243 風船にのって
「1月30日ですわ。ご機嫌よう、皆さま。
マッドスライム千本ノックは残すところ200体ほどになりましたわ。
順調ですけど、泥饅頭さんではレベルは上がらなくなって参りましたわね。
今日のような時間のある休日の朝は、サクサクとクエストを消化していきますわよ!」
そんなわけで早朝ダン活だ。
《ご機嫌よう、お姉さま!》
《ヒッメのダサジャーにも慣れてしまったな》
《お神輿担ぎたいってゆーてたけど、効率とか考えないん?》
《←学業クエは内申上がるぞ?》
「皆さまもご存知の通り、マッドスライムは野良ダンジョンだと沼地に生息する魔物ですの。
実践を想定すれば、足元は泥土となりますわよね?
そこで今日は皆さまの参考までに、『風力操作』のスキルツリーから『風船』を紹介致しますわね。
レベル15を越えてスキルが出ましたので、動画外で練習をして参りましたわ。
ご笑覧遊ばせ」
リュアルテくんだといつも雷でドッカンドッカンしてたから、数少ない他の魔法系攻撃スキルはあまり伸びなかった。
なのでたつみお嬢さんには『風力操作』をメインに頑張らせている。
どのスキルも使いようだ。
選択するのに繰り返し見て確認をとれる参考動画はありがたいものだ。なのでオレも情報を落としていく。
《努力は見せないスタイルかー》
《奥ゆかしいですわ、お姉さま!》
《練習配信希望。恥はどんどん晒して行こうぜ!》
《かざふねってなに?》
《風船な。『風纏い』のアレンジで船型の『結界』に乗るスキル》
《尚、移動は『念動』や『そよ風』なんかの別スキルやで。ピンだと立ちんぼになるから注意な》
「パーティの運用でしたら基本のお船の形が良いでしょうけど、1人乗りならアレンジですわよ!
わたくしは、魔力の節約にちょっとズルをしてスノーボードスタイルで参りますわね」
『体内倉庫』からにょろりと板を取り出す。
トレントの木屑を接着剤で固めた合板は軽くて丈夫で経済的。
添加剤に破砕した使用済み魔石も混ぜてあるので、魔力に対する反応もいい。冒険者の蛮用に堪えうる、お気に入りの建材だ。
《言うて、ドアノブのないドアじゃん?》
《ヒッメ、戸板はスノボとは言わんのじゃよ》
「ただの板ではないかと、皆さまからご指摘をうけそうですわよね?」
《どきり》
《それはまあ》
「もちろん、ただの板ですわ!
小さな板だと、やはり踏み外してしまいますわよね……」
ローラースケートは遊んだ経験あるけど、スノボやサーフィンはないんだよなー。
転けて覚える遊びなのは一緒だけどさ。
乗って動くだけならまだしも、攻撃するタスクを入れると難易度上がる。
それと慣れていないアクティブスキルを多数並列すると、挙動が重い上に燃費も悪い。
空飛ぶスキルは魔力喰いなので、こう低レベルのうち出現したのはラッキーだ。
おかげで毎日ちょこちょこ練習できる。
……ウイングブーツ、昭和世界にもあったけどさ。高級外車が数台買えてしまうお値段だったよ。
マではなく円決済で表示されると、生々しくてドン引きだ。
リュアルテくんらに注ぎ込まれてる教育費や装備費って、トコトンえげつなかったわー。つるかめつるかめ。
軍隊が金食い虫と呼ばれるわけだ。
それを田植えにも使うサリアータェ。
《これは上から落ちたな》
《HPってありがたいね》
《タンスの角も恐くないもんな!》
「『風船』の熟練度が上がればこの板の補助輪もいらなくなる……はずですわ!
それまでは踏み抜かないようにしませんとね。
『風船』」
戸板に載って、スキルを使う。
そしてフルフェイスのヘルメットをかぽっと被った。
「『そよ風』」
マッドスライムの触腕が届かない高度をキープし、そのまま安全地帯を出る。
……練度が低いから、MPの減りがやっぱり早い。練習しよ。
《微速前進?》
《そりゃ5メートルの高さがあればマッドの攻撃は完封だけどさ》
《お嬢なんだから、もっと乗り物にも拘ればいいのに》
《エアカータイプの妖精車輌やウィングブーツは遠い憧れだけど、これなら真似っこ出来るかも》
《気取らないのが姫さんのいいところ》
《乗っているのがトレントの合板だから、お手製の品なのでは?》
《錬金術士は便利だな》
《錬金術士。関連スキルコストがどんどん増える修羅の道なんで、軽い気持ちで手を出すとアップアップするんよ…》
「さて、皆さま。原始より人が最初に手にした武器といえば、なんだと思われますかしら?」
《拳》
《木の棒》
《悪知恵》
「わたくしは、これだと思いますの。じゃかじゃん!」
肩に掛けていたトートバッグからブツを取り出す。
《石かー》
《にしては黒光りしておるぞ?》
「オノゴロ島は人工島なので、天然石は拾えませんの。
なので余りの素材で石っぽいものを『錬金』してみましたわ。
端材ですので7つだけですわね。これを投げ終わったらいつも通り鉄の盾で突貫しますわね」
生体金属を色々まぜこぜした品がこちらになります。
《オケ》
《生体金属は一度混ぜると『分離』は難しいから、余分な合金は色石にしちゃうのはいいかもね》
《←劣化するじゃん?》
《←ダンジョンタワー内で使うなら平気》
「せいっ!」
野球歴は人並み普通。
精々が学校の授業でやったくらいだが、川で水切り遊びをするのは田舎者の嗜みだ。
《ヒェ》
《一撃、鮮やか!》
《ドゴォ!っていきましたね?!》
《石の威力じゃねーんだわ》
《頼りになるはずのHPさんの絶命が聞こえた》
《あー。…姫さま、核が見えてんのか》
《あなたのハートを狙い打ち☆彡》
「わたくし1人だと焼け石に水ですけれどこのように高所取りをして、仲間と攻撃手段を揃えれば一方的な攻撃も場合によっては可能ですわ。
沼フィールドでわたくしが独りだった場合は『風纏い』で泥を弾きながら歩きますけど、野良ダンジョンはパーティを組まずに潜ったりはしませんものね。
『風船』はパーティ向けのスキルなので仲間の誰かが覚えれば、野良ダンジョン活動がひとしお快適になりますわ。
フィールドタイプにある川だと橋はないことが多いでしょうし、なにが棲むのか判らない水に足をつけて渡ることは避けたほうが無難ですもの。
このような風魔法ではなくても、空を浮くスキルのなにかしらは覚えることをお勧めしますわ」
ぽいぽいと石を投げて、高所とりの良さをアピールをする。
オレは石を投げたけど、魔法スキルや弓矢でも可だ。
【若葉の迷宮】で泥沼フィールドを新規に出す前に対抗手段を勧めておく。
人間困らないとなかなか対策は立てられないものだけど、お役立ち情報は事前に撒いておきたい。
コマーシャルというものは繰り返し流れることで【誰もが知っていること】、その威力を発揮する。
なにかあった時に共通して、【これ、知ってるやつだ!】となるので思考に選択肢が生まれやすいのだ。
《野良ダンジョンに湖や海もあるものね》
《空飛ぶスキルは多いけど、どれも運用コストが大きいのが悩み》
《フォームはテキトーだけど強肩だなあ》
《パーティの魔法使いをひとり空輸で使うのか。MP管理どないしよ》
《爆撃が捗る》
《……世界大戦が終わってからの、ロケット到着で良かったな。そうじゃなければドロ沼だった》
《あー。特攻隊》
《怖いこと言うなよ》
《こじゃん育った冒険者を戦争で使い潰すちゅーと、復興で困るやつじゃけんの!》
《セイランはトラウマ》
「……石投げって楽しいですわね?
あっという間に終わってしまいましたわ」
《あれだけパァンすれば気持ちよかろうよ》
《ヒッメの外見でこのパワーは情緒がバグる》
「それでは、乱戦をしてきますわね。
また無言の作業ですのよ。ごめん遊ばせ。
退屈でしょうので、どうか飛ばしてくださいまし」
空中で板を収納し、『風船』を解いた。『風纏い』をかけ直す。
ドンッ!
「せいっ!」
着地でまずは一匹を踏み潰し、盾を振り回しグルリ、一回転。
戦独楽のように周りのマッドスライムらを弾き飛ばす!
《ふぁっ?》
《ダイナミックエントリー!》
《無双タイムが始まりましたよ!》
《これを飛ばすなんてとんでもない
(0゜・∀・)wktk》
《うーん、この爽快感》
《おにゃの子とスライム戦なのに負けるビジョンが見えなくてww》
《これで芋ジャー、メットじゃなきゃもっと映えたのに…》
《スライムたちは盾の染みになるお仕事かあ》
《華麗ですわ、お姉さま!》
《ええ、お姉さまは戦っているお姿が、一番輝いていらっしゃいます!!》
さあ、今回でマッドスライムは卒業するぜ!
まってろ週明け、盾術中級クラス!
コメント、いいね、評価、誤字報告等、感謝です。
ちなみに他の日本人配信者さんは、生配信もやりますし、速攻で芋ジャーは卒業しています。