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239 若葉の迷宮



 教導用ダンジョン【若葉の迷宮】1Fは、本日テストオープンなり。


「よおーっし!鶴嘴は持ったかー!」

「OK!」

「収納ズタ袋作ってくれた生産班に感謝しろよー」

「フフフ、俺の『爆砕』の威力を見ろ!」

「おう、ダイナマイト系魔法スキルの本来の使い方だな!」

「はい」


 なし崩しの公開なので花輪のひとつもかかっていないが、民間冒険者たちの足取りは軽く賑々しい。


「テスト中は1班5人につき、1人の教官がつきます!」

「整理券には入場時刻が記載されていますので、集合は5分前行動をお願いします!」

「申し訳ありません、レベル20以下の冒険者さんはご遠慮ください!」


 冒険者ギルドの臨時スタッフとしてクエスト要請に応えてくれたバイトさんが、声を張り上げ誘導する。


 オレが腰かけているのは、引率されてゲートに入っていく彼らの姿を見送れる、ギルド窓際2階席だ。

 硝子のテーブルに置かれたグラスが結露して、雫をコースターに吸われている。


 椅子と机があるのだからと、いつものように道具こそ広げてはいるものの、どうにもこうにも気もそぞろだ。



 若葉の迷宮のコンセプトは、撹拌世界の大都市にはよくあるだろう教導用アドベンチャータイプのダンジョンだ。

 形式はオーソドックスな迷宮式洞窟型。指標となる安全マージンは余裕をもってやや高め、レーティングはレベル20からと決めさせてもらった。


 こういったアドベンチャータイプのダンジョンは、造る造る詐欺で機会が流れてしまっていた。オレとしても新機軸だ。ドキドキする。


 ……うう、楽しんでもらえるか緊張してきた!


 本日公開の1Fは、日替わりで道が変化する晶洞窟のダンジョンだ。


 晶洞とはアレだ。玄武岩や堆積岩の中に作られる結晶のことである。

 ヨウルが滝壺の中から見つけてきた水晶洞窟が非現実的な見事さだったんで、パク……オマージュして造ってみた。


 壁はミラーハウスほど透明じゃないので、そう迷うこともないだろう。『ライト』を当てると煌めくだけだ。

 我ながらファーストフロアは、美しいダンジョンになったと思う。


 もっとも壁をごっそり掘れた水晶洞窟とは違い、こちらはダンジョン壁での作成だ。

 色の違う採掘ポイント以外は壊せたりしない。

 1Fの壁をキラキラさせたのは、点在する採掘ポイントを【ここからここまで掘れますよ】と目立ちやすくするためでもある。


 現在作成中の2Fからは採掘ポイントが壁と同化しているので、サービスだ。

 鉱床が生える場所は色合いだけで判断するだけではなく、壁の魔力の流れの違いをよくよく見て、探せるようになってもらいたい。

 魔力を含んだ鉱物類は、有望な資源。

 野良ダンジョンで魔力によって変質した原石を見つけられるかの訓練だ。


 変生宝石の原石は管理ダンジョンでも作れるが何百年も掛かるので、野良ダンジョンで探した方がタイパはいい。

 ……でも、タイムカプセルのロマンはあるかな。

 遠い未来、誰かの役に立つように高魔力環境に設えた原石部屋を、こっそり篠宮ダンジョンやヨコハマダンジョンの一角に作ってある。

 ダンジョンマスターの埋蔵金だ。



 この度披露するファーストフロアは、このスモーキーに輝く壁以外はスタンダードな造りだ。


 いや、護衛メンバーとキャッキャと悪巧みをするのが楽しすぎたとはいえ、オレにも理性はある。

 最初から設定モリモリにかっ飛ばしはしない。

 泥の沼マップや回転床のような悪辣な罠は封印してある。

 なので今回は手慣らしに、1フロアのみの公開だ。


 お馴染みのレベル上げや産業用のダンジョンは、狩りやすく事故の起き難い造りを心掛けている。

 だから野良ダンジョンに稀によくある心折設計を再現するのは、大変面白……知恵を絞るのに苦労した。


 うん。造ったからにはリピートしてもらいたいし、自分だけが楽しい身勝手は慎まなければ。


 人は知恵ある生き物だから、同じダンジョンを通ううちに必勝法を見つけてくる。

 冒険者の皆には1つずつ課題をクリアし、ダンジョンマスターの鼻をあかす達成感を味わってもらわねば。


 そんなわけで階層毎にハードになる残り階の完成を待たずオープンに至ったのは、MMO的運営の判断である。

 スタッフの頭と手が回らないために、すまぬのじゃ。

 これで迂闊なミスが出なければ、続きの階層を順次築いていくつもりだ。


 別に手を抜いていたつもりはないが、産業用ダンジョンってやっぱりテンプレートが有能で助かっていたんだなと、改めて染々することがあった。

 アドベンチャータイプのダンジョンを造っている間は『CAD』やら『計測』、『計算』辺りがゴリゴリ伸びた。

 オレの知覚しないところでも、スキルが頑張ってくれている。



 入場がレベル20から。そして魔物の強さはモブが10から15程度だ。

 ……難度調整失敗したかな。心配だ。

 でもデバフがあるから、HPの余裕はたっぷり欲しいし。

 


 公開している事前1F攻略推奨スキルは『ライト』、『採掘』、『エア』、『体内倉庫』、『マップ』。

 ジョブならば斥候と戦士。

 装備は鈍器とピッケル、防塵マスクだ。

 あると便利な道具は、ロープにずだ袋といったところ。


 採掘ポイント招来したのは、サビ防止にも使われるダンジョン昌石だ。

 輸出品としてもこのダンジョン昌石は、いくらでも需要がある手堅い部類の商材だ。


 そしてなにより重要なのは、ダンジョンのアイドル。フロアボスだ。

 1Fの最奥には【おおきなかぶ】を設置した。


 ジョークではない。

 ボスの姿はロシアの童話に出てくる【大きな蕪】のリアルバージョンだ。


 こいつ、野良ダンジョンには稀にいるがまあ、でかいんで荷物を圧迫して嫌われるんだよ。

 値段はそこそこつくけれど、重量から考えるとそれほどでもないし。

 でもダンジョンの出口の側だったら、ご褒美になる。そんなチョイスだ。


 ダンジョンマスターとして推奨するカブの倒しかたは、葉っぱを引っ張り地面から引っこ抜くだけ。以上だ。


 大きな蕪は地面から引き抜くと自動で死んでくれる珍しい魔物だ。

 ただし一定以上の力がないと【まだまだカブは抜けません】となるので、冒険者諸君は力を合わせて励んで欲しい。


 こいつは動かない魔物なので、もちろん時間をかければ抜かないままに倒すことも出来る。

 だけど地面に埋まったままで仕留めるとだな。強力な『衰弱』デバフを撒き散らし、命果てるのでそこだけは注意だ。

 呪いのデバフに抵抗失敗したら、半日はグロッキーになると心得よ。しんどいぞ。


 そしてこの大きなカブは建材である。肌が白くて綺麗で密だ。

 家具材にもなるくらいに水分も少なく硬いので、残念ながら食用ではない。



 フロアボスから説明したが、ファーストフロアは小手調べだ。


 この一階で主軸に据える徘徊モブ。

 それに選出したのはローリングストーンだ。


 1Fの地面が歩きやすく平らなのは、実はこの魔物が自由に転がるためだったりする。

 各々方、自然洞窟タイプなのに【なぜか均している】そんな道にはご注意めされだ。

 きっと、なにかしらの理由がある。


 ローリングストーンはトラップ型ダンジョンのギミックの場合もあるが、同じ名前の魔物もいる。


 道の窪みで逃げきれたりするのがダンジョンギミック。

 執拗に冒険者を追いかけ回してくるストーカーは、大抵魔物のローリングストーンだ。


 この魔物のレベル20ほど。ローリングストーンの図体は石なのに、いくら転がっても割れない程度には頑丈だ。


 質量っていうのはそれだけで強い。

 倒すのは億劫だと感じるものもいるだろう。


 命を大事にのダンジョン探険。

 安全マージンと勘案して、不利と悟れば避けるのも戦術だ。

 あいつは体が重いので、方向転換が苦手だ。平らな道なら走って逃げられる。


 ただ、かーさんが大事にしている日高翡翠のネックレスの色合いに似た、淡く柔らかな緑石の建材が採れるローリングストーンを選んだから、直径2メートルの大石を砕く自信があれば倒してもいいだろう。

 緑系の石材はホープランプでは特に人気のある建材だ。

 そう涼風少尉が教えてくれた。


 後は、それだけじゃ寂しいだろうからお供に青の顔料の採れる岩砂スライムも放っておいた。

 こいつは軽度の『魅了』持ちだ。推奨レベルは15。

 ぷるぷる、ぼんやり見惚れて油断してると弁慶の泣き所にアタックするぜ!


 それともうひとつ。歩きキノコのレアでホワイト種の在庫があったので放出だ。

 体長は普通種よりぐっと小さく30センチほど。

 味は出汁がよく出る程度で普通に旨いだけだが、こいつは『MPドレイン』を使ってくる。

 推奨レベルは10程度でも、所詮はキノコよと放置しないで、真っ先に仕留めておきたいタイプの魔物だ。


 こいつらは『採掘』のお仕事をしてると【構え】と邪魔をしてくる要員だ。

 両方冒険者のスネコスリなので、実質ネコチャン。


 倒してもグロくならない魔物を選んだんだぜ、褒めろ。


 無機物系の魔物と菌糸系の魔物の一部はエサが要らないので、お互いに食い合いしないので管理が楽だ。

 下手に生態系のある魔物を入れて放置すると、お互いを貪り食い合う蠱毒の果てに野生のボスが誕生してしまう。


 それを防ぐにはフロア管理を区切るなどの配慮がいるからやはり、どこまでも追いかけるローリングストーンのマッチョなストーカーぶりを生かすには最初から生態系を造らせないのがマストだ。


 そんなファーストフロアでは、地図と避難路の重要性を覚えてもらう目論見だ。

 ある程度の大きさになると野良ダンジョンは、斥候がいないと立ち往生する。

 不意の事故。仲間とはぐれたそんな時でも、自分の命を守れるように最低限の知識だけは仕込んでやりたい。


 碁盤の目型のダンジョンで日ごとランダムで動く壁とワープ罠は、『第六感』持ちの斥候の小松さんをして、怖くはないが面倒臭いと言わせた代物だ。


 ただし、安心して欲しい。

 この迷路のランダムプログラムはトウヒさんに組んでもらってあるので、迷路がどこにも繋がってないって失敗だけはなかったりする。

 こういうところで間違えないAIに頼れるのは素晴らしい。


 採掘ポイントと隠し部屋の位置だけは固定だ。

 これらの出入り口は複数あって日ごとに正解の出入り口は変わるけど、それくらいは普通だよな?


 もちろんローリングストーンに追いかけられた行き止まりの通路にも、ゲームオーバー専用の脱出ゲートを用意してある。


【おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない!】

 ゲートの先でお出迎えしてくれるのは、壁に吹き出しの看板をつけた王さま人形だ。


 髭カールの王さまがハリボテ玉座にちょこんと座って待ち構えている部屋に繋がるのは、避難口から退避した場合のみ。

 お約束のオマージュだか、きっとイラっとしてくれるはず。


 正統な出口には本来【今までの冒険をセーブしますか?】のパスを冒険者カードに記載するオブジェクトが置いてあるので、次のフロアに入るか帰還を選べる仕組みだ。

 しかし現在は次のフロアがないのでここで終了。帰還となる。


 親愛なる冒険者諸君には、レベルを上げて殴る、力こそパワーの爽快感と、デバフの嫌らしさ、マッパーがいなけりゃ話にならんということを是非とも体感してもらいたい。



 ウキウキ、ソワソワと人が飲み込まれていくダンジョンを見守る。

 楽しんでくれるといいなあ。



 最初だから魔力を使わない錯視の罠とか仕掛けなかったし、暑くしたり寒くしたりのフィールドギミックも除外してある。

 レベル制限を設けてあるし、地図さえ間違えなければクリアも難しくないはすだ。


 配慮が過ぎて、簡単すぎてつまらなかった、なんてことになったりしないだろうか。


 今まで造ったダンジョンで一番緊張する。

 巨大迷路のタイムアタックはそこそこ需要がありそうだけど。ううん、不安だ。





 ヨコハマダンジョン事業部。ホームページへようこそ!


 この特設ページは掲示板で収集された、教導用アドベンチャーダンジョン【若葉の迷宮】のQ&A集です。


 今さら恥ずかしくて聞けない素朴な疑問にも応対しておりますので、質問を運営に投げる前にご一読ください。



 Q 晶洞のダンジョンなのになんで若葉?


 A ホープランプの方なんですね。ようこそいらっしゃませ!

 日本では車の運転免許取り立ての初心者さんは、車両に若葉マークを張ります。

 周りの熟練ドライバーさんに【私は慣れない初心者なのでよろしくお願いします】と、注意と配慮を呼び掛けているマークなのですね。

 つまり初心者ダンジョンの意味合いからのネーミングです。



 Q は?昨日と道が違うんじゃが?天狗の仕業?


 A 仕様です。

 当ダンジョンでは初見野良ダンジョンの踏破を目指す冒険者を応援しています。

 『マップ』のスキル石をインストールするなり、自力での地図の作成を覚えるなり、対策を練るようお願いします。



 Q 逃げられるローリングストーンはいいけどさ、推奨メンバーだとスライムや茸相手に状態異常にかかるんだけど?!


 A 治癒士と魔法使いが何故基本3職に存在するのかご一考のほどをお願いします。

 今のうちに怖い目に遭えたのは、質問者さんの今後の冒険の糧になれたと自負しております。



 Q 茸にMPを吸われるのが辛いです。


 A その『MPドレイン』の感覚を覚えてください。

 それを感じたら見知らぬ敵でも真っ先に狙って潰しましょう。



 Q アィエエ?!大きな蕪??!

 状態異常酷くない??


 A カブです。

 しかしこのカブ、知識があれば安全に挑めるボーナスボスです。こんな時こそ魔物辞典を調べましょう。

 経験値はレベル50に相当するので、初心者には美味しいはずです。

 Let's Try!


 ※ちなみに大きなカブの死に際の絶叫は、レベル100戦士の耐性も抜いてきました。ご注意を。



 Q ローリングストーンに追いかけられて、行き止まりのゲートを出たら死亡判定受けてしまいました(^^)。WHY?


 A おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない。

 現実にはコンテニューはありませぬ。

 野良ダンジョンではどんな敵が現れるかわかりません。

 常に退路を探して置くことをお勧めします。



 Q ワープ罠で迷子になります。


 A それはワープ罠ですので。

 地図をしたためるのが不安な方は、『昭和異変』に講座があります。活用しましょう。

 それかステータスに『マップ』を入れましょう。

 野良ダンジョンの深層に潜ると、冒険者アプリの地図機能が通じなくなります。



 Q 隠し部屋あったよ!


 A おめでとうございます。

 しかし野良ダンジョンの宝箱には、呪いの装備が出現する可能性がなきにしもあらず存在します。

 出物は『鑑定』で確認を取ってから装備するのをお勧めしています。



 Q これでレベル20からの初心者ダンジョン?

 それにしては鬼畜じゃありません?

 レーティングあってますか?


 A ダンジョンマスターさんは冒険者の皆さんをとても信頼しています。

 簡単すぎて退屈だったんじゃないかと、心配でソワソワしていました。

 そうでもないようでなによりです。



 Q 暇そうな甲殻人を誘ってチートするのはアリ?


 A 彼らがいいよと言ってくれればOKです。礼儀正しく頼んでみましょう。



 Q ぼっち踏破をしてもいいですか?


 A ハハハ、ナイスジョーク。

 命を大事に!


 状態異常をナメるなクソが。





 コメント、いいね、評価、誤字報告等、ありがとうございますー。



 ようやくダンジョンっぽいダンジョンがエントリーです。



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― 新着の感想 ―
流士さん前世は戦場最前線だしリュアルテ君はレベルカンスト組に囲まれてるしで想定している普通の冒険者のラインがやたら高くなってる気がするぜ……!
[一言] このところストレスの溜まってた流士さんがツヤツヤになってそう よっ、副GM! このQ&A集の回答はGMなのかトウヒさんなのか、こっそり流士さんも混ざってるのか
[一言] まさに教導用ダンジョンって感じですね これで将来野良ダンジョンに対応するであろう冒険者達の死亡者数を減らせると良いのですが それはそうと、篠宮くんが楽しくダンマス満喫してますな! はっきり…
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