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264 節分祭



 2月3日、AM6時30分。

 いつもはダンジョンで朝活している時間だが、鬼は早めの登校である。


「ご機嫌よう、お姉さまがた」

「おっはよう!」

「早速だけど、学生証を見せてくれる?

 えーっと、司城たつみさん、ね。

 おっ。中学生じゃん」

「鬼は初めて?」

「はい。そうですのよ」

「ひゃー、大変だ」


 学校ギルドの正面カウンターに陣取っている顔触れは今日ばかりは先輩たち、節分祭のライトスタッフだ。


「さっきみたいに、チェック漏れないよね?」

「うん……ヘーキ!」

 ひとりが名簿確認をしている間に、他の先輩たちが手分けしてバトルドレスや祭の小物を揃えてくれる。

 鎧櫃を一旦開き、中のものが間違ってないか確認してからこちらに渡した。


「それじゃ、頑張ってね!」

「ロッカーで着替えたら第三体育館に集合だよ!」

 木製のケースごと渡されたのは、ズシッと重い鬼衣裳一式だ。

 それがまるで期待の重さのようで、気が引き締まる。


「ありがとう御座います、お姉さまがた。わたくしも頑張りますわね!」

 衣裳の寸法合わせをしたのは昨日の今日だ。

 行き届いた手直しはスキルありきの御技である。

 その条件を加味しても小鬼全員分とは、お針子さんもゴッドスピードだ。


 誰もいないガランとした女子更衣室で『早着替え』をする。


 女子用の陣羽織は、白地に金の縁取りをされていた。

 腰回りから下に5色の水玉模様があしらわれたポップなものである。

 首を守る立襟に施されるのは、無病息災を願う鬼灯の『刺繍』だ。


 これは可愛らしいのでは?


 昭和日本のバトルドレスは現代の服飾技術も取り入れられている。

 立体縫製されており、背中から腰、裾にかけてのラインがシャープで美しい。

 上衣は生体金属製だ。手に持つと頼もしい重量があるのに、ちょっと凄いと感じたのは着ると重さが分散されて、動きの邪魔にならないことだ。

 見習いとはいえプロを目指す生産職は磨きあげているものが違う。


 陣羽織を脱いでみる。

 下は体をきゅっと締める着圧の、黒が基調のコンバットスーツだ。

 肘や膝を守るのは、緩衝材入りのプロテクター。


 悪くない。コンバットスーツの印象はミリタリーにSFテイストを1匙追加といったところ。

 明るい印象の上衣を脱ぐと、たつみお嬢さんがガラリと格好良くなってしまう。


 小鬼のバトルドレスは量産品だ。しかし手直しが入れられているので、大きく肩や腰を動かしてみても実に心地よくフィットする。


 他の小物は鬼の仮面。それにクエスト報酬でもらった鬼の金輪をつければ完成だ。

 ちなみにこの金輪は『怪力』の発動体だ。腕時計のように手首にベルトで固定する。乱暴に扱ってもへっちゃらな生体金属製なのが、ずしっと頼もしい。


 金輪というと、孫悟空の頭の輪っかみたいなのを想像するけど違うんだな。

 報酬を受け取った時は、そうフーンと流していたが頭装備でない理由もあった。

 鬼全員に配布されるオプションで、角のカチューシャがあったのだ。


 金輪が頭装備なら、ごちゃごちゃしたことになるもんな。

 あにはからんや。今年のモブ女鬼の角装備は、おピンク小悪魔キュート系だ。


 一応、嵌めてみたカチューシャをそっと外す。

 これはない。


 それでなくてもたつみお嬢さんの自前の角はファイアオパールめいてキランキランなのに、ピンクのカチューシャを嵌めたらおつむがハッピー愉快なことになってしまった。

 統一感が来い。


 着替えをしたらすぐ移動だ。

 人の流れに合流し、ふと気づいて立ち止まった。


 体育館の壁には全身が映る鏡がある。

 その前で一回転。


《おお》

《ふつくしい》

《陣羽織からチラ見できるボディラインが神》

《更衣室は自動で配信カットされるのが残念無念》

《は?ヒッメはそういう対象じゃないから》

《鱗族系強火勢怖っ》

《文字でも分かるこの圧よ》

《鬼の面、シンプルだな》

《一応は魔道具で御座れば》

《割れるのが仮面のお仕事だからね》

《すまん。幹部の装飾で力尽きた…!》

 

 ううむ。やはり着圧素材のパンツは、足のラインが出てしまうのがやや気になる。

 陣羽織で隠れるからセーフだろうか。


 ……たつみお嬢さんは元がいいから、なにを着ても似合ってしまうな!



「あ。司城さん、こっちこっち!」

「おはよう御座います、お姉さま」

 ダイヤモンド試練で教導してくれた盾鬼姉さんの手招きに、わーいと近寄る。


 と。


「お前、いい加減にしておけよ?」

 それは夜叉の仮面さながらだ。

 眼光鋭く仁王に立っているがその声は、昨日親切にしてくれた鬼ねえさんのうちの片割れではないだろうか。


 なんぞなんぞ。

 優しくて快活。まさしく癒し系だった治癒士のリーダーさんが、鬼と化している。


「だって、君の背筋と腹筋は芸術だから広く世に出さんとだな?!」

 うん?

 なるほど、わかった。


 治癒士先輩が手に持っているいかにも肌面積の広いセクシー衣裳だけを渡されたら、オレも作り手を同じように締め上げてた。

 うちのたつみお嬢さんはオレが守る。


「い・い・か・ら。インナーを渡せ。

 出さんとお前にこのビキニを着せて、校門に張りつける」

 晒し者にしてやるという脅迫に、つい拍手を送ってしまう。


 グロ映像を作る宣言はいただけないが、先輩は一介のジョブ治癒士には稀な迫力だ。

 これは頼れる。

 男尊女卑の気風が残る昭和世界で、女だてらにパーティリーダーを張っているだけあるな!


 治癒士先輩はお針子さん男子が隠そうとしているボディスーツを、右足タイプの壁ドンでチンピラのように要求している。


 きゃー。頼もしいですわ!

 やっちゃってください。お姉さま!


 そう。この寒空に水着装備とかふざけとる。


 体育館を見る限り、四天王や十二将といった役職もちの女鬼はボンテージ風特殊衣裳だ。

 鋲の打たれた黒革のコートに合わせたボディスーツは、間近で見たらピャー!と赤面しそう。肌は出ていないのに色っぽい。

 その悩ましいスーツの上にデザイン違いの虎模様の水着を纏い、ネームド女鬼はアイシャドウこってりな目力メイクを決めている。


 治癒士先輩はまだ衣裳に着替えていないが、メイクは既にバッチリだ。

 昨日は清楚だったのに別人のよう。

 女は化ける。


「麻衣先輩、こいつ作業室に堂々とブツを隠してありましたよ!」

「迷惑かけてすみません!」

「チーフの引き付け、ありがとう御座います」

「ああっ。裏切り者ー!」


「チッ、忙しいのに手間かけさせやがって!

 ……ガサ入れご苦労!」

 まあ。お口が悪いですわ、お姉さま。

 内なるペルソナがはみ出ておいででしてよ?


 昨日の鬼ねえさんは、優しくてバフが巧くて理想の女子大生だったのにな……。

 うむ。どちらも大変良いと思う。

 初対面の後輩をビビらせないためのTPOで、猫を被ってくれていた先輩の優しさプライスレス。


「虎ビキニのセクシー鬼姉さんは人類の夢だろ!」

 野望のボディスーツを回収されても諦めきれない男が独り、そう強く主張するが。


「そんな夢は捨ててしまえ」

 治癒士先輩は冷ややかに吐き捨てる。


 思ったが、セクハラ野郎を相手にしてやるとか治癒士先輩って慈悲深くね?

 他のお針子たちは見ないフリだ。ネームドたちに施す舞台化粧に余念がない。

 気持ちはわかるが、なぜ今ゴネた。こいつと一緒にされたくねーわ。そんな空気だ。


《ひょっとして大御所のドル箱連載って始まってる?》

《ああ…、ネットミームで流れてくるやつ》

《鬼側の楽屋裏を覗けるのいいな。わちゃわちゃ楽しい》

《だからヒッメは投げ銭させろと!》


「あいつ、腕はいいんだけどねー」

 盾姉さんは親しい仲の口振りだ。


《なんだ専属生産者のおふざけか》

《どの時代にも腕のいいアホはおる》

《エロスは文明の基本なのじゃ》


 ネームド姉さんたちの装束はボディスーツが前提だ。

 だからか虎のビキニは際どい所まで攻めている。そんなギリギリな生水着に、革コートとか想像だけで刺激がお強い。


 桃太郎さんの出動がなされる前に、騒動が鎮火して良かったな。

 学校行事が終わったらネームドたちは御輿に乗って、島内を練り歩くという任務があるのだ。

 危うく健全な催しで、島の小学生のヘキが歪んでしまうところだった。

 女は体を冷やしたらあかんよ。

 スケベ心は封印だ。




「ところで、お姉さま。冒険者は甲冑を着ることが少ないと聞きましたけど、わたくしは勘違いをしてましたかしら?」

 ネームド男鬼は鎧武者が多いことに疑問がわく。

 金属鎧は寒くて暑くて可動域が狭いから、不評じゃなかったっけ?

 撹拌世界はそうだったよな?


「革ジャン装備や生体金属製のバトルドレスが優秀だからね。

 でも甲冑装備も最近のは悪くないよ。

 一昨年発表されたパワーアシストシステムが白眉だったね」

 ……パワーアシスト?


「お兄さまがたの鎧には、人工筋肉が仕込まれていますの?」

 生体金属は【生きた金属】だから、インゴット化しても筋肉の収縮に似た作用を残している物もあるとナノハナ研でクリスさんに聞いた。

 素材を思い出して、しょっぱい気分になる。

 エロ触手業界がまた脚光を浴びてしまう。


「よく知ってるねっ、勉強していて偉いぞ!

 鎧武者は動かすのにある程度の魔力を使うから、力ある魔法使いこそがこの先、金属鎧を着込むような逆転現象が起きるかもね」


《夢がある》

《日本、始まったな》

《撹拌世界の魔法剣士にフルプレートを着せる夢が叶うのか!》


 いや、どうだろ?

 純魔は体育スキルの鍛えが足りず、スッ転倒する未来しか見えない。

 ……あ、空を翔べばいいのか。


 着々と準備が整っていく、鬼大将を始めとしたネームドらの拵えは祭に相応しい華やかさだ。

 見ていて楽しい。

 それぞれ漆で粧した甲冑や、色っぽくも悪々しい戦闘服を着こんで雰囲気ある。


《なあ。鎧の着脱って案外簡単?》

《鎧装備は『解錠』、『施錠』がとても便利》

《あっ、なる。そういう使い方なのか!》

《流石にワンタッチでとはいかないけどねー》

《日本製の現代鎧は、ウイングブーツの機構を盛大にパクってる》

《ちゃうねん。リスペクトなんやねん》

《人聞きが悪い!》

《ウィングブーツは特許フリーにゃん》


「あれ、ネームドたちの衣裳は冒険者個人のオーダー品なんだよ。

 もちろん水着以外はだけどね」

 じーっと観ていると、こちらはモブ鬼衣裳で控え目メイクな盾姉さんが教えてくれた。

 ちょいちょいと、顔を向けることを要求され口紅を差される。


「よし、可愛い」


「ありがとう御座います、お姉さま。……お化粧品の匂いがしますわ」

 つんとする。なんの香料だろう?


「苦手な匂いだった?

 化粧品も使ってると慣れるんだけどね。……私もそんなんだったなあ」

 苦笑し、あぶらとり紙を渡された。

 これはわかる。唇を押さえるヤツだ。


「あら」

 紙に写ったその色は、なるほど鬼に相応しい。人を食ったように毒々しいスカーレットだ。


《姫さま深紅が似合うなあ》

《ノーメイクでギャルな顔立ちだから》


「えーっとなに話してたっけ?

 そうそう、鬼大将は弦月形前立て兜に仙台胴、黒漆五枚胴具足のデザインモチーフで節分祭に出たいからって前々から準備していてね。

 持ち出しのない一般戦闘員の司城さんや私たちの衣裳は、あいつに合わせたものらしいよ。

 この妙にキュートな水玉羽織って、実は伊達家の所蔵品からデザインを一部拝借しているんだってさ」

 おおう、まーくん人気だな。

 TRPG時代は、ジェネリック娘のひとりだったから鼻が高い。


「鬼大将は戦国武将縛りですの?」

 だったら毎年楽しいな。大河ドラマ合わせとかしたら盛り上がりそう。


「そうそう。去年の鬼大将のトンボ兜は、秀逸だった」

「だな。前田利家はビジュアルが強かった」

「めっちゃ蜻蛉で目立ってた」


 ぬるりと会話に入ってきたのは小鬼衣裳に着替え、合流してきた昨日の男鬼先輩たちだ。


「ご機嫌よう。お兄さまがた」

 先輩たちでネームドなのは、治癒士でリーダーな鬼姉さんだけなんだな。

 それはいい。

 実力ある治癒士が仕切る固定パーティほど、生き残り方が巧かったりする。

 先輩らってエンジョイ仲良しパーティに見えてその実、ガチ構成だよな。

 盾を2枚用意しているあたり、鉄壁だ。


「おーっす」

「ジャージ以外の初バトルドレスの感想はどうよ、司城ちゃん」

「ずっしりしてますのに、動きやすくて驚きましたわ」

「おう。今年の小鬼衣裳も良い感じだよな」

「この陣羽織、斬撃が滑るようになってるらしいぞ」


《これは良い販促動画》

《着用レポートもっと知りたい》


「うふふ、気が引き締まりますわね。

 お兄さまがたや、お姉さまとお揃いの衣裳ですもの。

 恥ずかしくない振る舞いをしたいものですわよね。悪役として」


「おっ。この後輩頼もしいぞ?」

「俺も負けてらんねえな!」


 たつみお嬢さんはモブ鬼中たった独りの女子中学生かつ、転校生だ。

 輝かしいエリートボッチ境遇なので、それを心配してくれた先輩たちが率先して構ってくれる。優しい、好き。


「節分祭の小鬼衣裳は、毎年評判いいんだよな」

「問題はネームドだろ」

「大将首の弦月も小さめだし、今年は無難に逃げてないか?」

「棟梁は目立ってナンボだろうに、あいつつまんねえことしたな」

 オープンにひそひそ話していると、当の鬼大将に怒鳴られた。


「うっせーよ!どうせやらなくちゃならんなら格好いい方がいいだろうが?!」

 纏めてギロリと睥睨される。


 聞こえるように話すのは戦犯。

 鬼にーさんらの構ってちゃんめ。


「笑っているお前らのせいだぞ!

 毎年好きに遊びやがって。柱やら蜻蛉やらシャチホコやら!

 いい加減にしろ!」

 そして怒りの矛先は、なにがツボなのかゲラゲラ爆笑しているお針子たちにも向けられる。


《シャチ……ホコ?》

《裁縫班、徹夜テンション極まっておる》

《箸が転がっても爆笑のノリ》

《寝ろください》


「そうですよ。後日使い辛いものを寄越されても困ります。

 先輩たち、島外の冒険者と一緒になると二度見されると溢してましたよ」

 苦言を呈したのはもう一人。こちらはムカデの兜を小脇に抱えている。


《え。ちゃんと使うんだこの面白装備》

《ナントッ!!Σ(゜∀゜ノ)ノ》

《これは草》


「それより、毎年きわどくなる女鬼衣裳が問題でしょ」

「無駄に体のラインを出そうとするの、どうかと思う」

「来年女鬼の辞退が相次いだらどうするつもり?」


 べっとり隈を張りつけた裁縫班のえげつなさに、一部鬼にいさん、鬼ねえさんがブーイングだ。


「去年の小鬼ポンチョは良デザインだったのにね」

「なのに幹部クラスはゴテゴテしすぎてダサいってわけわからん」


《……いや、別にダサくはねーよ?》

《というかリーダー格は日本鎧+特撮怪人感ある》

《丁度特撮ヒーロー黎明期か》

《衣裳チームは未来に生きてる》

《俺はちょっと着てみたい》

《女幹部のエロ格好良い特殊スーツはアラフォー女には(´・д・`)カナリツライ》

《アバターはピチピチだろおォォン?!》

《マッチョには似合うし、嫌いじゃないぞ!》

《←…えーっと、鎧の方がだよね?》


「………バトルドレスの性能は自信ありますよ!」

「君らは技研の生け贄になったのじゃ」

「小鬼どもの陣羽織は今年のトレンドとして売り出すんだから変なことはやれんよ?

 なに言ってンだ?」


《お、一般も買えるんだな。この陣羽織装備!》

《どっかでそゆこと聞いた気がする》

《我アバターは女子なれど、本家リスペクトで男子の紫色の装束を着たい》

《女子は姫さまとオソロをやれるよ?》

《乗るっきゃありませんわよ!このビックウェーブに!!》

《腰や太ももまでフォローする胴装備は良さげである》

《なるほど。日本人さんは装甲の段差で引っ掛からないから、刃先を【流す】装備を着れるんだな》

《この技術はマントとかに流用できそう》


「ええい、お前ら少し寝ておけ!30分でも違うから!」

 鬼大将。悪役ロープレ苦手なんかな。

 頑張ってヤクザをしているけど、人の良さを隠せてない。

 厄介な感じのテンションでフッワフワしているお針子さんたちに、仮眠の毛布を投げつけている。


「まって、寝る前に販促用の写真を撮らせて。それだけは……!」

 ゾンビが慈悲を乞うたので、鬼のひとりが菩薩の顔で『スリープ』を使う。


 鶴ちゃんがこの色物集団に染まらんといいなあ。




 クエスト!



 これより【オノゴロ島節分祭】が開催されます!


 さあ、鬼が来るぞ。厄を撒くぞ。

 弓をもったか、豆をもったか。



 司城 たつみ あなたは鬼陣営の参加となります。


 あなたに投げられた豆を拾うお手伝いとして妖精が派遣されます!

 ※妖精は頑丈です。デバフ、物理ダメージの心配はしなくても構いません!



 鬼の判子、鬼の厄撒きノコギリが貸与されます!


 ※ 鬼の判子はゲーム専用アイテムです。

 捺すと特殊効果、10分間の【一回休み】状態になります!

 一度捺された判子は今夜12時まで消えません!

 ニンゲンどもにあなたの刻印を捺してやりましょう!


 ※ 厄災ノコギリは『幻惑』の発動体です!


 ※ 鬼は個人陣営です。会場に立つもの全てが敵です。

 鬼相手への素手攻撃、デバフはカルマの増減対象外です!

 ルールに従い、平らげましょう!


 ※ ニンゲンは鬼がそっと触れるだけで【一回休み】になります!

 ニンゲンに殴る蹴る、デバフ以外の遠距離攻撃はやめましょう。



 ほむ。つまり盾の持ち込みは禁止じゃないのな。やったぜ。

 投げ銭の盾のデビュー戦だ。


「よろしくでござるよー」

 ててて。ポンチ絵の鬼面を頭に付けた妖精さんが寄ってくる。

 ギルド職員やトウヒさんは流暢に喋るし、ハジメさんはオレが暇だと膝にもふっと頭を乗せてブラシ掛けを要求してくる。


 こういう距離感の一般妖精さんは久しぶりに会ったな。


「よろしくお願いしますわ。これはお近づきの証に」

 ドロップ缶を取り出した。妖精さんの手の中にひとつ赤い飴を振り落とす。


「なんと。おおあたりな、いちごあじ」


《新規格の妖精は、物を食ったりするんだな?!》

《ホプさんちの古い妖精さんは、飲み食いとかせえへんの?》

《しない》

《聞いたことない》

《すまんな。拙宅の妖精さんは角砂糖で酔っぱらうようなおポンチな奴らばかりなんだ……》

《少し凛々しいのがホプさん古来の妖精さんで、ウッカリものでファジーなのがこっち産まれの妖精さんだって見分けがつく》


「やや、わいろですな。おねいさんもわるいこなのです」


「ふふ。前払いの報酬でしてよ。

 妖精さんは落ちた豆を拾ってくれるのですのよね?」


「はいなのです。

 ずいはんするやりもちのこものとして、あつかってくだされー。

 こうげきりょくはありませぬー?」

 ありませぬのか。OK、イベントでも妖精さんには変わりはないと。


「砦の準備が整いましたー!

 鬼の皆さんは配置についてください!」


「おーう!」

「待ちかねた!」

「大将、一言!」


「ハ、鬱陶しいぞ。

 鬼は群れん。

 俺は勝手にやる。お前らも自由に暴れてこい」

 鬼大将が鬼どもに発破をかける。


 残念、気合い入れの円陣はなしか。

 鬼は群れないって言ってたもんなー。


 お。『テラー』を纏うと、鎧武者は覿面映える。悪役感マシマシだ。

 いいな。つい、にこにこしてしまう。


 これは盛り上がってきたぞ。

 なんだか楽しくなってきちゃうなー!





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いよいよですね! 姫様のおおあば……大活躍、期待しております!
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