22 ヤーマシッダ師の円盤
「人が集まっただけで、その対応って過敏すぎない?」
「位階の差によっては、興奮して詰め寄られただけでぷちっといきかねないからだろう。わたしまだレベル1だし」
高レベル冒険者なんて人型戦車よ。
理性的に振る舞えないなら、人は簡単に兵器になる世界だ。
「そっかレベル差問題あったか。午後はいつもの0レベ参り?」
「日課なんで。歩くの楽になったら、大分効率あがってきた。魔力もバステかかってたみたいで上限あがったから。そっちも?」
「おんなじー。あのさ、リュアルテにビリビリ棒用の『エンチャント』集中してるけど、大変だったりする?」
「数が多いだけだから、負担はそれほどでも。むしろ外装頼んでいる職人が過重労働してないか心配で」
「それな。オレ、門とか規格外で特注なのにばかすか注文してるもん。『錬金』や『造形』育てて自分でも造れるようにならないと、そっぽむかれたとき怖い」
「工房に注文するのは経済が回っていいと思う!
でも身内に職人がいるのは、ありがたいな!今度、簡単なものあたりから一緒になにか作ろう!」
「わたしも混ぜて欲しい。この前話していた、水の出る蛇口とかどうだろう。
やりようによっては簡易化できそうじゃないか?」
「あー。触っただけで水が出るタイプならネジ切りもいらないし楽かなーってアイデアはあるけど、どっかにそーいうのきっとあるから資料欲しい。特許切れてて自由に使えるのないかなあ」
「発想被りは仕方なくないか?」
優れた発想なんてそうは出てこんもんよ。
「人はミームに汚染されているものだ。
だからこそ特許取るような頭脳は尊重されるべきだ。基幹は良いのを選びたい。
個性出すとしたらデザインの方向で行こう」
ヨウルは『造形』持ちだから、そゆこと好きそう。
「ミームってなに?」
「文化の遺伝子だな!
物語をきいて、誰かに話す、拡散する。そんな概念だ!
誰かが面白いことを始めると、流行ったりするだろう?それだ!」
「はい、お話し中御免なさいよ。次はゴローンってうつ伏せねー」
整体師のお爺ちゃん先生に、コロリと転がされる。
場所は【睡蓮荘】の保健室。
警備の都合で3人ならんで施術を受けている状態だ。
エステ?
うん、そっちも専門家に頼んで習いにいったよサリーたちが。
スキルの鉱脈どこに眠っているかわからんし、何でも試してみたいのはゲーマーの性だ。
サリーたちのスキル構成も愉快なことになってそうで少し気になる。
「ぼっちゃん。身体、調ってんね。ジジイのやることなくて楽だわー。
『整体』もちね?」
ヨウルやエンフィは他の爺さまたちに割りと容赦なくゴキバキやられているけど、オレはマッサージだけだった。理由はそれか。
「『整体』は怪我をして最近まで止まっていたのですけど、昔の貯金ですかね?」
「そうね。『整体』はいいよぅ。わし、ジジイになっても元気だもん。
ぼっちゃんは、『チャクラ』が少ぅし開いてるから、意識して車輪を回すとええよ」
横からヨウルの悲鳴が聞こえて気が散るが、整体士の爺さまが面白そうな話をしてくれそうでソワリとする。
「『チャクラ』の名前は聞きますけど、どのようなものなのでしょう?」
「うん?活力を生み出す起点やね。聞いちゃう?ジジイ、話長いよ?」
「是非」
「よしきた。
まずは第一、赤の『根を支える』『チャクラ』。これは骨盤の底にあんのね。
ジジイみたいな専門職でもお客さんに触るのはチョメチョメなデリケートなトコにあるよ。具体的に言えば会陰やね。
この『チャクラ』は、地面に根を張っていきる人は開いているの多いね。ここはね、重要。基本だから。『瞑想』する時、自然と触れあうといいよー、お勧め。
第二の『チャクラ』、オレンジの『スワデシュタナ』これは丹田、ヘソの下にあるね。
腹式呼吸、心掛けてね。ここが崩れるとやる気でないよぅ。
物を造ったりして楽しー!ってなったらここが活性したりするのヨ。
第三の『チャクラ』、黄色の『マニブラ』。これはみぞおち。強く押すとぐえってなるトコロね。
開くには、お日さまを浴びるといいね。焚き火もいいよ。
ここね、やる気スイッチ。人の魅力にも繋がるね。
バランスが大事よ。足りないと自信なくて、過ぎれば傲慢。
心の悩みが胃にくるお人は、ここを回すと効果的よ。
ちなみに第一から第三までは肉体の『チャクラ』ね。
第四はアストラル、星幽。これは下の肉体と上の精神の仲人さんね。
第五から第七までが精神の『チャクラ』よ。
第四の『チャクラ』、緑の『アナハタ』。これは胸の中央にあるよ。
思いやりや感謝を受け取って、そして与えると回るよ、ステキね?
やっぱりハートはお互い行き来しないとネッ!
独りよがりは悲しいことよ。
この星のチャクラが調うと人望集めやすくなるね。
第五の『チャクラ』、水色の『ヴィシュッダ』これは喉。
ぼっちゃんは、ここは完全に開いているね。その調子よ。
歌はいいよぅ。我はここにありけり。声を世界へ届けるね。
ジジイみたいな無口なはにかみ屋さんは、もっと歌って喉のろくろを回すべし!なのよ。
第六の『チャクラ』、藍色の『アジュナ』これは眉間。
所謂サードアイね。育てるには、朝日夕陽浴びてちょー。記憶鍛えるのも好循環。
直感働かせたり、物を考えたり分析したりが得意になるね。
おかげでジジイ、ボケ知らずよ。
第七の『チャクラ』、紫の『サハストララ』これは少し特殊。頭のてっぺんのちょい上よ。体のなかにはないのよね。
第一から第六のチャクラが全て回ると開花するよ。
ダンジョンみたく、力ある場所に訪れるのもいいね。
ちょっとだけ世界の真理が見えたりするよ。ちょっとだけ。
悟りの『チャクラ』っていわれてるけど、ジジイ、人生楽しすぎてちっとも悟れないわー。
ぼっちゃんが開きそう、開いているのは『根を支える』『スワデシュタナ』『ヴィシュッダ』ね」
マッサージを受けていると手足が温かくなって、汗がじわりと額に浮かぶ。
クエストクリア!
ヤーマシッダ師の円盤の話をクリアしました!
報酬
『根を支える』※骨格、副腎機能向上、他。
『スワデシュタナ』※生殖、膀胱機能向上、他。
『ヴィシュッダ』※気管支、喉、甲状腺機能向上、他。
他。は関連スキルにシナジーを与える効果があります。
以上を『チャクラ』に統合します。
長いわ。
手帳の自動書記があってよかった。耳慣れない単語が覚えきれない。
『チャクラ』はメモリ消費はなしの自動取得だった。
もともとリーチがかかっていたけど、知識がなくてとれなかったスキルっぽい。
『根を支える』は、どうも前世で持っていた『骨格強化』に関連するスキルっぽい。
体育系のスキルを得るのに、おそらく幾つものルートがあって『チャクラ』はその内のひとつなんだろう。
マッサージを受けながら『チャクラ』の効果はとステータスを見ると、魔力の威力、回復効率を上げてくれるスキルだった。
今はショボいが、伸びたら使える子になりそうでホクホクする。
「はーい、終わりよ。スッキリしたね。
体が調うと気の巡りがよくなるね。
でも『チャクラ』を回すのに頑張りすぎもよくないよ。自然体で心地よいこと。それが豊かに生きるコツね」
「ありがとう御座いました。お話伺えてよかったです」
「施術は料金分の仕事してないから、それ以外でサービスね。
ジジイを気に入ったら、お客さんを紹介してくれてもいいのよ?
これ名刺ね。サービス券もつけちゃう」
ハゲ、デブ、チビの3人組爺は、チャーミングに手を振って保健室から出ていった。凄いな人間の魅力って顔じゃないわ。
年をとっても偏屈にならず愛嬌たっぷりに生きていけるとか、いいよなあ。
「…凄くゴキゴキやられてたな?」
「整体なんて初めて受けたわ。なんか視界がスッキリしてる」
「リューのところの先生の話を聞いていたら『チャクラ』がいきなり生えたんだが」
エンフィは疲れたのか、とろんとしている。
「『チャクラ』、あー、オレはメモリ消費しないと覚えられないか。効果は?」
「魔力の回復率と運用効率をほんのり上げてくれるな。いまのところは。
副次的には体育系スキルのスイッチになっている」
「微妙に欲しいヤツだそれ。んーメモリ、ある程度はキープしときたいんだよなー。迷う」
「スイッチを踏むのに、そうだな。わたしのダンジョンで『瞑想』の真似事でもしてみるか?」
「桃の木のダンジョン?
いいな。弁当もってさ、花見をしよーぜ。どうせ魔石弄るんだしさ。
なぁ、エンフィ。…………エンフィ?」
「……………寝てるな」
部屋は施術するのに採光を落としてあるし、程よく疲れた後の整体&マッサージ。おやすみ3秒の条件は揃う。
「あー…オレも眠いかも」
大きなあくびをした気配に、眠気が移る。
「わたしも」
ちょっと早いけど目を閉じる。
お休みなさい。
この世界では5日後の朝に、会いましょう。




