262 ダイヤモンドの原石たち
「「「「「おめでとー、おめでとーおめでと、おーめーでーとー、おめでとーおーめーでーと、おめでと、おーめーでーとー!」」」」」
パンパン!
手慣れたコールに、合いの手2つ。
「かしこみかしこみ、めでたくも、この度我らが後輩が、新たに『ヒール』を授かりました!
さあ皆さん、ご起立を!
奮って拍手をお願いします!」
ボッコボコにされた連続ロックバースト戦終了後、小会議室でのミーティング。
『ヒール』を覚えた報告したら、とたんこれ。
陽気な先輩たちは阿吽の呼吸だ。
一斉に席を総立ち、中身はジュースの杯で祝われる。
《はわ》
《なあにこれ》
《飲み会のノリ》
《これだから大学生は》
《ヒェ。拙者、陽の者の空気は苦手でござる》
《そう?発動体でスキルを覚えると、たまさかの臨時パーティでも祝ってくれんの嬉しくない?》
《ヒッメ、おめでとー!》
《姫さんが仕立てた幸運のアクセサリって、校内の備品じゃん。次に使う奴、うらやま》
《幸運のアクセが、学校でぐるぐる回るのなんかいいね。繋がってる》
《他人さまが使った後のアクセは怖いお。当方、呪われた経験あり》
《そゆこともある》
《触れて汚染を感じたら、先生に相談するのじゃ》
《だな。学校の備品は星2は確定だから、かなりいいの使ってる。使用を躊躇うのは勿体ない》
《島の学校って何気に発動体富豪だよな?》
《崇めろ。俺ら後輩のためにって、普段は発動体をつくらんような第一線の先輩が特別に寄付してくれるからだぞ》
《OB、OG、ありがてえ…!》
「練習していたとはいえ、今日で『ヒール』を覚えられて幸運でしたわ。
お兄さま、お姉さま、お力添えをありがとう御座います」
呆然として気が付けば、【本日の主役】。そのたすきを掛けられている。
しまった。ウェイウェイ降り注ぐ祝福に、一瞬ポカンと乗り遅れた。
ハッとして立ち上がり、礼を述べる。
感謝は大事。
《おめでとうコール。慣れてないと、( ゜□゜)ってなるよね》
《キョドらずアイサツできちゃう、姫さま偉いお!》
《お育ちがいい》
『ヒール』はこれからモリモリ使う。鍛えねば。
でも、こうして現実とゲームでスキルの輸入、逆輸入が起きると努力を認められているようだ。じんわり嬉しい。
一度どこかで使い込んだスキルは再取得をしやすくなる。頑張るほどに結果がリンクしてくるのがこのゲームの醍醐味だ。
…まあ、RPGなのに死亡すればキャラロストする仕様だからな。
【彼、彼女は、確かにここに残っている】
そう失われたアバターとの絆を感じてしまうのが、プレイヤーの胸を打つところらしい。
サリーのような先行者で、炭鉱のカナリアとしてキャラロストを繰り返しているお役人ちゃんらがそー言ってた。
だからたつみお嬢さんがこっちで『ヒール』を熟達すれば、本体のオレもスキルが伸びる。
スキル石の需要が高いのに、リアルじゃ纏めて練習する機会がないスキルが多すぎ問題。
分担してスキルを伸ばしてくれる、たつみお嬢さんたちアバターに感謝だ。
ホント足を向けて寝られんよな。
盾士のスキル群の中だと盾を持ってなくても使える『シールド』なんて、後衛でもメモリを捻り出しても捩じ込んでおきたいお役立ちスキルだ。
日本人は素のHPが雑魚いので、積極的に履修させておきたい部類である。
命大事に!コレ重要。
「今回は勉強になりましたわ。
わたくしも励みませんと」
頬に手を当て、恥じらう仕草。ほう、と大きなため息ひとつ。
こうして先輩に混じって前衛に立つと、我が身の未熟に愕然とするばかり。
普段守られ慣れているというのに、見るとやるとでは大違いだ。
楽勝だった盾術の初級コースは、さわりだけだからだったらしい。
そうだよなあ。
体力錬成がメインだったもんな、授業。
なまじたつみお嬢さんのボディがオレ史上かつてなく優秀なんで、もっとイケそうな気がしてたわ。思い上がりが赤面ものだ。
野良パーティでの盾職の機微は、一朝一夕で身に付くものじゃなかった。
勉強になる。
「いやいや、司城ちゃん。俺ら『カバーリング』発動待機していたのに、1回しか使うことなかった。立派だよ」
「だよなあ。前衛志願の女の子って、前のめりな野郎と違って視野が広いよな。
後衛を守れ!って怒鳴らなくてもいい新人教導は久しぶりだ」
《*`ㅅ´*)ドヤッ》
《褒めて育ててくれる先輩は良い先輩》
《でもあれだけ好き勝手ボコされてもへこたれない姫さまって心がお強くね?》
《顔は可愛いのに》
《正に撹拌世界的貴族メンタル》
《ヒッメはそこまで蛮族じゃないよ!》
《えっ?》
《←あっちの貴族、腸がはみだしたの治してその直ぐレイドボスの首を取りに行く頭島津じゃん?》
《なにそれ、怖い》
「俺もレベル30越えた頃、先輩らに首根っこ掴まれてこの【ロックバーストの洗礼】を受けたけど、漏らしちゃならんものまで垂れ流したわ」
「もー盾は辞めるって3日は、愚痴とくだを巻いたよね!
当時はお酒を飲める年齢でもなかったし!
前衛界隈は、心を折ってくる理不尽な教導が多いから。
辛くなったら連絡してね。愚痴ぐらいは聞いちゃうよ」
「あ、俺も渡しとく」
「俺も俺も」
先輩らのアドレスを全員もらえてホクホクだ。
後輩、優しい先輩、いっぱい好き。
「まあ、ありがとう御座います。
甘えて、本当に連絡してしまいますわよ?」
「うん。頼ってくれるとそこは嬉しい。
君がこれからやる教導は、ひたすらど根性が試される。
盾職、ホント辛いから。無理にストレス溜めるのは良くないぞ」
重装盾の先輩ったら、辛いなにかを思い出したのか目が虚ろだ。
その背がパシン!と叩かれる。
「はい、そこ!
やる気ある後輩をあまり脅かさないで。
盾の裾野が増えてくれるの、後衛は凄く助かるんだからね?
お姉さん、応援しちゃう!
ってわけで司城さん、ステータス伸びたー?」
《ふーん。先輩らビビらせてくれるじゃん?》
《トラウマっておられるのでは?》
《理不尽といえば、魔法使いコースはデブ活授業あるよ(´・д・`)》
《それただの調理実習じゃん》
《我アバター、メシマズ部族。ダークマターの作り手なりけり。一生他人さまの料理を食べて生きたかったっ…!》
《あーね》
《暗黒水の使い手さんチーッス!》
《自己魔力が物質に溶けやすい、特殊資質持ちっているよね》
《錬金術を極めるとその辺コントロールしやすいからガンバ☆》
クエスト!
泣く子も黙るロックバースト!
盾使いの試練その1 をクリアしました!
功績ポイント 50点が贈られます!
目標のレベル+5を達成しましたので、スキル錬度ボーナスが大幅に加算されます!
ダイヤモンドを磨くのはダイヤモンド。
試練は、あなたを真に輝かせる。
称号 ダイヤモンドの原石たち が贈られます!
《お。クエストじゃった》
《となると戦闘職の試練その1。昭和世界はロックバーストなんかな?》
《懐かしい。撹拌世界、俺のダイヤモンド試練その1は猪鹿の氾濫だった》
《←農作物の被害でかそう》
《先輩冒険者が、伸びた俺らの鼻をポキンとしてくるイベントなー》
《姫さまはにゃんにゃん尻尾を立てて参加してたから、ダイヤモンド試練モノだと気づかなかったにゃん》
《同意にゃん。この手のイベント、注射を嫌がるイッヌのようになったわ、ワイ》
《安全にスキルを伸ばさせてくれる良イベントではある》
《試練クエスト、昭和世界でも発令されるんだな。覚悟しとくか。 |入口| λ............トボトボ》
人懐こい先輩に本日の成果を問われたので、クエストリザルトを回収したついでにステータスを開く。
「まあ!『風鎧』や『シールド』らが随分と伸びていますわ!
『盾術・基礎』も!
そしてレベルは34です」
ダメージがやけにでかいと思ったら。ロックバースト、経験値多いな?!
それと『堅牢』とかの種族スキルもニョニョッと伸びている。
たつみお嬢さんは竜族の気が出てるので『頑強』の上位スキル持ちなのだ。
ふむ。ひょっとして後回しにしようと考えていた『怪力』の発動体をメインに乗り換えられるのでは?
無理に使うと体を自損するのが、『怪力』等のブースト系スキルの怖いところだ。
安全策の『治癒』はないが、今回のクエスト達成ボーナスが旨い。
受ける身体ダメージをコントロールしてくれる、『アクロバット』に星がついた。
……イケるか、これ?
しかし、はー。
ハードなのは、ダイヤモンド試練だったのかー。
未達成だった課題を回収していたことに、ふつふつと感慨が湧く。
前世のダイヤモンド試練その1は、レイドボスに乱入されて不成立だった。
なので【ダイヤモンドの原石たち】は取りっぱくれていた称号だ。
って。……よく生き残れたよ、前世のあいつ。
駆け抜けていた時は必死だったけど、こうして思い返すと波乱万丈にも程がある。
ボンボンのくせ命根性汚くて偉かった。
そうだよ。なんで初めてのレイド参加で、それまで情報なかった徘徊ボスとカチ遭わなくちゃならんのか!理不尽!
情報がなかったのは、当時セイランの冒険者ギルドが壊滅してたんで仕方がなかったけどさ!
その反面。リュアルテくんは、ダイヤモンド試練は全面カットだった。
ダンジョンマスターへの忖度ェ。
……いや、あれは格差というより、すぐ熱を出しては寝込む虚弱ボーイへの配慮だったのかもしれん。
そうか、GMにも慈悲の心はあったよな。
「なんか一気に伸びることってあるよねえ。司城さんはこの調子なら、来年は実力で役職持ちになれるかも。
…来年のことを言えば鬼が笑っちゃうかしらね」
今年の鬼役は配信者枠でお客さま待遇だもんな。
こうして事前テコ入れがあったくらいだ。
撹拌世界といい、昭和世界といい、同じ得物を扱う先輩冒険者の頼もしさが味わえるミニイベントは良いものだ。
特に回避&『パリィ』盾と、正統派重装盾の先輩2名を両方用意してくれたのが、気が利いている。
オレ、盾の進路で少し悩んでいるんだよなー。
たつみお嬢さんは重装盾コースに行くべき身体能力だけど、如何せんタッパが足らん。
特化せずにオールマイティにこなせればそりゃあ理想だけど、あれもそれもと手を伸ばして中途半端になるよりはまず得意をひとつ伸ばすのもアリ。
しかし、たつみお嬢さんは魔力も強い。人より多く練習できるのがこのアバターの強みだから、欲張って全部伸ばすのも手だと思うと。
ええい、尋ねてしまえ。聞くは一時の恥!
「先輩の皆さま。盾使いとして有用なスキルはなにか、アドバイスはありますかしら?」
迷える子羊に導きの手を!
「ん?んん、そうだな。
野良ダンジョンに興味あるなら、盾士のジョブにあるスキルの2つは、早めに星5以上にするといいな。
島外への遠足。【特別授業】が受けられる」
《特別授業とな》
《オノゴロ島は太平洋側の野良ダンジョンが出現した小島らにもゲートつないであるぞ》
《へー!しらんかった!》
《赤札持ちは、申請したら授業でいけるぞ》
《今ホットなのは鳥宿島なー》
《どんな感じ?》
《鳥宿はレベル5相当だけど、魔物の湧きが安定してる》
《教材として扱われるにはよさげ》
《鳥宿界隈。エレベーター設置に佳代子さまがいらっしゃってたぞ。お前らいい子にしておけよー》
《ガタッ!》
《|‾᷄ω‾᷅)و✧》
《あのな。姫さまにはデロ甘な顔しか見せんけど、佳代子さまの護衛のお人ら基本、超おっかないからな?》
《わかってる!》
《遠くからお姿を拝見出来れば、それで幸せなので!》
「盾士が極めるなら『盾術・基礎』だな。
スキルに『基礎』がつくのは、専門スキルの精華だ。
基礎モーションの崩れを矯正してくれる教導モード。
君もそれで訓練をしているだろうけど、このスキルの真骨頂はそこじゃない。
冠がつくまで使い込み、上位スキルになってからが本番だ。
それまでの期間は集めたデータを分析し、君が所持するスキル群を『盾術・基礎』が学習するための時間でもある。
上位スキルの『盾術・サポート』は専属オペレーターとして、君の好みと状況に合わせたバフを盛ってくれるようになる」
ほうほう?
『盾術・基礎』は盾の動作モーションがついた訓練システムと、盾の整備マニュアルを詰め合わせたセットになっている。
盾の初心者が困らないよう手取り足取り世話してくれる、そんなスキルだ。
こいつ、上位スキルがあったのか。
「そうなのでしたのね。知りませんでしたわ。
でも確かにスキルを重ねていくと、煩雑になりそうですもの」
盾士は人間を相手にするジョブではない。
トップスピードで突っ込んできたり、巨体な体躯で押し潰してこようとする魔物を真っ向から受け止めたり、流して崩したりする。それがパーティの壁役だ。
魔物の脅威から身を守るため、前衛はバフを幾重にも盛っていく。
いつも使うスキルをAIが自動化してくれるなら、立ち回りに余裕が出そうだ。
「中学じゃ、まだ授業で習ってなかったっけか?」
「遠い記憶すぎて覚えてねえ」
「盾術中級者コースをクリアするぐらいから、『盾術・基礎』を入れるよう指導されたよ。
ほら、野良ダンジョンでの活動を目指すなら、メインは他のジョブにしろ盾の取扱いは習っとく人も多いし」
「んー。他の体育スキルのお勧めは『アクロバット』だけど、盾の取り回しを見ていた感じ、司城さんは持ってるでしょ?
それなら後は『精神耐性』だね。そっちもあるかな?」
「ありませんの」
欲しいです。
「んじゃソレだ。耐性スキルは枝分かれしているけど、大元はコレだからあると安定するよ。
次のジョブで戦士を狙うなら、これだけは先に入れておくべき」
「先輩たちは戦士ですの?」
いい機会なので前衛経験者にインタビューだ。
クリスマスでゲットしてきた盾士であるが、昭和日本ではどうも高校から先のコンテンツだ。生きた情報を仕入れておかなくては。
サユリの『天気予報士』やジャックの『樵』なんかの職能は、昭和世界にもあると聞いた。
しかし他のゲームでも、マルチジョブへの道は連なる山に似たものだ。登った先にも山がある。
おそらく基本3職のどれかを経てからじゃないと、本来戦闘2次職は出現してくれないジョブっぽいとオレはアタリをつけている。
基礎の履修をしておかないと将来的に詰む恐れがある。基本は大事だ。
「盾使いは大抵そうだな。戦士は体を養うスキルが揃っている」
「『内臓強化』とかは魔法使いにこそあるべきスキルと思うけどねー。
カロリー補給が楽になるし」
「いや、前衛はどうしたって怪我はするだろ。『治癒』の機会が増えるなら戦士の『内臓強化』でもないとあっという間にガリるって」
「わたくし『怪力』の発動体を入手しましたけど、いつ組み込むべきでしょうか?」
「悩ましいね。覚えれば凄く使える技能ではあるけど、それを上手く運用するなら他の習得コストが重いよソレ」
「ブースト系のスキルは、それに耐える肉体ありきだしな」
「『骨格強化』と『筋肉強化』あると怪我をしにくい」
「でも倍率を少し落として、負荷トレーニングするのにはうってつけじゃん?」
ああだこうだの喧々諤々。
ミーティングは小会議室の貸し出しいっぱいまで盛り上がった。
スキルの最強カスタム論とかメモリ節約術とか、冒険者の大好物だ。
驚くぐらいに時間が溶ける。
《こうして話を聞くと、スキルを片っ端から入れたくなっちゃう ( ´△`) 》
《でも、メモリを節約してもジョブは入れたい。リアルは特に》
《ボーナスHP、MPは欲しいよな。耐性もだ》
《気力でデバフを振り払えん、一般庶民は耐性がいるのじゃ》
《ホプさんたちもデバフには弱いよな。 ♪( ´∀`)人(´∀` )♪ナカーマ。オタガイ、ガンバロ》
《非番のホプさんたちが、訓練だからって若葉詣でに積極的に付き合ってくれるの助かる》
《ローリングストーンが資材に化けるパーティですね》
《ホプさんたちとずっと組めるなら治癒士一択なんだけどなー。俺氏ずっとメイスと盾の前衛だったんで頭を抱えとる》
《対応スキルないのあるある》
その後、鬼の砦として組まれた本拠地の見物をして、衣裳合わせ、明日の打ち合わせしてから解散となった。
オレは下っ端なモブ鬼なので、戦略なしに暴れる枠だ。
鬼は身内で争うし、連携もしない。
なので大暴れしても、結局は英雄たちに討ちとられるのだ。
……うん、いいな!
これは責任もなく一番楽しそうなところに回されてしまったぞ。
明日が来るのが待ち遠しい。
コメント、いいね、評価、誤字報告等、感謝です。
まだ全貌が解明されていないスキルツリーはわくわくしますし、2周目からの効率厨プレイ、あるいはゆるゆるな寄り道プレイも楽しいものです。
趣味分野のスキルとか、無駄にいっぱい出したいですね!
考察慣れしているプレイヤーなら趣味スキルに、思わぬ使い道を見出だしてくれそうです。




