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4 ダンジョンマスターの仕事色々



「農業って、体力仕事ですよ。本業なら高い道具や人手がいります。生産物の生育、管理、出荷、販売。どれにもノウハウがいりますし、土地だけあればいいわけじゃないです」

 農作物なんて作れば作るだけ赤字とかあるんだぞ。

 爺さまは他にも土地を持っていて不労所得があるから、なんとかやっていけているようなものだ。

 オレなんて農業一本で暮らせる環境があれば、第一志望は農大だったぞ。…推薦受け入れてくれたとこもそりぁ楽しみだけどさ!


 ………。


 え。まじでしょっぱなから土地持てんの?

 農場王に成れちゃったりする?

 アメリカさん家みたくだだっ広い畑で、モンスタートラクター乗り回せちゃったり、そういうのが許されてるの?

 いや待て、トラクターはない。大丈夫。なくてもがっかりしない。きっとスキルがあるんだ、専用の。

 農業ヘリみたく、空を飛んで種まきとかやれちゃうんだ、きっと。

 いやいや、信じていたさ。運営ちゃんは出来る子だって。


「おう。いきなり沢山喋ったな。

 お前さんの畑愛はわかったが、最初のダンジョンの敷地は庭付き家一軒家程度だ。家庭菜園が精々だな」


「………………裏切られた」

 そういや駅のダンジョンも小さかった。


「人聞き悪いこと言うなや。雫石を沢山集めれば、それだけ敷地が拡張するぞ?

 スキルを習熟させて星がついたら、スキル石が作れるし、スキル石の需要は高い。その稼ぎで道具を買うなり、人を雇うなりすればいい。

 ダンジョンマスターは素質があっても苦労が多いが、食いっぱぐれだけはないぞ」


「広めな公園サイズな0レベルダンジョン潰して、家一軒分の敷地は世知辛いですね。野良ダンジョン潰し楽しみです」


「ダンジョン拡張の本番は『精製』に星がついてからだな。まずは魔物を倒して魔石と経験値を集める、魔石を加工してスキルを磨きつつ金を貯める。その流れだ」


「わたしは学校に通うんですよね?」

 農家になっていいものなん?


「勉強してスキルを沢山覚えれば、飯の種が増えると思わんか?

 管理されたダンジョンも足りてないが、野良ダンジョンに潜る狩人は100倍、1000倍いくらでも欲しい。 

 人を増やすのには、衣食住が安定してなきゃならん。サリアータは米どころだが、他に旨いもんがあっていいし、建材や衣服の素材があったら職人の誘致が捗るな。

 海を開いて漁師を抱えるもよし、温泉湧かせて療養所を営むもありだ。

 これからどんなダンジョンを造りたいか考えるために学ぶといい」

 面白そうではある。

 でも、人を大勢使うの今はめんどいな。

 肩が凝るのは、暫くいいや。

 大規模農場はやっぱりやめとこ。そのうち気が変わるかもしれんけど。


「まずは小さな商売から始めてコネを作っていこうか。

 さしあたり、この桃をダンジョン青果市場に卸そうぜ」

 教官が桃の木を指す。


「そのことで質問が。わたしはもう、ダンジョンを造れますか?」

 そう聞きながら桃の実を『採取』する。

 もう『採取』スキルを使っても、こいつヒトの言うこと聞きやしないなという目で見られはしなかった。

 経験値をスキル上げに回したい、肝心要は終わったんだろう。


 『ターゲット』した桃の軸を『鋏』で切り離し『念動』で任意の場所まで運ぶ。

 意識すると『採取』は、複数のスキルが歯車のように噛み合わさって発動しているのが解る。

 前の時、使った覚えのないスキルの熟練度が、妙に高かった理由が判明してしまった。

 システムのバグじゃなかったんだなとしみじみする。


 馥郁たる薫りが、鼻を擽る。

 桃を収穫しては、教官に渡す。そのまま教官の『体内倉庫』行きだ。

 ああ野菜籠なしでの果物狩り。そのストレスフリーさよ。

 『体内倉庫』便利だ、やっぱり。


「雫石の原料のここと似た草木のダンジョンなら直ぐだ。

 学生証に精製石を吸わせてやれ。

 学生証はダンジョンの『解錠』、『施錠』、『ステータス』、『宝物庫』、『体内倉庫』5つのスキル石が嵌めてある。吸わせるのは『宝物庫』。一番上の石のだ」

 せっせと動かしていた手が止まる。


「スキル石が5つも。学生証ってお高いのでは」


「お高い。でも生来の『魔石加工』スキル持ちに投資すると、スキル石を作るようなってくれるからと、予算出しているやつは期待している」


「それなら『技術転写』自体をスキル石にすれば皆、楽になるのでは?」

 プレイヤー的にはスキル石が安くなると、攻略の幅が広がりそうで嬉しい。


「それがもっと簡単だったら、素晴らしかったな。

 魔石の『加工』は素で星の付くのが難しいスキルだ。ましてそのツリースキルの『技術転写』はコストが重い。

 前提として、術者は自分の星がついたスキルを『技術転写』することができるらしい。

 そう、スキルは充分に習熟してからじゃないと、『技術転写』が通らないんだ。だから『技術転写』に練達し、スキル石にしてしまえる手練れなんて、そうは居ない。それが問題一点目。

 二点目。生来や自力で覚えたスキルに比べて、石で覚えたスキルは質が劣る傾向にある。

 これは簡易にスキルを覚えたツケだな。

 もっともこれはスキルを使い込んでいけば改善する問題点だが、時間が掛かるのは仕方ない。ただ、余分なスキル石を抱えるとステータスのメモリが足りなくなる。

 ちなみに『念動』で消費するメモリは10。『魔石精製』は500を越えていたはずだ。

 個が生来もって産まれたスキルやメモリの保有量はバラつきがあるが、ひとつ位階を上げるごとに100程増えるのは概ね皆、同じだ。

 それを踏まえて魔石『加工』の連枝スキルを、石で揃えて行こうとするのは厳しい道だ。

 なかには、それでも必要だからと取ってくれる人もいるが、需要が高い『精製』止まりだな。…一般的には」

 趣味人は何処にでもいるもんな。


 でもそうか。スキルに星つけばメモリは圧縮されるけど、修練中のスキルでいつもギチギチだもんな。

 高レベルまで育てればなんとかなりそうだけど、少し無理をすればキャラロスト一直線だし、このゲーム。


 なまじお金を出せば、強スキルの石が買えるからなあ。

 此度の人生は魔石の『加工』する生産ロボットになりマース!って人じゃない限り、取らないかプレイヤーは。

 いや、結構いるかな?


 アスターク教官のマメ知識をふんふんと聞きながら収穫した桃は26個。山分けできるいい数だ。

 味見と称して採れたてなところを2人してかぶり付く。

 新鮮な桃特有のシャキッっとした口当たりの心地好さと、濃厚な甘味。

 んん、美味しい。

 少し寝かせて熟成させても、これはきっと楽しみな桃だ。

 柿はトロトロより硬めが好き派閥に在籍するが、桃は触ると跡がつくほど熟してもいいね派だ。


「いい、桃だな」


「ですよね。時に、教官。ダンジョンの出入口って、学生証で固定されるんですよね」


「うん?…専用のゲートを設えるまではな。

 …いや、ダンジョンマスターなら石だけでも開けると聞いたが。折角のダンジョンキー機能だから使ってくれ」


「了解です。だったら、ここでダンジョン造れば、この桃の木をお持ち帰りできるのでは?」


「よし来た掘るぞ!」


 膝を手で打ち、合点承知。

 おもむろにアスターク教官は私物のスコップを取り出した。

 そういうことになった。


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