282 推し企業はワシが育てる
リザルトだ。
小鬼連合+裁縫クラブのトレント狩りでは、レベルは1しか上がらなかった。
無論、檜トレントが悪いわけではない。
ここはロックバーストの経験値効率と、それをなし得るキャリー能力のある先輩方に慄くところだぞ。皆の衆!
ちな魔石以外の換金性はというと、この両者。ほぼ変わらなかったりするのだ。世知辛い。
新築の家が檜トレントの香りだと心地いいよな。人気の素材だ。
ロックバーストも錬金素材とはいえ、岩だしなあ……。
こちらは限りのある国産天然石よりも、家計に優しい値段付けとなっている。
一方スキルの進捗はというと『伐採』と『サンダー』を覚えて、『カバーリング』に星がついた。
極めて順調。
『伐採』は発動体をコツコツ使ってきた成果が出て、『サンダー』は中の人からの逆輸入だ。
『カバーリング』は千本ノック等の自主練では庇う相手がいないことから、伸ばすのに苦労しているスキルだ。
うむ、素晴らしい戦果であるな。やはり仲間がいるのは良いものだ。
お次は収入。
今回の檜トレント納品は、発注ボーナスつき。
それで一人当たりの手取りは、入場チケット代を抜いた純利益で8万とちょこちょこ。
5万は貯金に回して、2万は産業ガチャを回すのだ。
朝ダンの稼ぎは既に錬金素材に化けているのでノーカウント。
残りの1万ちょいを今日、自由に使っていいお小遣いにする。
ゲームはゲームと割りきらなければ、中学生が扱う金じゃないな。とてもバブリー。
でも実際に贅沢している感じがあるのは食費ぐらいだ。
武器防具は必須商売道具で実用品だし、それらの手入れの品も消耗品だ。
大物を買うための貯金もしているが、なんだかんだで雑費も多く出てしまう。
これだけジャカジャカ金が動けば、景気が良いはずだ昭和異変。
「お疲れー!」
「また、誘ってね!」
レイド活動ミーティングの後は、男女で別れる。
焼き肉の口の男子に対し、女子はクレープ屋台に行くそう。
ここは、甘味組に混ぜてもらう。
なにしろたつみお嬢さんは、まごうことなき乙女なので!
イチゴのクレープの誘惑には抗えないのだ。
焼き肉はまた今度な!
「はぁ。今回で『伐採』を覚えちゃった。嬉しいけどフクザツ」
ダンジョンタワー大通りをてくてく歩く。
その道中。ひとりの先輩が溜め息を溢したので、女子全員でスキル覚えておめでとー!の歌を合唱する。
道行く人もあらあらまあまあと、微笑ましげだ。
今回のレイドは大成功だったらしく、彼女やたつみお嬢さんの他にもスキルを自力習得したのが2名いた。
名前を変えて次々と歌うと、仕事中らしき通りすがりのおじさんからも【おめっとうさん!】と合いの手の祝福をもらう。どうもどうもだ。
「おめでとう!また、メモリ計算が狂うやつだね!」
「ありがとう!……うごご、ジョブに就くのがまた遠のく!」
「贅沢言うなし。『伐採』は大当たりじゃん。代々コットン狩りが楽になるしさ」
「それはそう。でも、欲しいスキルが多すぎるんよー!」
生産をメインにスキルを組んでいる先輩たちは切実だ。
自力でレベルが上がりにくくなる前に、戦闘スキルやパーティに恩恵をもたらすスキル入れておかないと先々で苦しくなる。
なので裁縫クラブの高校生。先輩たちが全員『体内倉庫』を持っているのはとても良かった。
生産グループは毎日ギリギリまでMPを使い込むので魔力を鍛えあげている。
『体内倉庫』のサイズは魔力の質と量が準拠だ。
広い倉庫がある人は、今日みたくどのパーティにも歓迎される。
この辺のスキル戦略は、クラブの薫陶なのかもだ。
「ねえ、学生中のうちに転生神殿イケると思う?」
「ムリムリ。あーでも、結婚前に転生したいかな!
子どもは2世で産んであげたいよ。低魔力生まれってキツいもん」
「私は不惑前くらいが目標ー。ってゆーか、今でさえ大概なのにレベル60とかになった自分が想像できないよ。
子どもが冒険者目指すなら、自分でコツコツ頑張ってもらう。
それかまだ見ぬダーリンに転生要素は任せたいなあ」
「ところで司城さんはレベルおいくつ?」
「35になりましたわ」
レベルキャリーのお陰です。
《姫さまが着々とゴリラ進化なさってる》
《クリスマスアバターはジョブ経験値も重いのに》
《経験値イベ来ないかなあ》
「後輩に負けた!…流石は盾系女子!」
「ううう、言いたくないけど2世の才が妬ましい!」
《まあ。青春の貴重な一時期を、中の人に貸し出す代償と思えば?》
《お前ら自分のアバターと文通しているやつおる?》
《ヽ(*´∀`)ノ》
《(・ω・)ノシ。俺氏アバター、兄弟多い長女。アバターちゃんが健気で泣けてくる。幸せにしてやりたい》
《いい話ダナー》
《交換日記はお薦めよ。アバターからツッコミをもらえるとフフッてなる》
「司城ちゃん、司城ちゃん。君、専属のお針子さんに興味はないカナ?」
「やめれ!鶴ちゃんの友だちを食い物にするのは許さんぞー!」
「だってきっと、一足飛びで強くなるよこの子。選任チームを作るには早い方がいいってば」
「……一理ある!」
「あら。詳しくは鶴さまに聞いてから、お返事しますわね」
「偉いぞ!よくわからん話は一度持ち帰るのは正しい!」
《おお、わちゃわちゃ( *´艸`)》
《女の子ってもっとフワフワした会話をしているもんじゃないの?》
《先輩が姫さまを褒めてくれるの、なんか嬉しい》
《そうか、昭和世界の三高のうち、ひとつは高レベルになるんだな》
《三高とはなんぞ?》
《昭和のスパダリ案件で、高身長・高学歴・高収入…だったかな。そーいうのがあったんだよ》
《身長と学歴はともかくとして、レベルだけならなんとかなりそう》
《脳筋的解決法!》
クレープの店、新進気鋭の【スイート・ギャラクシー】はワールドウォーク参加店だった。
スターを踏むと全品30円引きだ。これは纏め買いのチャンス。
司城邸へのおみやはクレープできまりだ。
「わぁい。得した!」
「本当に苺!」
「この時期に食べられるなんて、ハウス栽培って凄いのねえ」
「苺はこの酸っぱさがカスタードと合うんだよね。特にうちの苺は瑞々しくて美味しいよ!」
店員さんのセールストーク。巧みなトンボ使いに、その場の全員がはわーっとなる。
女子アバターの本能よ。
シンプルないちごのクレープに、心がピョンピョンしてしまう。
「わたくし、ホイップクリーム追加でお願いしますわ!」
「あたしもー!」
《お、ハウス栽培も出始めの時代か》
《明るい話題が多くて、この頃の昭和は楽しそう》
《姫さま買いすぎと思いきや、皆ダースで買いおるの草》
《『体内倉庫』に食糧溜め込むのは本能なんで》
「ええと、ワールドウォーク?
ステータスの新しい地図サービス、便利だね」
「ねー」
スィート・ギャラクシーのスタンドはダンジョンタワー内の通学路にある。
なので飲食は、歩いて2分。勝手知ったる学食を使う。
学校は休みでも部活をしている生徒はいる。食堂の給湯器も働いているので、温かいお湯が使えるのだ。
先輩たちは各々寛ぎのティーセットを『体内倉庫』に仕込んであって、たつみお嬢さんにも振る舞ってくれた。
オレなんて飲み物は瓶のオレンジジュースと塩と砂糖とレモンで作った妙子さん手製の経口補水ドリンクしか、倉庫には入れてなかったよ。
良いことは真似しよう。
先輩らは折角集まったからと、この後もクラブ活動していくそうだとか。頑張るなあ。
「ところで。地図のここ、ダンジョンタワー中央部。妖精郷が明日オープンってあるけどさ。コレってなんだと思う?」
先輩のひとりが、自分のステータスを拡大して開示する。
「さあ。妖精さんは最近、島でウロチョロしてるけど……遊園地?」
「ロケット技術を使ってますって、万博みたいな感じなのかなあ」
「オノゴロ島で万博はないでしょ。集客力が少ないもん」
「だよねえ」
《言われとるぞ、GM》
《島はこれからホプさんも増えるし》
《急いで拡張せえへんと》
「魔道科学館みたいな感じなんじゃない?
ダンジョン内魔力を吸い上げて施設を動かすならアリだよ」
「あー。なる」
「それなら他の場所では無理ですものね。この島ほど魔力を潤沢に使える場所なんてありませんもの」
河西にGMが着任したおかげだな。
昭和世界ではほぼグレーアウトしていたワールドウォークが島限定で復活している。
ワールドウォークが降臨したのだ。
一瞬。すわ、【これで面倒なクエスト書類仕事も消失したか!】と喜ぶじゃん?
が。流石にそれは許されなかった。ぬか喜びだった。
ワールドウォークの導入を機に、プレイヤー全員でやる金融戦略ガチャクエストがこの度、正式導入されましたことよ。
ワールドウォークの特設ガチャから、推し企業を応援する長期イベントだ。
電子機器メーカーに投資するチェーンクエストをクリアしないと、便利だったクエストアプリは解放してくれないらしい。ちぇっ。
【そろそろ稼ぐ者が出てきましたし、プレイヤーさんに金を吐き出させる場所を作りますよー!】
そんなGMの、満面の笑みを幻視する。
ほにゃらら開発完了クエストまで何百億、これこれこれらは数千億。そんな数字を提示されると脳がバグる。
現代基準のサービスを受けたいなら、ゲーム内通貨を昭和世界に捧げよということだ。
露骨だな!
オレは先輩らが黄泉比良坂下りをするにあたって、野良ダンジョンにたどり着く前の困難軽減対策に目星をつけた。
山はやっぱり強敵だよね。ってことで登山用品メーカーの開発クエストをメインだ。
ガチャの景品はそのメーカーの商品だったり、該当企業が成長するポイントだったり各々だ。
つまり、ふるさと納税の企業版+ガチャだ。
朝に少しばかり試してみたところの結果がこちらだ。
1回1000円のガチャ10連で1回プラスの11連コース。それで当たったのはレアが『速乾』、『保温』付きのインナーが1枚。
ノーマルの軍手5枚1セット。
同じくノーマル。企業成長ポイント1ポイント×8で8ポイント。
これもノーマルでの功績ポイント×1で50ポイントだ。
これらの景品はギルドで受け取りになる。
ここにも出てきた功績ポイントはさておき、1ポイントにつき約10万円分の成長ポイントが該当企業の応援として加えられる。
このポイントは、これからプレイヤーが開発して欲しい商品の指定としても使用される。
ロケット文化や昭和にそぐわない商品だとこれらポイントは【開発費】としてその分、多く掛かるのだと詳細には載っていた。ご注意あれ。
昭和世界でパソコンがノートになったり、端末をポケットに入れて持ち運べるようになるのには、ガチャをひたすら回さねばならぬというわけだ。
ちなみにだがその詳細によると、成長ポイントはレアだと100ポイント、スーパーレアは1000ポイントが排出されるとかある。………見なかったよ?
ガチャは悪い文明。運命力が試される。
はよ来るのだ虹回転。ノーマル演出を呪いたくなるその前に!
コメント、リアクション、評価、誤字報告等、感謝です。
報酬がケチなのは悲しいですし、でもゲーム内通貨がダブつくのはゲーム寿命を縮めますよね。
さあ、昭和に招き入れたいものがあるなら、召喚ガチャを回すのですよ!
そうGMが張り切っています。