266 プロモーション
CONGRATULATION!
赤青緑黒の4鬼を打ち倒しました!
他の鬼の権能を奪い、黄小鬼からのプロモーションが起こります!
司城たつみ あなたは花鬼のネームド【福寿草】として生まれ変わります!
毒ある花は、1輪でも麗し。
称号 鬼の上前をはねるもの が送られます!
※ イベント中、鬼を相手にした場合のみ10パーセントの能力加算が起こります!
司城たつみ は、これより第一運動競技場へ侵入することが出来るようになりました!
いざや、ゆかん!
まつろわぬもの集う決戦の地へ!
「ぐわー、負けたー!」
砕け散るのは、赤の鬼面。
【鬼退治】され、ニンゲンに戻った元同僚が不貞腐れて地面に転がる。
「だせえ」
「ぷーくす。後輩に負けるとか情けねえの」
それを指差しゲラるのは、赤鬼ネームドのパーティメンバーだ。
《やるやん、島の大学生!》
《赤鬼無双》
《アバター同化ナシの純日本人ステでも、鍛えればここまで伸びるんだな》
《夢がありもうした…!》
「うっせ、お前らここぞとばかりに小鬼の支援をしやがって!
パーティメンバーの味方しようって気概はないのか!
………いっぺんは判子を捺させろよお!
イケてる勝ち虫の判子をもらったのに!」
いつもの仲間に裏切られたらしき元鬼と、体育座り待機しているニンゲンは仲良く罵り合っている。
「かーっ。ぺっ!」
「お前の判子は意地でもいらん」
「優しいだろお?
他のネームド攻略行くのに、わざわざ会場入りを申請してまで、迎えに来てやったんだろーが」
「可愛い後輩たちとふてぶてしいお前。イベントでどちらに味方したいかなら、決まってる」
「リーダーよ。いくら楽しそうだからって小鬼たちの乱入戦に、喜び勇んで参加するとか大人げないと思わんのか。情けない」
「ねぇ、奥さま聞きまして?
レベル30帯の小鬼連合に負ける、レベル90オーバーなネームド鬼がいるんですってよー?」
「まあっ。年長者として恥ずかしくないのかしらねー!」
「チキショー!」
【鬼退治】された鬼はニンゲンに戻る。
なので面が割れた赤鬼ネームドも今となってはただの人。
小鬼のタッチは有効なのだ。
【一回休み】を受けてしまえば、10分間の行動不能となる。
「ふふ、ごめんあそばせ」
悔しがっているその額にも容赦なく、福寿草の花を咲かせる。
……称号の【鬼の上前をはねるもの】は違う経路でもらったような記憶があるけど、勘違いかな?
あ。特記に【昭和異変・節分祭専用称号】ってある。
称号のダブりを気にしてないのかもな、GM。
「いや、強かったよ先輩。いい経験になった」
「十二将がこの時間に落ちるのは、ちょっと早すぎるとは思うけどね?」
「あーあ。……儚い鬼生だった」
「仕方ねえよ、俺らも豆撒き行こうぜ」
鬼は逃げ足達者なものばかり。多くは逃げられてしまったが、上手く捕まえられた元小鬼仲間は苦笑している。
この集団は他の鬼に捕まえられた元小鬼も混じっている。しかし捕まえた側の鬼がニンゲンになった場合のルールが不明瞭だったため、代わりにオレが判子を捺させてもらうのだ。
やあ、儲けた。
《学生っていいなあ》
《悪口まみれなのに、なんか眩しい》
PvPが起きたのは次々と乱入が連鎖して1ダース程、膨らんだ小鬼たちの集団だ。
第2競技場に配属されている小鬼のレベル帯はオレと同じかちょい上くらいが適正のライト級。そりゃーもう心浮き立つ。
プレイヤーの個性が出てくるというのだろうか。
二の手である隠し球のひとつも、創意工夫で仕込み始めた頃合いだ。
現場で得物を失うこともある。
武具に左右されない小技くらい用意しておくのが冒険者の嗜みだ。
個人的な感覚としてだが、五感を伴うVRで魔物でもワルでもない相手に刃物や金属塊を向けるのは躊躇いがある。
だけど得物禁止のステゴロ戦なら話は別だ。
しかも乱入アリアリで全員が獲物。そんなお祭り、楽しいしかないんだよなあ…。
拳や膝蹴りに『バースト』を乗せるのは、今までやったことなかったかもだ。
そして鬼の同士打ちが始まると、豆撒キッズたちは捕まる心配なしに豆を投げられるフィーバータイムだ。
おっとりとした気持ち参加の保護者たちに比べ、機を見るに敏なのがチビッ子どもだ。
わーっと寄ってきては、じゃかぽこ豆を投げていく。
憎たらしいやら頼もしいやら。
場のノリで攻撃してしまわないように盾を仕舞ったものだから、『ヒール』の熟練度稼ぎが捗ったのなんの。
まあボーナスタイムの原因は鬼同士の抗争という、自業自得ぶりなんだがな!
力はあっても有象無象。同胞と争う愚かな怪物どもは、勇ましい豆撒きキッズめらに打擲を受ける羽目に陥るのだ。ぎゃふん!
もちろん鬼の中にはサービス精神旺盛なお祭り男も交じっている。
HPがあるから衝撃だけでそうそう強い肉体ダメージはないのに、豆が当たると【いたや、いたや】と大痛がりをする演技派ぶりだ。場の空気も温まる。
沸き立つ会場。
その歓声を受け、砦に陣取るネームド鬼のひとりが投入された。
ん?
っとなったが会場アナウンスの解説によると、小鬼の数が減っていくとネームド鬼が解禁されていくギミックなのだそうだ。
ネームド鬼こそ、強き鬼の真たるもの。理不尽の権化。
ニンゲンを食い散らかす、ダークヒーローユニットの登場だ。
目端がきいて運動神経もよい。自信たっぷりで余裕かましているジャリどもを、追い立て泣かしてやろうという委員会からの思いやりだ。
ゲームに適度な恐怖はスパイスである。
なのにこの十二将がひとり、赤鬼ネームド。
なにをとち狂ったのか、小鬼がキャッキャと乱戦している会場に、【ハーッハッハー!】と笑いながら、ご機嫌に突っ込んできやがったのだ。
人狩りに行けよ。
ネームドはキラキラのラメ入りで、めちゃ格好いいスタンプを毎年作ってもらってるって聞いたぞ!
ニンゲンが力を合わせて退治する、手柄首がすることじゃないだろうに、大人げない。
まあ小鬼たちから【他所に行けよ!】、【先輩の席ねーし!】とブーイングが上がること、上がること。
それに対し【善し善し。活きのいいことだ】。そう、赤鬼ネームド兄さんは満面の恵比寿顔。
福々しいと取るか、目付きが厭らしいんじゃ、ワレ!となるか微妙なラインだ。
……本当に鬼はこれだから!
当然、赤鬼ネームドvsしっちゃかめっちゃか慌てふためく緑青黒黄赤小鬼連合の形になる。
しかし流石はネームドだ。この赤鬼にいさん、お強いったら。
これは高笑いしても許されるキャラ。
ポポポポーンと軽快に撥ね飛ばされていく小鬼たちに、ギャラリーはもう大喜び。
小鬼視点だと憎ったらしい怨敵だ。
たつみお嬢さんはレベルの割にはお堅いのに、張り手一発でHPの10パーセントが削られた始末。
くそう、くそう。寄り道なし、正当進化の戦士職って物理にゃ滅法強いよな!
『幻惑』が効いてくれて助かった。
おかげで他の小鬼たちも『魅了』やら『毒』やらデバフを駆使し、全方位にデバフ花火を撒き散らすこと甚だしい戦場となった。
己がひとつデバフを放てば、みっつ、よっつ、いつつをお返しに食らうありさま。
まさに泥沼。
豆撒き会場は、自滅した鬼どもによりバステにまみれた。
おかげでニンゲンがまあ喜ぶ。
漁夫の利とか、すごく儲けた気になるもんな。わかりみ。
厄を撒く鬼。
これらが出張ると団結をなしえるニンゲンが、活躍してしまうのは如何ともしがたい。
『ディスペル』支援、羨ましいな!
強敵相手に連合らしきものを一時は組んでも、鬼は鬼と助け合わない。支援等の協力プレイは禁止である。
これが鬼の一番のデバフだ。
小鬼たちの奮闘の虚しく、レベルパワーでドスコイドスコイされていたところ。
颯爽と立ちはだかったのがネームド赤鬼にいさんのパーティとなる。
このメンバーが小鬼たちを辻支援してくれたので逆転勝利してしまったのは、とんだどんでん返しだった。
わけわからんよ?
いや、ニンゲンの鬼への攻撃は豆だけだから、大鬼のHPを効率よく減らすには小鬼を支援するぞと、その理屈はわかるけど。
………。
大鬼退治に小鬼をぶつけるとかさ。
ニンゲンって、邪悪すぎひん?
「わたくしったら、濡れ手で粟でしたわ?」
思い返してもおかしいよな?
生き延びてしまったぞ。
困惑しかない。
一度は派手に散ると決めた覚悟がおじゃんである。
《やっぱり対人戦は面白いなー!》
《今回は仮面だったけどさ。HP半減でストップ掛かるシステムは、闘技場のものだよね?》
《来るのか。昭和世界に闘技場!》
《鬼も人も全員敵とか、めっちゃ楽しそうだったねヒッメ》
《水を得た魚》
《なんかモブ青鬼にーさん、集中攻撃食らってた?》
《モテる男は敵なのじゃ!》
パーティメンバーに弄られて胡座をかいている赤鬼にいさんは、相撲取りのあんこ型。
兜を外せば、月代は剃っていないが落武者ヘアだ。乱れ髪が肩に落ちて雰囲気ある。
そも、相撲取りは栄養を蓄えた脂肪の下、太くみっしりとした筋肉の塊だ。
前衛としては最適解のひとつの体作りそのものだ。
張り手がなー。重いんだよなー。
そしてパワーに加えて技があるから、捕まったら最後だ。投げられる。
格闘家の基礎がありつつレベル90帯とか、ヤバヤバのヤバ。
昭和世界の相撲興行は【超SUMOU】がまかり通り、スーパーで愉快な角界になってるそうだとは聞いてはいたが、その片鱗を見てしまった。
しかしまあ。
鬼は鬼の仲間にはなれないけれど、ニンゲンと【仲間のフリ】は出来るもの。
目の前で高位パーティの身内争いが始まれば、相討ちで弱ったところを狙うよな。
赤鬼にいさんを平らげるまでは共闘しているふりをしていたニンゲンたちを、直後あっさり裏切ってタッチしたのはオレである。鬼なので。
それが上手くハマってしまった。
鬼はイベント中、カルマの増減はないとシステムからの明記がある。
つまり外連味ある行動は、システムに認められた合法行為だ。
守らなくてはいけないのは【鬼はデバフ以外、ニンゲンを直接攻撃してはいけない】といった基本のルール。
キッズや島の住人も参加しているイベントなので、そこだけは注意だ。
「ごめんあそばせ。判子を捺させて頂きますわね?」
高位グループは【タッチ後待機】で座ったまま、お互い足を伸ばしてゲシゲシと蹴り合っている。
仲間でコミュを深めているところを悪いが、邪魔させてもらう。
「おう、俺は手の甲にしてくれ!」
「かーっ、仕方ねえ!」
「そうだよなあ。小鬼ちゃんが生き残ってたらタッチするよな。失敗したわー」
「油断大敵でしたわね。お兄さま、お姉さまがた」
ホント、まともに争えば勝てないような格上パーティだ。
タッチで【捕まえられる】ルールがあっての格上狩り。
赤鬼にいさんを撃破して、ザマぁ!と盛り上がっていたところを横からペタペタさせて頂いた。
「まあ。リーダーを倒して、すっかり盛り上がっていた俺らが間抜けだったわけだ」
《兜被ってたから髷を結ってないけど、この赤鬼にいさん島の相撲倶楽部の人だよな?》
《道理で立派なアンコ型》
《超時空SUMOU、面白いぞ》
《テレビじゃ砂かぶり席、廃止されてた》
《←寂しいけど順当。力士、土俵からかっ飛んでくじゃん?危ないよ》
《空中待機の行司さんが『地面操作』で土俵を毎試合作り直すの格好良くてプロい》
《天地創造感あるよな》
「あ、そっちの小鬼ちゃんもアドレス交換しよ、アドレス」
「俺もー」
「今度小鬼会でパーティ組もうぜ!」
「いいな。次に会う時は本当の仲間な!」
「ナイスファイト!」
「まあ、嬉しい!約束ですわよ?」
やったー。小鬼仲間のアドレスゲットだ。
「お前ら、うちのリーダーが大人気なくて悪かったな」
「リーダー、活きのいい後輩とか大好物なもんで」
「アホだけど悪気はないんだ。こいつ」
「今度埋め合わせさせるわ」
「するぜ!」
小鬼たちのアドレス交換を見ていた年長パーティの面々もアドレスをくれる。
わーい。いいの?!
ぐっと拳を握っちゃうよな!
「野良パ、楽しみにしてますわね!」
オレ、節分イベント大好き!
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