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241 いろは唄と鶏舎



「よし、こんなものかな」

 ダンジョンをコネコネ弄り、微調整を終える。

 うん、我ながら見事な豆腐建築だ。洒落っ気なんてありゃしない。

 ……いいんだよ、人が住む施設じゃないから!


 明日には魔鶏の飼育員さんらが引っ越してくるので、鶏舎の準備に抜かりない。

 これで鶏卵が賄えるようになるし、ヨコハマダンジョンも賑やかになる。

 ホプさんで民間の店子は、初めましての第一号だ。

 

 これで普通の鶏なら産み出すのに時間が掛かるだろうが、魔鶏は………あれ、どうだったろう?


 ノベルでも養鶏していたはずなのに細かい生態は知らないもんだな。

 オレが自信を持って詳しいのは、もっぱら彼女たちに合わせて改築を繰り返した鶏舎棟のことだけだ。


 うーん。なにかにつけてオルレアたちにダンジョン管理を支えられていたのか思い知らされて、心がきゅっとなってしまう。

 ああ、うちの子たちが恋しいったら。


 忙しさを言い訳に一度ざっと斜め読みしただけの、ノベル飼育事業部から上がってきたレポートの数々。

 あれらを夜しなに読み直しておこう。

 新たなスタッフさんは養鶏経験者とはいえ、休業期間も空いている。困った時のQ&Aに役立つかもしれない。



「お疲れさま、流士くん。

 でもなんか……ここの鶏舎って牢屋みたいだね?」

 受け渡し前の最終チェック。

 施設内部をリスト片手にダブルチェックしてくれている広崎さんが、既視感ある建物だなとひとりごちる。


「参考にしました」

 広崎さんも独房に入ったことあるのかな?

 オレが造る鶏舎は、犯罪者を収監するダンジョン監獄を応用したシステムだ。


「あ、やっぱり。道理で物々しいはずだ」

 広崎さんは先陣切って個室に入り、壁をペタペタ触っている。

 扉は外側開きのオートロック。

 油断してると閉じ込めちゃいますよー?


 撹拌世界の牢獄は、囚人だけではなく個室自体にもスキル封印を施している二重の枷だ。


 そんな物々しい牢獄はファンタジー世界観に似つかわしくなく、いつも新品。そして清潔だからこその無機質さだ。


 壁は破壊不能なダンジョン壁。扉も生体金属であるからして、汗と血と小便で鉄柵を錆びさせ脱獄するような、そんな不屈系ジュブナイルな脱獄シナリオ展開は自動的に封じ手になる。


「初めて造った鶏小屋はブロイラーを飼育するようなスタイルだったんですけどね。必要にかられてこうなりました」

 ノベルの鶏舎は最初は籠を重ねる形だった。

 しかしそれだと鶏が隙間から、お互いを激しく攻撃し合ってしまう問題が出た。

 姿や声を聞くだけで、それはもう大喧嘩の殺し合いだ。

 飼育員相手ならまだわかるけど、同族にすら仲間意識がないんだよなあいつらって。


「流士くんは潰しが利くなあ」


「それって誉めてます?」


「誉めてる誉めてる。ふんふん、床は微妙に傾斜してるんだね」

 ダ、ダァンっ!

 広崎さんはおもむろに壁を蹴りつけ、床を強く踏み込んだ。

 回し蹴りからの、震脚である。

 強度チェックだ。


「ダンジョン壁にダンジョン床なら、穴を空けての脱獄は無理だね。

 卵の転送ポイントは、重量制限あるタイプ?」


「ですです」

 傾斜で卵が転がり、落ちた溝の先に設置したワープ罠で自動回収だ。


 魔鶏は自分が産んだ卵に興味持たないから、この点だけは罪悪感がなかったりする。

 彼女らは産みっぱなしで卵を温めはしないし、ヒヨコも育てたりはしない。生まれながらのサバイバーだ。

 餌さえあればいっぱい卵を産むのは、それだけ生存競争が厳しいからだ。


 そんな気性の激しい雌鶏たちにストレスを与えず、健康で美味しい卵を採るために、ノベルの施設も手を入れている。


 何段階かに分けて、距離を離し、姿を隠し、音を隠し、というトライ&エラーを繰り返すこと数度。

 遂には開き直り、ダンジョン牢獄の専門資料取り寄せたことで安定した。

 

 ……お前らさ、ぼっち最高にも程があるだろ。

 少しくらいは仲良くしようぜ?

 それができなきゃ、隔離だ。隔離。

 ということで、鶏舎はまんま牢屋である。


「俺はー、無実だー。

 ここから出せー。

 ……いろは唄でも壁に書いておくべきかな?」

 ハハハ。

 棒読みですよ、広崎さん。人生楽しそうだなあ。


 オートロックで閉じ込めしないよう、支えているこの手が見えんのか。


 広崎さんはウキウキだけど、コレ、前世みたく牢破りをしたことある人にはゲンナリする施設の造りなんだろーなー。


 牢屋にはいい思い出がない。自分で作っておいてなんだけど複雑だ。


「なんで、いろは唄です?」


「いろはにほへと

 ちりぬるをわか

 よたれそつねな

 らむうゐのおく

 やまけふこえて

 あさきゆめみし

 ゑひもせす

 いろは唄は7文字区切りで言葉の最後を拾っていくと【とかなくてしす】…【咎なくて死す】になるんだよ。

 牢屋に入ったら鉄板かなあって」

 ブラックジョークか。


「やめてくださいよ。鶏たちに酷いことをしている気になるじゃないですか」

 養鶏自体が魔鶏の誰にも迎合しないハードロックな精神に、合っていない自覚はある。そーゆーのやめて欲しいかな!


 でもあの雌鶏ども。『テイム』主以外は人の顔を見るなり【ここであったが100年目ェ!】と言わんばかりにエキサイトして、襲いかかろうとするんだもんよ。

 羽や爪がボロボロになっても懲りることをしらんので、下手な囚人より余程凶悪な命知らずだ。


 鳥頭だから相対者の姿や物音が消えると【あれ、なにしてたっけ?】ってキョトンとなることだけが幸いである。


 スキルを封じる内壁は、消音効果もつけた2重構造。

 そして破壊不能なダンジョン壁の個室だ。

 喧嘩防止に1部屋に1匹ずつが収容されて、一度閉じ込められたらそれが最後。外からしか開かない造りである。


「ついでだから、にじり口の確認お願いします」


「了解。これ、俺らにとっては身を屈めて出れるけど、甲殻人だと匍匐前進してもらうことになるかも」

 ただし牢屋と違うのは、万が一の安全装置としてこうやって人間は出られるにじり口があることだ。


 魔鶏はって?

 にじり口に頭は入るが、むっちりとした腹と尻が引っ掛かって出れないぞ?

 ここを塞いでトイレをつけて、卵回収機がなかったら、まあガチの独房だわな。


 ………だって、スカウトに応じてくれた飼育員さんらの安全には代えられないしさ。


「本当に一応の非常口なんで」

 甲殻人がいくら頑丈だからって、飼育員は民間人だ。事故はないに越したことはない。


 広崎さんがにじり口を開いたところでオートロックの扉を離す。

 …うん。ちゃんと自動でロックが掛かるな。

 ここの鍵は外からしか開かないようになっている。


「お待たせ。養鶏場の床は鉄柵のイメージだけどそうじゃないんだね」

 ぬるりと脱獄をキメてきた広崎さんが、ぐるっと回って帰ってくる。


「養鶏場の全域は除菌ルームにしてありますし、鶏舎は餌箱と卵の回収機以外は一定時間ごとにダンジョンリセットが掛かるので床掃除は要りませんので。

 閉じ込めっきりで可哀想かもしれませんけど、あいつらの平飼いは難があります」

 エサ箱などのダンジョンリセット範囲外の掃除は『洗浄』で、部屋の外からしてもらう仕様だ。

 スキルが使えなくなる牢の中には、くれぐれも人は入らんで欲しい。


「ん?………ああ。そうか、あいつら本当に顔と体だけは可愛いよな。

 可哀想に思う奴も出てきそうで厄介だね」

 おおっと、台詞だけ切り取ると最低男っぽいぞ。

 広崎さんは外見を軽薄に見えるように仕立てているから、微妙に似合ってるのがなんとも言えない。


 逆三角形のモリモリボディなのに、いつもニコニコ朗らかで仲良くなった民間人に気安くヒロちゃん呼ばわりされているのが広崎さんだ。

 この親しみ易さは武器だよなー。


「本能で自分以外は全員敵だと感じているんでしょうね。

 『テイム』で少しは大人しくなるようですけど」

 アンカーで引き寄せられた魔物の多くはダンジョンマスターの支配下に入るものだ。

 なのにダンジョンマスターで『テイム』持ちのオレにすら、攻撃はしなくても服従もしないのが魔鶏たちだ。

 気が強いにも程があるだろ。

 まあ、『テイム』は相性あるからしゃーない。


 美味しいお肉の生き物ほど、他者に狙われやすいのが世の定め。

 自衛のために毒持ちだったり過度に気性が荒くなったりするもので、魔鶏は後者に当て嵌まる。


「卵の選別所は手前の大部屋だろう?

 外の奥の小屋とその脇の空きスペースは?」

 広崎さんは1枚板の嵌め込み硝子窓越しに、鶏舎から離れた位置の豆腐ハウスを指す。


「リスト3ページ目に記載されている資材倉庫兼、餌の保存庫ですね。

 その横の空きスペースは、牢ご…いえ、鶏舎はまだしも人が寛ぐ休憩所なんかは本職に建ててもらった方がいいので、空き地のままです」

 水道と排水の配管。それだけは用意した体だ。


「お、これか。前のページに張り付いてたよ。なるほど」

 お前、建築の自主勉強もしてただろって、突っ込みはナシで頼む。

 そっちの成果が上がるには数年の時間をもらいたいかな!


 セーフルームのような普段使いしない建物ならばいざ知らず、甲殻人にも快適な寛ぎのスペースを一から造る自信はない。

 拙者、細やかな心配りは苦手で御座るよ。ご容赦あれ。


 反対に解体所や倉庫みたいな大箱ならば得意分野だ。ノベルでもいっぱい建てた。

 そして使いにくい所はオルレアの報告を受けて順次改装もやってきている。一連のデータはオレの財産だ。

 こういった汎用施設は教官たちのように体の大きな人の多い撹拌世界基準で造ってあるので、甲殻人たちにもゆったりと使えるはずだ。


「じゃああっちも見て、それで終了かな。

 魔鶏の搬入は、新しいアンカーを打ち込まず、産業用ダンジョンから妖精輸送の予定だよね?」


「そのつもりです。

 あ。その資料には載せてなかったかもですけど、貝殻を粉砕する『ミル』とか機械類を置くスペースも、餌の保存庫とは別に造ってあります。粉塵爆発が怖いので、地下室を」

 広崎さんの言葉の通り魔鶏が湧くダンジョンは、別棟に産業用のものが既にある。唐揚げは皆の好物だ。


 こーゆーことをしているから、カンの鋭い魔鶏らに人間ちゃんは信頼されないんだろうな。さもありなん。


「『ミル』?

 そういえば養鶏するにあたって新しく導入する貝のダンジョンのアンケートを取っていたね。

 最後は深夜テンションで全部食べたい!と合唱になってたアレ」

 軽く頷く。


 丈夫な卵を産ませるには、カルシウムが必要だ。

 貝身を食べたその残り。貝殻を与えると鶏本体もツヤツヤと健康になって一石二鳥だ。

 なので普通の鶏も牡蠣やホタテ、あさりなんかの貝殻を砕き餌に混ぜて食べさせる。

 そこは魔鶏も変わらない。


「作業部屋は後から足していくよりも、余るぐらいでいいかなあと」


「そうだね。いらなきゃ物置にしたり、貝殻もスライム工場行きにしたらいいだけだ。

 新鮮な貝はこっち来てから食べてなかったから、楽しみだな」


「………料理のプレゼンは、横浜市民が強すぎました」

 掲示板で一番美味しそうな料理をプレゼンした優勝者のリクエストを叶える突発企画は、満場一致で干し真珠鮑の姿煮に決定した。

 真珠鮑はエンフィがファーストダンジョンで引き当てていたりもする。

 魔石を真核とした青緑色の真珠が採れるが、味は肝が食えない以外は普通の鮑だ。


「異世界料理研究会の彼らだけのせいだけじゃなくて、神奈川民は中華街を抱えているからね。舌が肥えている印象かな」

 掲示板に流れていく料理レシピのそれは、エグいことエグいこと。

 鮑ってあんなに調理法の幅があったんだな。


 オレの食ったことない料理ばかり語られて、すっかりマウントを取られてしまった。

 旨いものを実地で知っているハマ者は卑怯だ。

 オレなんて精々がVRの経験しかなかったのに、社会人は自分への投資が違う。


 たとえ機会があって中華屋に連れてってもらえても、質より量を選ぶのが学生だ。

 【上質なものをちょこっと食べたい】をやるには食欲魔神すぎる。


 少し悔しい気がするのは掲示板のプレゼンで、鮑派閥の奴らは他の派閥の者に板外交渉戦をしかけており揉め事が全く起こらなかったからだ。


 お遊びだぞ?

 お前らちょっと本気過ぎない?


 アンケート主催のオレとしては醜い争いで盛り上ってくれると信じていたのに、スコンと梯子を外されてしまった形だ。


 なんでも掲示板在住の識者さん曰く、真珠鮑の貝殻粉末は、目の健康や美容に良いらしいよ。

 オレらの中に薬士さんが混じっておる。

 おうおう。言ったからにはキッチリ作って使うんだろうな?


 どうせなら高級食材をプレゼンしてこの機会に食い倒れてやるぜ、グヘヘ。

 そんな言外の欲望が透けるようだ。


 思惑をスカされて悔しかったが、食い意地で根回しをしてくる強かさは嫌いじゃない。

 生きることは食べること。

 この環境で食欲旺盛なのは頼もしい。

 ……不安やストレスから物が口を通らなくなる人も出てくるんじゃないかって心配してたが、食い気があってなによりだ。

 ある意味で、ホッとするアンケート結果にはなった。


 うちのとーさんなんて、ストレスあると痩せるタイプだ。今頃きちんと食べられているか心配である。


「GMに訊いたんですけど、魔鶏に真珠鮑殻を食べさせた記録はないそうですよ」


「それは新たなオンリーワンだね」


【成分としては普通にカルシウムはありますし悪いものは入ってませんから、食べさせても大丈夫じゃないですかね。多分】

 とのこと。

 失敗してもGMの知識の肥やしになると思えばよしだ。

 ちなみに魔鶏は『耐毒』や『解毒』があるので、【体に悪い成分】は人の体を準拠だ。


 一家言あるだろう飼育員さんにオレから圧を掛けるのは不味いので、ギルマスから【貝殻余ってますよ鶏にどうですか?】と聞いてみてもらうつもりだ。


 なにせネモフィラダンジョンを受け渡した鼻薬が効いているせいか、オレが頼みごとすると全力で叶えてくれるきらいのある甲殻人だ。


 全力のおねだりはダンジョンタワー建造でやるつもりなので、その他意見を上げるときは相手も断れるようにクッションを置きたい。


「鶏舎の仕上げが終わったら、明日に備えて今日はもうゆっくり休んでおくといいよ。

 プレオープンした若葉の迷宮の手直しをするにも、アンケート集計はまだ時間が掛かるしね」


「はーい。明日の遠足はボートに載せてもらえるんでしょう?

 もう、楽しみで楽しみで」

 異論はない。良い子の返事を返しておく。


 明日晴れたら片道80キロのお出かけだ。

 ホープランプ製の船に乗り、河をザバザバ渡るのだ。

 


 この急な外出には理由がある。


 オレら日本人グループがインフル情報をリークしたので、ホープランプ政府さんもブッチーの氾濫問題に本気を出してきた。


 食べるには『鑑定』が必須とはいえブッチー自体は美味しいお肉だ。

 脂身は甘く、肉は噛むほど滋味深い。


 ヨコハマダンジョンでも日本人が食用可能なブッチーをエントリーしたが、瞬く間に人気を評した。

 ブッチーはホープランプでも研究用に、少数を飼育していたこともある。

 そのサンプルに保存していた魔石を融通してもらえたのだ。


 この先々の予定としては、ドングリやナッツで改めて育肥したブッチーの魔石も回してくれるそうだ。

 オレらの誰かがドングリ豚の情報を彼らにリークしたと見た。

 日本でもミニ牛のピンクちゃんにビール酵母やワインの絞りカスを与えて育てる実験していたもんな。

 甲殻人に親近感湧くのはこーいうところだ。


 このように蝗やら蟻やら迷惑なだけの魔物に比べて、豚はずっと好ましく、有用でもある。

 なのであちらの政府さんも、ブッチーの氾濫対策はいつも甘くなりがちだったらしい。


 そうして呑気にしていたところ、変異株の情報は寝耳に水の事件だったそうだ。


 【食べたら体に害がある】と毒判定されたブッチーは現地で速やかに水玉プールに浸けられ処分されるから、お国元の科学者さんたちの詳細な『分析』には回されてこなかったんだってさ。

 毒の被害を広めないために確立していたルーティンが裏目に出たケースだ。


 その調査結果だが、今のところホープランプ麻疹はブッチーからは検出されなかったそう。

 一先ず安心……できないのは、インフルが黒だったことだ。

 それも黒も黒で真っ黒だ。


 ダンジョンから湧き出たブッチーは免疫をもってないので原生ウイルスにあっさりと掛かり、体力あるから病で死なず、増えて移動した先で水場を同じくした渡り鳥に移したり移されたりで変異株を育てまくっていたらしい。


 ブッチーがネモフィラダンジョン付近で目撃されるようになったのと、魔鶏がインフルで殺処分されるようになった時期も丁度重なるそうだ。


 渡り鳥の飛来の時期に鳥インフルが流行るのは警戒していても、そこにブッチーが絡んでくるとか、そりゃあ想定外だよな。

 ホープランプ的にインフルとの付き合いは古くからの歴史でも、ブッチーとの邂逅は最近の現代史だ。

 外来生物はこれだから!



 そもそもヨコハマダンジョンから西、ゼリー山脈に辿り着くには船で渡るような河を越えて行かねばならない。


 ブッチーたちの移動距離が散歩圏内には遠すぎると、オレが地図を見てドン引きした理由は間にこの河があったからだ。


 地図の縮尺が確かなら、この大地を走る河伯殿は瀬戸内海ほどの胴回りだ。

 渡しを試した比較的狭い河幅でも、対岸まで20キロもあろうかという大河である。

 地球なら古代文明が流域に誕生するスケールだ。


 地下に住居を拡げる甲殻人たちがこの大河と距離を置いたのはむべもないこと。

 水を反対側に逃がす遊水池は掘ったそうだが、それでも雨季の増水は洒落にならん。


 その大河をだ。じゃぶじゃぶ泳いで渡る豚さんとかね。

 あのみっちり肉の詰まった我が儘ボディでよくやるものだ。


 そもそも豚って泳げるの?

 魔物だからチートしてるの?

 どっち?


 ゲーム塔を建てるその前に、ヨコハマダンジョン発、河渡しの駅を通すことになったのは、ブッチー族滅の下準備だ。


 まずは河の向こう。

 あちら側に通した駅を拠点に、発電機でブッチーの【呼び寄せ】をし、本格的に狩り出す計画だ。

 対岸側はブッチーを養う魔物もワサワサ繁殖しているので、合わせて刈り取りを励みたい所存。


 もちろんそれに対する協力は、日本側から申し入れた。

 恩を着せる機会は逃さんぞー!


 いや、ゲームでダンジョンタワーをうろちょろしてるとさ。島が抱える工事関係者の多さに途方に暮れる。


 オレは百年後に故郷に帰って、浦島太郎になる気はないんだよ。

 最悪でも妹たちの結婚式までには戻る。絶対だ。


 いくらダンジョンマスターが打出の小槌だからって、タワーを建てるのは日本人だけじゃ到底賄えん問題だ。


 漂着したオレらや、それに連なる日本本国。

 末長く仲良くするとお得だって、思ってもらえるように励まんと。



「流士くん。流士くん。わかっているだろうけど、出先は団体行動だからね?」


「はーい」

 嫌だな、広崎さん。なにを心配しているのやら。

 千枝か万理あたりに聞いたりした?


 歩け歩け遠足で仲間と横路に逸れてしまい、深夜過ぎ他県の牧場で保護される。

 そんなはしゃいだ真似なんて、中二で卒業したってば。


 ……爺さまのゲンコツ、痛かったなあ。

 

 


 



 コメント、いいね、評価、誤字報告等、感謝です。


 牢破りの経験者による牢獄作製です。

 たとえ施設は破壊出来なくても、間に人が挟んでしまえば完璧なことはないものでしたよ?



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― 新着の感想 ―
[一言] 流士くん…うん、まぁ、捕虜経験あるって言ってたものね 夢魔相手だとうっかり扉を開けてしまうシチュエーションがヤバイ気しかしませんが 猪は泳いで島に渡るようですが、大型化すると比重はどうなる…
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