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265 遊びせんとや生まれけむ



「あんな、目立つところに!」

「姫さま、お覚悟っ!」


 鉄パイプとボードで組まれた砦前にて、遊ぼうと呼ぶ者ありけり。


 砦は鬼のベース基地だ。

 【鬼退治】されるまで、鬼は合計1時間の休憩が取れる。

 周囲の状況を確認するべく砦の天辺に登ったばかりだが、嬉しいことだ。早速のご指名に顔が綻ぶ。


 ……うん。地面までの高低差は、二階建て木造校舎の屋上ほど。

 よろしい。お待たせするのも悪かろう。


 柵を蹴り、砦から飛び降りる。

 いざ、お相手つかまつる。


「『風鎧』、『シールド』」

 空中でバフを盛って、着地する。


《ドゴン!って音した》

《おおう。新しい盾、重いのかな?》

《盾変形スーパーヒーロー着地!》

《イッケメーン!》

《ヒッメのこーゆとこスコ》


 グリップを握りしめる。

 新しい盾は、クリスタルのように透き通り煌めく。

 頼もしい重量の盾を掲げ、ダッシュで接近。

 狙うは豆袋を持った補給役!


「ご機嫌よう!」


「は、えっ?」

 左手には盾。右手はノコギリ形の発動体だ。


「『幻惑』」

 構築したのは光の森。デバフを皆さまにプレゼントだ。

 掛かると同時にノコギリを捨てる。


「つーかまえた。ですわっ!」


「うわあぁ」

「マジかあ」

「姫さま、酷い!」

 タッチをするとブーイングが上がる。

 鬼に触れられたらニンゲンは、速やかに地面に三角座りをしなくてはいけないのだ。

 うんうん、約束を守れる素直な子は大好きだぞ。


《これはビビる》

《空から女の子が降ってきたのに、ロマンスが始まらない》

《俺らが混じってるな、このグループ》

《ハーイ(・ω・)ノシ》


「ああっ!定吉ー!」

「逃げろー!」

 すまない。いい判断だが、そこも『幻惑』の範囲内だ。


 平衡感覚が狂ったまま、慣れずに走ると転んでしまうぞ?

 そこを次々捕まえていく。


「判子はどこに捺そうかしら?」

 キュポンと蓋を外して考える。


 乱入上等の豆まき合戦だが、一度捕まると判子を捺されるまでは解放されない。

 そのこともあり、判子を捺される側も協力的だ。

 スキルの余波でヨロヨロと一列に並んで待機してくれる。

 

「姫さま!捺された場所は、肌を晒さなくちゃいけないんで、俺は顔にお願いします!」

 ふんふん。判子を目立つ場所に捺されるか、装備を外すかの2択になるのか。


「なるほど、ニンゲンさんのマナーはそうなのですわね」

 鬼の判子は牛乳瓶の蓋サイズ。

 頬にペタンとスタンプする。


《姫さまの判子、福寿草だったー!》

《俺らの中に貰いに行ったヤツおる?》

《(・ω・)ノシ》

《ノシ》

《(*´□`)ノ》

《(*´,_ゝ`)ノ》

《そりゃあ、まあ。ねえ?》

《いつもは潜伏してるけどさ》

《イベントだし》

《姫さまに判子を捺して貰えるとかご褒美なので!》

《そういや福寿草って目出度い名前の割には毒があるんだよなー》

《花言葉は幸せを招く、だぞ!》

《スクショ思い出アルバムが潤う》


 鬼の判子はイベントの特殊装備なので、朱肉もいらないし、液だれもしない。

 擦っても深夜12時までは消えないゲーム限定グッズだ。


「それでは、頂いていきますわね?」

 豆袋を回収する。

 地面に散った豆とノコギリを拾い集め、待機していた妖精さんに袋を渡す。


「たいりょーですなー」


「ああっ、支給物資が…!」

「酷い酷い!姫さま、ずーっとズルしてる!」

「まだ少ししか投げてないのに!」

 君ら、とても楽しそうだな?


「あー!鬼が兄ちゃんたちを苛めてる!」

「俺らも豆を投げるぞ!」

「でも、女の子だよ。痛くないかなあ?」

「えっ。どうしよう?」

 そこに良い子の豆撒キッズABCDEFGが現れる。


「ふふ、鬼に手加減は無用でしてよ?

 鬼は強いから鬼なのですわ」


「でもさ、女には優しくしろってとーちゃんが」

 いい教えをうけているな少年よ。

 この体になるまで思慮の外だったが、女の子には好きだから苛めたい男心は通用しない。

 そのまま真っ直ぐ育つんだぞ……!


「素晴らしいお父さまでいらっしゃるのね。

 ううん、鬼は良い子には少し弱いのですのよ。

 仕方ありません、ボーナスタイムですわ。

 昨日頑張ったことはありますかしら。

 教えてくれれば10数える間だけ、捕まえずに待って差し上げますわ。

 そうそう。わたくしみたいな黄色の鬼が司るものは、後悔や我執…目に鱗が張り付いている状態のことなのですって」

 小鬼仮面は上半分しかない。盾を構えてにっこり笑う。


「あ、昨日ニンジン食べたー!」

「手伝いはしなかったけど宿題はやった!」

「ポチの散歩は俺の仕事ー!」


「まあ、とっても偉いですわ!

 それならゆっくり数えますわね!」

 カン、カン!と小気味良く盾に豆音が鳴り響く。

 流石は外遊びをよくする昭和世代の小学生だ。

 なかなかどうしてナイスピッチ。

 狙いがいいので、その分盾で弾きやすい。


 それを外から観ていた他のキッズたちハッとして参加してきた。


 わあい。小さなお客さんがいっぱい増えた。おいで、おいで。


「いーち、にーい、さーん。…あまり、近くで投げると流れ玉が危険ですわよ!

 それだけは注意なさってね!」


「はーい!」

 よし、ちゃんと場所取りを考えて偉いぞ。

 人数が増えるとガツガツ背中に当たってくる。


 ただ夢中になって近づかれると、HPが少ない子どもたちだ。

 玉の直撃は不味かろうと注意を入れる。


「はーい!」

「ゴミ拾いに参加したよ!」

「マラソン嫌いだけど頑張ってるー」


「しーぃ…、ごー……お、ろーく」


「ダメだ、この姉ちゃん、全っ然、効いてない!」

「おねえちゃん強い!」

「HP減ってるの?本当に?!」

「いいから、投げる!」


「しーち、はあち、きゅーう。じゅー………う。

 ……『幻惑』」


《 (゜ロ゜; 》

《姫さま、酷いww》

《一網打尽w》

《いや、8の段階で逃げ出したお子さんもおるで》

《賢い》

《将来有望》


「ねーちゃんの鬼!」

 鬼ですぞー。


「鬼は悪い子なんですのよ。次は倒してくださいましね」

 満遍なくタッチしてから、ペタペタ判子を捺していく。


「ううん。女の子の可愛い顔に、判子はダメかしら?」

 悩むなー。小さいとはいえ女の顔だ。容赦なくペイントしていいものか。


「大丈夫でぇす!」

「男女平等だし」

「お姉ちゃんの判子、お花柄でちょっと嬉しい」

「鬼のおねーちゃん、さっきクラクラってしたのスキル?」

「光の森が見えた!」

「面白かったから、もう一回やって!」

「残りの豆あげるから、お願い」


「いいですわよ。他に希望者は?

 ……では、『幻惑』」

 好奇心旺盛なお子さんたちめ。


「あはは、変ー!」

「地面がフワフワ!」


「人質とは卑怯だぞー、鬼めー」

「子どもたちを解放しろー」

 ここで棒読みの声が掛かったので、子どもたちとバイバイする。

 小学生の集団が側にいるのに、砲丸ピーナッツは投げられないもんな。


「よーし、生産グループの意地を見せるぞ!俺たちだって、小鬼のひとりくらいは倒しておきたいからな!」


《まあ体力が削られているとこから、狙いたいよね》

《でもなー》


「『ヒール』」


「ああっ!」


《www》

《やっぱりHP減ってたんかーい!》

《盾はHP減っても高楊枝だから》

《回復してくるボスは卑怯》


「やはりお客さまは万全におもてなししたいものですわよね。

 どうぞ、いらっしゃってくださいな」


「よ、よーし、投げるぞ!」

「えーい!」

「とりゃー!」


《高校生くらいだと生産でも、投げるの上手いな》

《ノーコンは悲しいイベント》

《生産系は高校生でも第二会場だったのかー》

《レベルによる》


 うーん。『シールド』や『風鎧』が溶ける。

 案外、投げるのを慣れて巧い人が多いぞこのグループ。


 よし。そんな時はっ、盾に頼って距離を詰める!


「『幻惑』」

 いつもは盾で殴り倒すが、ここはシャランラ。

 ノコギリを使う。

 体勢を崩した者はあと回し。耐性のあるものから毒牙に掛ける。


「ターッチ、ですのよ」


「嘘だろ!今年の若手強くない?!」


《姫さんは規格外なんよ》

《すくすく健康にお育ちだから》

《小鬼衣裳。ターンやダッシュすると裾が翻ってカッチョええな》

《わかりみ》


 判子をペタペタ捺したのち、豆を強奪、解放する。


「ひーん!」

「奪われたー!」

 本部で豆を補給したら、また帰ってくるんだぞー!


 と。


「ひゃっはー!勝負ダァ、鬼娘!」


「『パリィ』!」

 盾を高めに跳ね上げる。

 『ジャストガード』が発動し、相手の体を弾き飛ばした。


 しまった。盾を使ってしまった!


 視界の端に浮かぶ判定は白。防御判定だ。

 攻撃判定は下されてない。

 セーフだ。全く焦らせてくれる!


 敵もさるもの。

 空中で猫のよう、しなやかに体を捻って四点着地だ。

 やや、お見事!


 これ以上うっかりを重ねないよう、そそくさ『体内倉庫』に盾を仕舞う。



 クエスト!



 司城たつみ あなたは一定数の豆を確保し、他の鬼から注目されました!


 鬼の敵はまた鬼 が発動されます!


 相手の鬼面を砕いてください!


 このクエストは襲ってくる同格の鬼を倒していくことで存在の【昇格】が起こります!



 報酬 戦場の移動



「まあ………わたくしと、遊んでくださいますの?」

 わぁい。

 そういや鬼は節分祭、PvsPあるイベントだったっけ。


「その強さ、美しさ、継続能力!どれを取っても申し分なし!

 負けたら俺様の配下にくだれ!


 ………ということで、こちらの実力アピールしがてらパーティメンバーの勧誘です!

 最近はトレント狩りをしてます、どうぞよろしく!」

 中学生……じゃないな、高校生か?

 初対面だろう緑鬼にーさんが、ペコちゃんと頭を下げてくる。


「あら」


「てめ、抜け駆けしやがったな!」

「イベントにかこつけてナンパすんなボケ!」

「うっせー!盾の確保はうちの最重要課題なんだよ!」

 青鬼、黒鬼。四方に散っていたモブ鬼仲間たちがなんだなんだと集まってくる。


 ………【昇格】って、全員ぶちのめせばいいのかな?


 

 




 コメント、評価、いいね、誤字報告等、ありがとう御座います。

 恥の多い誤字に、毎回はわわとなります。教えて下さり感謝です。


 おめかしした姫さまがパーティーに出ますよ。



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― 新着の感想 ―
>そこに良い子の豆撒キッズABCDFFGが現れる。 キッズEがいなくてFが二人いるのは草w 姫様に伊達の陣羽織は…さては狙ったなGMw
>………【昇格】って、全員ぶちのめせばいいのかな? お蛮族思考が漏れてますわ〜!
子供たち、かあいい。 姫さま、最高。
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