルテくんは初めてじゃないか?

 とんだ箱入り坊っちゃんだ。


 ギルド内なら依頼ボートを見なくてもステータスから確認できるが、最初のうちくらいは生で拝みたい。

 そんな初心者さんは多いらしく、若手がボート前を固めて賑々しい。

 これぞ冒険者ギルドって感じだ。


「おい、俺ら邪魔になってんぞ」

「ずれて、ずれて」

「大丈夫、見れる?」


 すると成人したての少年少女のグループが、気を使って場所を開けてくれた。

 初対面の相手だから猫を被って礼を言う。


「ありがとう御座います。見れます」


「よう、すまんな」


「どういたしましてっ…?」

 小さい子に親切にしたら、保護者の熊にも会釈されてお兄さんらをキョドらせてしまった。申し訳ない。

 教官は悪い熊さんじゃないよ。顔は怖いけど。 


「あ、まだトレントの依頼でてますね」

 功績ポイントは1体につき4か。

 魔石を抜くと2ポイントか。うーん。


「どっかの工房が魔石欲しがってるし、建材足りてねーからな」

 これは依頼を受けたらマッチポンプだな。


「あ。桜の木のトレントもいるんですね」

 よく狩ったのはヒノキやアスナロあたりだ。桜はちょっと珍しげ。


「杉やヒノキ、アスナロなんかはよく出るな。桜はちと厄介だからな」


「なにか問題が?」


「桜トレントの花粉は喘息やら気管支の薬になるんだが、コイツを浴びるとテンション破ってブチ上がる系の馬鹿になる。

 花のつく季節は避けたいのに、1年の半分は咲きっぱなしになってるからな」

 なるほど。桜の花の命は短いから尊ばれるんだな。


「桜といえばサクランボですけど」


「ここの桜は山桜系種だな。実はついても甘くはなさそうだ」


「それは残念です。この黒柿は?」


「渋柿だな。干し柿にすればイケる。家具材としては高級品だ。

 蜂とセットになっているから難易度高めだ。だからこのハチミツもあまり出ないな」


「お好きですか?」


「ハチミツ嫌いな熊がいると思うか?」

 愚問でしたね。

 しかし依頼ボート見てると、できる範囲じゃ生産品を納める仕事が一番功績ポイント効率がいいぞ。悩ましい。


「黒柿の木材だけ納品で、魔石と甘味はお持ち帰りコースってアリだと思います?」


 教官が答える前に周りが反応した。

 少年少女のグループだ。


「やめとけって、蜂でかいぞ!」

「カラスぐらいあるのよ!」

「しかも大群!100や200じゃないんだからな?!」


 それは得意分野では?

 いや、蜂は初めてお目にかかる。『サンダー』効かないのならヤバい。

 冒険者のお兄さんお姉さんの心配も最もだ。


「気にかけてくれて、あんがとな。

 でもこいつ『サンダー』持ちでな。木と虫には滅法の相性だ」

 効くんだ『サンダー』。

 でも、虫か。

 蜂は集団になっても可愛いよな。ただし蜜蜂に限る。スズメ蜂はノーサンキュー。

 虫メインのダンジョンは、平気なものと駄目なものの落差が激しいから厳選したいな。ここなら、まあ良さそうではある。


「あ、なるほど。……って、ダメですよ!

 いくら良いところのお家の子でも未成年でしょう?

 黒柿ならレベル3ダンジョン相当じゃないですか!」

 へえ、そうなんだ勉強になる。


「そうよ。いくら護衛さんがお強くても、囲まれたら大変よ?」

「『サンダー』持ちなら断然、鮭漁がいいって!」

 鮭漁。それは気になる。


「鮭のダンジョンがあるのですか?」


「あるよ!産卵前の鮭が遡上する川のダンジョン。

 君が川の中に入るのは、止めたほうがいいけど、『サンダー』なら一発だって。

 なんなら拾うの手伝うから、危ないことは止めようぜ?」


「そうそう。蜂に刺されると、パンパンに腫れるぞ?」


「鮭がイヤなら、僕のダンジョン名物マップ写させてもいいよ?」


「あんたのマップ食べ物ばっかじゃない。参考になるの?」


「美味しいもの採ってきてくれる仲間が増えると嬉しいでしょ?」

 なんかいい子たちだな。これは仲良くなりたいぞ。色々な意味で。


「お兄さんたち、まだ依頼受けてないのならわたしに雇われたりしませんか?」

 さて相場はいくらぐらいかな。

 その前に自己紹介だ。




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