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「少佐?」

 ピキンと少佐の長身が固まった。

 目元はフェイスガードで覆われてるが、それでも見たことない顔をしている。

 どういう感情?


「失礼。それはこれからのダンジョンウォーを踏まえ、民間冒険者の統括に少佐を置きたいということで良いでしょうか?」

 硬直している少佐の代わりに涼風少尉が尋ねてくる。


「ああ」

 そうだよ?


 幸や要を含め、オレらは政府ちゃんの一本釣りでダンジョンマスターになっている。

 温室育ちの促成栽培もいいとこだから、下っぱ時代から失敗や成功を共に重ねてきたパーティ仲間もいないわけだ。

 リアルのダンマス活動の弱点はそこにある。積極的に補強したい。


 親方日の丸現在はいいよ。なんの不自由もなく、上げ膳据え膳をされている。

 だけどそのうちダンマスも数が増える。

 そう遠くはない将来に、ダンマス関連事業は民営化されるだろってのが、要や幸たちと話し合っている推論だ。


 たった数十年のことでも、時代に求められるものが変われば制度も変わる。

 実感したのは、昭和世界のJRが国鉄で、郵便局も国営だったことだ。

 つまりゲート駅らも国鉄だ。

 【えっ。こんなの歴史じゃん……】と、ビックリしたのは、まだ記憶に新しい。


 特に昨今は制度からしてロケット文化の流入で、世界が繭の中で溶けるような羽化期にある。

 人材はどこも奪い合いだ。払底していて手が足りない。


 クリスマスイベにかこつけて人の手伝いが大好きな妖精さんをGMが、根回しが終わる前に出してきた強引さもあれ。

 ロケットバレ以降、忙しさが再加速したお役人ちゃんらのキリキリ舞を案じての行動だ。

 GMはリアルの人類にはいつも甘い。


 独立を促された時に慌てずに済むように、活動基盤になる人材を確保しておく。そんな準備をしておきたい。


 なにせオレのダンマス活動の原点は、地元の防衛にある。


 うちの近所って雨が降らなくても水が枯れなくて、地味に竜神伝説があったんだけどさ。


 その原因が手入れ必須のヤバめの地脈が下に通ってたからですってネタバレされた日には、【あー…】と、地元メンは納得したよな。心あたりある。

 どうりで庭の雑草が、冬でも元気いっぱいなわけだ。


 だからオレの母衣衆のメンバー構成も、自然とご近所さんらになる。

 お稲荷さんの祭りで、神輿を担ぐような仲間うちだ。

 オレらが漂流した時の異界撹拌で、地元も地脈高騰にヒヤリとしたから、危機感は共有している。


 そんな中で、ありがたいのは進路の決まったクラスメイトたちが実家のダンジョンに春休みを使って、ちょくちょくバイトに来てくれていることだ。

 遠く離れていても、気にしてくれてる気持ちが嬉しい。


 だけどこういった地元メンで深く野良ダンジョンに潜れるかと判断するなら、どうだろう?

 そう首を傾げざるをえないというか。


 主力になるのは、農業の合間にダンジョン通いをする近所のおっちゃんたちだ。

 都会のサラリーマンのようにジム通いなんてしてないけれど、消防にも参加してるし、力仕事慣れしてるんで頼もしい。


 でもさ、この層は毎日の仕事があるんだよ。畑から長く離れられない。

 戦国時代の戦が、農閑期にあったのは伊達じゃない。


 地元には、ヤンチャな幼馴染みの野郎どももいるけどな。

 あいつらは大学や専門学校にそれぞれ受かってる。3月中はいいとしても、入校したらそちらがまずは優先だ。


 それはわざわざ山道をえっちらおっちら越えて来てくれている、高校のクラスメイトも一緒だ。

 勉強しながら経験値を獲られる学生冒険者とか、一生もののスキルを習得する絶好の機会。

 昭和世界のオノゴロ島コンセプトそのものだ。 無駄には出来ない。


 アバターからの経験の輸入で、『計算』、『マルチタスク』、『柔軟』、『洗浄』、そういった今後の人生に役立つスキルを覚えた社会人なんてホクホクしている。

 学生をしつつ経験値を浴びて、己が伸びる恩恵を、最大に生かすチャンスは限られている。

 彼らに頼りすぎて学業を、あたら疎かにさせたくない。

 オレも『計算』を覚えてから、ずっと難しい仲だった数学とも距離を縮められた実績があるから余計に思う。


 その他の地元防衛に協力してもいいよってゆー勢力は、近所のジジババ、おっちゃん、おばさん、にーさん、ねーさんたちという百姓的アトモスフィアだ。


 この場合の百姓は百の姓。野鍛冶をしたり、鳥撃ちをしたり、機織りしたり、竹を編んだり、そんな雑多な生産グループのことを指す。

 近所の面子はどうも生産職としての色が強い。


 というか、将来の豊かな食生活のためにも、第一次産業従事者人口は減らしたらアカンやつだ。

 数年後は兎も角として今のところは、地元から冒険者を引き出すのは難しく感じる。


 ……。

 いや、だってさあ?


 ガチ冒険者を目指してくれる人もいるんだよ。うちの地元にも。


 かーさん曰く、熱心なのは篠宮ダンジョンの件で事務員として地元に帰ってきてくれてた、従姉さんたちのグループだ。

 近所のみっちゃんとか、小夜ちゃんとかの遠縁の親戚もここに入る。

 オレは一族の生まれで唯一の男だ。珍しさから仲間外れの疎外感を感じないようにと、ねーさんらには折りにふれ可愛がられていた自覚はある。

 篠宮側の男の親戚は婿さんばかりで、そーいう人は家業を継いでいる。暇な若い男が余ってない。


 女ばかりが集まっているせいか血筋の女衆は家庭的というか、手仕事が楽しいタイプが揃ってる。

 運動するのが好きなのは学生時代はテニス部だったかーさんと、現役陸上部な下の妹の万里くらいだ。

 農作業は家業だからと誰もが参加しているけど、性分としてはインドア派分類の纏まりになる。


 姉さんらはさ。オレが漂流する前の冒険者活動は、【やっぱり『洗浄』は欲しいねー。あと『美肌』】それくらいの、まんまエンジョイ勢だったのに。

 心配だ。


 迎えにいくには間に合わないかもしれないけれど、帰ってきたら今度はひとりにしないからって。

 気持ちはわかる。

 わかるよ。


 ねーさんたちとオレが反対の立場だったら、きっと同じことをしていたしさ。

 問題なのはあそこら辺、まだ、かーさんの主婦仲間の方が腕力なんかは強そうなことだ。


 いくら思い返しても、みっちゃんなんて走ってる姿すら見たことないぞ。


 【安心して。私ら魔法使いの適性ならありそうなのよね】

 って、他はメタメタってことだろ。かーさんから聞き出したから知ってる。

 安心は出来ないかな!

 無理をしているのはオレが漂流したせいだけど!

 つら。


 とーさんみたいにか弱くても持ち前の脳力で、足りてないガッツを補えるのはレアな例だ。

 身内がガチ冒険者として活動するなら、最低でも安定しているパワータイプの前衛がないと危なっかしい。

 

 夏草少佐は、烏合の衆なうちらに足りてないところにピタリと填まる。

 訓練の教導や指揮官働きが出来る上、性格は生真面目な苦労性。

 軍人キャリアでお堅いところに縁もある。

 なによりオレを避けずに居てくれる甲殻人は割りとレアだ。


 後から思うに冒険者活動の下積みってさ、ダンジョンマスターが人脈を養う大事な時期でもあったよな。

 先輩後輩、横のライン。知り合いの知り合いで繋がる、所属クランに同盟クラン。そんなコネを作りたかった。


 オレがいつも頼もしい護衛さんらを、つい、ねっとりとした目で見てしまう由縁だ。

 独立した暁には全員揃って引き抜きたい。……ダメかなあ。

 

「少佐をスタッフとして迎えたいのは、それもある。これからクエストを発布するのに、常識的なアドバイザー役が欲しいと考えていた。

 ホープランプの機微にわたしは疎い。知らずに無理難題を頼んだら困る」

 まあ、未来のことは取らぬ狸なのでおいておく。

 今は相談役として意見を聞きたい。


 ダンジョンで稼いだ家賃は、ダンジョンタワー建立にあたり、民間の冒険者を誘致するのに使いたい。信用ある窓口があるといいよな。

 ホープランプで稼いだ金は、ホープランプに還元しないと。

 貿易摩擦はノーサンキューだ。


「ならば私もお連れ下さい。事務員や税理士を一族から引っ張って参ります」


「涼風少尉がわたしのスタッフに入ってくれるのは嬉しいが、いいのか?」

 えっ、マジ?!

 本気にするよ?


「少佐は政治力がないと仰りますが、才ある者のパトロンになりたい金持ちは、叩き上げの軍人の後援になりたがります。

 年寄りの金持ちが欲しがるものは、最終的には名誉になります。

 一族の支援がない一代貴族の男なんて、彼らの大好物ですよ。

 少佐にも隙あれば支援したい者はいました。

 まあ、そのひとりは私の祖父なんですけどね。男は強い男が好きですから」

 ……えっと、馬主みたいなものかな?

 ヤツはワシが育てた系の道楽かあ。


 芸術は好みや感性の違いがあるけど、軍への支援は生活環境を守るという点で実利がある。

 そう考えると、軍人の後援は手堅い投資なのかもだ。


 日本にも昔は書生とかがいて金持ちに大学に行かせてもらったりしてたもんな。人を育てるには金が掛かる。貴族として振る舞う教養を身につけるなら尚更だ。


「祖父も少佐が軍を辞めることでダンジョンマスターのオファーがあったと知ったなら、心が安らぐことでしょう。

 あれで影響力がある人です。西方ホープランプのせいで少佐の軍歴が潰れたら、変に逆恨みしそうで気を揉んでいました。

 これだから厄介なファンは困ります」


「涼風少尉」


「はい、すみません。出しゃばりました」

 いやいや、言われなきゃ知らないんで教えてくれて助かる。


 しかし物腰が優雅で貴公子っぽいのは、いいとこのボンだったからだったんだな涼風少尉は。

 そして財界にファンがいるのか、夏草少佐。

 これは引き抜きするのは難しいかな。ライバルが強そうだ。


「……その件は、持ち帰って考えてから、返事をしてもよろしいでしょうか」

 よし、速攻で断られなかった!

 交渉はこれからが本番だな!


「無理強いはしないが、前向きに検討してくれたら嬉しい」

 雇用条件の手形もなく、切り出したのは失敗だった。挽回したい。


 落ち着こう、オレよ。ナンパをするなら紳士でなくては。

 自分勝手な欲望のままギラギラしていては、相手に引かれてしまう。


 先ずは条件の擦り合わせだな!

 きちんと根回しと相談もして、カッチリ資料を纏めてから、改めてスカウトに望もう。

 頑張るぞー!

 





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― 新着の感想 ―
>竜神伝説 竜の角生やした人がなんか言ってる 伝説更新しとるやんけ!ww
レア人材のタイムセールが始まってたら獲りに行くしかないよね。 よかったねえ流士くん(*´ω`*)
すーちゃんもしれっと自分を売り込んでるぅ。頑張って表に出さないようしてるけど脳内が大変なことになってるなぁ、これw
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