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29 コロリで御座る




「君が代、こんなメロディーだったのか。

 リュアルテ、お前さん音楽関連のスキルもっていたか?」

 喉の『チャクラ』が仕事したのか、巧く歌えた。ボーイソプラノもいいもんだ。


「いいえ?……あっ、嘘つきました。『声楽』生えてます」

 念のため確認したステータスには『声楽』がしれっと追加されている。

 へー…。設定しとけば自分の好きな歌でもスキル発動するのか。

 功績ポイントでカラオケセットあったけど、なるほどなあ。

 とりあえずは誰もが歌える曲を無課金でセットしておくから、あとはお好きにしちゃってね。推しの楽曲に課金してもいいのよ?そんなとこか。

 


「おお、おめ」

「おめでとう!」

「おめでとうなの」

「おめでとう。上手だったものねえ」


「今、生えたって、ああ、そうか。レベリングしたからな。スキルも増えやすい状態か」


「ついでだし、この中で他にも歌ってみたい子いるかしら」

 教官がTRPGをお勧めするのって、こういうところなんだろうな。

 普段あまりやらない行動を取らせることでスキルのスイッチを踏ませたいんだろう。


「はい、2匹目のドジョウ、行きます!」

 エンフィが先陣切って手を挙げる。


「歌は自信ないなー。ギターなら、なんとか?」


「私はパスです。歌は聞く専門でいいわ」


「クロは虫コロリの歌なら歌えるよ!」




 結果発表。

 不参加だった自覚のある剛田家長男なアリアン嬢を除いて、エンフィは『祝い歌』、クロフリャカ嬢は『呪い歌』、ヨウルは『呪い歌』『弦楽』を取れた。

 『弦楽』は『声楽』の弦楽器版だ。


 現地民のクロフリャカ嬢に教えて貰った『呪い歌』は、虫をコロコロしちゃうポップでキュートな呪曲だった。

 【コロリで御座るコロリで御座る。たまごの時点で皆殺し】とか、物騒で御座るよ。

 クロフリャカ嬢、農村の出だったっけ。害虫に殺意高いところが親近感湧く。

 それにしてもヨウル。こいつ一回虫コロリの歌を聞いただけで耳コピしたよ。凄え。

 日本人なら誰でも歌える君が代で日和ったオレとエンフィとは格が違う。


「大収穫だな」


「ヨウくんは多芸なのね。ビックリしちゃった」

 教官たちはホクホクしている。

 ルールブックを読む限り、使い勝手が良さそうなスキルだからスキル石の需要があるんだろうな。

 オレも毎朝一回は歌っとこうっと。

 習熟したら次にツリーに生える『技術補助』の『祝い歌』とか生産が捗りそうだ。


「オレは熊教官の『体内倉庫』からお高そうなギターが出てきてビビったわ。

 無造作に仕舞い込んでいいものじゃないでしょ、これ。おねがいだから大事にしてくれる人に譲るなりなんなりして下さいよ」


「ヨウルが使うか?」

 アスターク教官が差し出そうとするのを、ヨウルは大きくバッテンで拒否する。


「いーりーまーせーんー!

 そんな楽器、常用するなんて胃痛でハゲますぅ!

 楽器を買うとしたら自分のお金で腕相応のを選びたいんで!

 それにしても声楽系スキルって割りと簡単にとれるんすか?」


「まさか。5年はかかるんじゃないか」

 あー。

 

「英雄症の人は割りと多いかしらね。そう言えば」

 つまり学校教育の勝利なわけだな。

 

「脱線しちまったが、続き行くぞ。

 スキル獲得祝いに大盤振る舞いだ。

 シノブは『弦楽』をもっていたことにしていい。

 ゲンゴロウ以外は12ポイントそれぞれの『声楽』、『祝い歌』、『呪い歌』につけておく。残りのポイントは自力のダイスで頑張れ。

 ダンジョンでのレベリングは煩雑さを避けるために、講座と同じく20点加算でレベルアップだ。20×5=100ポイントで、全員一括計算にする。

 クリティカルは24ポイント。ファンブルは0ポイント。さっきまでと一緒だな」


「お嬢さまたちは学園で2回、従者勢は訓練所で2回個人ダイスを振って、ダンジョンで合流で各々1回ね。

 独自での行動は訓練ダイスを消費するのはおんなじよ」


「教官、私、個人ダイスを消費するとしても、どうやって情報を集めていいかわからないのですが」

 おずおずとアリアン嬢が小さく手を挙げる。


「初心者ならそんなもんだ。…お嬢さま勢は好き勝手やってるが、ここまで暴れなくてもいい。

 話をショートカットされたり、イベント潰されたりして心で泣いているGMの為にも頼む」


「…そんなこと、あったか?」


「あれっしょ。虫よけスプレーにかこつけて、カオルコちゃんやらお嬢さまがたに注意喚起してまわったじゃん。

 あの中に被害者候補いたんじゃね?

 犯人、気が多いわりに長時間ストーカーしてからことを起こすタイプっぽいし。

 まだ、どこのだれかなんて想像もつかないけど」


「それらしい人は【懸想文売り】しかいないよな?」


「気配はあちこちでちらちらしているのにね。高等遊民層ってどこでなにをしているものなのかしら。

 犯人はじとってしているというか、遊び回っているって感じでもないし」


「適当な食い縁与えられて放置なら、時間はありそうだ。

 そうでもなければ、何人も並列して探偵みたいに人をつけ回すとか………探偵?」

 はた、とする。

 クトゥルフでも散々世話をした(妹の)探偵さんがいたじゃないか!


「探偵を雇ったか?」


「えーでも、犯罪に荷担したって気付いたら通報しねえの?」


「そうよね。でも共犯扱いとして脅迫されて、抜け出せないとかあったりしないかしら?」


「今度、つけられたって感じたら、囲って情報絞ってみる?」


「ストーカーは刺激したら、危ないらしい!

 シノブ嬢の防御を固めてからにしないか?」

 それはエンフィ、是非ともやろうぜ!ってことだよな?


「お前さんらその石橋叩いて渡るスタイル、ゲームだけで終わらせてくれるなよ」

 そうね。思春期の暴走とかで家出とかしたら大騒ぎにはなりそうね。


「ねー。あーちゃん、どういうこと?」


「都会での1人歩きは危ないからやめましょうってことよ。

 お互い気を付けましょうね?」


「はぁい」


「よーし、続きいくぞ。

 まずは従者組の訓練所からだな」





 6日目昼、ギルドの訓練所にて。



「おう、ゲンゴそっちの具合はどうだい?」

 姫さまたちを学園に送り届けたら自由行動だ。

 それぞれ学問や武芸を磨き、その技術を故郷に持ち帰るべく上役に訓示を頂いている。手分けして色々挑戦してみるが、そう巧くはいかないものだ。


「怪我の前ほどには動けんな」


「レベルダウンはお互いさまだ、仕方ねえ。それにしても『舞踏』ねえ、姫さんやお嬢さんたちならともかくお前がんなもん習うたぁな」


「面を被れば厳つい顔は見えん。それに『舞踏』は『武道』に通じると聞く。

 『柔軟』だけでも取りたいものだ」


「へえ!そいつはいいな。関節が柔らかだと怪我しねえって、『拳術』のお師匠が言ってたぜ!」


「貴様の『瞬歩』は進捗どうだ?」


「海のものとも山のものともって状態は抜けたな。まだ、もそっと時間を見てくれ。

 (探索+4、1)…おい、ゲンゴ。あいつ、よくねえんじゃねえか?

 ちと、声をかけてくるわ」


「また、貴様そんなお節介を…!」

 相棒の制止の声にも頓着せず、タカアキラは歩を進めた。


 訓練場の端っこで、泣きながら木刀を振るう(2.1奇数)少年がいる。

 傍目にも剣の筋も出鱈目で、まるでなっちゃあいやしなかった。

 よろよろと剣を振るう姿は不恰好で、だが一所懸命だ。


「よう、お疲れさん!

 剣を振るうなら人に教わったほうが上達するぜ!」


「だって!

 先生が剣はやめて医者になれって!

 『ヒール』や『治癒』なんて、仇討ちには役に立たないっ…!」

 タカアキラが声を掛けたことで抱えていた感情が爆発してしまったのだろう。

 少年は顔を真っ赤にして、大粒の涙をボロボロと溢した。

 額の広い賢そうな少年だったが、鼻水を垂らして、顔はもうぐしゃぐしゃである。


「お医者先生に剣術たあ、鬼に金棒だな。

 遠回りだが、悪くねえ。

 ただ、仇討ちたあ、穏やかじゃねえな。

 お前さんの先生さんは、そこらを心配してんじゃねえのかね。

 ほれ、顔を拭いて、水を取れ。

 『治癒』や『ヒール』があるなら自分にかけろ。手豆が潰れてひでえことになってるじゃねえか。

 なに、年上の言うことは聞くもんだ。ひとまずベンチに座って休憩だ」

 タカアキラが、少年をベンチに座らせたので、周りの空気が弛緩する。

 近くの冒険者たちも少年の無茶を、いつ止めようか頃合いを図っていたらしかった。



「なに!するってえと、お前さんの友人が例の殺人鬼の被害者だっていうわけかい?!」

 タカアキラは少年の話を熱心に聞いていたが、ややあってすっとんきょうな声を上げた。

 その場の誰かが息を飲んだ。視線が集まる。



「お前さん、幾つだ?

 なに14。だからダンジョンにも潜れないから地力をあげたい。なるほどねえ。

 友達はストーカーを気持ち悪がっていたのに、ろくに心配してやれなかったって、そりゃあ心残りだなあ。

 自分が憎くてしかたねえよな。

 だが、勘違いはいけねえ。

 悪いのは殺人鬼だ。お前さんじゃねえ。

 なあ、てめえらもそう思うだろ?!」

 タカアキラのどらまき声になんだなんだと集まってきた聴衆が、それぞれの顔で頷いた。


「14なんて子供じゃねえか。まだこれからだってのによう(2、2)」

「ひでえことをする奴が世の中にいるもんだ(2、1)」

「あいつ、まだ捕まってないのかよ(2、3)」

「官憲はなにしてやがんだ(1、2)」

「いや、大勢で捜査してたぜ。この前うちに聞き込みにきてよう。なにも知らんで悔しかったなあ。橋鬼め、うちの近所でふてえことしやがって(3、5)」

「雨の日にホトケさんを置きにくるのが嫌らしいよな(4、5)。証拠もみんな流れちまう」

「手掛かりのひとつもあれば、また違うんだろうが(6、6クリティカル!)」


「あ!あります!

 て、手紙が!あいつ持って帰るのも嫌だって、次の焼却炉の日まで、置いておくって図書室に!」


「よし、今から取りに行くぞ。ブギョウショまで、付き添ってやるから心配するな!

 このタカアキラさまに任せておけってんだ!」





「またこいつは勝手ばかりと内心空を仰ぎつつ、ゲンゴロウもついていきます。

 教員の方にご挨拶と、説明はゲンゴロウがして、担任の先生にも一緒についてきて貰えるように頼みます」


「手紙はどうする?」


「その場では見ないで、急いでお上に駆け込みます。

 お役人さんと一緒に読ませて貰います」


「タカアキラは少年とその先生の側で2人を励ましています!」


「まあ、お察しの通りゲンゴロウは見覚えがあるな。

 内容といい、手跡といいそっくりだ」


「ここで黙っておくのも不自然なので、驚き仰天しつつも、お役人に家人が似たような手紙を受け取ったこと、その手紙をとってあること、懸想文売りのこと、シノブの美貌を話します。もちろん少年とその先生には聞こえないよう場所をかえて」


「ふむ。お役人を連れて家に戻るでいいか?」


「ストーカーに見張られている可能性を話し、刺激しないよう私服警官を頼みます。

 それと姫さまたちをお迎えもしたいので、ついてきて貰えるか聞きます」


「そこでお嬢さま学校の名前を出すのか(ダイスコロコロ)。おう、喜べ。お前さんの犯人疑惑が少し減ったぞ」


「……ええ、覚悟の上なので」


「えーなんでー!」


「数少ない目撃者。手元にある証拠品。疑われない筈がないわよね?」


「まあ、お巡りさんの仕事だからな」


「合流した学園前だと人目があるので、家に入るまではお役人だと秘密にして貰ってもいいでしょうか!」

 そこでエンフィが口を挟む。


「わかった。家についたな(ダイス音)」


「では、家人にずっとハブられていたタツミ姫は女の武器を引き抜きます。

 プンプンするのを通り越して悲しくなってしまったのでしょう。

 真珠の涙を溢します。

「まだエドについたばかりのタカアキラさまやゲンゴロウさまでさえ知っていたのに、シノブさまが怪しい人物につけ狙われて恐ろしい思いをしていたなんて、わたくし、つゆとも気付けなかった…」そう、ホロリとします。

 ダイス的にも全く気がつけなかったのはタツミのみでしたし」


「お姫さま泣かすなよ、卑怯だぞ!

 シノブはおろおろするしかないじゃん!」

 いや、ヨウル。肝はそこじゃないんだ。


「サユリはタツミ姫をよしよししつつ「ゴロウお兄さま…?」と、よくも泣かせてくれたなと、圧をかける素振りで兄を尻に敷く妹アピールをします!」


「「申し訳ありません。先ほどまで、ただの気持ち悪い手紙だとしか思っておらず」ゲンゴロウはそう、姫と妹の援護に乗っかります。「手紙が続くようなら相談しようと残しておいて正解でした」と、続けます」


「「そちらの方々はエドの出ではないのですね」お役人に確認されるぞ」


「「はい。先日、わたくしの故郷から来ていただいたのですわ。

 学園の寮に火が回りまして、急遽、住まいを構えることになったのですが、女ばかりは無用心だと故郷の父が心配しましたの。

 でも、まさかこんなことがあるなんて。タカアキラさまと、ゲンゴロウさまが居てくださって、本当に良かったですわ」

 タツミは人前で泣いてしまった恥ずかしさに耐えて答えます」


「ちっ。心情的に犯人候補から外れたな。お陰で事情聴取も和やかに済んで、家も密かに見回りされることになった。

 ある意味シナリオクリアだな。

 お前さんら7、8番目の被害者を速攻で保護しよってからに」


「ええぇ?」


「元々手紙を2通揃えたらクリアの短いシナリオなのよ。シティシナリオになれてもらうのが目的のね?」


「そうだな(ダイス音)。では、Xディになったら襲撃を受ける。

 それまで自由に授業を受けてくれていい。これを機会に勉学に励んでくれ。

 ぶっちゃけると、7、8番目の被害者襲撃の際、立ち会い追跡するルートが潰されたんで、もう待ち受けルートしか残ってない。やる気満々のお役人もついているんで確定勝利Sだ」

 GMは断言するけど、嫌な予感がするのはなんでだろうな。



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