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310 魔石コレクション



「こちらの思慮が足りなかった。目は大丈夫だったろうか。

 …やはり『加工』が原因か?」


「あー。大丈夫じゃねえが、大丈夫だ。

 滅多にねえ機会だからと、好奇心に負けた俺が悪い。

 モノは情報過多による『千里眼』の暴走だ。

 なんとか途中で【切れた】から、半月ほどの不具合で済みそうだ。直に治る。

 しかし、凄えな。あれが雫石の『加工』なのか。

 さわりだけだが、至極、佳いものを見させてもらった。世の中には、知らんことがまだ多い」

 そう、ひとりごちる。宝石の瞳は万華鏡のような煌めきを残したままだ。


 老人は痩せ我慢が得意で困る。

 半月も視力低下が起きるとか一苦労だろ。失敗したな。


「実際の視力に実害が?」


「『千里眼』…『鑑定』系のスキルは暫く使わん方が無難だな。

 今はハレーションを起こしているが、明日になれば手元で本を読むくらいなら困らんだろうよ」

 1日だけなら、まあ。


 天然の雫石は地脈を吸って育つ。

 雫石の『加工』ツリーにおける『精製』は、この無尽蔵に拡張していく機能を削ぎ落とすことから始める。

 いわば『精製』は、雫石の断捨離だ。

 人の手に余る機能は潔く捨てる。

 でなければ雫石なんて危険物を、我が物顔で扱えない。

 『精製』は、『調律』に入る前の基礎工事だ。


 そうして【石に残しておけないもの】をカットしていくと、石の残存魔力が光を伴い排出される。


 雫石は滅びた世界を凝縮した一滴。


 ご隠居の目はこの魔力光を、情報として読み解いてしまったらしい。

 『鑑定』は取得している種類によって、自動でフィルター分けされる。

 だからか今までは魔力光による『鑑定』事故は起きなかった。

 ご隠居がなにを見たのか少し気になる。


 『千里眼』の性能には内心、舌を巻く。


 そういや魔力量が多い種族なのに、石人のダンマスは聞いたことがなかった。

 見えすぎてしまうのも問題だ。


「しかしお前さん。お前さんこそ、世界の欠片なんぞに直接触れて平気なのかよ?

 アレを『加工』するなんて、正気の沙汰とは到底思えん。

 ……っと、『製氷』」

 ご隠居は濡れタオルに氷を包んでまた当てる。


 平気ではないかなー。

 転生神殿のケアがなければ、寿命とかは縮んでる。


 しかし働くことにはリスクが付きものだ。

 旋盤工は危険な機械を扱うし、過酷な運動をするスポーツ選手はいつも故障と隣り合わせ。

 特にダンマスは現世最先端の職能だ。

 安全マニュアルの制作はまだまだこれから。職業病や怪我のリスクがないとは言えない。

 虎児を得るにはなんとやらだ。


「雫石の扱いに振り回されてないとは、冗談でも言えないな。

 ただ、わたしは若い男で体力がある。加えて高出力の魔力に耐えられる体質だ。

 それに助けられてはいる」

 むしろ緻密な魔力行使は苦手でござる。


 リアルでは後から『ミシン』が出たはずの妹に、星の数をダブルスコアで追い抜かれたぐらいだ。

 アレ、なんでだろう。スンってなったわ。

 聞けば品物の作成数だけなら、10倍じゃ足りないくらいこちらが多く作ってたのに。

 ……魔力量でゴリ押しするのが良くないんだろうか?


 才能ってあるよなあ。

 オレは力任せでドーン!といく、ガサツ寄りのスキルが伸びやすい。


「その繊細そうなナリで魔力無双ってえと、三つ目族かエルフだが。

 いや、その髪なら輝く髪のエルブルトか」

 エルフは、ゲーム的には知らん子ですね?


 転生神殿発生でドワーフがニョッキと生えたりしたから、そのうち出てくる新人類コンテンツだったりするんだろーか。

 神殿世界の探索も、ろくに進んじゃいなかったもんな。



 これは余談だ。

 地球では、撹拌世界の本編再開はまだ目処が付いてない。


 遅くない?と思うだろうが、再開が遅れた理由もある。


 ロケットに積み込まれていた『加工』のスキル石を使ったのは、どこの国も公務員だ。


 そんな公務員さんが【異界撹拌のあの時】に、事故にあったオレら同様、膨れ上がった地脈の鎮護に東奔西走していたわけだ。後はお察し。


 モノがダンマスたちの異界撹拌事故だ。最初のうちは国によっては隠してたんで、時間経過でご同輩の被害情報がどんどん明るみに出てきた。


 ヤベー所に派遣されたら、そりゃあそうなるだろって非難は後出しジャンケンだ。

 少なくとも異界撹拌がこれほど唐突に起きるなんて、オレは予想してなかった。きっと被害にあった他のダンマスたちも一緒だろう。


 ごっそりと一級線のダンマスが減ったことで、ゲーム塔の再建は世界的に難しい状況になっている。

 日本はというと、塔を建てるのに慣れている公務員系ダンマスの全員が無事だった。この点だけは恵まれていなくはない。


 問題は地脈だ。

 一度吹き上がり、それから下がった水位だが、以前よりも高止まりするようになってしまった。

 なので野良ダンジョン発生指数の高い国は、困ったことになっている。


 当然我らが母国も当て嵌まる。

 瀬戸大橋に野良ダンジョンが出来て一時通行禁止になったとか、たった一本しかない生活道路が封鎖され、とある村落が孤立したとかそんなので。塔造りより優先されるべき喫緊の課題の波が押し寄せてきて、政府ちゃんはアップアップだ。


 日ホプは界の海を越えた先、ようやく繋がっている遠い国だ。

 必要な情報からデータを絞ってやり取りをしている現状、気になる時事ニュースの詳細も省かれがちだ。それが歯痒い。


 ……これは離れている今だから思うけど、【これくらいなら今までの自然災害でも割とあったことだよな】と、あちこちで野良ダンジョンが湧いても通常運転で暴動の起きてない日本国民の落ち着き具合にビックリしてしまう。

 【桜島が噴火したよ】

 【おお、今日も元気だなあ(´∀`*)】

 そんなノリだ。オレの故郷が頼もしい。


 ただ要が【しんどい…】しか呟かないマンになっているのは、地元の祭りに乗り遅れてしまった感があってモヤモヤする。

 要は強く生きろ。


 オレもそーする。


 そんなわけでGMが地球で配信している現行コンテンツは、サーバー容量の都合から、ふんわか妖精郷探訪と、楽しい地獄の2本立てだ。

 惑星2つ分の撹拌世界の進捗は、地球のサーバーが完全回復してからになる。

 風呂敷を広げすぎるから、収集が付かなくて泣く羽目になるんだぞ。GM。



「ご明察。わたしが一方的に知っていて、多少の縁があるのはエルブルトだな。

 ただ生まれは地球産の純日本人だ」


「日本。それがお前さんの郷の名かよ」

 あー。

 まあ、いいか。良い機会だ。コミュっとこ。

 ご隠居の近くに腰を下ろす。


 雫石の『加工』中は無防備になる。

 現在居るのは安全地帯、主を平らげたボスエリアだ。

 ご隠居の目眩が治るまでは無理をせず、少しゆっくりしてもいいだろう。


 スキルの暴走による魔力回路の傷みは、『治癒』のテリトリーじゃないので手が出せない。

 というか石人の体自体が『治癒』の範囲外。『修復』とかのカテゴリだ。

 モノが魔力回路の傷みなら『魔力循環』で治りそうな気もするけど、オレも石人とは『魔力循環』をしたことがない。


 うん。下手に弄って悪化したら大変だ。自然治癒に任せよう。


「太陽系第三惑星・地球。

 水の惑星にひしめく数多の国々のうち、海に浮かぶ縦に細い島国がある。

 それが日本で、わたしの故郷だ。

 あなたが知らなくても無理はない。ロケット群の到着が間も無いゆえに、三千世界的には無名の地だ。

 そうだな。地脈の変異でロケットが到着する以前は魔力が極めて薄い世界だったので、電子機器や機械類が発達してきた文明でもある」


「いや、少し待て。魔力を使わず文明を起こせるもんか……?」

 ご隠居が前のめりに身を乗り出す。


 熱暴走の余韻だけじゃなく、目がギラギラしておられない?

 未知の知識にはホント、食い付きいいな。石人族。


「魔力があったら先達も随分便利だったろうな。

 当時はなかったから仕方ない。

 だから遥か遠い昔。石を割り、道具を作ることからわたしたちの文明は始まった」


「ああん?

 嘘だろ。ロケット到着は最近って言ってたよな。

 俺たち基準の最近じゃないだろうがよ?

 いや……それにしちゃあ随分と品がいいっていうか、うちのロボ男に驚きもしなかったよな、お前さん」

 ううむ。説明が悪かったか。

 ご隠居を混乱させてしまったらしい。


 石人は魔力ありきで生まれた種族だから、魔力がない環境は想像がつかなそう。


 でも原始時代なんて、どの民族も通ってくるもんじゃなかろうか。

 石人は違うの?


「遊びではなく生きるための仕事なら、なるべく楽にやりたいとは誰もが考えることだろう?

 魔法を操る術のなかったわたしたちは、代わりに道具をよく使うようになった。

 それらを昇華し、より便利になるよう内燃機関を発達させた結果が今だ。

 その過程で、豊かな森を消すような悪行もしたな」


「いいことじゃねえか。油断するとすぐ広がるだろ、森はよ」

 あっ。トレントが繁茂してるような出身だと、森が減るのは人の幸いなのか。

 地域差ぇ。


「そうでもない。自然破壊の代償に土砂災害や水涸れを招いてしまった。

 おかげでやりすぎはいけないという教訓を得た」

 海洋汚染に、二酸化炭素の排出による惑星の温暖化とかな!

 地球人類ってさ、母星に迷惑を掛けることは一通りやってきてしまったよな……。

 ごめんよカーチャン。


「森がなくなると水が枯れるのか?

 ………いや、ドングリを生やす木なんぞはよく水を蓄えるか。

 言われてみれば道理ではあるがよ。

 そうか、魔力の薄い環境だと樵を邪魔してきやがる忌々しい魔物も生まれないのか……」

 生まれないです。

 ご隠居はちょっといいなって羨ましそうにしてるが、隣の芝生は青いものだ。


「ところでだ。わたしたちが幼い頃から親しんできたお伽噺のテーマには、ロボットの友人というものがある。

 ……あなたのロボ男はわたしたちにしてみれば、いつか自らの手で作ろうと夢見た心優しいロボットの友だち。その体現でもある。

 ロボ男の体が治ったら、好きなものには群がられると思う。多少は許して欲しい」

 いや、本当に。

 ご隠居のロボ男さんは、鹿山くんとその賑やかな仲間たちが絶対好きでたまらないやつ。

 むしろ日本人でロボに全く興味ない人っているの?


 異界生まれで戦乱を生き延び、長命種に500年も仕えてきた忠義者なロボットとかロマンの塊だ。

 帰ったら鹿山くんに自慢したろ。きっと真剣に羨ましがってくれる。


「ハジメやトウヒのようなタイプではなくてか?」


「そちらもだが、ロボットも特に好かれるモチーフだな。

 特に故郷は移動の足に自動車を使うことが多く、ポップカルチャーも盛んだった。

 おかげで妖精や妖精車輌の筐体は、節操のないことになっている。

 統一感は全くない」

 めっちゃカオスってございますよ。


「足か。魔力や経験値による強化がないなら、自動車類は重宝されるだろうな。

 物理法則だけで車を作れるってあたりが、いまいち想像つかんがよ。

 しかし妖精車輌はいいよな。どこまでも遠くへ行けそうだ」

 目も少しは落ち着いたのか、ご隠居がよっこらせと立ち上がる。


 油木トレントのレア種で、ダンジョンボス。

 千年杉の魔石を手渡された。


「やる。お前さんが天土公であるならレア種の石は役立つだろ。

 それとこれもだ」

 今度は『体内倉庫』から木製の宝石箱を取り出す。


「これは?」


「今まで収集してきた魔石のコレクション。その一部だな。

 俺から【見て】面白いモンを集めたつもりだ。

 うちのポンコツとやんちゃくれの治療費として受け取ってくれ」

 渡された宝石箱が、中身を知った途端に重く感じる。


「足が出るぞ?」

 石人セレクトの魔石コレクションとか、お宝なのでは?

 収集物の年期が違う。


「んなわけあるか。お前さんの人件費だけで全く足りん。

 天土公が自分を安く売るんじゃねえよ」


 ……あのさ。

 ご隠居はダンマスに夢を見すぎだと思う。





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― 新着の感想 ―
石人:ダンマス生まれない疑惑 ホプ:ダンマス生まれない(スキル石いれた人ならいた) な、環境にいるご隠居にとってはははぁってなるのが普通なんだよねぇ で、日本のダンマスの数を踏まえたとしてもははぁって…
あああ、被害地域はダンマスすら壊滅かぁ… 日本はまだマシでも自衛隊もダンマスの護衛につくような精鋭部隊が消えてしまったわけだしな 攪拌世界は他国GMともリソースやりくりして運営してたわけだものな、やっ…
ロケット文明の三千世界水準では、御老公の感覚が正しいんでしょうね……
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