25 ゲンゴロウとタカアキラ
散々飲み食いした後で、場所を移してデザートだ。
エントランス2Fの飲食スペースは、まだテーブルや椅子といったものしかなくて広々としている。
腹がくちくなってテーブルと椅子があるなら、魔石をじゃらじゃらするのはいつもの日常。
本日早々に【やることリスト】の『エンチャント』百回しよう!をクリアしたら、次は千回目標が出てしまった。
運営、エンドレスマラソンさせる気だな?
報酬は77功績ポイントだったんで、高い買い物用に貯金しとく。
お持たせでクロフリャカ嬢が持ち込んだのは、彩り豊かなドーナッツの群れだった。
1つは小ぶりで愛らしいが、種類をまんべんなく食べてね?と、その手の趣旨が読み取れるタイプの菓子だ。
ドーナッツにはコーヒーが恋人だけど、青少年の健やかな育成のためと夕方以降はコーヒーを買わせてくれなかった売店で他の飲み物を補充しておく。
「魔力消費しないとこのままじゃ太るわ!」
とは、しゃかりきに魔力込めするアリアン嬢の弁。いや、そうやって魔力をガンガン消費するから、周りに食べ物貢がれるんだぞ。
そんなこんなでTRPGの集い2の陣だ。
今回は本物のお嬢さんたちが加わって賑やかなことになりそうだ。
今日は!遊ぶと決めたんで!
もともとその予定だったけど、エンフィが不穏なフラグを建てたせいでなんかもうドキドキだ。
頼むから素直に楽しませてくれ。
「ヨウルたち、ダイスに弄ばれていすぎじゃないかしら。主にキャラの制作において」
事前準備で前のセッション記録に目を通しているアリアンの肩が震えている。
「笑ってくれても構いませんのよ?」
やめろエンフィ、淑やかな仕草で追い討ちをかけるな。
サブGMのトト教官が突っ伏死んだぞ、人でなしめ。
「りゅーくん、かみの毛キラキラでお姫さまぴったりね!」
「どうだろうな。タツミ姫はニホンの方だから、クロフリャカ嬢のような黒髪じゃないか?」
いいよね。黒髪の大和撫子。絶滅危惧種は希少価値。
「えー。お姫さまはキラキラがいいなあ。女の子の憧れよ?」
このクロフリャカ嬢、押しが強いぞ。
キラキラのお姫さまか。それでもいいかな?
「じゃあリクエストどおりタツミ姫は、実は金髪だったことにしようか」
「わぁい!」
「タツミ姫、清楚系じゃなかったんか。
レベル1の段階で『体力』23なら、ぼんきゅっぼんの恵体で金髪なんだろ。派手目の美少女になってしまう」
おまけに頭も弱い子ですよ。ある意味完璧だな、我ながら。
「アリアン嬢とクロフリャカ嬢は初めてのセッションでキャラロストをしたと聴いたが、新しいキャラを作ってきたか?」
今回もGMはアスターク教官だ。お世話になります。
2人はGMの方へキャラシートを滑らせる。
「はい、私はむきむきゴリマッチョマンのインテリで、魔法使いの方です」
「クロはマッチョマンの拳で殴る方です!『探索』もします!」
「…………そんな顔されても仕方ないのよ。ダイスばかりは」
見よ期待を裏切られた男子3人の絶望顔を。
「ちょっと面白そうだなって思っているだろアリアン嬢」
その顔は、しょぼくれた中年ヤモメを嬉々としてロールする妹そっくりだ。
「クロちゃんのお兄さんたちと卓を囲んだときは2人とも女の子だったのよ?
私に次いでクロちゃんがロストした時のメンバーの絶望ぶりが凄かったから、確かに次は頑丈な男だったらいいのにって思ったけど。
ええ、楽しそうよね?」
「なにこのマッチョパーティー。貧弱なのシノブだけじゃん!」
キャラシートを覗き込むヨウルの悲鳴。
「良かったまともな頭脳が増えた。…出自ダイスは、事故ってるが」
クロフリャカ嬢は、
『あなたは武者修行の旅の途中で運命にあった』
『あなたは生き別れの家族がいる』
『あなたは身分違いの友がいる』
こちらは、穏当。問題はアリアン嬢だ。
『あなたは乙女である』
『あなたは失恋マスターだ』
『あなたは主君から密命を受けている』
「私はオカマプレイをすればいいのよね!」
ウッキウキだなアリアン嬢。心が強い。
「普段は凛々しい殿方そのもので、時折柔和な一面を覗かせても、愉快なことになりましてよ?」
小鳥が囀ずるような軽やかな声音。エンフィのお嬢さまは中毒性がある。
そろそろ違和感がなくなるからその口調やめろ。
「やだ、エンフィ天才!そっちにするわ。
とりあえずあれよね。心が乙女で失恋マスターなら、出てくるイケメンに尽く恋に落ちてフラレるのよね。
1セッション1恋1フラレを目指すわ」
「合流はどうする。ギルドで紹介で野良パーティーか?」
「男の子たちの設定が楽しいから、混ぜて欲しいです。
タツミ姫の追加の護衛とか、いいなって思うのだけど、どう、クロちゃん?」
「いいよ。クロはお姫さまと身分違いの友にする」
おや、ご指名か。
「わたしでいいのか、クロフリャカ嬢?」
「もっとお姫さまらしくいってほしー」
ええ?
クロフリャカ嬢のキャラ名は、っと。
「…タカアキラ卿は、わたくしとお友達になって下さいますの?」
「「我タカアキラは騎士にあらず。
然れど終生裏切ることのない友として、高きミンネを姫に捧ぐ」
みたいなことがあったのよ、きっと」
むふーっと、クロフリャカ嬢の鼻息が荒い。
「いいわねえ、ロマンよ。
底辺の身分から這い上がった男が、美しい姫君と出会い、心を通わせ、友情を結ぶ。
恋愛とか抜きなら、ゲンゴロウにも騎士っぽい誓いを立てさせたいわ。
機会があったら、ねじ込もうっと」
ゲンゴロウはアリアン嬢の新キャラね。おけ。
「シノブだってやりたいですが?!
男なら誰でもそうでしょ?」
そうだな。中身がオレじゃなかったら同意してた。
「シノブ嬢は、貴重な手弱女枠だろう。この筋肉パーティーでは、特に!」
「間違ってる!いや、間違っていないけど!」
「よし、タツミ姫の護衛が増えたところで、シティシナリオと、お使いものどちらがいい?
難易度は同じくらいだが、シティシナリオは、生産スキルの習得機会を用意した」
皆で顔を見合わせる。
まあ、それならシティシナリオを選ぶよな?
「平和というのは素晴らしきもの。
まどろみの世にある大都市エドは、大衆文化が大輪の花を咲かせている。
隆盛する小劇場では日夜、カブキ踊りや、ジョウルリ劇が披露され、草双紙の類いも盛大に刷られているという。
君たちが不幸にも遭遇してしまったのは、その題材にもなってしまいそうな、おぞましい殺人だった。
まだ冒険者としては駆け出しの君らには、信じられないことだろう。
憎悪や金目当てでなくとも、人を害そうとする輩はいるのだ。
その日は小雨が振っていた。
と、いうことで、ストーカーに付け狙われる予定の被害者を選べ。2回振って、数が少ないヤツな」
ワア、GM悪い顔してるぅ。