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234 シルバーリーフ



「折角スキルがあるなら、活かさないと勿体ないよね。

 生産と連動している資材集めの依頼を見てみようか。

 生産依頼でやりたいのある?

 得意なことでもいいよ!」

 場の空気がグダグダになり掛けたが気を取り直した。これから動くのに戦略を練る。


 広げられたクエスト一覧によれば、只の漂流物のゴミ拾いでも妖精さんの引率が付いたりするので目移りしてしまう。

 やあ、しれっと混じってきたな、妖精さん。


「どれも面白そうですわね。

 わたくしは『刺繍』と『陣形』のスキルがありましてよ。

 そして錬金術士のジョブも。

 スキルから選ぶのなら衣裳班の雑用あたりになるのかしら?」

 中学生は高校生、大学生の使いっぱしりをして運営を学ぶとイベント紀要にある。

 島の大学生たちは松が明けてから直ぐに、節分祭の実行委員を立ち上げて準備に取り組んでいたようだ。


「俺は樵、細工士、彫刻士のジョブがある。スキルを使うのにも魔力は増やしておきたいから、レベル上げはやっときたいな」

 おっ。茉莉花くん、見場は小さなジャスミンでもジョブ構成はジャックなのか!

 アバターをシャッフルされるケースもあるんだな。


 ……まあ、アヒルなジャックの伊達男姿で日本人で御座いとやるには無理があるか。


「ぐぬ、年下の癖に多重ジョブ持ち…!

 2世ってズルいね!……一応訊くけど他にジョブある?」


「わたくしは見習い冒険者と盾士……がありますわ」

 おっと、たつみお嬢さんに魔法使いはないんだった。


「俺は保育士もあるにはある」


《パードン?》

《クリスマスのジョブガチャは闇鍋》


「ええー……選択が広いと案外困るなあ。……節分飾りのグループは毎年ギリギリの滑り込みになるって聞くし、依頼始めには雰囲気掴むのにいいかも?

 よし!2人とも大人向けの産業用ダンジョンで、代々コットンかシルバーリーフの採集をしてみない?

 樵と盾職と『バインド』持ちの私なら、嵌めてタコ殴りやれるよ!」

 鶴ちゃんが依頼表を示す。


 そういうことになった。




 シルバーリーフはレベル15帯の虫系魔物だ。

 丸椅子サイズの黄金虫が、生体金属の低木を背負っていると思いねえ。

 ちなみに甲殻も玉虫色の装飾過多。メタメタにゴツくてフルメタルだ。

 この立派な鎧姿に、一見さんは攻略に迷う。


《コイツ、小学生男子が絶対好きなヤツだ》

《自然界にいたら目立ちすぎひん?》

《殻が固くて補食しにくそう》

《外敵がいないタイプの虫かあ》

《いや、木の分類なのかもしれんぞ?》

《尚、その外殻や灌木を利用したい人間ちゃんという種族がいまして》


 ギギッ!

 胸部から鳴るのは、敵意を伴う警戒音だ。


 先手必勝と言わんばかり。

 シルバーリーフは虹に怪しく輝く銀の葉を『鋭利』な刃にして飛ばしてくる。

 その薄い笹刃は切れ味鋭く、そして『そよ風』に流されるほどに軽いものだ。


 ……まあ『そよ風』に乗せられるくらいなら、『風鎧』を纏って突貫するよな?


 ひとり突出してきた敵を認め、黄金虫は薄刃を飛ばしてくる。


「せぇの、どっかん!ですわよ!」

 身に纏う、気流を解放。

 刃の群れを一気に吹き飛ばす!


《お見事!》

《これは爽快》


 木の葉を散らされた黄金虫が一瞬戸惑う。


「『バインド』!」

 鶴ちゃんの掛け声。ナイス気迫。


 見えない魔力糸が、体を縛る。

 自由を奪われた虫が、慌てて六肢をバタつかせた。


「っ、そう長くは持たないよ!」

 魔物は装甲の分だけパワーがあった。

 鶴ちゃんの拘束は凡そ5秒。中々の技前だ。それだけあれば充分である。


「『伐採』」

 使うは『隠密』。

 ぬるり。たつみお嬢さんに追走し、体の影から飛び出た茉莉花くんが、滑らかな手捌きで斧を振るう。


 カァン!

 たった一振り、樵の手管。

 良く繁ったシルバーリーフが『伐採』により打ち払われる。


 どっしりとしたアイアンツリーに比べれば、シルバーリーフの幹なんて細く頼りないものだ。

 ましてクリスマスのスキルテーブルはお祭り仕様の大盤振る舞い。

 ジャックの星を移植された茉莉花くんときたら、歳に似合わぬ手練を見せる。


《美事也!》

《やっぱ木の魔物相手にゃ白眉だよな『伐採』》

《トレント系統は種類多いし、こうしてクリティカルな活躍してると欲しくなる》

《茉莉花氏、思い切り良く動くなあ》


 灌木は地面に落ちる前に、よし、収納。危ないものは仕舞っちゃおうね。


《酷い、姫さま(^q^)》

《良い良い。まこと手八丁よ》

《ヒッメ、魔物相手にゃクレーバーだな》


 ギギー!

 なんてことをしてくれる!


 冒険者の暴虐に、シルバーリーフ氏は断固抗議の声明だ。

 相手が嫌がることからするのが戦の基本。


 背にキラキラと生い茂る、灌木を払ってしまえば下の体は無防備だ。

 さあ、畳み込ませてもらおうか!


「いくぜ、姫さん!」

「心得ましてよ」

「行っくよー!も一度『バインド』!」

 装甲纏う黄金虫は更に、灌木の盾を背負う形だ。だからその実、背中側の殻は他より薄い。

 さあ、フルボッコタイムだ!




「なんか、上手く回せたね!ナイスファイト!」

 無駄なく噛み合ったプレイは爽快だ。

 引率の鶴ちゃんもこれにはニッコリ。


「おー。センパイもフォロー、サンキュー。鳥頭には『バインド』が効くわな」


「うふふー、そうでしょ。まあ、圧倒的な暴力には呆気なく捩じ伏せられちゃうんだけどね!」


「それを言ったらお仕舞いですわよ」

 ところで鶴ちゃん。なんでこっちを見るのかな、うん?


 茉莉花くんの魔力が半分を切ったところで狩りを終えた。

 おかわりを排出するダンジョンの安全装置が働いたのだ。

 一度外に出ればポップするようになるが、区切りがいいので終了する。


 管理ダンジョンには必ず設けられている安全地帯でリザルトだ。


 倒したシルバーリーフは45体。

 大収穫にホクホクだ。

 数をこなしていくうち、次第にリズムが整い効率も上がった。

 パーティ戦はこれだから楽しい。


「姫ちゃんが殻を処理してくれるから、その間、うちらは『念動』で床に落ちた葉っぱの落ち穂拾いをやるよー!

 ふふふ、底まで倒したご褒美の臨時収入だね」

 おかわりの底まで倒せないと、落ち葉は拾うのが難しい。

 シルバーリーフは葉っぱが一番価値があるので、キャリーオーバーが溜まっているとラッキーとのこと。


「『念動』借りてたのって、そーいうことかよ。了解」


「どんどんインゴットにしますわよ!」


《うわ、姫さま魔力ゴリラ》

《チートボディうらやま》

《中の人のカルマ下げんと上位者アバターには転生出来んのよ?》

《輪廻かよ》

《徳を積むしかないのかー》


 30体までは緊急依頼があったので、魔石だけ抜き取ったものを転移井戸に落とし済みだ。

 それらは速やかに納品されて【搬出されました】と、冒険者アプリに通知が着ている。

 帰りに受付で手続きしてくださいとのことだ。忘れないようにしなければ。


 残りの15体は鶴ちゃんの指示通り、この場で『解体』をして、素材を次の生産クエストに持ち込むつもりだ。


 シルバーリーフの魔石は1つ950円。

 他の素材を丸ごと納品だと1050円で、緊急依頼は一体に付きプラス300円の追加ボーナスが出る。

 30×2300÷3。

 それにダンジョン入場料や保険料、機材の貸し出し料がもろもろ込みのお得なセットで一人頭5000円を差し引いたものが一先ずの儲けとなる。


 残りの15体は持ち込みをするので、魔石以外は別清算だ。

 シルバーリーフの魔石はカットするとダイヤモンドのように煌めくので、こっちは換金しないでお持ち帰りする。


 服飾女子や細工士男子にとって、素材が美味しい【シルバーリーフ越え】は、初心者の壁のひとつなんだってさ。



「…なあ、思ったんだけどよ。大人向けダンジョンって、申請書とか面倒臭いよな?」

 AIのナビがあるアプリ申請に慣れてしまうと、紙の書類が億劫だ。

 不満げに少年が口を尖らせている。


「みんなそう言うよ。茉莉花くんは世慣れた風だけど、そんなとこは男の子だね。

 ギルドスタッフに妖精が増えたら、冒険者の紙仕事が減るらしいよ。

 それまでガンバ!」


「あら、朗報」

 妖精繭茸搬入の緊急クエストが常時掛かっているわけだ。


《皆も妖精クエスト参加しようぜ!》

《せやかて妖精の出没クエストは、金にならないもんばかりやろ?》

《【妖精は便利!】って民意を育てる陰謀だな》

《AIが人の仕事を奪うんや!》

《は?人手不足で困ってるのにナニいってんの?工事現場は経験無しの新人さんも大歓迎よ?щ(゜▽゜щ)》

《深夜ワンオペコンビニバイトは怖かとばい!》

《子どもって突拍子のないことするから、AIの目が増えると助かるよねえ。関連ニュースを見るたびヽ(´Д`;≡;´Д`)丿ってなる》


 鶴ちゃんに大人向けダンジョン施設の申請の書き方を今日改めて習ったけど、確かになにかと厄介だ。

 それぞれ書類の行き先は管理する部署や会社が違うから、仕方がない面があるとはいえ。

 1日保険や道具の貸し出しの申請をいちいち別紙で提出しなくちゃいけないとかね。これを毎回と思うとゲンナリしてしまう。

 正にお役所仕事。冗長だ。

 

 パソコンで情報共有一括管理をやれないと、こうなるしかないのかな。

 ………って、テトリスやるのにファミコンがあるんだから、役所にパソコンくらいあってもいいだろガバ昭和ぁ!


 ……授業でのダンジョン手続きは先生がしてくれたし、学生向けのクエストは学校事務員さんのサポートがあったから周辺ストレスが減って楽だったんだな。


 鶴ちゃんと花ちゃんが声を掛けてくれてなかったらダンジョンに入る前、申請書の書き方の段階でコケていたとこだろう。感謝せねば。

 そういやダンジョンの手続きを嫌がって、初級授業に混じっていた中級者がいたっけか。


「裏技ってほどじゃないけどねー。

 ひとつのダンジョンにつき、専用書類を一式用意しておくのさ。

 ええとね、日付だけ抜いた申請書らの元本をあらかじめ作っておいて、後は受付で『コピー』して貰って使い回せばいいんだよ。

 本人確認は学生証でオーケーだから、書類は肉筆じゃなくても大丈夫。

 手数料が掛かるけど、私はいつもそうしている」

 自分の手続きはテキパキ済ませて、オレらの書類の面倒を見てくれる時間があったのはそういうことか。

 ……教えられた通りに真似っこしよ。


《そう言うことは早く知りたかった!》


 茉莉花くんは無言で天を仰いだから、独りでダンジョンに行って手続きで苦労したんだろうなー。

 他人を助けるのは良くても、助けられるのは苦手な見栄っ張り。彼は水面下で水を掻く水鳥タイプだ。


「やー。今日は気持ち良く稼げたね!

 私以外は適正ランクよりちょい上だったけど、いいね。盾がいると安定して回せるなあ」


「専門盾は少ないのか?」


「んん。どうしてもねー。直接攻撃出来るポジションに人気が集まるね。

 魔物相手に戦える手段がないのに、ダンジョンに潜るのって怖いもん。

 他のスキルを覚えるのは、それからになっちゃう。

 ステファニーちゃんとこみたく、小さな頃から盾を習ったりすれば別だろうけど」


「甲殻の奴らならそりゃ、前衛はマストだろうさ。……試しに野良パを誘ってみるか。効率良く金を稼ぎたい」


《!!》

《喜んで!》


「いいね。樵があるなら、全然イケる。ダンジョンさえ選べば、溢れるパワーの甲殻人に交じっても居心地悪くならないんじゃないかな。

 そして後輩くんは、なにか欲しいものあるの?」


「ジャージは俺のモチベが下がる。バトルドレスを新調したい」


「あー」


《鶴ちゃんが知らない生き物を見る目をしとる》

《いがぐり頭の中学生に混じると異分子だもんな茉莉花氏》


「茉莉花さまは、いつもお洒落さんですものね」


「ええと、ね。お下がりが嫌じゃなければ、0のつく休日は海浜公園で蚤の市があるよ。

 先輩らがサイズアウトした品狙いで覗いてみてもいいかもね。出会えるかどうかは運になるけど」


「リユース品か。なるほど、教えてくれてサンキュ。行ってみる」

 いきなりリッチになったけど、新品で装備を買おうとすると全然足りないもんなー。


 バトルドレスのお値段は最低価格で100万からだ。

 まさにオートクチュールは天井知らずだ。

 鉄の盾だと2万程だが、付与してあるものはその十倍じゃ買えたりしない。

 昭和だからリアルよりずっと物価安なのに、冒険者のお道具は高いよなあ。

 

「狩りが終わったとこで、注意事項を上げとくよ。

 シルバーリーフは虫の魔物にしては大きいし、がっしりとした装甲でしょ?

 でも魔物としては中途半端なんだよね」


「動きはトロ臭かったよな?」


「その通り!

 外骨格は生体金属で頑丈なんだけど、その分体も重くなるんだよ。

 本体の動きが鈍いんで、アタッカーとそれを木の葉から守れる盾職がいればカモなのさ。

 あれでもっと大きかったら、脅威が跳ね上がってたよ」

 ふむふむ、葉っぱカッターを封じるのが胆なんだな。


「『錬金』」

 鶴ちゃんの注釈を聞きながら虫の外骨格をインゴットに『錬金』して引っ剥がしていく。

 中身は備え付けの転送ゴミ箱にポイポイだ。


 鶴ちゃんと茉莉花くんはフィールドに散らばった葉っぱを拾い集めている。

 素手で拾うとこの葉っぱは、ガラス片よりよほど危ない。だから2人が使う『念動』のアクセサリも申請して貸りて来た。


 細々と足りないものを横から教えてくれる鶴ちゃんがいなければ、道具不如意で片手落ちなクエストになってただろう。


《『念動』で銀刃が浮くとキラキラして綺麗だなあ》

《海で見ました。小魚の群れのようですね》


「こいつらの特徴はなんていっても生体金属の葉を繁らせる低木を生やしていること!

 ダンジョンに入る前にも言ったからしつこいけど、銀の葉っぱは当たると鋭いからね。

 容赦なくHPを削ってくるから注意だよ!」


「はい」

「おう。わかった」


「うん、よい返事!

 今回は姫ちゃんの『風鎧』がチートしてくれたから楽させてもらったけど、本来私の立ち位置にある後衛には盾のHP管理をさせるように徹底してね。

 一見綺麗な葉っぱだからこちらの危機感が薄くなるけど、それが問題でね。

 シルバーリーフの葉に襲われるといつの間にかHP装甲が尽きていて、血まみれになったりするんだよ。

 ヤツの攻撃はサイレントナイフだから気を付けて」


「最低でも戦士1盾士1治癒士1を揃えて挑めということですわね?」


「そゆこと!シルバーリーフは一度は引率されてからじゃないと入れない系統のダンジョンだよ!

 入るのに知識がいる。そーゆー管理ダンジョンもあるからね。2人も頼ってきた後輩には教えてあげてね。

 ダンジョンを出たら10分程度のペーパーテストが受けられるから、やっておくといいよ。

 合格すればシルバーリーフダンジョンの引率資格証明を貰えるから」



 クエスト!


 鍵付き管理ダンジョンを解放し、専用引率資格証明を手に入れろ!


 ストップ、初見殺し!

 倒すのに手順のいる魔物もいます。

 知識を修め賢く立ち回ることを覚えましょう!



 報酬 功績ポイント +100


 申請書類管理ファイル

 ※嵩張るダンジョン申請書類を一括管理しちゃいます!



 あー…。知識ないと危なかったり、ひたすら面倒な魔物っているもんなあ。


《ぐぬぬ。ボッチには酷なシステム…!》

《引率は助かる。アバター6代目のうっかりな俺氏、ダンジョンの機微はペーパー読むだけじゃ不安》

《鶴ちゃん先輩は頼りになるなあ》

《俺もそろそろダンジョンに行こう》

《アホなノリのジャリどもと部活やるのが楽しすぎて、ダンジョン通うの忘れてたわ》

《無理しなくてもいいやん。普通科学生もここにおるで》

《なんで?!》

《←当時は病院暮しやったし、普通の学校に憧れある(((o(*゜∀゜*)o)))》

《お、おう?》


「これはテストに出ない豆知識だけど、シルバーリーフの葉っぱは『錬金』しても『鋭利』特性は残るから刃物素材に、外骨格部分は綺麗な銀の玉虫色を活かして銀箔やアクセサリの素材になるよ。

 糸にして布の織に混ぜるに良し、刺繍糸にするに良しだね。

 シルバーリーフは光にあたるといい感じにキラッてしてくれて本気でお勧め。

 そして食品として認められているから銀箔やアラザン等の材料にもなるよ」


「……銀色のアレ、この虫が材料なのかよ。知りたくなかった」

 心底嫌そうな顔だな茉莉花くん。


「『錬金』」

 会話をBGMにモリモリっとインゴットを作る。


 こう続けざまにスキルを使うとアレだ。

 リュアルテくんは金属加工時『精製』を入れるようにしてたけど、やはりたつみお嬢さんだとそこまでの精度は出せんな。

 でも、いらないものは極力排出しておこう。

 ここら辺の感覚の違いが分かるのが、アバター変更の面白いところだ。

 必要なものだって身に染みて、スキルを鍛えるモチベになる。


《着色料らの素材なんかは知りたくないもの多いよな》

《くちなしの黄色は安心安全》

《姫さんは金属加工得意なん?紙を『錬金』していた時よりずっと速い》

《風竜系統っぽいのに不思議》

《『刺繍』→『糸紡ぎ』→インゴット『錬金』の逆引きかな》




「シルバーリーフ3番ダンジョンを退出しました。清算をお願いします」

 カウンターに冒険者カードとインゴットを提出してしばらく待つ。


 生産に持ち込みするのは、外骨格の生体金属。

 売っ払ったのは『鋭利』付きの葉っぱインゴットだ。


「おお、頑張ってますね。質がいい。

 これならちょっとだけですが、割り増し料金が出せますよ」

 インゴットを『鑑定』した職員さんがにっこり笑う。


「やったね、姫ちゃん!」

 鶴ちゃんがすかさず手を差し出してくれたのでハイタッチだ。


「はい!頑張りが認められると嬉しいですわね!」

 割り増しは、インゴット一本につき20円程度のチリツモ程度。


 小金の癖に嬉しくなるのは、参入市場が大きくて競争相手がいるからだな。

 3等分して残りの端数は募金箱に入れておく。




 受け付けを終えたら備え付けのフードコートで小腹を満たす。

 揚げ芋を摘まみながら、鶴ちゃんを先生に試験対策だ。


 それからテストに挑んだわけだが、最低限だとメモった所は殆んど出てきた。


 さては鶴ちゃん、先生の才能あるな?

 いや、テストでやったことを覚えていてきっちり教えてくれたのか。


 このテスト用紙は取っておいて、オレが誰かを引率することがあったらアンチョコとして見直すとしよう。


 恙無く引率資格証明とクエストクリアのバインダーを貰えたところで、また移動だ。

 鶴ちゃんのセレクト、節分飾りを作っている団体に顔を出す。


 その海っぺりの作業場は、オノゴロ島商工会組合の物販倉庫のうちのひとつだった。

 近くに巣でもあるんだろうか。カモメが鳴く声が中まで聞こえる。


 外町にあるので、倉庫は外気に晒されていた。

 冬は寒く、夏は暑い環境だ。


 ぶるりと震えた。

 打ちっぱなしのコンクリートの床は、足底から冷気の蛇が這い上がる。

 それに対抗するように、大型ストーブがカンカンと音を立てているがそれも大分劣勢の模様。


 ダンジョンに倉庫はしこたま建てたが、知らなかった。普通の倉庫って冷えるんだなあ。


「こんにちはー。お手伝いにやってきましたー。

 シルバーリーフの外骨格インゴット15体分持参でーす!」


「わあ、助かる!」

「ひょっとしてまだ灌木材も残ってる?底値で悪いけど、引き取らせて貰えるかな?」

「銀箔欲しい!」

「飾り紐編むんで、こっちにも!」

「まてまてステイ!ハイエナども!持っていくのは納品処理が終わってからだ!」

「君らスキルなにかある?アクセサリ貸せるよ!」


 あっという間に大きいお兄さんお姉さんに取り囲まれた。

 相談する暇もない。それぞれバラバラに引き取られていく。


 逃がさん!って圧が強い。

 皆さん後輩の指導に熱心ですね。


 見回せば現場で年輩なのは、人溜まりの中央に居る指導員の職人だけ。師匠を取り囲む青年らは喧々囂々と真剣だ。若いエネルギーに満ちている。


 これは場違いなところにきてしまったのでは?

 ……まあ、猫の手くらいにはなりますにゃー。


「じゃあ、お嬢さんはアタシたちと一緒に銀糸をコレで『糸紡ぎ』しようか!」

 手を取られ、指輪をそっと嵌められてしまう。

 問答無用だ。苦笑する。


「はい。どうぞ、お手柔らかに」

 

 



 コメント、いいね、評価、誤字報告等、感謝です。


 夏休みで1回お休みして戻ってきました。

 ………締め切りがないと宿題って終わらないものですよね!


 作中は、まだしばらく平穏です。日常パートをお付き合いくださいませ。



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[良い点] 姫様と茉莉花くんがゲーム内外で褒められてるのいっぱいうれしい クリスマスの遺産そんなつよつよだったのね
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