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260 にゃんたること




 2月2日。にゃんにゃんで猫の日だ。


 オノゴロ島には猫が多い。船と猫は好相性なので、そのせいだろうか。


 登校途中。あ。と、思うや否や、白黒茶色の影が四方に散る。

 ううむ。見事な逃げ足ぶりよ。

 通学路にたむろする島猫たちには、今日も目が合うなり逃げられてしまった。


 ああいうのを蜘蛛の子を散らすよう、と言うのだろうな。

 とても悲しい。

 飼い主さんと散歩していてご機嫌だったイッヌはひっくり返って全力で腹を見せてくるし、にゃーたちにはまず触らせてもらえないのがたつみお嬢さんの日常である。


 『威圧』が外に漏れないように、意識をきゅっと閉じておく。

 少し油断すると竜族ボディはすぐこれだ。

 動物は勘が鋭いったら。


 みんなー。たつみお嬢さんは怖くないよー?




 しょぼしょぼと学校に登校し、朝一番にカウンターに寄る。

 クエストの依頼報告をして、入金を確認。そしてその受け付けの間に、MPも売るのだ。

 朝ごはんをしっかりと食べてしまったので、その分消費しとかんと。

 あと忘れてはいけないのは、見終わったビデオテープの返却手続きだ。

 事務員さんに纏めて処理をしてもらう。


「そうそう。司城さんには、封書を預かっていますよ」

 はい、と茶封筒を渡される。


「ありがとう御座います」

 受けとった封筒の表には、司城たつみ様との宛名された肉筆の文字。

 裏面は節分祭実行委員会の印がスタンプされている。


 ぺらり。封筒を開ければ、【重要なお知らせ】と印字された紙一葉。

 呼び出しの連絡事項だ。

 時と場所の指定は、昼食後の第三体育館とある。


 はて、なんだろな?


「姫ちゃん、おはよー。どうしたの?」

 廊下で花ちゃんとばったりだ。

 花ちゃんと同寮同室でニコイチな鶴ちゃんは、所属する部活の追い込みで忙しいのか姿がない。


「ご機嫌よう、花さま。

 その、委員会からお手紙をもらってしまって」


「あー。鬼役の召集の赤紙かー。いいなー、おめでと!」

 おお、これが噂の!


「だったら、嬉しいのですけど。花さまは?」


「それ、聞いちゃう?

 十二将入りがどうこうって、うちらビックマウスしてたけど一般鬼枠ですら例年通り選考漏れだよ!

 高校生になったら目標は、パワーとHPを増やすことだね!」

 花ちゃんはムムッと唇を尖らせる。


 夢は大きく語るのが冒険者なんで、それはまあ。

 出来ないと嘆くより、大口を叩くくらいで丁度いい。

 花ちゃんのカラッとしたとこ、好きだなオレ。


「ほら。私だってまだ、背は伸びるだろうし?

 そっちの望みをかけて、筋トレは適度にしかしてこなかったのが敗因なんだよ。

 わかってる」

 ………ああ、小柄だもんな花ちゃんは。

 

「花さまは沢山走り込みをなさってますし、魔法使い以外なら斥候向きの器用さとスピードと思ってましたわ。

 ファーストジョブは魔法使いとして、セカンドジョブは戦士を目指しますの?」

 小柄で健脚。

 花ちゃんは後ろにキューっと引くとバビュンと走るミニカーの玩具味がある。


 現役冒険者な花ちゃんママは、戦士職があるとは聞いているから目指す目標はその辺りだろうか。


「その通り!目指せ170センチ以上、70キロの女魔法戦士!」

 お、おう。

 花ちゃんや、+20センチオーバーは難しくない?


 ……佐里江さんも成人してから背を伸ばしたそうだけど、あれはアバター同化の恩恵だからなあ。


《よもや!》

《花ちゃん、でっかいにゃんを目指すのか》

《経験値さんをガン積みしたら、なんとかなりそうな気がする?》

《冒険者は一般人より背が高くなるしな》

《アラフィフになって身長が夢の170センチ台に乗ったおっさんが通りますよ》

《女子は小さいのが可愛いと思う俺は、きっとロートルなんだろう…》

《骨格が立派な方が魔法使いとしても大成しやすいしね》




 昼食後。時間になったので呼び出されるままのこのこと赴く。

 5分前行動だ。

 第三体育館はワックスを掛けたばかりの匂いがした。一般的な板張りの体育館だ。


 島の学校には普通科の学生さんもいるわけで、第三体育館はとても普通だ。

 バスケのゴールがついていたり、バレーのポールが立てられるタイプ。

 冒険者学科の体育の授業は、時間ごと修復が掛かるようなダンジョン床の運動競技場で行われる。

 なので体育館に足を踏み入れるのは初めてだ。

 少しばかり新鮮なので、ついキョロキョロしてしまう。


「一般厄鬼役、エキストラ召集の皆さんはこちらです!」

「辞退申し入れの方はリストをチェックしましたら、このまま帰られても大丈夫ですよ」

「時間になりましたので、説明会を始めます!」

「これからプリントを配布します。1枚ずつ取ったら後ろの人に回してください!」


 部活や役職により、事前準備で活躍すればするほどに鬼役は回ってくるものらしいが、そういう者は大抵修羅場の追い込み中だ。

 【このクソ忙しいのに鬼役までやってられるか!】

 そんな風に鬼気迫った先輩らが、【鬼役辞退!】と一言だけ叫んで即消える姿も見受けられる。


 オレは同じく呼び出しを食らった中学生のグループと合流する。

 ガヤガヤと列に並んで体育座りだ。

 豆撒きイベント。鬼役側のルールの説明を傾聴する。


「お集まりの皆さんにも、なにかと事情がありますでしょう。

 エキストラの厄鬼役は強制ではなく、任意で辞退も出来ますが、鬼衣裳のバトルドレスは配布の品です。

 衣裳班が心を尽くしてくれていますので、出来るだけ参加をお願いします」

 オレはもちろん了承だ。

 ウキウキと明日の説明を聞く。


 そして聞いているうちに、氷を飲み込んだ気分になった。




 【鬼】は外。

 島から追い払われた鬼たちは、どこに行くというものか。


 折しも今は如月のはじめ。

 学校を卒業し、就職や本土の学校へ入学するため島を出ていく生徒たちが過ごす月日はあと2月を切っていた。


 ダンジョン内は空調が整っているのに、どこかうすら寒さを感じる。


 選考された鬼役は、腕っぷしの強いもの、イベントで功績を残したもの。

 そして今年卒業し、冒険者として島を出ていく主役たちだ。


 冒険者が今一番必要とされているのは黄泉比良坂。

 国内屈指の激戦区だ。


 最初からそちらに行くものは少ないと思いたいが、島の冒険者クラスを【卒業】したものは赤札クラスのお墨付きが自動でつく。

 そして赤札は、野良ダンジョンに潜れる資格があるということだ。

 戦況によってはギルドランクに見合った義務を果たすべく、召集されることもあるだろう。


 いやだなあ。

 口の中が乾いてくる。 


「鬼衣裳配布でバトルドレスの予備が出来るの助かるな」

「武器防具。島外で買うともっと高いらしいよ」

「学生の手作り品とプロの作品だったら当然だろ」

「防具だって、どうしても消耗品になるから」

「去年、一昨年の卒業した先輩たち。鬼衣裳もらえてずっとズルくて羨ましいと思ってたけど、自分の立場になるとありがたくてさ。愚痴ってたの恥ずかしくなる」

「恥の多い生涯を送ってきました?」

「鬱になるから人間失格の引用はやめろ」


 こうして集められると、中卒で来年から働きに出るって同学年も多く居るのが分かってしまった。


 やめて欲しい。

 通ってきた道だから声高く言うが、中学生男子なんて本っ当に馬鹿ばっかだ。


 戦場に連れていくなんて、迷惑になるだけだろ。

 オレらの年の男なんてプライドばっかり高くって、口ほど使えやしないんだからな!

 少くともオレの周りはそんなんばっかだった!


 天を仰いでも、体育館の天井のライトが眩しいだけだ。


 生死を掛けた鉄火場に少年少女を送り込むとか、昭和世界。

 ひょっとして本土は不味いことになってるのだろうか。

 島がほんわり穏やかだったから、GM節を甘く見ていたかもしれない。


 唯一幸いなのは鬼の中学生女子は、たつみお嬢さん以外いないことだ。


 月の満ち欠けに体調が左右されるのが女である。

 なのでその間の女子は強制的に習熟に時間が掛かる生産スキルを取る授業が入ってくるので、未熟な中学生のうちに赤札を取るのは難しいのだ。

 島での高校への進学率は、男子よりもどうしたって女子の方が高くなる。

 


「お前らが居なくなるの、あと2月もないんだな」

「なに?寂しがってくれちゃうわけ?」

「馬鹿言うな。当たり前だろ」

「…おう」

「3年したら、追い付くから」

「これで参加できる島の行事も最後になるのかー」

「俺さ、島に来るまでまともに学生やれるとか思ってなかった」

「楽しかったよね、高校の3年間。卒業式には泣いちゃうかも」

「そうだな」

「お前、どこ行くか決めた?」

「やっぱ黄泉比良坂だろ」

「学生中に返せたけど、奨学金分の御礼奉公はしとかないと」


 ひそやかな噂噺を耳が拾う。



 訳あっての大盤振る舞い。

 鬼衣裳が配布なわけだ。


 飛び立つ若鳥たちを見送る者は、戦装束の一着くらい持たせて送り出してやりたいのだろう。

 盛大な節分イベントは、島ぐるみの談合だ。


 冒険者は狩猟従事者であって、自衛官でも軍人でもない。

 バイクどころか鉄砲所持の許可も出ない未成年が公に、野良ダンジョンへ潜ることが許されている事態が怖い。


 ……そういや昭和って、2000年代に入る前か。

 終末論やアンゴルモアの大王とかが、まことしやかに囁かれているそんな時代だ。

 おお、なんて世紀末。


 でも中学、高校生くらいが一番ダンジョンに行きたがる年齢だってわかるんだよなー。

 刹那的で危険なものほど魅力的で困るわな。


《嘘だろ》

《こいつら中卒、高卒でダンジョンウォーに参加するわけ?》

《心が痛い!》

《GM!少年兵は、少年兵は不味いってばよ!》

《島の外、どうなってるんだ?!》

《せやかて、闇バイトするよりずっと健全やん?》

《下に兄弟がいる母子家庭とかなら断然アリでしょ。危険でも合法で食いっぱぐれないのは助かる》

《そうそう。中卒で家族を養うなら、なりふり構ってられんもんよ》

《…なんかさ。俺らのなかにも修羅場潜ってきたおっさんが紛れていやしない?》

《人生50年。色々あるよね☆》






 コメント、いいね、評価、誤字報告等、感謝です。


 鶴ちゃんはお篭りさまで先輩たちとヒンヒン『機織り』してます。



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― 新着の感想 ―
鶴ちゃんの機織り……うっかり覗いたら飛び去って行っちゃいそうw
姫様はどうだろう? 流石にダンマスの姪御でおそらくご実家自体がやんごとない感じだから、高卒まではさせてもらえるだろうか。 それとも、飛び級的にこのまま黄泉平坂行きになってしまわれるのか……姫様みたいな…
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