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31 お泊まり会は芝生の上で



 トト教官が【悪霊よけ】の資料を取りに行ったので、一先ずセッションのリザルトを終わらせてしまう。

 だってやることないし、教官の護衛抜きでは帰れないし。

 えげつない殺人鬼が彷徨っているのに夜間にうちの子たちを動かすのは絶対拒否なので夜が明けるまでダンジョン待機だ。

 トト教官はいいのかって?

 教官は人の範疇を越えかかってる位階にいる。足手まといでもいない限りは、ほぼ安全だ。


 エントランス2階に居ると、夜番で出勤してきたわんこたちに「なんでいるの?」と困惑顔される時間になったので、芝生エリアに移動してきた。

 一先ず退勤予定の従業員たちには事情を話して朝になってから帰るように頼んである。

 これを期に24時間営業とか辞めてほしいな。……無理かなあ。

 あの穴ぼこが埋まらないかぎりは。


「芝生ってふかふかなのねえ」

 アリアン嬢がうっとりと芝を撫でる。

 都市育ちの娘さんは、芝生に座ったことがなかったらしい。

 サリアータ、公園とかないんだもん。びっくりだわ。かろうじて広場はあるけど床は石畳だしなあ。


「ここのはダンジョン種だから特別に丈夫で柔らかいんだそうだ。普通の芝はチクチクしているぞ」


「むしるとぴーっと線になるのよ!」


「芝生をむしった経験ありか、そちも中々のワルよのう」


「ふひひ、オブギョーさまには叶いませぬなあ、なの!」


「お、サプリ読んできたな?」


「お兄ちゃん、もうクロとTRPGやるのやだって言うんだもん。楽しかったのに。

 だから今日はべんきょーしてきたのよ。あーちゃんといっしょに!」


「いや、あれは仕方ないわよ。現実と同じ兄妹プレイヤーの上、クロちゃんキャラの今際の言葉が「たすけて、おにいちゃん」とかで、彼、泣いちゃったじゃない。可哀相よ」


「しっぱいしたの。このキャラなら何て言うかなーって考えてしたけど、よくなかったの。

 そのてん、タカアキラはいいの。クロと似てないからこんどーしないの」


「いいものよね、肩で風切るムキムキプレイ。悔いはゲンゴロウに恋する乙女をさせる機会がなかったことかしら。せっかくサユリちゃんに堅物イメージをつけて貰ったのに、生かしきれなくて残念」


「そのサユリだが、シティシナリオだと活躍の場がなかったな。人間的な厚みがないのは寂しいから、今回、生産スキルを覚えられて良かった。

 学校に通いはじめて、自分のいたらなさを知って努力したのだろうな!」


「それな。あとシノブとサユリちゃんはいいとしても、うちの姫さまさ、やっぱり阿保な子しているの、演技の疑惑が濃厚じゃねえの?

 ダイスがそう言ってたじゃん。

 『ミシン』での『陣形』と、『治癒』のクリティカル」


「『ミシン』の方は教養としても『治癒』は言い訳できないわよね。きちんとお勉強したんでしょ、その成果でしょう?って聞きたくなるわ」

 おおっと飛び火。


「政治や参謀に関わる能力じゃないからセーフ。癒し系で、針仕事が趣味のお嬢さま属性に補強しただけだぞ?」

 なお、タツミは大砲のついていない戦車(進化前)ではある。…分が悪いな、話をずらそう。


「わたしはタカアキラが好きだな。ああいう男にはなれないだろうから憧れる」


「そうだな。なあ、クロちゃんやキャラのとっかえっこってありだと思う?」


「ないの。ロストするまで大切に使わせて貰うのよ」


「そっかー。シノブ、歌舞音曲揃ったし、お色気忍者としてなら運用出来そうだけどピーキーだから。

 いまんとこ魔物相手だと役に立たんし。どうやって育てようかなあ」


「ああ!見事なファンブル乱舞だったな!」


「うっさいですわよ!栗投げるぞ」

 栗はファンブル時に落ちてきて、シノブ嬢の頭に刺さったソレだ。


「やだ!思い出させないで、笑っちゃう!」


 栗が落ちてきたのなら近くに栗の木があるはずだとエンフィが言い出してキャラクターたちは栗拾いして帰ってきた。

 ちなみにその夕方殺人鬼がのこのこ現れたので、シノブ嬢がお色気の術をしている最中、でもこのシノブ嬢、今日は頭に栗が刺さったんだよなと可笑しくて仕方なかった。

 

「そういや、タカアキラとゲンゴロウって怪我してレベルダウンした設定なん?」


「姫さまたちより年上だし、よくあることらしいからそうしたけど、リュアルテは嫌だった?」

 気遣ってくれてありがとう。


「生きてるだけで丸儲けだからいいと思う。

 五体満足で、後遺症もなしはありがたい。ゲンゴロウやタカアキラもきっとそうだ」


「突然のイケメンムーブは禁止!

 同じ男として劣等感を覚えちゃうでショ!」

 なにいってんだ、こいつ。


「それを言うなら、この中で一番ガッチリしたイケメンに育ちそうなのはヨウルじゃないか?」

 こいつは手足の骨格からして、大きく育ちそうな気配がする。


「外見の話じゃないですぅ。男は中身で勝負でしょ。男のツラなんぞ興味ないわ」

 清々しいなヨウル。オレはそこまで割り切れん。

 リュアルテくん?

 いっぱい食って肉付けさせてやらんと。話はそれからだ。


「ところでさー、なんか困りごととかあったりするー?

 エンフィにはびびらされたけど、それ以外でもっと心に優しいの」


「すまない!

 私も今日気がついたんだ!

 動揺したのがすぐにバレてしまって、恥ずかしいな!」


「遺言みたいに【やることリスト】渡されたら、気がつくが?」

 嘘です。見栄を張りました。ほとんど『探索』さんが頑張りましたよ。


「ヨウルは忙しそうだったからなあ。

 やれるうちに事を片して置きたいと気が急いてしまって。

 リューはこのダンジョンが終わったら手が空くな、と」


「遺言じゃなくても、手伝うから少し待ってくれ。うちの台所ダンジョン仕様を弄って、この後追加で銭湯建てることになった。それと畑と肉と魚の現地調達のスペースの拡張」


「リュアルテどこ目指してるの?」

 それはオレも知りたい。


「土地と魔物だけ用意すれば、あとは面倒みて貰えるからつい」


「海の雫石はいるだろうか、リゾート用に!

 まだ『調律』を掛けてないから譲れるぞ!」

 また海が出たのか。なんか片寄るな?

 オレは1度もないし、ヨウルは岩山ばかり引いている気がする。


「それはエンフィのコンテスト用にとっておくといい。きっと富豪が別荘として買ってくれる」

 この世界は危険の少ない海は貴重だ。


「それ、ダンジョンとしてはどうかしら。個人のレジャー用じゃ魔力の汲み出しにはならないし」


「どうせたくさん作るから10こ20こくらいしゅーきんようの見せ札があってもいいの。

 クロはいっぱい稼いで冒険者のお兄ちゃんたちにかきんする。

 そしたらお兄ちゃんたちはダンジョンに安全にもぐって、ガッポガッポ稼いでくれるの。そしたら村に牛を増やせるし、クロはチーズを食べられるの」

 クロフリャカ嬢の野望は、風が吹けば桶屋が儲かるより短めのルート編成だ。

 チーズか、いいな。

 乳製品、高いのもそうだけど品も少ないんだよ。


「そう言えば困りごとじゃないんだが、水玉っているだろう?

 スライム系家畜種の、それ」

 芝の上で転がっている大きい水風船もどきを指す。

 白玉じゃないんだ、水玉だ。


「ああ、道を掃除したり、生ゴミ処理してくれるやつだろ?」

 そうスライムはゴミ掃除をしてくれる。この常識もミームだな。


「街中だと魔力濃度が低いから、あまり分裂してくれないんだけど、ダンジョンでは自然と増えるらしいから最初に造った桃の木ダンジョンに放流していたんだ。だけど何故か増えなくて。エサは雀の可食部以外をたっぷり与えていたからなんでだろうと不思議だったんだが。

 今朝、目撃してしまったんだ。

 うちの桃の木が水玉を捕まえてオヤツ代わりにチューっとしてたのを。

 わたしはいつの間にか吸血種の桃の木をテイムしてた事実におののけばいいのか、立派になってと感動すればいいのかわからなくなった」

 目も鼻も口もないのに、「あっ、見つかった、やべっ」と桃の木が考えているのがわかってしまってシュールだった。


「…テイムが生えたのか?」


「生えていた。契約も結んでいた」

 流石に野良の吸血系魔物は討伐対象だ。残念なことにならなくてよかった。


「………えー。それなら問題はないのかしら?

 ダンジョンマスターが魔物をテイムするのは普通よね?

 あっ。魔物化したら桃の値段上がっちゃう!?」


「桃のアイスおいしかったのに!」


「いや、あれは買えるとラッキーな目玉商品のつもりだから、値段は変えるつもりはないぞ。

 ただ、水玉を増産して植物用栄養剤を製造する計画がぽしゃっただけで。

 水玉が増えれば増えただけ、吸ってしまうんだあいつ。

 雫石の母体になってただけあって頑丈で、栄養過多で病気にならないからいいものの」


「そうそう、そんな話!

 別に困ったことじゃなくてもいいけどさ、これだけダンジョンマスターの卵がいるんだからあるあるな話とか、面白かった話とか共有しときたいじゃん。

 今後の心構え的にも!」


「そうねえ、私たちはひたすら『精製』と『エンチャント』祭りだったから。

 ようやく『調律』までいったダンジョンも、いくら古代王朝のものでも廃墟だったし、沢山あるのは罠くらいだったわ」


「なにそれ超面白そう詳しく」

 ダンジョンは明るいがもう真夜中だ。だれてそれぞれ寝っ転がりかけてた男子らがガバリと起きる。

 ダンジョンといえば考古学。

 危険な罠に、潜む陰謀。

 地底に眠るは煌めく財宝。

 これは寝ている場合じゃない。


「そうねえ、まず壁画の様式だけど……」

 アリアン嬢の冒険をわくわくして聞く。芝の上での夜長話は心踊るものだった。

 

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