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27 アブラムシさんには唐辛子スプレー



 …へー?

「シノブ嬢、案外、タツミに好意的だったんだな」

 シノブ嬢的には苦手な種類の人間じゃなかったのかタツミ。

 なんとなくそんなイメージだった。


「好意はあるでしょ、普通。地元の殿の娘で主よ。

 おまけに可愛こちゃんで、人懐こくて。

 シノブがお嬢さましてなかったら、少年忍者としてタツミ姫の居室の天井裏に潜んでいたね」


「姫が「だれかある」と扇を閉じると、「ハッ、ここに」と音もなく降りたって跪くやつだな!」


「えっ、忍者カッコいいわね。なんでやっちゃ駄目なの?」


「任務中なんで、忍者バレよろしくないっしょ。

 姫さまの侍女とは仮の姿よ。常日頃から、か弱い姿を晒して油断させ、情報収集でもしてんじゃないの。

 そして殿へ何気ない日常を綴った近況報告の手紙の体で、密書を送ったりする」

 あるある。鸚鵡の目に穴がなかったら偽物のアレな。

 シノブ嬢は忍術合戦するタイプじゃなくて、クラシカルな長期潜伏形諜報員スタイルの忍者なわけだ。


「シノさん、ステキ!

 タカアキラは全然気がつかないの!

 まるまるだまされて、守ってやんねえとな、とか思ってるのよ!」


「あーダイスじゃ外敵を察知してたから、味方には脇が甘いタイプかタカアキラ。

 その上、気は優しくて力持ち。

 ゲンゴロウ的には恋におちたりせんの?」

 アリアンは重々しく首を振る。


「男なら全部守備範囲ってことはないでしょ。

 ゲンゴロウは乙女だから、イケメンや美少年、渋いおじさまによろめかせたいわ。

 でも好みのタイプにはもじもじしちゃって、結局、なにも言えずに恋に破れたりするわけね」


「お約束は大事だな!

 GM、他のメンバーの導入はどうしますか!」


「さっき『探索』持ちにダイス振らせただろ?

 今回のセッションの趣旨を説明しよう。

 日常で勉強や訓練に励んで貰うあいだに、ストーカーの影がチラチラする。

 それに気がつき、調べ、目的の人物が巷を騒がせている『連続殺人鬼』である確証を得てくれ。

 それを携えて官憲に駆け込むまでがゴールだ。

 証拠不十分だと、見守りに立ってくれたお役人に被害が出るかもしれんぞ。

 普通のストーカーと凶悪犯ではお上が動かす装備や人員も違うものになるからな」


「自分たちで捕まえたりはしないんっすか?」


「できるものなら、やってもいいが。正当防衛以外は、犯罪だぞ。

 部屋に忍び込んで物色してるのバレたら当然ブギョウショ案件だからな?」

 人ん家のタンスを漁る【お止めください勇者さま】は、許されないんだよな『異界撹拌』。官憲の皆さま、お疲れさまです。プレイヤーがいつもすみません。


「GM、『エンチャント』を使わない道具類はどれぐらいの値段ですか?」


「具体的には?」


「唐辛子を焼酎に漬け込んで虫除けスプレーを作ります。

 ガーデニングはお嬢さまの嗜みですので、小さな家でも中庭ぐらいあるかなと」


「なるほど、サユリも手伝います。薔薇の剪定ぐらいならまだしも、姫さまに草むしりさせるわけにはいかないので!」


「あっ、あー!シノブも参加します!

 技術は高いんで、唐辛子を刻んだり散布するのは得意です。

 煙幕を張る訓練とか受けたでしょうし!」


「あのね。あんまり強い劇薬をもち運ぶと、取り調べの際、怒られるわよ?」

 ばれてーら。

 しかし心配めさるなトト教官。

 流石に原液を持ち歩いたりしない。


「ちゃんと薄めて運用しますし、

「学校のお友だちに話したら、使ってみたいと仰られたので試用品を用意しましたの。

 アブラムシさんの撃退によくきくんですのよ?」

 そう、タツミ姫は言っています」

 怯ませるだけなら、虫除けスプレーで充分よ。

 むしろこの程度じゃないとうっかりファンブル時の被弾が怖い。


「まあ飲料でもないなら、スプレーボトル代合わせて30マってとこか。

 アブラムシに唐辛子が効くのか、本当に?」

 ご存知ない?

 科学薬品を使いたくないならお勧めだけど、コストはそれなり掛かるからなあ。


「蛾やハダニにも効きますよ。葉の裏側にも忘れずスプレーして下さいね。

 あ、忘れてました。前の依頼で芋虫案件あったじゃないですか。

 その人たちにもレシピと取り扱いの注意付きで送りましょう。魔物じゃなければ効きそうです」

 さらさらとレシピを書いて教官に渡す。


「おう、分かった。次回セッションに結果報告する。今は試験運用中ってことで頼む。

 さて、カリキュラムをダイスで振るぞ。

 生産スキルだけじゃ寂しいだろうから、表の中には戦闘スキルも仕込んでおいた。

 当たったらサービスだ。

 気合いを入れて振ってくれ」





 3日目夕方、学園教室内にて。



「タツミお姉さま聞きまして?

 また、橋鬼が出てしまったそうですの」

 タツミの刺繍の腕前は(6、6クリティカル!) 流石は姫君という他ならない。

 それ程器用な質でなくとも、幼い頃から精進してきたお陰だろう。布に針を刺す動きも滑らかに、課題の刺繍を終わらせていく。

 生体金属を練り込んだ糸は優艶に光り、図案通りに守護の陣形を浮かび上がらせた。

 この出来ならいつも厳しい先生方も、笑顔で単位をくれるだろう。


「まあ、橋鬼。なにか恐ろしい響きですのね。わたくしエドの事情にはまだ慣れておりませんの。

 よろしければ、教えて下さらない?」

 後輩の少女はまだ知己を得て新しいが(3、5)タツミ姫を慕ってくれている。

 お姉さまに頼りにして頂けたと、喜んで教えてくれた。


「スミダ川はエドと外の境界線でしょう?

 こちら側は賑やかでも、あちら側は自然が豊かで、鍛練がてらよく足を伸ばしますの。

 ええもちろん、ギルドの依頼を受けてのことでしてよ。良妻賢母を目指すには、位階上げも重要ですもの。ぬかりはありませんわ。

 そこで、不穏な噂を耳にしましたの。

 私が最初にその話を聞いたのは3月も前のことでしたわ。

 曰く、橋の下で死体が出た。それも殺人だ。なんだと、似た手口が先にもあった。どこだリョウゴク橋だ。こちらはシンオオ橋だ。エイダイ橋でもあったがそれは?手口は胸を一突き。手練れだ。犯行は雨の日ばかり。行動が似ている。そのものだ。これはどうやら連続殺人ではないか、と、それはもう大騒ぎで。

 橋のあちら側に行くのだったら気を付けるようにと、今ではギルドでもカワラバンを張ってありましてよ。

 被害者はコショウソデの少年や、町で評判の看板娘、いずれも若く綺麗な方ばかりだったそうで、犯人についた名前が現場にちなんで【橋鬼】と」


「そんな時に依頼だなんて…!

 カオルコさまは大丈夫でしたの?

 不審な者に後を付けられたりとかは?

 わたくし心配だわ。カオルコさまは華奢でとても可愛らしいから」

 そうタツミは気を揉むがカオルコは(5、5)…カオルコはタツミが心配になるくらいには愛らしい少女だ。


「まあ、タツミお姉さまったら。そっくりそのままお返ししますわ。

 お姉さまは鏡をご覧になった方がよろしくてよ。

 どの殿方もひれ伏すような竜の乙女がいらっしゃいますわ」


「…力づくでなら、ええ、自信がありますわ。仮にも竜の末ですもの。

 もう、カオルコさまったら意地悪ね。

 本当に心配していますのに。

 これは、ただのアブラムシさん用の防虫スプレーですけどお持ちになって。

 万が一狼藉ものに出会ったなら、シュっと一噴きですのよ」


「タツミお姉さまったら、もう。

 はい、悪いアブラムシが沸きましたら一噴きして、大声を上げて逃げますし、供のものと行動もいたしますわ。

 他にはなにかありまして?」


「ごめんなさい、ムキになってしまって。でも、カオルコさまになにかあったと思ったら、わたくし」

 豪華な金の睫毛に縁取られた瞳が潤んだようで、その美しさにカオルコの胸が跳ねた。


「タツミお姉さま…」


(1、2。奇数)


「タツミさま。お待たせして、申し訳ありません」

 サユリはあら、と首を傾げる。

 開けたままの教室には、刺繍道具を散らした主と、最近仲良くしている後輩の姿がある。

 もしかして、お喋りの邪魔をしてしまったのではないだろうか。


「あら、もうこんな時間なのね。

 カオルコさまとお喋りするのが楽しくて、時間が立つのが早いこと。

 ごめんなさいね、カオルコさま。引き留めてしまって」


「いいえ。タツミお姉さまとお話できて私も嬉しゅう御座いましたわ。

 寮が焼けてしまってからバタバタしてしまって、のんびりする機会がありませんでしたもの。

 それではお姉さまがたごきげんよう」





「リュアルテ、お前さー。NPCたらさないと、気が済まんわけ?」


「スキルがないぶん人と仲良くしときたくて。

 多少、ぐいぐい行ってもタツミ姫ならいいかな、と」

 TRPGコネはいくらあっても困らない。


「そうね。タツミ姫にゴロニャンされたらハニトラ上等で引っ掛かるわ。身内で良かった」


「竜のお姫さまだものね。アタシも多分駄目ね。鱗族の血なんてほぼ入ってないに等しいのに、カオルコちゃんやっていてドキドキしちゃったわあ。寿命が伸びちゃう」

 うん。女性NPCはトト教官の担当だ。ありがてえ、ありがてえ。


「ですよね!」

 ハツラツとしてるアリアン嬢。さて?


「アリアン嬢も鱗族に縁があるのか?」


「ないわ!………たぶん?

 家系図なんて3代ぐらいしか遡れない

庶民だもの」


「りゅーくん、あのねー。竜や、お姫さまとか、ときめくの。リクツじゃないのよ?」

 あ、はい。そうですね。野暮でした。



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