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269 ロケット神社



 お神輿は港発。商店街を通り抜け、ダンジョンタワー広場を経由して、ロケット神社の敷地までを練り歩く。


 先頭は当然我らが鬼大将の神輿。それに続くのは四天王神輿だ。

 今年も鬼神輿が新しく1基奉納された。総勢5基での出陣になる。


 鬼らはそれぞれ神輿に乗せられて、激しくわっしょいわっしょいされている。

 【調子こいてる鬼どもを、あわよくば地面に振り落としてやろうぜ】と、担ぎ手の意気込みが伝わる熱気ぶりだ。


 時折テンション上がった他の鬼が神輿に飛び乗るので、上に陣取る大将らに容赦なく蹴落とされる。

 その外道ムーブメントが盛り上がること。


「わはははは!いいぞ!お前ら、もっとだ!」

 彼らは鬼ネームドだから楽しげだけど、一般人は真似しちゃダメ。


 掴む所はあるっちゃあるが、足場は不安定なんてもんじゃない。


 ピッピッ、ぴーひゃら。シャンシャン、ドンドン!


 デコトラならぬデコ軽トラ。

 黄金の蓮華の花咲くトラック荷台。

 座しましたるは、色違いの小姓袖に紅を差した、おめかし小学生のお囃子部隊だ。

 無垢な五色の天人が楽を奏じ、神輿の賑わいに彩りを添える。


 幟や馬印、槍持ちをするのは、その他諸々のネームド鬼だ。

 見るからにワルい姿の怪人が通ると、絹裂くような嬌声が上がる。

 特に女幹部は同性からの支持も厚い。強くて色っぽい悪党ほど魅力的だ。とても、わかる。


 小鬼衣裳のオレはというと列の後方、鉄砲隊としての参列だ。

 モブにはモブの良さがあるというもの。


 隊列を組み、足並み揃えてイッチニー、イッチニー。


 モブ鬼の行進は音ゲー仕様だ。

 正しいフォームで行進すると、視界の横でgood!と文字の花火がポップする。


 『リズム』関連のスキルがあると、時々こんなボーナスステージが挟まれることもある。

 上手くこなすと関連スキルの熟練度がご褒美にもらえたりするやつだ。

 たつみお嬢さんの場合は『アクロバット』だな。


 ダンジョンタワー広場1周は、捧げ筒の姿勢をキープだ。


 盾より軽いはずの鉄の道具は、重さ以上にずしりと感じる。

 その理由は手にしたこれらが、本物の猟銃であるからだろう。


 弾丸は抜かれているので悪しからず。

 銃は学校の備品である。

 高校に入ると特別授業で猟銃を扱う訓練もあるそうだ。

 

「手洗い、うがいをしない悪い子はいねーかー」

「とーちゃんや、かーちゃんのいうこときかない悪い子は連れてくぞお!」

「きゃー!」

 悪人化粧の鬼の脅かしに、弾けるチビどもの笑い声。

 島のお子さんは胆が太い。


 鬼退治を成功させた桃太郎さんは、どうやら立身出世を遂げたらしい。

 烏帽子に弓手の狩衣姿だ。行列のオオトリを務めている。


 犬面、猿面、雉面の小者たちを引き連れて、白馬に乗っての参列だ。

 なんて白馬の王子さま。

 サービス精神が旺盛な鬼どもが列を外れては観衆に絡むので、ビイン、ビインと邪気祓いの弓弦を打ち鳴らして追いたてていく演出だ。


 今日ばかりは歩行者天国。

 沿道も青赤の揃いの提灯や、はためく幟旗が飾られて特別の装いだ。


 誰しも心浮き立つよう。

 オノゴロ島は快晴なり。


《└(゜∀゜└) (┘゜∀゜)┘》

《鬼。めっちゃ、わっしょいされとるな》

《神輿が古のディスコのお立ち台のようになっとる》

《姫さまのカメラドローンめちゃ有能》

《これはww無法地帯www》

《一応、落とされたら二度は乗れないルールあるっぽいぞ》

《あと幟旗持ちとか、物持ちの小物な鬼も隊列崩すからか乗ってない?》

《棒切れ振り回されて神輿壊されたら困るしそれはな》

《担ぎ手。振る舞い酒あるの、いいなあ!》

《←ホンそれ。大人アバター羨ましい》

《子どもは子どもで楽しいけどな。この後植樹奉納記念でやった餅撒きとか》

《餅撒き!またやりたい!》

《チビッ子ども。大きな袋を用意していて、準備良かったなww》

《小学生ワイ、学校から袋を持っていけって、連絡あったよ》



 千鳥足の神輿が辿り着いたのは、ロケット神社造営予定地だ。

 まだ広いばかりの空き地だが今日は仮の舞台が組まれ、その四方に榊が飾られている。

 その中央に立つのは桃太郎さんだ。


「それでは皆さま、お手を拝借。

 これから多くの鬼どもは、島から旅立つことと相成ります。

 いざ、三三七拍子!」

 勢いよくも晴れやかに。打ち鳴らされる手が波と重なる。


 代表者となる桃太郎さんは在校生。神事の皮を被った島民たちのエールだ。


《これで節分祭もお仕舞いかー》

《学校の文化祭とか、面倒臭くて嫌だったけど勿体なかったかもなあ》

《まったり参加のはずの俺氏。流れで生産メンと討ち死にしたのだが???》

《ほんのりネグレクト風味の育ちのワイ。地元の祭の準備なんて初めてやったわ。d(>ω<。)タイヘンダケド、タノシイネッ!》

《頼もしかった先輩や、こいつらアホだなって可愛がってた後輩が、野良ダンジョン潜る仕事につくならさ、なにかはしたくなるだろ》

《あふん》


 ほろり。

 桃太郎さんの瞳から堪えきれない涙が落ちる。


 小鬼役の特権で前の列に並んでいた、オレにはそれがよく見えた。

 可愛い顔がくしゃりと歪む。


「どうか、幾久しくご武運を…!」


「あー……」

 真摯な祈りの言葉を受けた鬼大将は、気まずそうに頬を掻く。


 そして黒髪の乙女を、大事そうに胸に抱き寄せた。

 おやあ?


「泣き虫桃太郎め。地獄に鬼は棲むもんだぜ」


 ヒュー!

 途端。前後から上がる口笛、そして野次。


「お前らここ迄きて、ようやくか!」

「さんざ、やきもきさせやがって!もげろ!」

「百年後に爆発しろ!」


《ヒューヒュー!》

《姫さま、ナイスカメラ!》

《ズーム助かる》

《俺、いいところで出歯亀しそこねていたから見れて嬉しい!》

《感無量!》

《伊芸、この唐変木が!》

《えっ、なに?》

《桃太郎さん関連イベは、恋愛成就応援クエストだったんよー》

《かーっ、両片思いのモダモダ感よ。甘酸っぺえったらねえ…!》

《夕暮れ電話ボックスイベントとか胸キュン》

《おっさんもこんな青春したかった!》

《俺ら物見高過ぎない?》


「だーっ!お前ら、うっせえよ!散れ!」

 仮面はとっくに割れている。

 隠すものはなく、顔を赤くした鬼大将が吠え立てた。

 そんなの桃太郎さんを抱き寄せたままじゃ、照れ隠しにしかならん。


 おあー。

 節分祭、ロマンスイベントも仕込んであったんだなGM。

 オレは全然かすりもしなかった……ってことは年長者向けのイベントかも。

 たつみお嬢さんにはまだ早いとアダルト表現を含むコンテンツはガン無視ってたけど、規制を緩和するかなあ。

 イベントスルーは勿体なかった。


 最前列で関係者っぽくヤジを飛ばしているのは、髪の色味からしてプレイヤーだ。

 プレイヤーはお節介なもの。

 望んだクエストクリアに大喜びだ。


 彼らは良いリザルトでも出たのか、視線を宙にガッツポーズだ。


《鬼×桃太郎カプ?》

《これはエモい》

《桃太郎さんは、来年黄泉比良坂くだるに1ペリカ》

《桃太郎さんちゃん、頑張った!おめ!》

《道理であっさり鬼退治されたわけだ》

《鬼も惚れた女にゃ弱いんだな》

《あれは太股に見とれたスケベ心のせいでは?》

《ああー。鬼大将ガン見してたもんね》

《桃太郎さんイベント中は男装してたから、二の腕や太股の出た衣裳はインパクト強かった》


「てめえら、赤城の山も今宵限りだ!

 どこに行っても達者でやれよ!」

 耐えきれず子どものように泣きじゃくり始めた桃太郎さんの手を引いて、鬼大将が鬼たちに解散を告げる。

 雑だな!


《んな、適当な》

《赤城の山って、山賊かよ》

《大将乙!》

《はー。明日には砦を片付けなきゃならんの残念》

《一夜城で砦造るのワクワクしたなー》

《興味あるんで俺と別ルート攻略してるプレイヤーは全員配信しろし》

《オマエモナー》



 あーいうのを見せられると、熱に当てられてしまうな。

 オレもサリーが恋しくなる。隣が寂しい。


 冷たい風もぬるくなるような空気のなか、三々五々に人影が散る。


 オレが向かうのは簡易に建てられている手水舎だ。

 冷たい水で手口、柄杓を洗い清めてから、青空賽銭箱に向かう。


 ここで集められた浄財は、黄泉比良坂へ下ろうとする鬼たちへの応援となるそうなのだ。


 さて。


「リスナーの皆さま。皆さまの応援のお陰でわたくしも、鬼のお役目を全うできましたわ。

 深く御礼もうしあげます」

 一度、カメラに目を合わせてから頭を下げる。


《おっ?》

《ええんやで》

《投げ銭の盾で大暴れしてくれて嬉しい》

《姫さんが楽しそうでなにより》


「と、いうことでわたくしのメイン盾は皆さまの応援から賄わせて頂きましたので、ダン活で稼いだ個人的なお小遣いは賽銭箱にシュート!ですのよ!

 島に残る小鬼のひとりとして、わたくしも先輩を応援しますわね!」

 封掛けされた札束を取り出す。


 そして賽銭箱に納品だ。


 金は天下の回りもの!

 些少ながら、こちらバトルドレス料金になります!お納めあれ!


 二礼二拍手一礼!

 ロケットの神さまこんにちはー。コンゴトモヨロシク!


 ……GMのパパンも遥か遠き異郷にて神さまに祀り上げられるとか、想像してなかっただろうなあ。

 ミーハーな国民性でスマンな!


《Σ(-∀-;)》

《この姫さま、思いきりがいいぞ?!》

《ゲームでなきゃ出来ない所業》



 クエストクリア!



 賽銭箱へ100万円也 の条件を満たしました!


 称号 ちょっ、おま、なにしてくれんの?! が贈られます!


 ロケット神社は、賭け事、融資、推しへの課金等は身丈にあった金額を推奨致しております!

 無駄遣いはダメですよ!


 功績ポイント100点 が贈られます!


 ※今回のロケット神社への浄財は、卒業生への支援として使われます。



 ………よし!


「ということですのよ?」

 ふう、いい仕事したぜ。


 お財布に余裕があればだが、募金活動や寄付をすると功績ポイントが多めにもらえたりするのだ。

 皆も功績ポイント、欲しいよな?


 ………撹拌世界と仕様が変わってなくって良かった!


 まあ、なかったらなかったで先輩たちの支援になるからいいんだけどさ。

 プレイヤーのゲーム内通貨がダブつかないよう、運営もいたるところに集金システムを仕込んでいる。


《(゜д゜)》

《札束アタック?!》

《なる。ロケット神社の賽銭箱も功績ポイント付加対象なのか》

《金でポイントが買える珍しい機会。これは乗るっきゃないね!》

《俺の財布が本気を出す日がきてしまったな!バッ!》

《寄付でのポイ活は詐欺も横行してるから、これは良い情報》

《よっしゃ、俺も先輩たちを支援したろ》

《サンキュー、ヒッメ!》

《ナイス人身御供》

《( ・ω・)∩シツモーン 功績ポイントって、重要ですか?》

《←YES!》

《一度公式に【異界撹拌】やられると、貯められるだけ貯めておきたいってなったわ》

《欲しいものがあったら使えばいいよ。それはそれとして貯めたいけど》

《功績ポイントは奇跡を起こしてくれるかもしれない財貨なので》

《この優しい世界でなにがあったん…?》

《ほら、TRPG部での妹君は波乱万丈の物語を好まれる、生粋のエンターテイナーであられるから(ノдヽ)》

《あっ》

《慣れてきたら注意のやつですね!》





 

 



 コメント、いいね、評価、誤字報告等、感謝です。


 皆さまメリークリスマス!

 去年はメリクリなイベントを超過してましたが、今年は節分が終わりませんでした!



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あ。姫様わずか半月足らずのダン活で¥100万も稼いでる……どんなヘビロテしたんだか………
百万円ダバ~。ステータスムキムキドラゴンであることを加味してもめっちゃ稼ぐやん。
やはり卓を囲んでる面々には被害者が…!w
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