39 ダンジョン屋台営業中
「また、メイドさんが増えてる…」
「想定より食事の売れ行きが良かったらしい。補充が来た」
オレと入れ替えでクロフリャカ嬢が、その後にヨウルがダンジョンの沸き潰しに出た。
そのヨウルが戻ってきたのが今だ。メイドさん部隊はもう3班18人の人員追加で、休憩所は本格的な陣地形成が始まっている。
仮設トイレも準備万端。
テントが幾張も立てられ、疲れた作業員さんらが食休みがてら転がっている。
「それと南国エリアが出たから、うちのが喜んだらしくって」
南国エリア取得の報告に、オルレアが人手を投入したのだ。
イッヌにチョコは厳禁だけど、犬の人はチョコレートも大好きだ。
千代子にうちの子同士仲良くしてと頼んで、畑専門のメイドさんと一緒にダンジョン内の整備をお願いしてある。
でも、なんで畑の人もメイド服なんだろ?
麦わら帽子にオーバーオールでも良くはないだろうか。
オギさんはそのスタイルだったぞ?
「ミネストローネ追加しましたー」
「針蜥蜴つくね串、生姜マシマシでーす」
「同じく針蜥蜴蒲焼き、白、たれでーす」
「魔力回復に甘いものー。
つるんと爽やか水まんじゅう。
絞りたて生ジュース。
シェイカー振ります豆ミルクセーキ。
ジェラート試験販売中でーす」
「お前ん家、何屋なの?」
ヨウルが呆れる。
「製菓担当は選抜試験中らしい。流石に全員雇うことにはならないんじゃないか……と思うが、オーブンの魔力代が無料なのは美味しいらしくて、施設だけを借りにくる人もいるみたいだ」
「魔力を汲み出すのはダンジョンの意義だからな!」
「うん、それで資格を持った人限定で、余っているキッチンスペースを貸与しているらしい。良い商品は買い取りもしていると報告されたから、種類が豊富なのはそれでだな」
ずずっとストローに口をつける。
踊り子豆のミルクセーキは、こってり濃厚だ。甘さは控えめ、そしてなめらか。
これは減った魔力が回復する。
「あーちゃんにも食べてもらいたいから、クロ、なんこずつか買いたい。一緒に食べる」
食事は大人買いするようになるよな。燃料だもん。
そうしている間にも、『ヒール』や『洗浄』を飛ばしていく。
片手を上げたり、敬礼したりで感謝の意を表してくれるので、こちらもひらひら手を振って返す。
「ご馳走さまでした。旨かったあ。よし、お待たせ。エンフィ、2週目行こうか」
昼御飯を無心で掻き込んでいたテルテル教官が両手をしっかり合わせて挨拶をする。
「少し食休みしてから行かれませんか、動きっぱなしでしょう?」
「位階高くなるとご飯食べてる限りはあまり疲れなくなるんだけど、そうね。心配してもらったの嬉しいから、ちょっと休んでこうかな」
「ああ、なんか、やたら元気な人が混じっているなーって思ったのはそれっすか」
時々、針蜥蜴の群れが集団で吹っ飛んだり、弾けたり、中々に賑々しい。
エアカーテンを張っているからここまで匂いは届かないが、あちらは酸鼻なことになっている。
「ご飯が色々食べられる休憩所があるのは、いいね。
攻略チームも楽そうだ。
この形式の出前、流行りそうだな。
素材を持って帰ろうとすると、荷物減らしてくるやつは出てくるから」
うちのメイドさんは現地素材が飽和しているの見取って、ギルド職員引っ張ってきて出張買い取り所兼ピストン輸送始めた。便利そうかつ商魂逞しい。
ヨウルなんて魔力が余っているのを良いことに『造形』でインゴット作りのバイトをしているし。
うちの子の稼ぎになるならとオレも参加してたら、エンフィとクロフリャカ嬢も興味を示したんで、ヨウルが間に合わせで作った『造形』『エンチャント』の指輪でインゴット生産が回り始めた。
『精製』持ち製作のインゴットは、ギルド職員さんがいくらでも買い取りますと鼻息荒い。
聞くと良いとこの出のダンジョンマスターはあまりこの手の余技事はしないらしい。
そりゃあ、社交や学業だけでも忙しそうなのにダンジョンマスターなら忙殺されよう。さもありなん。
「やったあ!『造形』生えたの!」
「おめでとう!」
「おめ」
「おめでとう。ますます職人チームが捗るな」
「杖ね、おじさんたちといっぱい相談してつくるのワクワクしたの。ああいうのまたやりたい」
クロフリャカ嬢、周辺のスイッチを密に踏んできてそうだ。スキルは努力している人に生えやすいから順当なところ。
「現在お昼の1時をお知らせしまーす」
タイムキーパーをしているメイドさんがベルを鳴らす。
「じゃあ、みんなで行くぞ」
ヨウルがギターを構える。この前のより一回り小振りでヨウルの体格に合わせたものだ。
「「「「サリアータに吹く風は黄金」」」」
ヨウルのギターに合わせて、巧く出だしからバフが乗った。
『チャクラ』を回すのも慣れてきたが、喉のが一番心地好い。
「「「「翻る旗を見よ。
胸に抱くは不屈の闘志。
勇士よ今は剣を取れ。
我らがあげるは勝ちどきぞ!」」」」
『声楽』『祝い歌』『弦楽』の三重奏だ。
クロフリャカも『呪い歌』持ちなので歌は得意だ。
パラパラと得物を握った彼らの上に、祝福が降り注ぐ。
「ありがとな!」
「行ってくる!」
敬礼のみの軍人さんらと、気さくに声を掛けてくる冒険者たちは颯爽と肩を並べて出ていった。
「…さっきまでトドの群れだったのになあ」
「働くおとなはかっこういいのよ。お父さんも、おうちではゴロゴロしてるもの」
「鋭気を養うのも大事だな!
さて、そろそろ私も行ってくる!」
「海に落ちるなよー」
「君も岩目に落ちて遭難しないようにな!」
2人ともアグレッシブに落ちているのな。
クラスの中で面倒見なくちゃ行けない子、ナンバー1はオレかと思いきやそうでもなさそうだ。
「教官、待ち時間で蜥蜴撃ってていいですか?」
「これからもダンジョンの沸き潰しするんだ魔力8割は残しておけよ」
「はい」
MP千を越えて魔力の回復は、明らかに早くなった。
『MP回復』が生えたお陰だ。
メイドさんが勧めてくれるのを良いことに程よく腹も満ちている。
あ、そうだ。
「『サンダー』を『エンチャント』した杖でも作って攻撃に参加するか?」
「つくるの!」
「やる!」
あらま。いいお返事。
そういやクエストにダンジョン攻略に貢献しろってあったな。
道具類で貢献するのもありだろうか。