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245 蚤の市



「あら、ごめんなさい。お待たせしてしまったみたいですわね」

 トトトと近寄る。

 待ち合わせしたのは、ダンジョンタワー西口。

 ドでかいダルマが睨みを利かせる、待ち合わせのポイントだ。


 皆、早いな。

 待ち合わせ時間10分前なのに、ステファニーちゃん、鶴ちゃん、茉莉花くんの3人は、なにやら楽しげに盛り上がっている。

 まーぜーてー!


「いやいや、まだ時間前だよ!」


「あらん、いいのよ。アタシったら楽しみすぎて早く着いちゃっただけだもの」


「おう。今日は可愛くしてるな、エライぞ」

 女子2人の気立ての良さに比べて、茉莉花くんは上から目線だ。

 でも女を待たせる前に、きちんと来てるんだよなコイツ。抜かりがないわ。


「お陰さまで。なんとか自力で頑張ってみましたわ」

 ここは努力を採点されたことだけ受け取っておく。

 茉莉花くんにはヘアゴムひとつで髪をまとめるバリエーションを習った手前、先輩風もやむなしだ。


《田舎風おさげも良かったのに》

《茉莉花パイセンの姫さま専用髪結い教室、ぶきっちょにも配慮されててためになった》

《禿同。専門で配信して欲しい》


「ステファニーさまはいつも華やかになさってますけど……。

 今日の鶴さまは、なんだか大人っぽくていらっしゃいますのね」

 ステファニーちゃんは豊かな髪を女騎士風に凛々しく編み込みで纏め上げている。

 彼女は学ラン美青年 + 甲殻 + オネエで属性多面衝突事故の塊だ。とても目立つ。

 しかしたつみお嬢さん的に注視したいのは鶴ちゃんである。

 賢そうなおでこをスッキリと出して、化粧もしてないのに大人っぽい。

 むむう。女の子は少し額を出すだけで印象が変わるもんだ。

 茉莉花くんの魔手により、鶴ちゃんは現代アイドルっぽく変身を遂げていた。


 こう手間隙掛けた姿の女子2人に、お洒落番長の茉莉花くんが加わるとだな。うん。


 ……髪のセット、諦めず奮闘してきて良かった!

 一人だけモサい姿を晒すところだった。危っぶなー!


 思えば屈強なスーパーストレートヘアのリュアルテくんは楽ちんだった。

 たつみお嬢さんは猫っ毛だ。

 起き抜けなんて、くるんくるん。髪を纏めるのにも一苦労だ。


「や、私は髪の毛短くしてるし、弄るところなんてないと思ってたんだけどさ。

 都会って男の子も違うんだね!

 ………あと、褒めてくれてアリガト」

 鶴ちゃんは恥ずかしげに視線をうろうろ、顔を赤らめる。女の子の照れ顔は健康にいいな。癒される。


《お鶴センパイ、めかし込んどるん?》

《配信アバターに反映されんのは残念》


「ハサミもドライヤーもない道っぱたの時間潰しならこんなもんだろ。

 惜しいな。センパイは少し弄っただけで変わりそうだ。

 赤のインカラーをしてみろよ。きっと映えるぜ」


「ヒエッ、髪の毛染めるのは校則違反だからー!」


「まあ」

 現代とは違う昭和のご時世、髪を染める若い女は色目で見られてしまうからなあ。


 茉莉花くん。黒髪の乙女もオレは好きだぞ?

 撹拌世界は髪の毛のカラーバリエーションが豊富なもんで、そのおかげで黒髪の良さを再発見した。

 佐里江さんにねだった昔の写真なんて宝物だ。

 今のサリーが黒髪だったら、きっと艶っぽすぎてドキドキしちゃうんだろうなあ。


「校則違反。そうなんだよな、残念だ」

 茉莉花くんは天パだけど、パーマもストパーも禁止ですぞよ?


《校則……全ては懐かしい……》

《学校指定の鞄。高くてダサい上、使い辛かったわ》

《ペロッ。これは業者との癒着の匂い》

《←舐めとるのに、匂いなんかーい!》


「発動体の関係で華やかなアクセサリは許されていますから。つい、勘違いしてしまいますわよね」

 茉莉花くんは天然ものの妖艶系美少年だが、本体の麝香氏はしっかりと筋肉をつけたりで、自分に似合う肉体カスタマイズをしているような努力派イケメンだ。

 これで自分だけではなく人を飾り立てることにも余念がない姿を見ていると、美容師は天職だったに違いない。

 むしろサラリーマン時代のこいつ、なにしてたんだろ。


「えっとね。髪の毛弄るの、興味がなくはないんだよ。高校出たら試してみるね」


「おう。その時は連絡くれ。一番美人に仕立ててやるよ」


《やだ、もうこいつ》

《今の乙女ゲーのスチルだった!》


「ねぇ、アタシだったらどうかしら?」

 ステファニーちゃんは興味津々だ。


「ステフはセルフケアをしっかりしているから、迂闊に色を入れたりハサミを入れるのは勿体無くて迷うな。

 後頭部の形が丸くて綺麗だから短髪も似合うだろうが、この見事な髪を切るのは俺が嫌だ」


《そうね》

《俺らにはタイムリミットあるから余計にな》

《亡くしてわかる大切さ。髪がある生活は1日1日が貴重だった》

《嗚呼!成長期、毎日髪が抜け落ちていく恐怖体験よ!》

《髪が残った奴、心底うらやま》

《また髪の話を…して、る? (´・ω・`)モキュ??》


「んまあ!やあねえ、わかってるじゃない!」

 この2人相性いいな。あっという間に仲良くなってる。


 そういやジャスミンはエンフィの髪にも執着してたけど、金髪フェチなん?

 いやでもサユリの黒髪にも反応していたし、長い綺麗な髪がキーワードか。


「どうしよう、姫ちゃん。茉莉花くんに女子力で負けてる…!」


「諦めましょう?

 ふふ、人には持って生まれた資質というものがありますわ。

 それに鶴さまはお裁縫もお好きですし」


《姫さんの女子力って、腕力だよな?》


「姫ちゃんだって『刺繍』はあるでしょ」


《そうだったね》

《ww》


「手の訓練で励みましたけど、好きかと問われると難しくて。

 わたくし、雨の日以外は日が暮れるまで外にいるような子どもでしたのよ」


《教養でお刺繍を習いましたとか、普通にお嬢さまエピなんだよなあ》

《棒切れを振り回していたんですよね。わかります》


「えっ、意外……でもないか。姫ちゃんステータスがマッスルだもんね……」

 マッスルですぞー。

 ぺちゃくちゃお喋りしながらゲートで移動だ。




 移動先、目的地は海浜公園だ。

 タワーの外に出ると雪の名残か、湿って冷たい風が吹いている。

 空に雲はないにしろ、薄いグレー掛かった冬の色だ。

 なんとも寒々しいことだが、屋根の上で大あくびのふとっちょ猫は、冬毛を蓄えて暖かそうだ。腹毛に手を突っ込みたい。


 カレンダーの0がつく日に開かれる海浜公園の蚤の市は、午前中が食材の売買で、午後から加工品や中古品を取り扱う会場になる。


 長机ひとつにつき千円の会場費で、スペースを買える仕組みのようだ。

 小さく微笑む。

 いいな。うちのかーさん、こーいう雰囲気好きそうだ。


「元は食材の売買から始まった休日朝市だから、野菜やお肉はお昼前には捌けちゃうの。

 そっちはもう戦場だけど、午後からはまったり進行だね。

 生産職になりたい学生はありがたいよ。

 簡単に力試し出来る機会だもん」


「鶴さまは売り手側でも参加していらっしゃるの?」


「蚤の市は月イチ部活で店員してるよ!私が作品出す時は招待するね!来てね!

 ふふふ、冬なのに私らは春物を作るのさ。季節感狂う」


《生産者の目星をつけるのにいいな》

《なるほど、青田買い》

《フリマの出会いは一期一会》


「おっ、ストップだ。素材屋発見」

 茉莉花くんが机から垂れたポスターを目敏く見つける。


【半端に余ったインゴット、買い取ります、売ります】


「兄さん、ちょっと見ていいかな?」


「どうぞ。量り売りもしているから、量が欲しいなら在庫をだすよ」

 革エプロンの店員氏は愛想よく歓迎してくれた。


 半公半民の店らしく、カード決済のリーダーと冒険者ギルドの認可証が掲示してある。

 生体金属は種類も多いんで、在庫が中途半端に余ることもある。

 だからこういう商売が成り立つわけだ。


「ステフ、端材箱を確認してもらってもいいか?」


「いいわよ。色合い重視で、金属に特殊効果はついていなくていいのよね?」

 『鉱石鑑定』持ちのステファニーちゃんが頷く。


 茉莉花くんのお目当ては、消しゴムサイズ。どれでもひとつ10円の端材箱だ。


「ああ。むしろついていない方がいい。肌に触れてもいいので、あまり重くないのを頼む」


「おや、お兄ちゃん……姐さん?『鑑定』持ちかあ。いいなあ、俺も勉強中だ」


「うふん。『鑑定』各種揃えると便利よ?」

 売り子さんに声を掛けられたステファニーちゃんが、なんか高学歴エリート臭いことを言っている。


 たつみお嬢さんが覚えたおかげでリアルのオレも『植物鑑定』が出てくれたが、他にもこの『鉱石鑑定』あたりはそろそろ身についてもよさそうなものなのにな。

 ……才能ないんかね?


 ステファニーちゃんは端材箱を漁って目ぼしいものを物色し、不味い金属が混じってないか検品していく。


「これ、色合いは綺麗だけど『貫通』があるから外したほうがいいわよ。こっちは…『ライト』?

 生体金属で、この効能は珍しいわね」

 魔石に『ライト』がつくような魔物は、使い勝手の良さから優先されてロケットに積まれるんで珍しくはない。

 だけどモノが生体金属だと珍しいかもなあ。……あ、ライトセーバーがつくれたりする?

 この素材はチェック入れとこ。


「そいつは深海魚の装甲だな。深く暗い海で、獲物を呼び寄せるのに光るらしい」

 そうなのか。

 美味しいらしいね、深海魚の魔物も。


 アンコウとかは有名だけど、ご本尊をうちじゃあんまり拝まなかったからよくわからん。

 無知ゆえに食指を伸ばしてなかったな。

 …提灯アンコウ?


 でも装甲が、って言ってたよな。それってどんなだ。

 後で図鑑を確認しとこ。


「ねえ、姫ちゃん。銀ビーズとか作れたりする?」

 量り売りの机でサンプル品を見ていると、袖を引かれた。

 鶴ちゃんは、ガラスと銀色の生体金属を確保している。


「どうかしら、お待ちになって。……作れますわね。この辺りになりますわ」

 ステータスを開き、鶴ちゃんにレシピを見せる。


「えっ、種類多くない?

 迷うんだけど?!」


「物作りが趣味の友人がいまして。レシピの共有をしてましたから」

 本当にヨウルはどこを目指しているんだろうな?


 それにクリスマスで装飾品レシピも増えた。

 でも室内装飾用の【サンタ帽子の木彫りの熊】のレシピとかは、きっと一生使わず終わる。

 生産職はイベントごとに妙ちきりんなレシピを増やしていくんだろーな。


 ビーズなんて細かいのから大振りのものまで合わせて数百種ものレシピがある。

 もうアホなのかと。こんなに用意されたって使いこなせる自信はないぞ。


「お試しに何種類か作ってもらうのって出来るかなあ?

 指定クエストを出したら受けてもらえる?」


「わたくしで良ければ喜んで」


《島暮らしだからか、普段の買い物で選べる商品は少ないよね》

《だよね。フリマが嬉しい》

《そこは昭和だからじゃん?》

《みんなー!生産職やろうよ☆ってことでは》

《せやかて食い物は優遇されておるぞ?》

《モリモリ食べたいんで『内臓強化』欲しくなる》


「ありがとー!やっぱ便利だよね『錬金』!

 私も欲しいけどもう、予定スキルチャートがギチギチで、しばらく組み込む隙がないんだよねえぇぇ」


《1周目はみなそうよ》

《欲しいスキルが多すぎる》

《みんなで転生マラソンするお》

《ゼー、ハー。待ってー。置いてかないでー!》


「姫さん、色硝子を確保したからデザインが少し凝ったものも注文してもいいか?」

 赤に黄色、薄いブルー。そしてなにより緑色に妖しく光る色硝子を発掘して、茉莉花くんはニンマリだ。


 最後のヤツ、小さくても値段は可愛くない生体金属じゃん。掘り出し物だ。

 まあ、こんなにちょっとじゃ使い辛いか。

 ……どっかの野良ダンジョンに竜種いるんだな、昭和日本も。怖っ。


「種類と数によってはお祭り当日まで、間に合わないかもしれませんわよ?

 欲しいものから優先順位をつけて、指定なさってくださいまし。

 出来る限り努力はしますわ」

 茉莉花くんは節分祭当日、青空美容室をやるつもりだ。

 今日は当日に売るアクセサリーの素材を買い求めにきたのだ。

 オレだけではなく鶴ちゃんも、布製品の発注を受けている。


「無茶は言わんさ。ただ一点ずつの注文になっちまうけど、それはいいよな?」


「ええ、構わなくてよ」

 発動体に使う土台として、アクセサリ類は、なんだかんだで作っている。

 数をこなしているから、今さら戸惑うことはない。…………はずだ。


 依頼品に使う素材は茉莉花くんが用意してくれるが、カラーの生体金属はオレも多目に買い足しておこう。

 どうせだからこの機会に、たつみお嬢さんの普段使いのアクセも作る。


 おばちゃまが用意してくれた鏡台がいつまでもがら空きだと、気を利かされて可愛らしいもので埋められてしまいそうだ。

 その予感がある。予防線を張らねば。





 コメント、いいね、評価、誤字報告等、ありがとう御座います。


 ジャスミンは水も滴る色男ですが、茉莉花くんは妖艶たる美少年です。

 たつみお嬢さんと並ぶと少女漫画の世界ですヨー。外見だけは。



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― 新着の感想 ―
[一言] 女子会(純正女子一羽)では タツミ姫の中の人は割とバレてるみたいだし、動画視聴者目線では割と女子…?会になってそう そして茉莉花くんが掘り出したのは竜の生体金属なんだ 硝子っぽい?と思いま…
[良い点] 女子会(うち男性1名中の人男性1名)なのに華やか祭りなところ もっとキャッキャウフフするがよい… 素材屋の兄さんが自然に姐さん呼びしてたのもよいわね…
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