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267 バステ沼



 犬兎の争いの波を掻い潜り、格上相手にプロモーションを起こしてしまった、たつみお嬢さんである。


 大番狂わせというか、内容的にはお祭りに悪ノリをやらかした実力者のほぼ自滅だ。

 ごっつぁんゴールにも程がある。が、まあ。ここは運があったと喜んでおこう。


 会場をてってけてーと移動する。

 第2競技場はファミリー向けの全員参加型。

 一般市民や小・中学生用がメインの豆撒き会場だったわけだが、第1競技場はニンゲンもレベル40からの部だ。

 ジョブや個性の違いもあるからレベルは厳密ではないにしても、おおよその目安でそれくらいだ。


 ……レベル40って撹拌世界だとベテランの域だったんだけどなー。

 サリアータで冒険者学校が稼働してから感じていたが、学校ってやはりチートだ。

 徒弟制な教育制度とは効率が違う。



 第1競技場は未来の勇者の姿を拝もうと、観客席が解放されて大入りだ。

 昭和世界にはまだないだろう東京ドーム3個分だった広さの第2会場より、第1会場はぐぐっと広くなる。

 この東京ドームのべ10個分もの敷地面積を手頃なサイズにしてしまうのは、冒険者特有の身体能力だ。

 地道に鍛えればそれだけ伸びる。

 全力で走っても大丈夫、しかも安全な場所があるのはありがたいのだ。


《鬼側からイベントを見れるのは新鮮》

《なんか小鬼たちが同士討ちしてたのって、プロモーションがあったからだな。把握》

《ネームドスタンプ5色揃わんかったヽ(;´ω`)ノ》

《一回休みが10分なのが長いよ》


 建築班の献身で、本陣の鬼の砦はしっかりと岩石ブロックで建てられている。

 鬼の居城として恥ずかしくない大きさだが、中はお察し。

 四角い中庭が切り取られたスカスカの箱型だ。


 見栄えだけとはいえ贅沢しているようだけど、この岩石ブロックはイベントが終わったら黄泉比良坂に送られると見た。

 魔力抜けをしてもそれほどには劣化せず、再利用できるのが岩石素材のいいところだ。


 小さな人工島に、こうも広い競技場を用意できるのは管理ダンジョンならではだな。


 ただし尚。箱を造るその手間は考えないこととする。

 職業病、広めの管理ダンジョンを見ると、掛かるコストをつい算出して心が虚無るな。いかんいかん。

 女の細腕で頑張っているおばちゃまを労らねば。


「福はうちー!」

「うわ、危ねえ!ノーコンピッチャー!」

「豪速球で暴投やめろ!」

「すまん!でも砲丸ピーナッツは中心軸がブレてて投げにくくってさ!」


「『幻惑』」

「『テラー』」

「『ポイズンシャワー』」

「『衰弱』」

 降らせるのはデバフの雨。

 鬼は鬼の味方ではないが、歯応えのあるニンゲン相手に集中してデバフを撒くのは吝かではない。


「ぐふっ!」

「さっきから鬱陶しいんだよ、テメェ!」

 ただし鬼はお互い隙あらば小突き合い、デバフり合うそんな仲だ。乱世、乱世。


 くっ。おのれ。また、毒った!

 『ディスペル』恋しい!

 そして近くに『衰弱』を掛けるのがやたら滅法上手いヤツがいる。

 毎回掛かるんだが!?


 体が重くて足が縺れる。本当、どいつだ!

 『隠密』持ちって汚いよな!パーティに誘いたい!


 オレなんてこの場全員が格上だ。油断をしているわけでもないのに、前後左右から飛んでくる豆の弾丸に吹っ飛ばされる。


「『ヒール』っ、『ヒール』!」

 第1会場は流石にハードだ。


 ズドン!

 回復の間にも襲い来る剛球が、盾に響いて手が痺れる。


 いい盾を新調してなければ、会場入りして早々に離脱していたところだ。

 フハハハ、群衆よ、刮目せよ!

 これが投げ銭の力なりけり!


 ……リスナーには朝の挨拶するついでに新しい盾の紹介とその礼はしたが、もう一回きちんと礼を言わなきゃなあ。

 盾に鬼生命を救われておる。

 PvPの時こそ仕舞っていたが、殴り掛かってくる鬼がまた出るまでは使うつもりだ。


 得物は防御に使うのはアリなので、第1競技場ともなると飛んでくる砲丸を叩き斬ったり、豆を巧みに柄で弾き他の鬼への流し玉を狙うような姿も見受けられる。


 ううむ。先輩らが面白そうなことをしているのに、じっくり見れないのが残念だ。

 観客席からわっ!と歓声が上がったりするのがとても気になる。


 よし、HPを立て直したぞ!


「『幻惑』!」

 お返しだ。デバフを喰らえ。

 椀飯振舞。MPコスト度外視で全方位に厄を振り撒く。


 立てなくなあれ!

 貴様ら、産まれたてのバンビちゃんになるといい!


「ギャー!」

「うぉ、眩し!」

「鬼め!複数の精神異常攻撃は卑怯だろ!」

「払え、払え!」

「『ディスペル』!」


《そっか。こっちの会場は『投擲』に盛るブースト系スキルが解禁なんだな》

《鬼、バリバリ同士討ちしておるww》

《醜いかよww》

《なんて修羅道》

《ワイ、レベ上げ頑張ってた大学生。ほのぼのしている第2会場の方へ行きたかったわ》

《はわー。強くても協調性ない生き物は滅びると分かりもうした》

《第2会場はキッズや市民に優しかったんやな》

《今度は鬼をやりたい》

《それな!》

《姫さま超楽しそう。いいなあ》

《イキイキしとる》


「マイケル!いいから、ほら。豆を撒けって!」

「…しかし、硬いボールを彼らに当てるのは……」

「大丈夫!鬼はゴリラだから!」

「鬼ども卑怯だぞ!心優しい甲殻人から狙うなんて!」

「恥ずかしくないのか!」

「ブヒョヒョ!鬼に卑怯は誉め言葉よ!」


《甲殻人の心清らかなプリンセス感》

《おうふ。嬉々として豆を撒いていた手が止まっちゃうね》

《だって鬼はイベント装備が優遇されておるやん?》

《妬み、嫉みでメラメラよ》

《俺も姫さまに【つーかまえた♡】されたい》


「ふっ!」

 『探索』の働きで、近くで潜伏していたニンゲンを捕まえた。

 そこで判子を捺していたら、豆の暴投が飛んでくる。

 前に立って『カバーリング』だ。


「あ、ありがと」


「一回休み中ですもの。貴女はわたくしの獲物ですわ」

 体育座り待機だと逃げるのが遅れて良くないな。

 彼女が狙われないよう移動しながら、視線を動かす。

 さて。投げたの、どいつだ?


《これはキュン》

《羨ましい》

《姫さまに守られたら女の子になっちゃう》


「ごめーん!手が滑ったー!」


「失敗を素直に反省できる殿方はポイント高いですわよ!」

 なので優先して捕まえますね。


 豆砲の雨中を掻い潜ってタッチだ。

 こちらも判子を捺していく。もちろん残りの豆はカツアゲる。

 そして妖精さんにぺいっとパスだ。


「まめふくろ、いただきでござるよー」


「ああっ、守谷がやられた!」

「下がれ、陣形組み直すぞ!」

「援護して!弾幕薄いよ!」


「『シールド』『風鎧』『ヒール』『幻惑』」

 矢継ぎ早にスキルを放つ。

 ふふふ、少し目立つとHPMPがモリモリ溶ける。


 活きがいいニンゲン、嫌いじゃないです。

 喰らえ、デバフ!


 さあ、一度は捨てたと思った鬼生だ。MPが尽きるまで暴れてやるぞー!




 パキン。音を立てて仮面が割れる。


《飽和攻撃、酷いww》

《いや、狙うよあれは》

《姫さま荒稼ぎしていたもんね》

《当然の末路》

《レベル50以下の動きじゃないんだよなあ》


「よっしゃー!」


「月夜のばかりと思うなよ、ですわー!」

 拳を突き上げて喜ぶ仇鬼。

 その隙にスタコラさっさと逃げを打つ。

 ぐぬぬ。相手は格上、しかもオレはMPが3割切ったギリギリ枯渇状態だ。でも負けたのは悔しいな!


 激闘の末に倒されたなら格好いい末期の呪詛を吐きたかったが、場当たり的に【鬼退治】されてしまった。


 ある意味、モブ鬼の末路に相応しいか。

 三下な捨て台詞だけ残して撤収だ。



 クエストクリア!



 お疲れさまでした!


 【そして鬼は打ち払われて】


 司城たつみ の陣営が、鬼から人間に移動します!


 報酬 鬼装備一式


 あなたはネームドの撃破を成し遂げ、【プロモーション】を起こしました!


 称号 功成名遂 が贈られます!


 嗚呼。ジャイアントキリングこそ、冒険者の誉れ。



 あなたはニンゲンを42人捕まえて、己の印を刻みました!


 功績ポイント420点が贈られます!



 あなたは鬼を7匹撃破しました!


 称号 鬼の天敵の鬼 が贈られます!



 回収した豆はイベント終了までに節分祭実行委員会に提出してください!

 豆10個につき1ポイントの功績ポイントが付与されます!


 あなたはデバフを202回、撒きました!

 功績ポイントが202点贈られます!



《おっ。撤収の見極め早いぞ》

《クレバーやん》

《ヒッメの相手、モブ鬼なのにお強かったね?》

《第1会場の鬼はレベル以上にスキル高いよ》

《吸収力ある学生が熱心に武術習うんだもんな》

《鬼役おつ!》


「姫ちゃーん!こっちこっち!」

 そして、手出し無用の観客スペースから手を振るものあり。


「おつかれー!」

「喉乾いたでしょ。差し入れに冷たいジュースあるよ」

「わー、近くで見ても鬼衣裳いいね!似合ってる、凛々しい!」

「ふふん、そうでしょ。先輩たち頑張ってたからね!」


「ありがとう御座います。

 花さま、鶴さま。わたくし退治されてしまいましたわ!」

 割れた面を胸に抱いてヨヨヨと泣き真似をすると、弾けるような笑顔が返る。


「あはは!高校生・大学生に混じって、よく奮戦したよ!」

「大暴れだったねえ」

「頑張りましたわ!」

「でも、なんかさ。ステファニーちゃんのお友だちは、わざと捕まりに来たのはどうなんだろう?」

「イベントの趣旨、誤解されてない?」


《ギクッ》

《ふわふわの毛玉だったら投げていたかもしれんけど、砲丸ピーナッツを投げるのはちょっと》


「身体能力の差かしら。小、中学生でも甲殻人の皆さまは第1会場でしたわね。

 でも、彼らの気持ちは分かりますわ。

 わたくしも力は強いですから、人にモノを投げるのはどうしても躊躇してしまいますもの」

 節分ルールは鬼、人への盾殴りは禁止で気楽だった。

 生体金属の塊で、悪さをしているわけでもない人を殴る気にはなれんよな。


 人間での参加だったら、鬼役ほどには楽しめはしなかった。

 甲殻人も困っていたんじゃなかろうか。


 はー。ミカンジュース酸っぱうまー。

 火照って乾いた体に、柑橘の爽やかさは格別だ。


「そっかー。彼ら、投げてもアンダースローでゆっくりとだったもんね」

「イベントは判子集めチャレンジを楽しめていたっぽいからいいのかな……?」


《折角集めたのに、判子が明日には消えてしまうの残念です》

《ほんとそれ》

《鬼さんの前に並んだ俺らイルー?》

《イベントの趣旨とは違いそうだけど、判子集め楽しい》

《一回休みの時間ペナが厳しいよ》

《全種類コンプしたかった》


「ところでお2人は参加しませんの?」


「第2で豆撒きもしてきたよー。姫ちゃんを祓いたくなかったから避けただけ!」

「姫ちゃんが鬼なら鬼は内だもんね!」


 っ。


「……花さま、鶴さま。大好きです!」

 キュンときた。

 たつみお嬢さんの友だちって、可愛くない?





 コメント、いいね、評価、誤字報告等、感謝です。


 中学生時代の同クラス女子には叱られまくった語り手です。

 リアルの細やかな胸キュンイベントが潰れてきたのは、割合自業自得でした。




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― 新着の感想 ―
姫様ごっつぁんゴールとかラッキーとかおっしゃってますけど周囲の反応からして大分番狂わせを起こしてらっしゃいましたわね?
ちょいちょい滲む前世さんの修羅っぷりからくる強者(つわもの)しぐさと、それをおくびにも出さない流士さんの素の明るさのおかげで、たつみ姫のレベル以上の活躍っぷりが気持ちよく楽しめて好っきです!節分イベも…
姫様乙w なんだかんだで随分といっぱい功績ポイント稼げましたねぇ 今後の配信は芋ジャーのままか鬼衣装を着るか気になりますw
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