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247 ワンコインのエール




 蚤の市を練り歩いた後は、合流してきた花ちゃんを加えてレベ活だ。


「やっほー。花ちゃん、どうだった。久しぶりのお母さんは」


《お、花ちゃんもパーティINか》

《おっきいニャンのいる風景はいいものよ》


「元気、元気!

 娘の特権でダンジョンに連れて行ってもらったんだけどね、昨日はギリギリを越えてレベルアップしちゃったよ!」


「えええ、大丈夫だった?!」


「【一度はレベルアップ熱を体験しときなさい。これも経験よ】ってスパルタされたー!

 後はお母さん十八番の、里芋の煮っ転がしを習ったり?

 次の遠征まではゆっくりできそうなんで、今日のディナーはおとうさんに時間を譲ってきた!

 だから今夜は寮に帰るよ」

 ブイとピースサインの花ちゃんは、見たことないアクセサリを身につけている。

 魔石を咥えた狼のブローチだ。


《里芋、いいなあ!》

《おでんに入っているのが好き》

《HPさんは無花果や里芋の皮むき、手が痒くなるの助けてくれなくて悲しい》

《『解毒』を使いナー》

《アレ、毒判定なのww》


「花さま。狼さんのアクセサリ、素敵ですわね」


《月を食べる狼は、中二心を擽られるセンス》

《ハティのアクセなら『追跡』かな?》

《いや、月は魔力の象徴だからMP関係かも知れん》

《ハティ?》

《北欧神話の月を追う方の狼。太陽はスコル》

《へー? ナンデソンナクワシインダロ》

《サブカル沼住人は、散文のエッダが履修項目なんよ》


「でっしょー?!コレ、お役目を果たした、母さんのお下がり!

 ずっと狙ってたけど、へへ、ついに貰っちゃった!」


「おっ、なら【幸運の】アクセだな。

 初めまして、茉莉花八雲だ。花屋敷先輩?」

 スキルを定着させてから人に譲られるアクセサリは【幸運の】と2つ名がつく縁起物だ。

 それだけの冒険を先代と共に潜り抜けてきた狼は、誇らしげに胸に飾られている。


「初めまして!よろしくねっ!

 まつりか…まつりん?

 外国のお人じゃなくて2世ってことでいいのかな?」


「日本語を喋っているだろーが」


「あはは、だよねー。あ、角生えてるね。ちっこいけど」


「これから大きくなるんだよ!」


「メット被るのに邪魔じゃない?」


「……そしたら、まあ『変化』かな」


《学生用の白ヘルメットは脅威のダサさ》

《あれはどうにかならんものか》


「角は魔法使いの杖のようなものですもの。頭装備はお互い悩みどころですわね」

 オレも角を出しているとHPが増えたりスキルが出るから、ヘルメットをするか『変化』を解くかで毎回悩む。


《角は単なるお洒落にしか過ぎん種族もおるんやで》

《あ。そーいう種族も転生したら、変わるぞ》

《マ?》

《マ。だから転生神殿に【一族で詣でようブートキャンプ】が唐突に始まったもん、うちの里山》


「あ、姫ちゃん。姫ちゃんの動画、母さんも見たってー。

 情報料の支払いに、投げ銭の上限上げろってよ?」

 ハハハ、断る。


《よくぞ、言ってくれたお母上!》

《現地のお人も視てるんだな》

《むしろそっちがメインだろ。ヒッメの実家の事情的には》

《あったね。そんな設定》

《設定言うなし》

《動画上げると、プレイヤー以外のリスナーが多くてビビる》


「………この動画は、ステータス持ち限定とはいえ広く世界に公開されていますの」


「?…うん、そうだね?」


「わたくしの動画は日本国内より、界外のリスナーさんが多いらしくて。………そうですわよね。

 国の大事な子どもたちが元気にしているか、困っていないか、親御さんは気になりますものね?」

 動画編集アップロードしてくれる編集Pが頼もしいのをいいことに、放置してたら視聴者数がわけわからん数字になっていて目をむいたわ。

 いくらたつみお嬢さんが可愛くても、取れる数字じゃなくて震える。


「やっば、私界外デビューしてた?!

 ……いや、猫アバターだからセーフだ!」


「動物さんのアバターは、今思うと正解でしたわ。そうでないとご迷惑をかけていたかもしれませんもの。

 わたくし、こんなにリスナーさんが増えるなんて想像していなくて。

 特に企画を立てるわけでもなく、お散歩風景を流すだけでしたし」

 鶴ちゃんや花ちゃんのような女子中学生の画像を垂れ流しはあかん。


《お散歩=戦闘訓練》

《この緩さが作業BGMに丁度いい》

《他の人のプレイ動画はもっと見たいしかないが?》

《今んとこ島暮しの日本人プレイヤーで配信してくれるの4人だけだもんなあ》

《そういや昭和は個人情報、ゆるっゆるだったっけ》


「んで、投げ銭上限は増やせないのかよ?」

 嫌でプー。


「ええ。わたくしの動画は全年齢設定ですもの」

 未成年動画主向けだとお勧めにされていた、一度の投げ銭の最高額は500円という最小プランであります。


「お母さんが、一度投げたらクールタイムで投げられない!って騒いでたー!

 それはー?」


《上限で引っ掛かったら数で押そうとか、花ちゃんママ、俺らじゃん》

《推しを見つけたオタクの反応》

《ママさん的には出張先でも娘さんが見れる拝観料だろ》


「若い配信者、視聴者向けのリキャストタイムですわね。

 投げ銭が加熱すると、どうしてもお互いに見返りを考えたくなりますもの。

 それを防ぐ意味合いがあるそうですのよ」

 まさかこの機能が役立っているとか思わんかった。

 皆、正気か。


「まあ、賽銭箱に投げた小銭程度で【ありがとう】っていう神さんも、【現世利益がなかった!】と騒ぐ参拝者もいねえよな」

 茉莉花くんが細い肩を竦める。

 そゆことです。


《( ゜д゜)ハッ! …姫さまは女神さまだった…?!》

《日本には竜神信仰というものがあってだな》

《はー。ありがたい、拝んどこ》

《いつもご機嫌な姫さまの困り顔はレア》


「こちらのプランは手数料を引かれる代わりに、運営がお金の面倒は全て見てくれるコースですの。

 贈られる拍手の気持ちが、多少のお小遣いとして届く。そんなシステムだと最初に伺いましたわ。

 動画できちんと利益を出そうとするなら、別のプランがあるのですって」


《あっちはセミプロの世界だから》

《異世界まで著作権が追いかけてくるとかホンマ草》

《いっぱんじん編集Pは配信者をガッチリ守るスタンスだよね。商業主義の編集Pはもっとファンキー》

《変形文字フォントテロップでの突っ込みや、集中線が入るのなww》


「そちらを選ぶなら配信者として頑張らなくちゃいけないから、緩いこちらのコースがいいですよ、と。

 なのに想像以上に収益が増えてしまって、どうしましょうと。

 このままいくとかなり良い盾が買えてしまいそうですのよ!」


《えっ。それだけ?》

《我が姫には儂らの応援で、バトルドレスを新調させたいのじゃ》

《おっさんども。ヒッメが困るから自重しろよー。チャリンチャリン》


「ええと、皆さま。

 ご自分にワンコインを追資すれば、いつものおやつがリッチになって心が潤いますのよ。

 お金は大事になさってね。

 わたくしとの約束ですわよ!」

 ダンジョンマスターバレしている辺りからは、ヨコハマダンジョンにプールや体育場といった施設を造る度に【ほんの気持ち】コメでお布施が入ったりする。


 それはいい。それはわかるけど、ホープランプの人たちはなんなの?


 たつみお嬢さんはごく普通の娘さんなんだが!

 中の人バレしているのは日本人グループだけっぽいのに、ゲーム内外両方から小銭が賽銭箱に突っ込まれる。


 まあ、察するところ理由はアレだ。

 リスナー母体数に比べ、プレイヤーかつ日本人の配信者が少ない弊害だろう。


 パイを切り分ける人数が少ないぶん、視てくれる人が多いだけで……それにしたってビビるんだよなあ!


 やはり東京グループと合流を急がねば。

 あっちは人が多いから配信者もそれなり居るはずだ。


《チリツモ富豪かww》

《お金は大事だから、推しに使いたいんだよなー》

《俺のワンコインで姫さまのおやつが豪華になると聞いて!》

《遠慮しないでいいんやで》

《攻略情報無料公開しているプレイヤーの権利だからw》

《それにつけても日本人ちゃんは毎日可愛いお洋服を着るべき》

《ゲーム世界のワシらごときに推し活で負けられんのじゃ!》

《わあ、小銭の音が聴こえそう》

《ヒッメの注意勧告に、誰も了解してないのww》


「そういや、花ちゃん。おばさん、黄泉比良坂行ってたんでしょ?

 どうだって?」


《ガタッ!》

《花ちゃんママ、トップ冒険者?!》

《母は強し》

《物理的にナー》


「んー。守秘義務がどうこうで、詳しいことはなにも。

 ただ、被害は相当あるみたい。

 発表されている死者の数は少ないけれど行方不明者数は多いでしょ?

 そういうことなんじゃないかなって。

 いくら志願者だからってレベル60以下のジョブなしは連れてくるなー!って、お母さんもいつになくプリプリしてたから」


《東京者はヤンチャだなあ》

《同じ板東武者括りとはいえ、武蔵の者はこれだから》

《だって相模者は生産職多めだし》

《水玉工場でキャッキャしてたうちらと、道場通いのガチ勢じゃ、温度差があってもそれはまあ》


「やべえな、黄泉比良坂。名前負けしてねえ」


「力をつけたら挑戦してみたいですわね!」

 階層深い野良ダンジョン。興味あります。

 今回はねっとり隅々まで攻略したい。………ほら、参考までにさ!


「あら、いいわね。その時は誘ってね」


「ステファニーさまと御一緒なら心強いですわ!」

 わーい!戦える『鑑定』使いゲットー!


《ホープランプ傭兵ルートの開拓 クル━━(゜∀゜)━━?? 》

《ヤバい。それまでにゲーム参戦、超したい…!》

《姫さまとダンジョンウォーとかご褒美じゃん》

《今ゲームしている奴らが妬ましい!》

《西方調査団とか、少し前まで貧乏くじだったのにな…》

《なんで?》

《お前ら血涙河を目のあたりにして平気なん?》

《あっ》

《うへえ、胃に穴空きそ》

《人が嫌がることを真面目にコツコツやっていると、いいことだってあるんだろうよ》


「んで、今日の狩場は砲丸ピーナッツかよ?」

 砲丸ピーナッツは外の殻が生体金属製でずっしり重いピーナッツだ。

 これに四方八方から狙われるのが、節分の厄鬼である。


 鬼に陣羽織のバトルドレスが支給されるのもさもありなん。

 HPが半分切ったら【鬼退治】されるんで、追いかけ回される時間が増えるだけと言えばそうだけどさ。


 でもさ。砲丸ピーナッツ殻って、程度は低くても生体金属じゃん。

 石投げされるよりずっと酷くね?


 これっていいの?

 良い子は真似しちゃいけないイベントじゃない?


 流石は昭和。コンプライアンスがガバガバだ。

 そして過去映像にあるような現代では許されないイベントって、どうしてこう楽しそうなんだろう。


 願わくば鬼で参加したいかな!

 いくらオレより強くても、鬼姉さんにこの豆は投げられん!


 ちなみにだが殻の中身はローストした後は専用の機械で丁寧に粉砕される。

 そして香ばしくて風味のいい偽ピーナッツクリームになるのだ。

 ホイップと一緒にシュークリームとかに入っていたら絶対に旨いやつである。


《砲丸ピーナッツはサブレが好き》

《本物のピーナッツクリームより、口当たりが軽いよね》

《砂糖不使用だからってたっぷりパンに塗るけど、実はカロリー爆弾な罠》

《べべべ別に、ゲーム中は十代なんで怖くねーし!》


「実行委員会のお願いには逆らえないよ。砲丸ピーナッツは豆まきに山ほど使うから、ババを引いても仕方ないよねー」

 オレのところに一定数の砲丸ピーナッツを納める強制依頼が入っていたのに気がついたのは朝方。


 鶴ちゃんに聞いたら【じゃあ今日は砲丸ピーナッツ狩りもしようか。花ちゃんにも連絡しとくよ!】ってことになったので、同学年組は同じ依頼があったのではなかろうか。

 年下組はその付き合いだ。


「みんなー!網は持ったかー!」

 おー!と拳を突き上げる、花ちゃんは元気だ。

 小柄な体にエネルギーが満ちている。


《なんで網?》


「持ってねえよ」


「ハっ!気づいちゃった!

 このパーティ、茉莉花くん以外は全員女子のハーレムパーティだ!」


「えー……」

 茉莉花くんよ。なんでこっち見て嫌な顔をするのかなー?

 たつみお嬢さんは可愛かろ?


《なwんwでw ステフより姫ちゃんを嫌がるのww》

《姫さんは、実家に帰れば厄介な保護者がいるに一票》

《なる》

《忠義者な爺やか、武家の女な婆やは居そう》

《茉莉花くん、目の敵にされてないといいね…》


「フフ、貴方たちは愉快ねえ。ピーナッツの網は受け付けで借りましょ」




 

 




 コメント、いいね、評価、誤字報告等、感謝です。


 姫さまの視聴者は今のところ、ホープランプ勢力が一強です。

 知らないことが幸せなことってありますよね……?




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― 新着の感想 ―
[一言] 1.中身あれだぞ? 2.目の座った笑顔のサリーがよぎった 3.後日腹を抱えて笑うエンフィという未来予測 嫌そうな原因はどれでしょw そして最低レベル60推奨に突っ込まれた東京組ぇ…幸仁くん…
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