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289 脱獄したのはいいものの



 ってなことで。脱獄だ。

 まあ、オール妖精さん頼りなんだけどな!


 手先を使う仕事はスキル頼りの不器用で、長くじっとしていることが出来ないオレである。

 忍者やスパイ、探偵などの目から鼻に抜ける勘働きや、その心得は全くない。


 餅は餅屋。脱獄は逃げ隠れのプロフェッショナルにお任せだ。

 無言でわたわた慌てた妖精さんらに手を引かれて小異界へ、彼らの庭に雲隠れする。


 現在の状況を斯々然々説明し終えて、ひと息ついて。


「あいつら多分、オレがまだまだ元気そうだから心を折るのに牢獄で放置してみようとしてるんじゃないかと思うわけだよ」

 答え合わせはどーよ?


「んー。そうですねー。只今『録画』を精査していますが、似たようなことは上役を諌めた部下の人が婉曲な表現で仰ってますねー」

 尋ねたトウヒさんはオレの『録画』媒体を、ぎゅんぎゅん高速閲覧している。

 解析した情報は即時GMとハジメさんにデータリンクする有能さだ。


 いつも家周りを居心地良く調えてくれるおっとり癒し系執事妖精なトウヒさんだったがその実、妖精研のライトスタッフが丹精したプロトタイプだ。

 高性能なのは折り紙つき。マルチタスクもお手のものだ。


 人には不可能なタスクを高速でこなしている頼もしい姿を見るにつけ、そういや人外だったなと思い出す。


「それと、甲殻人基準で配合した睡眠薬成分がマスターには効きすぎていたようで彼らも慌てたみたいですよー。

 マスターが目当ての者に合致するか、捕虜を都入りさせる前に、名前や身分といったある程度の情報を吐かせる段取りがあったようですー。

 それをすっ飛ばしてしまったようでー。

 彼らは古語から変化した方言か、スラングを混ぜて喋っていますので大まかな推察になりますけどー。

 この辺はもう少し精査してから、取り急ぎ翻訳機の更新をしときますねー。

 如何せんデータ不足ですので表記揺れはご容赦をー」

 こてんとトウヒさんが首を傾げる。


 方言……博多弁とか東北なまりみたいなものかな?

 同じ島国でもハードなご当地言葉は、わからなかったりするもんな。

 上機嫌にほろ酔いした小松さんの土佐弁とか。


 甲殻人の生声は、オレの耳には相変わらず言語として聞き取れていない。語調の強さから、怒っているな、興奮してるなと察するくらいだ。

 だけどロケット基準の妖精さんは、特殊声帯もカバーしているマルチリンガルだ。

 GMが主宰している翻訳事業は戦国ホープランプを生き延びた妖精さんらも協賛しているので、うちのトウヒさんもその恩恵を受けている。

 こうして誤訳覚悟でファジーに憶測を出してくれるのは、収集してきたデータ群のおかげだ。助かる。


「マスターの推察もあながち間違いではないようですー。

 彼らの弁によると甲殻人の皆さんは食事を抜くと弱りますので、正式な尋問するのは絶食3日目からがセオリーだそうですー」

 へー。…嫌なこと聞いた。

 人の邪智よ。

 それだとあの牢屋の底冷えも、カロリーを消費させようぜって地味な嫌がらせの一環かもな。


 オレが転がり込んだのはハジメさんの小異界INトウヒさんの小異界で、マトリョーシカ構造だ。


 ちなみにこのトウヒさんの庭には先客で、GM初号基も鎮座していたりする。


 思わぬ出来事に、はわわとなっていたGMだったが今は、トウヒさんから直で渡されるデータ群に言語解析を頑張ってくれている。


 やってしまったな。

 初号基の格納は、他のGMのバックアップ対策だった。

 妖精さんは妖精ネットワークで情報をあつめて、自己判断で動く。

 そして逃げ隠れも得意なので妖精さんに母基を預けておくのが一番安全との判断で、皆の了解も得られていた。

 それが裏目に出るとか、踏んだり蹴ったりだ。


 貴重なマザーマシンごと誘拐されて皆ゴメンなー!

 だって身幅の巨大なマザーなんて、長い管理AI生において落雷や空飛ぶ魔物の襲撃でデータの一部を損傷してしまったことがあるって言うからー!


 通信網の関係でマザーの社は、地上に設置してある。

 基本のGMが塔の上の住人だったのと理由は一緒だ。


 恐ろしい。自然災害ってなにが起きるかわからんね。

 くわばらくわばら。


 そう思ってたんで人災のアレソレを見過ごしてた。不覚!


 ちな。オレが牢屋から退避して、真っ先に済ませたのはトイレである。

 自然にお呼ばれしたが、尊厳は守られましてよ?

 次にシャワーだ。やー、寒かった!


 あって良かった『内臓強化』。及び『骨格強化』あるいは『堅牢』。


 鉄の輪のような甲殻に胴部を囲われて、シェイクされながら運ばれたものだから服を脱いだら肌の至る所がアザで気持ち悪いことになってた。胴回り。枷を嵌められていた手首周りは特に。

 これで足腰が生まれたてのバンビにならず血尿も出ないとか、スキルやレベルって凄いよな。


 HPは打撲や肌を裂くような衝撃からはきちんと守ってくれていた。

 しかしじわじわと締められたら、そりゃあ体内に血が流れている以上、内出血が起こるわな。


 今は予備の翻訳機をつけてハジメさんのライブ配信を見ながら、温かいうどんを啜っている最中だ。


 ああ、絶食後の鰹出汁が旨い。青菜トッピングに揚げ玉がサイコー。

 寝て運ばれただけでも腹は減る。



 オレとトウヒさんを収納したハジメさんはというと、脱走のためのスニーク中だ。


 なんていうか、ライブ動画のハジメさんがとてもプロい。


 ハジメさんは徐に、ネジ留めの通風口を音もなく外した。

 そこから逃げるかと思いきや。『洗浄』を掛けて埃を払い、オレが逃げたアリバイを作る。

 そして迷うことなく配膳口の隙間からムニリ、ニュルリと這い出す手際の良さを見せていた。


 猫は頭の大きさの隙間があれば狭い穴でも通れるが、縫いぐるみタイプのハジメさんはその上位互換だ。

 フカフカボディは潰れて戻る。コアやその保護材も【柔らかい石】、及び【柔らか生体金属】で作られているのでプニプニだ。

 そして他の牢屋を一通り見て回り、見知った捕虜がいないことを入念にチェックしていく抜かりのなさよ。頼りになる…!


 妖精さんはみんな可愛いけど、やはり敬称をつけて敬うべきだな。流石は集合知に定評のある妖精さんだ。

 信じて送り出した甲斐がある。


 【ホプさん含めてお仲間は、誰も捕まってないみたいもし】

 【脱出するもし】


 ライブのハジメさんは無言だが、律儀にテロップを出してくる。


「了解。頼む」

 トウヒさんに伝えると、ハジメさんにも繋がる妖精通信だ。


 【任せるもし!】


 さあ、いざ行かん。

 陰鬱な牢獄から明るい外の世界へと、すたこらさっさ脱走だ。


『おい、見たか?』

『見たぞ。年が経つのは早いな。あんなに小さかったお子がもう大人だ』

『ハァ、めでたいことなのに喜べん。クソどもが。悪知恵ばかりつけやがって』

『よせよ。どこに耳があるかわからんぞ』


 哨戒している歩哨たちとすれ違わなくてはいけないドキドキタイミングもあったが、彼らは足元を浮遊するハジメさんに気づかず仕舞いに終わる。


「ハジメさん、やるな」


「『フェアリーマジック』発動中ゆえー。

 緊急時の特殊スキルですから、簡単に捕えられては困りますー」

 トウヒさんはえへんと胸を張る。


 『フェアリーマジック』はストーカーや家庭内暴力といったトラブルから被害者を隔離逃亡させるための妖精さん専用スキルだ。

 効果としてはこの通り。警備の手をもすり抜ける。

 雫石を内蔵している妖精さんは大抵搭載されているんですってよ?


 妖精さん、マジ妖精さん。


 ネットで公開されている情報なんかは喜んで宝探しに行くけれど、秘匿している情報は家主の許可がでない限りは漁ったりしないのが妖精さん的マナー術だ。

 逆張りすれば、そーゆーこともやれてしまうということでもある。


 彼らが筋金入りのお人好しじゃなかったら、悪いことにすぐ使われて迫害一直線になるスキル群を持ってる。ヤバいわー。


「普段はロックされていて使えないスキルだったっけか。使わせて悪い」

 抜かせてはならぬ、伝家の宝刀を抜かせてしまった。


「非常時ゆえにお気になさらずー。

 姿隠しはただ礼儀の問題ですゆえー。

 ちんまいのが我らがモットー。悪気ない歩行者さんが見えない我らに、【なんかいる!】と驚いたり、うっかり躓いたら困りますものねー」

 おっと、スネコスリやヌリカベかな?

 名誉二等兵たちの新規アバターは、ネタで選んできた気がしてきたぞ。


「だけど甲殻人相手にこう上手く出し抜けたのは、少し意外だったかも。

 なんであいつら自前のセンサー類を使わなかったんだろう?」

 ハジメさんは物音を立てず姿を隠していたとはいえ、甲殻人は五感にプラスして『ピット』や『エコー』といった種族特有スキルを持っている。


 妖精さんの縫いぐるみボディに体温はなく、周囲環境と同化するから熱源察知の『ピット』は引っ掛からないにしても、反響探査の『エコー』なんかは心配だった。


 見えないのに【そこにある】のは、とてもじゃないが不審物だ。もしくはホラー。

 感知されたタイミングで筐体を小異界に引っ込めれば、捕まることはないにしてもだ。なんだなんだと騒がれはしそう。


「そうですねー。すれ違った時にセンサーを全載せで使われていたら、不味かったかもしれませんねー。

 ですが集中している時間の限られる人間さんが感覚系のスキルを常に使い続けるのは、案外難しいものですよー。

 頭が痛くなってしまいますー。

 視覚、聴覚が【異常なし】と訴える以上、意識のすり抜けはやむなしかとー」

 なるほどなあ。

 便利なスキルを沢山持ち込んでいる、GMが地球の科学に【なんたるチート!】と慄いていたのってそんなところなのかも。


 そもそも電子機器と妖精さんらAIたちは相性が良い。

 マニュアルを覚えれば、誰でも使えるのが機械の強みだ。

 長時間、単調な監視ともなるとムラっ気がある人よりも、地道な作業が得意で飽きることのないAIに軍配が上がるのは当然だ。



 モニターの中。

 ドローンカメラ状態のハジメさんはビルの上をたったか、ぴょーんと走っている。

 カメラのブレもなく軽快な走りだ。

 快活な猫の視界のようで見ていると楽しい。


 猫の通り道よろしく足場にしているビル屋上群は、採光を考えてか高さを画一化されているので走りやすそうだ。

 一見、屋上フェンスの外側をコーナー取りなんかしているので危険走行をしているようだが、ハジメさんは『念動』で浮かんでいる。いつ落ちるか、そんな心配の危なげはない。


 悔しいことに、よい眺めだ。


 建物屋上は空中庭園になっている。地下にあるのに緑が多い。

 どころか遠くを望めば杜もある。


 そんな場合じゃないのに、つい感嘆してしまう。

 山中都市は綺麗な街だ。



 まるで巨大な生き物の卵を横倒しにして中に街を造っているのかのようだ。


 高い天井は幾何学模様が描かれており、その部分がどういう仕組みなのか発光していた。地中にあるというのに圧迫感は感じない。

 百万都市という言葉が頭を過る。


 都市は碁盤の目のように規則正しく整備されていた。

 サイズと色調を揃えた、ビルディング群はいずれも青と白のタイルで装飾されており統一された美観を醸す。


 断じて一介のマフィアの根城程度の規模じゃなかった。

 現代の平家の隠れ里か、はたまた梁山泊か。

 ホープランプの現行体制の外に暮らしている人がこんなにも。

 


 参ったな。

 サイドテーブルに鉢を起き、ソファーに背をだらんと凭れる。


 壁を乗り越えて逃げるとは、いかないわけか。

 牢獄脱出はチョロかったが、出られる扉を探すのは難しいかも知れない。


 モニターの中のハジメさんは足を止め、門の観察に入っている。

 道や区画が整備されていたおかげで、朱雀門よろしく目立つ正門にたどり着くのは容易かった。


『異常なし!』

『異常なし!』

『5名外出、開門!』

『開門!』


 ドーム状の正門は、出入りの管理が厳しかった。

 大門は閉ざされ、横の小さな門から出入りしている。

 人が通る度に開けて閉められる扉は、遠くから観察するだけで二重のものになっている。

 ネズミ一匹通さない構えの物々しさだ。動く縫いぐるみを通してくれるとは思えない。


「都市の大きさに比べると、出入りする人の数は少ないよな。凄く」

 大門が開いていたならどさくさに紛れて通り抜けられたかもしれない。しかし現状だと難しそうだ。


「都市だけで産業が循環しているんでしょうねー。

 先史ホープランプ型の都市構造ですー。

 杜の敷地が広く取られ、青のタイルを好むのもこの時代の特徴ですねー」

 

「あー。甲殻人は色盲か色弱タイプが多いから」

 色弱でも青は見えるって人も多いって聞いた。


「ですです。現代人より昔の彼らの方が色盲率は高かったそうですよー。

 レベル強化の恩恵で代を重ねるごとに色盲率は減っていっているそうですからー」

 トウヒさんは杜が多いって言うが、画像で見切れる建物だけでも相当数だ。

 住む人口も数百、数千の位には収まりきれないだろう。


 隠居した老後は森に暮らす趣味人も居るとは聞いているが、そういったレベルじゃない。


 ここまでくると別の都市国家だ。

 西ホープランプと呼ぶべきだろうか?


 違和感があるのは、山中都市の甲殻人は大人でも大きな荷物を背負って街を歩いていることだ。

 『体内倉庫』持ちの彼らはいつも身軽な印象だ。そうしていないということは。


 ああ、そうか。山中都市には彼らの成人を喜び、スキルを贈ってくれるマザーがいないのか。


「施設を出たので足掻きましたが、外と通信が繋がりませんねー。困りましたー。

 どうやら都市の壁や天井が特殊な素材のようですー。

 機会があれば少し削って成分分析をしたいところですねー」

 トウヒさんは平常運転だ。そのことにホッとする。

 オレは息を止めて、山中都市を凝視していたようだ。


 ここは、そうだな。

 生きていて偉い自分へのご褒美に、上の妹が焼いたマドレーヌを解禁する。


 菓子紙を剥いて、ガブっといく。

 焼けたバターの風味が立つ。

 どっしりとしたスポンジは、気泡が大きい。

 いつもの味を噛み締める。とても旨い。家庭の味だ。


 調子に乗って2つ目に手が延びそうになるが、それは我慢だ。食べたらなくなる。


「コーヒー、飲みますー?」


「いる。甘いのな」


「お疲れですねー。チョコとホイップもお入れましょー」

 ずずずと、カフェインを補給したら落ち着いた。プラシボは効きやすい性質だ。


 しかし妖精さんが居ると知らなくても、ダンマスを監禁するならスキル封印が最低条件だよな?

 これだけの国家なら野良ダンジョンガチャの排出で、封印具のひとつやふたつはあるだろう。


 雫石の予備を持たないダンマスはいないし、素材があれば逃げ込める箱庭には困らない。

 ……あいつら、なにがしたかったんだ。


 意図がサッパリ見えてこない。


 悪いのは誘拐犯だけで、赤甲殻のぼっちゃん的には問題を持ち込まれた立場。オレは得体のしれない厄介者対策に隔離されていた可能性がミリ残る。

 なんてことも一瞬考えてみたが、即却下だ。


 どこの中世です?って牢屋に突っ込まれて、こけ脅しをされてそれはないない。


「なんか誘拐犯たち、やってることがチグハグで気持ち悪くないか?

 やることなすこと杜撰というか、情報伝達されてない感じで」

 禁制の品まで使ったんだ。

 イリーガルが大国に喧嘩を売る博打をするなら、それ相応のリターンを求めたいものじゃねえの?


 ダンマスは金のなる木だし、近くに氾濫しているダンジョンがあるなら、一か八かで誘拐のひとつもしたくなるだろう。それはわかる。


「オレになにかをさせるために、誘拐なんてしたんだろ?

 ダンマス狙いだよな?

 その割には監視が温かったのがモヤっとする」

 手錠足枷はつけられていたが、『錬金』でサクっと外れた程度のものだ。

 壁に魔封じするくらいなら、手錠にもつけるもんじゃないのか。

 ううむ、マザーがいない説が強まる。


「薬で朦朧としていたマスターが、いかにも蒲柳の質に見えたのではー?

 彼らにしてみれば幼い子どものように華奢で、ろくに起き上がれずにぐったりしていたお人がすぐさま脱走を図るなんて、想像するのは難しーかとー。

 マスターは襲撃されている時は、攻撃スキルを自重されていましたし」

 それはそう。ダンマスが気軽に人を攻撃できる人間性だと周りが恐いじゃん?

 許可なくオレが暴れたら護衛の広崎さんらも困るだろうし、体面は大事。


 しかしオレは180センチ越えているのにホープランプじゃ、本当におチビちゃん扱いだな。


「一応オレも副GMだから。

 オレの暴発でトウヒさんが泣く泣く家出したり、GMのシステムが落ちても困る。

 避けられず、正当防衛ならするかもだけど?」

 政府ちゃん等のお偉いさんで副GMを兼任しているようなお大尽が、自国の法律を積極的に犯しているとGMがシステムダウンをしてしまうのは有名な事実だ。


 なのでGMがちょこちょこ落ちている国もある。

 人がやる政だから完璧なものはないよねと、多少のお目こぼしがあるとは聞くといえ、落ちてない国はそこそこ頑張っているんじゃないだろうか。


 ここはできる範囲で避けますよとオレも小賢しくアピっておく。


 内心やりたくても、やらなかったからセーフ!


「はい、それは。ただ、ダンジョンマスターの権能を使った報復は即アウトになります。

 それだけはお気をつけてくださいますよう」

 ここでトウヒさんがGMに切り替わる。

 マジな顔だ。


「逃げきれず、見つかった場合の攻撃は?」

 一応は聞く。まあ、一応。


「……セーフです。

 明らかに相手に瑕疵があるので、流士さんの生存権が上位に来ます。

 酷い目にあっている人に無抵抗でいろとかはないですよ。

 むしろ人間さん同士の荒事は私、役立たずでごめんなさい」

 おおう。いつも元気なGMが、シワシワになっている。


 ゲームでは鬼畜でもリアルの人類には総じて甘いGMがオレは好きだ。だからそこら辺は期待してない。


「これぐらいで悪魔になったりしないって。

 今までずっと助けられてきたから、甲殻人全般に対する種族への好意はあるよ。

 ホープランプ全体に被害の出るような恥知らずな真似は、いくらなんでもしやしないさ」

 誘拐の意趣返しにダンジョンブレイクなんて、やらないやらない。


 ソレを仕出かしたら妖精さんのマスター資格がなくなるどころか、こっちがとんだ悪者じゃん。

 ちょっくら腹は煮え繰り返っているが、人間としてやることじゃない。

 ダンマスはオレ程度の手妻でも、都市ひとつくらいなら簡単に滅ぼせてしまう。故の自重だ。


 広崎さんら、オレを独りにして怖いだろうなー……。

 それは信頼しているとかしてないかの問題じゃない。


 オレがダンマス相手に平気で薬物使ってくる相手の懐に落ちているとか、とんだ悪夢だろう。


 ほら、薬物にも色々ありますよねー?

 胃に穴が空いてないといいんだけど。


 ………。思うに悪魔落ちしてきたダンマスってよっぽど辛い目にあってしまったか、脳ミソが天気だったんだろうな。

 拷問を受けてメンタルブレイクでもしたら、オレも他人事じゃないけどさ。

 だからまあ。


「ただ、もし見つかった場合。オレも無抵抗ではいられないから、それだけは覚悟して」

 それでなくても皆のことが心配なのに、これ以上誘拐陣営へのヘイトを貯めたくないでござる。


 帰ってから問い質した被害状況によっては、なにかしらの報復は辞さないつもりだ。

 まあ、ダンマスの権能は使わない。権能だけは。


 後日、個人的に遺憾の意を発する程度の嫌がらせはするかも知れんけどな!


「わあ。…ハジメさんがんばえー!」





 そんなん話しているうちに熱が出た。

 1日休みだ。

 ゲームを2日スルーしてしまった。たつみお嬢さんが何事かと心配してしまう。


 発熱は長時間、甲殻の腕に胴部を絞められての人力ジェットコースターが原因か、牢屋の寒さで冷えたせいか。

 ……胴周りにどす黒い内出血が残ってたから前者かな。

 それか誘拐された精神ショックの知恵熱とかもありそうだ。

 オレも心の繊細な現代人だし?

 あり得なくはない。


 勝手に脱獄してぬくぬくオフトンでごろんちょしたから大丈夫だったけど、大人しく牢屋で過ごしたら狙い通りに衰弱してたかもなあ。

 あの牢屋、水差しすらなかったし。『造水』や『体内倉庫』があるからいいけどさ!



 そんな翌朝の寝起き一発。


「拾ったもし。助けてもし」


「拾われました。助けてください」


 信じて送り出していたハジメさんが、10才ほどの美少年略取を仕出かしてきたら。


 オレはどうしたらいいのだろうか。

 




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― 新着の感想 ―
どんな時でもイベントを吸い寄せる吸引力の変わらないただ1人のダンマス流士君 いやエンフィも同じような属性だったな やっぱり西村パイセン、西村パイセンしか勝たん 前話から『倫理』さんに危機感持ってる人…
頭の中のパパさんがインテリヤクザ通り越して修羅になってる 痣の数だけ誘拐犯の首が飛びそう(飛んでる)
高度に精神的に成熟した文明は、野蛮な文明に弱いんだろうな 倫理スキルは誰もが持ってないと効果は薄いけど、それが逆に管理社会のディストピアにもなりそう
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