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213 友来たる



 遭難5日目。

 イレギュラーもなく星砕き完了。

 同行スタッフの皆さんも、お疲れさまでした!


 ネモフィラ4番・野良ダンジョン『マップ』に、攻略済みの印をつける。


 隅々までの『マップ』埋め。地図が全部埋まると達成感だ。

 クリスマスイベントは悉く100パーセントいかなくて悔しかったがリベンジだ。



「ダンジョンウォーの無事の勝利、おめでとうございます!」

 オレの署名で『マップ』に攻略終了を出したことで、広崎さんが代表して声かけした。


「「「「「おめでとうございます!」」」」」

 そして残りのスタッフが唱和する。


「ありがとう。

 これでひとつ星が砕かれ、土地が新たに生まれ変わる。

 この地に住むものに、幸いあれかし」

 儀礼の言葉を返せば、解散だ。


「夏草少佐をはじめ、ホープランプの皆もご苦労だった。

 また、ダンジョンを潜る時には頼みたい」


「はっ!」

 色取り取りの甲殻がビシっと揃う。敬礼は右手を左肩に当てたものだ。

 おお、格好いい。

 ホープランプさんはなにをやっても迫力があるな。


「広崎。わたしは雫石の『調律』をはじめたい。

 後を任せる」


「はい。承りました」

 彼らとしては肉体的にはお散歩コースだったろうけど、気疲れはしてるだろうからオレは管理ダンジョンに引っ込む。

 毎度お馴染みレイスのアクアリウムで『調律』作業だ。


 オレの付き添いは平賀さんと小松さん。

 後のメンバーは、後処理がてらホープランプさんたちとコミュを深めることとなる。


 18にして若手に鬱陶しがられる上司の気持ちが分かってしまった。

 切ない。

 ……邪魔な上司って、若者と仲良くなりたくて一生懸命なのが空回っている悲しいタイプも居るんだろうなー。


「お疲れさま。

 篠宮くんのリュアルテさまモード、なんか妙に楽しかったわ。

 ふふ、いっぱしの騎士になった気分よ。悪くないわ。

 ご主人さまが素敵だと、部下のテンション上がるのね」

 お世辞でも努力を褒められたら嬉しいものだ。

 相手が華やかなお姉さんなら尚更に。


「平賀さんもナイスロープレ。淑やかかつ凛々しかった」

 親指を立てて讃える。

 平賀さんはいつも堂々としているが、少し上品に振る舞って貴族のお嬢さん系な軍人の振る舞いを見せてくれた。

 オルレア風味だ。


「ふふん、女は生まれながら女優なのよ。……まあ、嘘だけど。

 撹拌世界のキャリアが利いたわ」

 ウソなんかい。


「最初のダンジョンドロップが出たとき、真紀ちゃんは化けの皮が剥がれそうになったけどなー」


「法勝くん、うざい」

 小松さんのからかいを平賀さんはバッサリと切り捨てる。

 仲良しだなあ。


 ダンジョンドロップのリザルトは、件のエッチな発動体と、攻撃スキルが付与された魔剣が出た。


 魔剣に付いた効果は『HP吸収』。星3相当。

 なかなかえげつなくて、使い勝手がよろしい代物である。

 これはオレが買い取りさせて貰って、スタッフに貸し出しするのにキープしておく。


 レベル3の野良ダンジョンで、このダンジョンドロップ数はかなり渋い。

 だけど清掃の手が入っているダンジョンでなら上々だ。ボウズでなかったことを喜ぼう。


 野良ダンジョンがひとつ減り、地脈を支配下に置くとホッとする。

 言葉通り地に足が着いた感じだ。



 安全地帯にテーブルを出し、椅子に座ったところで制覇した『マップ』を眺める。


 仕掛けたるは、ダンジョンウォー。

 星砕きに赴くダンジョンマスターならば、マップの完全攻略は嗜みだ。


 ただダンジョンマスターが地図埋めすると、いずれ消え行く野良ダンジョンの記憶ってことで諸行無常感は漂うな。


 まあ、野良ダンジョンはあまねく潰すもので育てるものじゃないからいいっちゃいいが。



 ネモフィラの4番は野良ダンジョンとしてはハズレだったが、雫石としては悪くなかった。

 気温や湿度の具合から、倉庫に適した石が多いし、軟水の湧く水源や、鉄の鉱脈の湧く石も出た。


 思い付いて、この情報も『マップ』に追記しておくことにした。

 データ収集が趣味のGMなら喜んでくれるかもしれない。

 


 マザーさん曰く、ネモフィラダンジョン近辺は都市の地脈とズレているそうだ。

 なので地脈を吸い上げてしまっても良しというか大歓迎だとのこと。

 新生したネモフィラダンジョンは、シティの飛び地として編入されることとなる。とても嬉しい。


 公的機関に預けるダンジョンのなにが好きかって、運営責任がお上にあるということだ。

 ピンキリの民間企業にダンジョンを任せるには、オレに甲殻世界全般の知識が足りていない。名前を出されてもサッパリだ。


 なにせダンジョンは宝を生み出す打出の小槌。

 しかし安定して運用するには、どうしたって武力がいる。つまり、ろくでもない団体に任せるのは、如何にも恐ろしい代物でもある。


 相手に信頼なくては、委託なんて出来やしない。

 本来ならじっくりと預け先を見極めてから交渉するのが正解で、見切り発車はやっちゃ駄目だ。

 でもどれか選ばなければいけないならば、オレはマザーの後見のある政府さんを選ぶ。


 愛情深いが善悪の判断はシビアな姉妹機がOKを出す政府さんなら、管理責任を全うしてくれるはず。

 自力で判断するには材料と経験が足りないので、【ホープランプと友誼を結ぶと決めた】GMの考えにベットした形だ。

 時間を惜しんでの手抜きである。


 ……万一負けても、GMに勝手に賭けたのはオレだから、恨まないようにしないとな。

 なにが正解で誤りかは、行動してみないとわからない。

 それらは撹拌世界で叩き込まれたことだ。

 最悪の事態に備えて、雫石のへそくりは必ず用意しておこう。


 人が集まれば意見は違うし、厄介な言葉ほど大きく取り上げられるのが世の常だ。



 オレとしては近くに散在する野良も潰し、地脈を一元に制圧したいところだが、それはホープランプ政府さんからの提案待ちだ。

 野良ダンジョンによっては資源に優れたものもある。他人の財布に手を突っ込む火遊びはしない。



「じゃあいつも通り適当に狩っていくわね」

 平賀さんがレイスを狩り、小松さんが護衛待機だ。

 これをスイッチして、適宜交代ということになる。


「『消音』、『輪唱』、『爆破』」

 ポポポポンと弾けていくレイスを横目に『調律』を始める。

 石を細かく砕くことを覚えてから、作業がぐっと楽になった。



 納品前のβテストがてらこのダンジョンは、そろそろやってくる他神奈川チームのレベル上げ用施設としても使うつもりだ。

 免許の認可がおりたばかりの民間の冒険者は、まだレベル10を越えているものさえ数が少ない。

 野良ダンジョンが氾濫している土地柄なのに、それは大変よろしくないので優先してのドーピングだ。


 なにせ彼らときたら、好んで冒険者免許を取りに行くようなアクティブ揃いだ。

 位階さえ上げてしまえば、頼りになるのは目に見えている。


 プレイヤーを招くにあたり代々コットンやレイスの他にも、食肉と穀物、野菜の採れる広めのワンフロアを用意した。

 後のダンジョン内訳はマザーとホープランプ政府の意向もあるので、そちらが纏まってから確定になる。

 今からインフラも調えなきゃならんので魔物のチョイスは後回しでもいいし、なんなら後からダンジョンを差し替えてもいい。

 その辺はじっくり国益について話合ってくれたらいいんじゃなかろうか。

 よく使われるダンジョンは、いいダンジョンだ。


 なのでこのレイス部屋は撤去するかもだ。ホープランプでは魔石はダブついている。

 本当に、所変われば品変わるものだ。

 日本は深刻な魔石不足だというのに。


「『調律』」

 倉庫にするのに相性がいい石は、繊細な『調律』をしないで済むので気が楽だ。

 スキルを使いながら、先の予定を組み立てる。


 取り敢えず、GMをコピーした筐体を乗せるゲーム塔の再設置が一番だろう。


「『調律』」

 これが終わったらモニュメントにゲート群を接続する。

 今ある休憩施設や素材処理の解体場も一度撤去してから再接続もしなければいけないし、錬金工房等のスペースも追加したい。

 ノベルでの導線のプリセットが使い回せるから、施設周りの接続は惑わずやれるな。よし。


「『調律』」

 あ。この雫石、鉱脈があるな。キープだ。

 付箋を貼って別の箱に落とす。

 要がいたら横流しするんだが、いないものは仕方ない。

 さて次。


「『調律』」

 ホープランプ向けダンジョンの使用料で、安定した財源が確保出来ることは大きい。

 これでオレも漂流日本人向けのクエストを流せそうだ。


「『調律』」

 こちらに来る第一陣も、肌着や休憩スペースのベッドとかの生活必需品を量産するべく派遣された、手に職があるスキル持ちだ。

 今はまだいいとしてもこの先々。護衛メンバーや彼らの賃金を、義援金で賄うのは不健康だもんな。

 金銭が流れる仕組みは造っておきたい。


「『調律』」

 ネモフィラダンジョンが仕立て終われば、ゲーム塔を建てつつ西に西にと移動していく算段だ。

 警備に人を出してくれるホープランプとしては、野良ダンジョン収集装置と崩落防止システムが目当てだ。

 もちろん野良ダンジョン収集装置は、マメな掃除をしないと悲劇を招くことになる。

 だけど掃除をするならドアトゥドア。手間が省けて非常に便利だ。


 サリアータにも野良ダンジョンの集荷場があったけどさ。あそこはいつもミチミチで、だけどボスが湧けないくらいにきちんと掃除が行き届いていた。


「『調律』」

 ……うーん。このまま駅を通していくと摘みたてフレッシュな雫石を随時手元に届けられてしまいそう。

 集荷システムはダンジョンマスターが複数いないと破綻するんで、集荷場を造らないようGMに釘を刺して貰わなきゃな。



「塔の建設予定地の、第一報が届いたぞ」

 ぱちんと、思考が弾ける。


 オレが【戻ってきた】のを確認し、小松さんが資料を渡す。

 考えごとをしていたというのもあるけど、ゲートを誰かが出入りしたのは気づかなかった。

 『調律』をしていると、どうも意識が内側に向かうな。

 外側のことが疎かになる。

 

「風光明媚だなあ」

 美しい湖のほとりは、白い肌の木が群生している。


「観光スポットね」

 ぺらりと捲ると、横から平賀さんが覗き込んでくる。

 休憩にするのかな?


 そう思ったところでトウヒさんがお茶とお菓子を出してくれる。

 トウヒさん大好き。

 うん、ポテトチップはのりしおに限る。


「自然豊かな土地に住まうのは、ホープランプ人の永遠の憧れだってさ。

 都市は地価が高いらしい」


「入植を繰り返しては失敗しているんでしたっけ?」


「ダンジョンがないと、カロリー源の供給不足に陥るんだとよ。

 安定して農地を広げるには氾濫した魔物が邪魔で、撤退に追い込まれるらしい」


「あー。だからか」

 塔の管理人は僻地勤務になるから人が集まるか不安だったが、政府さんの意見は強気のGOだった。

 駅員の成り手には事欠かないと太鼓判を押されている。


「街の外での彼らの死亡原因は、主に迷子からの餓死がトップなんだとよ。

 毎年成人したての若いのが、度胸試しにこっそり街から抜け出しては、そのまま帰ってこないことが多いそうだ。

 迷子になったらその場で救助を待つのが鉄則なんだがなあ」

 小松さんが短い髪をガシガシと掻く。

 素が強いから警戒感が薄くて、森に飲まれてしまうのか。

 それは周囲の者もやるせないな。


 どうも甲殻人。地下に比べて、空の上には疎い様子だ。GPSが存在しない。

 『風読み』が出来ると明日の天気予報には困らないもんな。そうか。


 これは『マップ』を配布せにゃ。

 GMは型式がマザーより新しいから教導できるスキルも多い。『マップ』もそのうちのひとつだ。

 GMが彼らをゲームに巻き込む以上、スキルの出し惜しみはしないと決めている。

 今は信頼を買う時期だ。


「篠宮くん、魔石の支援物資が届いたよ」

 そうしている間に今度は那須さんが、金属ケースの箱を持ち込む。

 日本ではそれなり貴重な魔石たちが、砂利のように積み上げられる。

 わあ、たくさん。


「また太っ腹な」

 確認して受領書にペタリと判子を捺す。

 重量計算で納品された魔石の箱は、『計測』がなきゃ検品するだけで一仕事だった。

 ホープランプさんは気っ風がいい。


「壮観だが、こっちじゃ魔石はずいぶん安いそうだぞ。

 それにしても、甲殻人は健脚だな。

 あれだけ走れれば、自動車が発展しなかったわけだ」

 そのどこまでも走れる足の強さが、ネモフィラダンジョンが駅を通さない理由でもある。


 オレたちが西の方に引っ込んだら、ここは税関兼防疫センターになるだろうから、直接駅で繋がる造りにはしないって………あー、そうか。

 いざという時、患者を隔離する診療所も必要だな。


 引っ張り出した叩き台の書類に、書き込みする。

 診療所。←どこに造ったらいいですか、っと。


 しかしモニュメントと出入り口を分けた方がいい施設があるなら、ダンジョンの外に引ける上下水道も予備でいるんじゃないか?

 これもどこに建てるか訊かないとだ。


 下手すりゃ何週間も待機しなくちゃならないんだ。ずっと管理ダンジョンに籠ってる訳にもいかないし、外回りの整備もいるだろ?


 暇潰しになる施設も絶対に欲しいよ、これ。

 ここは小松さんか那須さん経由で、詳しい情報を聞き出してもらおう。

 遠慮でもしているのか、そういったゆとりの場は要望書に載ってこない。


 一から人が暮らせる拠点を造るのは、大掛かりになって当然だ。

 ……南海とかは駅直通だったもんな。最初は規模が小さかったし、参考にはならないか。


 おっと、品物を除菌する検品倉庫。

 大きな荷物が出入りするならば、倉庫専門のゲートがいる。発注をせねば。

 マーカーで注釈を入れる。

 手配をしてあるか確認をよろしく、っと。

 これでよし。

 施設の抜けがないか、マザーにも伺いを立てとこう。

 さて、続きだ。


「『調律』」

 魔石も届いたし、どんどん進めていかないと。



「篠宮くーん。またブッチー出たけど、進捗どう?

 『解体』練習するんだよね?」

 にゅるり。

 作業を続けていたら、今度は狭間さんがポニテを軽快に跳ねさせて、ゲートから出てくる。


 ブッチーが出るとなると、もう夕方か。なんだか忙しないと思ったが、そうでもなかった。

 根をつめると時間が飛ぶ。


「今、行きます!」

 丁度、集中も切れたとこだ。

 とりまスキルも上げなきゃだな!





 ダンジョン漂流6日目だ。

 相変わらず目が合う度にホープランプのお人にはビクつかれているが、朗報もある。

 神奈川は横浜のこのグループ、第1陣がネモフィラダンジョンに到着した。


 百と余人のこの集団。

 内訳は30人が白玉ダンジョンのレジャー客で、21人が水玉工場のバイトクエスト中なアルバイターだった。


 神奈川は大都市だ。ゴミもそれなり多いってことで、最初から水玉工場が誘致されていた。


 流石は古くからの港町、横浜を抱える県は違う。新しいことに行政も積極的だ。

 それが裏目に出たのは少し切ない。


 施設での避難訓練はしていたし、かなりの人数は逃げられたけど、出入り口の少なさから取り残されてしまった人も多い。

 タイムリミットはたった5分。工場から人を全員避難させるのは、難易度が高いミッションだった。


 ほら、さ。水玉工場って、魔石採集施設だけじゃなくて、ダンジョン魔力を利用したビニール、プラ工場も併設してやっているところもあるだろ?

 この神奈川グループが居たところもそんなシステムだった。

 工場は一旦、魔道具類を揃えてしまえばこちらのものだ。魔力コストの低いビニール類の製造はレベルなしでも回せるので、避難はそちらの作業員を優先したそうだ。


 不幸中の幸いは魔力の吸出しを兼ねて、水玉工場は塔に直結していた仕組みだったこと。

 白玉ダンジョンは儚くプチっとしたそうだが潰れる前に、頑丈な設計の工場に逃げ込めたことだ。

 どれくらい丈夫かというと、流れている最中も特に危険は感じなかったそうだ。

 やるな、要。制作者の誉れだ。


 …………ここさあ。あと管理ダンジョンを3つぐらい詰めていたら塔も落ちずに済んでいたよな、きっと。


 幸の生家も実を言うと崩落ラインの上にありはした。だけど、あいつがせっせとダンジョンを詰めていたからそれに支えられて付近の塔も、なんとか落ちずに済んでいる。


 今回の災害は、そういう【足りてない】ものが浮き彫りになってしまった。

 後悔はいつも先に立たない。

 オレら、結構、頑張ったんだけどな。



 この民間人な51人は、ダンジョン解禁されたばかりで低レベルだ。

 後の半分はオレらと一緒で野良ダンジョン摘みをしていて巻き込まれた公務員さん。こちらはバリバリの高レベル帯だ。


 こちらグループの漂着地も、やはり野良ダンジョンの傍だった。

 西に向かう拠点のキープということで、高レベルの人は居残り守護だ。

 レベル上げにやってきたのは、生産スキル持ちがひとまず6人。

 彼らが育てば順繰りに他の者を呼び寄せて、レベルを上げる予定である。

 あまり一度に大人数でこられても、生活する場が足りてないので、それらを築く人足を揃えるための生産職ファーストだ。


 なにせ低レベル冒険者とは仮の姿。

 中身といえば、撹拌世界ではヒーロープレイを嗜んできた勇者病患者たちだ。

 彼らは異世界トリップという災難にもへこたれず、艶々の笑顔でやって来た。



「道中の運搬、お世話になりました!」

「っした!」

「こちらのお話を伺いたいので、アドレスの交換、いいでしょうか!」

「あっ、リーダー狡い!抜け駆け禁止!」

「俺も異世界人の友だち欲しい!」


「あ、あの。喜んで、交換させてください……」

 お前らよ。日本と辛うじて連絡つくっていっても、遭難したんだからもう少し悄然としていても良くないか?


 テンションの高さに相手もやや引いとるじゃん。

 想像以上に異世界を満喫しておられてない?


 彼らはお世話になったのだろう、ホープランプの人たちとキャッキャと仲を深めている。妬ましい。



 その中で、こちらを凝視している男がひとり。


 マッシュヘアにスパイラルパーマを当てた髪型は、高校でもお洒落男子に流行っていた。

 しかしカラーピンを差し込んだセットの垢抜け方が一味違う。こなれ感が色悪風にアダっぽい。

 原色をひとつ大胆に取り入れた服の選び方や、エッジの効いたスニーカー。

 あ、これは。


「ジャスミン?」


「リュアルテ殿か!」

 ネモフィラを踏みしめ、足早に近寄ってきた男に甲殻人の間に緊張が走ったが、広崎さんらが大丈夫だと押さえてくれた。


 大きく手を広げると、迷わずがっしり抱き付いてくる。

 なんだよもー。本当にジャスミンじゃん!

 顔は違ったが一目でわかった!


「凄いな、よくわかったな?」


「貴殿こそ!女じゃなかったんだな、騙された!」

 目敏いようで節穴だな、ジャスミン!


「ふふ、改めて篠宮流士だ。こちらでも変わらずダンジョンマスターをしている」

 ハグを解けば目線が一緒だ。

 ジャスミンよりも背は低く、肌は白い。身幅も一回り以上は細いが一般人としてはよく鍛えられてしなやかだ。自律し美意識が高いところはそのまんまだ。


「麝香景久だ。木工系のスキルが出たんで第1便に乗り込めた。

 どんな環境でも手に職があると強いな。

 リアルじゃ脱サラして美容師のタマゴをやっていた」

 エンフィの髪に執着していたのは、本職だったからか。なるほどなあ。

 あいつの奔放に跳ねた髪の毛は、飛びっきりのゴージャスさだ。


「広崎、紹介したい。彼は幸の親友で、わたしはそこから知り合った」


「広崎重悟です。どうぞよろしく」


「よろしくお願いします。あちらでは前世からのエンフィのツレで、その縁で奴の付き人をしてました。

 ……って、ことであいつ元気?」

 探りを入れなくても教えるってば。


「残念ながら東京で作業していて、巻き込まれ組だ。ヨウルは難を逃れている。

 お前が居てくれて、本当に嬉しい」

 幸のことを切実に頼む。ジャスミンのレベリングが終わってからでいいから………!


「マジかぁ」

 マジです。


「……その。幸の傍にはサリーがいるから、しばらくは大丈夫だと思う」


「ハァ?!あのゴリラが、リュアルテ殿の傍を離れるとかなんだよ?!」

 失礼な。

 でも、サリー。体格のベースはサリーだけどリンタロウさんも混じってるからゴリラじゃないとは反論し辛い。

 タツミ姫は素晴らしくゴリゴリだったから、リンタロウさんもきっとそうだ。


「幸を地元の後援まで届けてから、わたしと合流の予定だったんだ。

 サリーも転生したてだから、位階が上がりきるまで無茶は出来ないぞ?」

 ジャスミンにこれだけ情報を撒けば、色々察してくれるだろう。

 彼は頓珍漢とは遠い男だ。


 ……まあ、呑み込みが早すぎて勘違いを育てていたこともあるけども。

 でもサユリやシノブは現実を知っているオレでも惑いそうになったから、ジャスミンの思い違いは仕方ないような気がしなくもない。補強の推理材料が強かった。


 怒られたら、勘違いするのが悪いって反論してただろうけど、フツーに会うの喜んでくれたな。ジャスミン。


 本当に気がいい男だ。


 こんな時だけどさ、オレも会えて嬉しいよ。

 

 



 コメント、いいね、評価、誤字報告等、感謝です。



 ジャスミンはイケメンで気が良くて、そしてタイミングの悪い男です。にっこり。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ジャスミン登場! なるほど、髪もエステも興味津々だったけど、そういうお仕事だったんですな [一言] うーん、これははやいところサリーと交換してあげたいなあ どちらの従者も気が気でないでしょ…
[一言] リアルジャスミンは初か。 こいつまだエンフィとサリーの性別勘違いしたままなの本当に面白い男だ…。 ホープランプ人はちいかわが抱き合って喜んでるってほんわかしてるんだろうか
[一言] そういえばジャスミン、免許取るのにカルマが引っ掛かってたはずですが、クリスマスで浄化しきれたのかな あの後に資格取ってバイト始めたら早速巻き込まれ…エンフィの悪運に引っ張られた気がとてもする…
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