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210 ネモフィラ4番ダンジョン・レベル3



 夜もとっぷり更けたことだ。

 今日もお疲れさまでした。

 リザルトを相談しましょと卓を囲む。


 無菌ルームの外では夜を徹した土木工事をしている。なので今夜のオレらは、夜警なしの完全休養だ。


「はー。ダンジョンに入ると安心しちゃう。寛げる。

 毒虫に警戒しないでいいの嬉しー」

「自分の家の畑ならコロリのラッパを吹くけれど、お他所の土地で使うのはねえ?」

 女性2人は虫に慌てず騒がないが、お好きなものでもない様子。

 ダンジョンキャンプの良いところは、虫をシャットアウト出来ることだ。


「アシダカグモくらいなら、家に居てもいいんですけどねー」

 日本の昆虫学者さんは異世界の彼らにハッスルしているようだけどさ、家の中にいてもいいのは軍曹ぐらいなものだよな?


「いや、掌サイズの蜘蛛がいたら驚くよ」

 田舎のない江戸っ子の伊東さんは、ナイナイと手を振る。


 そっかー。……そうなのか。

 今日もパトロール頑張っているんだなと見過ごすのは変だったのか。しらなんだ。


「お夜食ですよー」

「トウヒさん、いつもありがとう」

「いただきます」

「遭難先でも白飯が食えるのは、ありがたいよな」


 トウヒさんの出してくれた、お茶漬けの温かさにほっとした。

 春の昼は麗らかだったが、夜は冷える。


 今日も日が暮れ掛けてからブッチーの群れの襲撃があった。

 どうやら黄昏時が彼らを狂わす時間のようだ。


 ホープランプさん御一行さまには『毒鑑定』やらの対応スキル持ちがいたので、その分ブッチーの処理に手間取ってしまった。

 お茶漬けは市販品だが、後乗せ梅干しのきゅうっとなる酸っぱさが染みる。


「そっちは話してみてどうでした?」

 こちらであったよしなしごとは先に広崎さんが話してくれたので、次は管理ダンジョンの説明に振り分けたグループの番だ。

 分散してコミュってきた成果を聞くべく水を向ける。


「ちょっと話しただけだけど、こちらの人は大半の一般日本人より真面目で律儀な印象ね。とても紳士よ。

 あれが仕事柄だとしたら、職能の倫理観が優れているということだし、違うなら個人の資質が理知的であるということになるわ。

 彼らの態度が上澄みだとしても、社会的成熟度は地球とあまり変わらないんじゃないかしら?」

 平賀さんが胸の下で腕を組む。

 目の前の丼は既に空だ。


 悩ましい様子は、遅い時間にお代わりをするかどうか迷っているんだろう。

 女性は気を使うことが多くて大変だ。


 夜中に丼で飯を食うなよ、って意見はもっともだけど魔力を使うとどうにもなあ。

 女性陣は2人とも、動けるタイプの魔法使いだ。


「あ、ソレだけど。私たちは彼らにとって子どもみたいにみえるのかもよ。

 ホープランプ人種の小さな子どもは甲殻が生えてなくて、装甲が固まる頃に成人するんですって。

 子持ちのパパさんがいたんで、お願いして写真を見せて貰ったけど可愛かったよ。喋らなければ地球人と区別つかないね、あれは。

 私も真紀ちゃんも170センチ越えの大女なのに、小さなお嬢さん扱いだもん」

 肩を竦めたのは狭間さんだ。

 マッチョな野郎どもや、それより大きな甲殻人種に交じると、平賀さんや狭間さんは如何にも細く華奢に見える。

 よくよく鍛えて動きやすそうな体つきではあるけど、やはりそこは女性だ。つくりが違う。


「あいつら揃ってデカイからなあ。

 撹拌世界分類だと、魔力がないタイプの鱗族が近いのかね?

 でかくて丈夫な装甲もち。酒好きで、仁義はなるべく通したいあたり、あっちのダチによく似ているわ。

 話の種に聞き出したところだけどさ。娯楽といえば、フツーに映画や卓上遊戯なんかもあるらしいけど、一番は宴会なんだとよ。

 なにかあると集まって飲ミュニケーションをするそうだ。

 種族的宿痾で、酒が好きでたまらんらしい。

 宴会遊びのバリエーションとか、聞けばスゲー既視感よ?

 心の故郷に帰ってきてしまった気がするねや」

 小松さんは遠慮なく炊飯器を開けて、2杯目に突入している。

 味変は白ゴマと山葵、シャケフレーク乗せのお茶漬け抜きだ。そっちも旨そう。真似しよう。

 小松さんの地元は、高知県は土佐って聞いている。酒好きが多い土地柄なんだってさ。


「都市が抱える人口の割には、管理ダンジョンが足りてないという話の裏付けはとれた。

 学生の13から2年間は義務教育でも基礎のダンジョン実習を受けるそうだが、落ちこぼれないよう復習したいのに予約を取るのが難しくて随分苦労したそうだ。


 なにせダンジョンの氾濫が起きている世風だ。

 徴兵義務はないのに、軍人も予備役も多い。

 フリーの冒険者もほぼ、教育を受けた軍人あがりだ。

 なんでも外回りの役目がある軍人は、優先的に管理ダンジョンや転生機構を使わせて貰えるそうだ。


 転生機構、ジョブストーン封入装置、スキル石封入装置も足りてない。

 過去の戦乱で破損したってこともあるが、高純度圧縮融合精石を造れないことで、それを必要条件とする施設は軒並み弱いみたいだ。

 精石は日本でもそれなりの値段だが、こちらは輪を掛けて高い。

 反面、『精製』前の魔石は投げ売り状態だな。

 ダンジョン一連の行政サービスは、足りないながらも回しているという印象を受けた。


 収入に対して光熱費、水道代、食品、医療費は安い。被服費、家賃は高い。

 街の写真を見せて貰ったが、街灯や道なんかのインフラも整ってる。

 地上の建物は背が低いが、それは地下を守る蓋だからだ。 」


 地下都市は。

 「映像だけでも、これは凄いと思ったよ。観光出来ないのが残念だ。

 そして都市の外に入植する試みは、ここ50年ほど失敗を繰り返していると聞いた」

 那須さんはメモを片手に発言する。

 メンバーの中、実年齢だけは一番年上の那須さんだ。

 彼は童顔を気にしてか、転生したら髭を生やし始めた。

 でも正直、高校生に見えるような優しい顔には似合ってない。そして体は鋼のように鍛えられているというミスマッチだ。


 広崎さんは忍ばないニンジャだが、那須さんは情報収集特化の正統派。

 聞き耳、相づち上手で、情報を拾ってくるのに長けている。


 そして戦闘スタイルとしてはデバフや吸血剣で継続ダメージを狙う【人が嫌がることは進んでやりましょう】、そういうイヤらしい戦い方を得意とする仕事人だ。


「那須さん、助かる。

 集めた資料は情報掲示板に載せたい。そちらも頼む」


「了解。ダブルチェックで平賀、よろしく」


「オーケー、那須さん。手伝うわ」


「こっちは、先に話した通りだ。

 あちらさんの生活用品のリストを貰ったから、欲しいものがあったら具申してくれ。

 特に女性陣は男が配慮できんものもあるだろうから、恥ずかしがらずに頼む」


「…そうねえ。肌着類とかは、材料だけ貰って手作りかしら。細かい金属類は私が作るから、後はリカさん、お願いしてもいい?」


「はあい!頑張るよー。

 男性陣も『体内倉庫』や備蓄品にない布製品はお任せあれ!

 着替えのバトルドレスを縫えるようにスキルを磨くね」

 衣料品はホープランプの既製品は、合わなそうって一目でわかる。

 ……パジャマくらいならなんとかなるかな?

 

「頼んだ。

 共有しておきたい情報で後は……付け加えるなら、流士くんの猫かぶりモードが想定以上に頼もしかったくらいかな?


 反応をずっと確かめていたが、やはりあちらさんにとってダンジョンマスターはとびきりのVIPだ。

 【なんだこいつら】と、彼らの反感を下手に買わないためにも、人目があるところじゃ撹拌世界的な貴人とその護衛するロープレ配慮がいると判断した。

 流士くんも協力よろしく」

 ういーっす。

 まあ、常識が違うのだから擦り合わせを重ねて理解が深まるまでは、波風が少ないほうが無難ではある。


 撹拌世界の文化も混ぜ込み継承しているだろうあちらさんへの配慮なら仕方ない。

 頑張ろう、明日から。


「へー!見れなかったのが残念ね。……試しにやってみて?」


「えー」

 色っぽいお姉さんにコケティッシュにねだられるのは悪い気はしないが、だらけモードに入ってしまったので億劫だ。


「真紀ちゃんや、今頼まなくてもこの先々で見れるから。

 むしろ俺らの似合わん従者ロープレが問題だろ?

 ガサツな男連中は護衛でいいとしても、貴人にメイドや従僕が付き添わないのは不自然だ」

 前世アバターとリアルは斥候な小松さんは、現役アバターは大きな都市で働く機械技師だ。

 工房にはお偉いさんも訪ねてくるので、箱入りのオレよかずっと皮膚感覚が鋭い。


「正直に皆、護衛ですって言ってもいいんじゃないかな?

 専門の秘書は災害時に離れてしまった。護衛の者が付き人の真似事していると理解を求めましょうよー。

 メイドさんとかやったら即行でボロがでるもん」


「そうよねえ。お他所の土地だから、護衛の私たちも努めて上品に振る舞いましょうね。

 それで納まるかしら、GM?」


「仲良くなりたい人に礼儀正しく振る舞うのは、こちらも一緒ですよー。

 プレイヤーには会議の内容を意訳して後で流しておきますね」

 近くで綿実油の『抽出』をしていたトウヒさんがGMに切り替わる。


 GM用の妖精さんも、こうなってくると欲しいな。


「だったらオレも普通に敬語でよくなかった?」

 なにもロープレする必要なくない?


「ダンジョンマスターに敬語使われたら、向こうがオロオロしてしまいますよ?

 あちらを気遣う心があるなら、流士さんは偉そうにしていてくださいです。

 ええ、ダンジョンマスターと仲良くしたい魚心に、既にダンジョンを用意してある水心で対応しましたからね!

 初っぱなから、ガツンとビビらせたと思いますよー。


 商売したいからといって、フレンドリーに対応しすぎると流士さんを与しやすしと捉えた人が出てきそうで不安です。

 それってこちら側は困りませんけど、あちら側だと問題で。


 【ダンジョンマスターにナニ図々しくしてるぞ、ワレ!】と、同胞叩きの騒動が起こるような可能性は潰しておきたい所存です。

 腕っぷしの立つ面々が都市部に集団で暮らしているせいか、あちらさん、身内の不始末には厳しくなる土地柄のようで」

 ヤクザかよ。


 そっかダンジョンマスターって、取扱い注意の珍獣なんだな。

 絶滅したニホンオオカミが、ひょっこり顔を出したら巷で大騒動になるよね。みたいな?


 でもさあ、挨拶に来たのは24名だったけど、外回りの工事をしている土木工作部隊のリストは100人単位だったじゃん。

 資材持ち込みで土木工事してくれるのって、どれだけ労力が掛かっているのか。

 下心があっても、ありがたいよ。


 ロケット機構には、漂流してきた異世界人はなるべく親切にしてやってね。っていう願いもデフォで載せられてはいる。

 ホープランプはその強制力のない言葉を、まともに守ろうとしてくれているわけだ。


 むしろサブカル汚染された日本人が異世界にはしゃぎ倒さないか不安がある。

 撹拌世界でGMに、散々教育を受けてきたオレたちだ。

 愚かな真似はしないと信じたいが、正直、信じきれないところがある。


 オレだって周りに人がいることで情報が入りやすく、常に自重を促されるダンジョンマスターじゃなかったら、な?


 自律や奥ゆかしさといった大事なものを、脱ぎ捨てなかったかと自問して胸に手を当ててみれば、わくわくが止まらないぜってなってた可能性がなきにしもあらず。


 にっちもさっちもいかず行き倒れて、通りすがりのホープランプ人に保護されるとかのお約束を踏みそうだ。


 彼らは配慮から接触しないよう一定の距離を置いてくれているし、挨拶に出てくれた人たちも自国民同士お互い距離を置いて動いていてくれる。

 ホープランプ人は魔力が少ないんで『エア』の常時展開は難しい感じだ。

 なのでこちらの行動は注意深い。

 だから彼らは、いいとして。ふと気付いた。


 問題は、ホープランプでは隠居して、都外でスローライフをしているセミリタイア組もいることだ。


 そういった甲殻人の善意の救助と、プレイヤーの無鉄砲な行動がかち合って、感染症が広がったら……笑えなくね?


 よし、情報掲示板に問題提議を上げとこう。


 あとは集合知がなんとかしてくれるはず。

 外付け頭脳があるのって素晴らしいよな!

 



 遭難3日目。一晩寝たら、一の郭が出来ていた。


 こちらの季節は春爛漫。吹く風は馥郁として柔らかい。

 それが少し物寂しかった。今年の正月休みは返上だ。

 おこたでミカンも終了である。


 ちなみにこちらの1日は地球平均タイムのおよそ25時間だ。

 1年は372日で、1月が31日の12か月。閏年は10年と15年が交互に来る。


 そしてこちらの今日は4月1日。エイプリルフールだ。こちらにはそんな習慣ないにせよ、この状況で嘘をついてもいい日なんて、皮肉が効いているように思えてしまう。


 こちら独自の時計はというと、ロケットに積まれた規格に合わせて24時間で割る計算なんで、ホープランプの1時間は地球よりも少し長かったりする。

 他にも重力やら気圧やらにも色々と違いはあるらしいが、ぶっちゃけ体感ではわからんかった。

 詳しい解説は学者先生に任せたい。


 ダンジョンの外を出ると牧場にあるような木の柵が見えた。

 ネモフィラ畑と調和していて牧歌的だ。

 今後取り壊すことも考えてか一の郭は木の柵と『結界』の、のぼりを張り巡らした簡素なものだ。


 工作部隊は現在、野良ダンジョンを範囲に含むニの郭の縄張りをしている。

 感染症対策でこちらは広目の縄張りだ。

 二の郭は重厚な石造り。昨夕やってきたブッチーなどの対策だ。

 あいつらは走り出すと止まれないから、『結界』の障壁だけではなく物理の壁も欲しいところ。

 だからか、昨夜よりも明らかに作業人数が増えていた。

 大きな石材ブロックがどんどん運ばれ、積み上げられていく。

 一夜城も夢ではないスピードだ。

 おおう。カルチャーショック。

 人力で石積みするのに、君ら梃子も滑車もつかわんのか。



 人の出入りが激しくなると、それだけ感染リスクが高くなる。

 なのでオレらは最初に挨拶をしてくれた12名の生け贄部隊の軍人さんたちと共に野良ダンジョンに退避となった。

 工事が終わるまでお篭りさまだ。


 オレらは『エア』も使いっぱなしだけど、魔力の少ない甲殻人種の彼らは消耗の少ない『免疫』頼りだ。

 生け贄って言葉は悪いけど、どう頑張ってもスケープゴートだ。

 彼らが無事だったら、じわじわ交流を広めることになるんだろう。


 そんなに心配ならマスクしろよ。

 って疑問もあるだろうが、この感染症対策って悪魔の証明なんだよ。

 あるかもしれないから、ないともいいきれない。

 最初に少ない犠牲を出して、確かめるしかない奴だ。


 その中に常時守られがちなオレが入ってるのは、『免疫』の元の持ち主がオレだからだ。

 転生済み。竜種の角有り。『免疫』に星が幾つもついているので、なにかあっても症状が軽く済む。そうしたら抗体のついたアクセサリを量産出来る。

 犠牲の羊にならない羊がこのオレだ。


 これだけ頑丈なオレに万一があったら、それこそもう仕方がない。

 リアルでの交流は断絶した方がいいと思われる。

 不幸は少ない方がいい。



 しばらく野良ダンジョンに籠るということで、塔のパージ部分はプライベートダンジョンに収納し、GMの筐体はトウヒさんに持たせてある。


 代わりに漂流跡地には、精石にGMが通信システム教育を施した専門コアを置いてきた。

 ラーメンどんぶりのアレである。


 うーん。甲殻人に通信システムのコアは、ラーメンどんぶりに入っているものだと誤解されたらどうしよう?


 コアを管理してもらうのに鉢ごと渡したが、誤解されてしまった気がする。

 甲殻人さん、中華系ドラゴンのデザインがお好きっぽくて妙にウケていた。


 通信システムを、他の漂流地に張り巡らすこともそのうちやる。うん、そのうち。

 この手の器具は内包魔力の強さから魔物にちょっかい掛けられてしまう。

 だから安地にしか置けないのがゲーム塔等通信システムの問題点だ。

 通信制限解除が遠い。




 今回のダンジョンウォー。

 仕掛けるのはネモフィラ4番ダンジョン、レベル3だ。

 メンテナンス状況を問えば、3か月ぶりに先月掃除をしたばかりだそう。

 リアル日本だとヒィッとなる間隔だが、撹拌世界基準だと頑張っている。


 ここで出る魔物は撹拌世界でも、お馴染みな魔物が多い。

 小は嫌われものの人食い草や、魔ネズミがちょろちょろ。

 しかし大はレベル50帯の、タンブルウィードよろしく転がる針風船苔が出迎えてくる。

 こいつはお初目だ。


 針風船苔は、そうだな。

 ホラ、西部劇で風に吹かれて転がっているあの草。あんな感じの、青いマリモがゴロゴロしていると想像して欲しい。

 この針風船苔はホープランプ固有種だ。

 食べるところはないが、全身に生えた長い針は『貫通』つきの生体金属だそうで使い勝手がよさそうだ。


「生体金属を使うのならば、ダンジョンを平らげるのは困るだろうか?」

 現地の意見を伺いたい。


「はい、いいえ。風船苔は他の野良ダンジョンでもよく獲れますのでおかまいなく。

 ここは管理の手間がかかるだけ、面倒な野良ダンジョンです。

 なまじ都市部と近いですから、氾濫させるわけにはいきませんので」

 夏草少佐は、オレが声をかける度にカチカチになる。

 ………虐めてないぞ?


「3層相当なら、エレベーターを組む必要はありませんね。

 脇芽を回収しながら奥に進むことでよいでしょうか?」

 危ない。広崎さんの畏まった態度に笑いそうになってしまう。


「構わない。

 夏草少佐、それでは先導を頼む」


「はっ!命に代えましても!」

 代えんでいい。頼むから、代えんでいい。


 えっと、こっち特有の慣用句だよな?

 了解しましたぐらいの意味合いの。そうでなかったら困惑する。


 いささか血の気の多いメイドなうちの子たちならいざ知らず、他所の軍人さんにそんな態度を取られるのは可笑しいだろう。

 そうだよな?

 身内でも錬金術士チームや水麗人グループは、もっとふあふあしているぞ。


「少佐、申し訳ないがマスター殿は転生後の御身である。

 『サンダー』等、遠距離魔法の効く大物は糧にさせて頂きたい」

 篠宮さま呼ばわりされるのは、ゾゾとサブイボが立ったので、護衛メンバーのマスター呼びは苦肉の策だ。


 ダンジョンマスターのマスターだ。いいね?

 尚、翻訳はどのようにされているか考えないこととする。


「はい。ひとつ質問をお許しください。

 これからダンジョンを摘まれるとのことですが、MPは節約しなくても?」

 お気遣いどーも。


「魔力が枯渇するほどの無理はしないと約束しよう。

 野良ダンジョン潜航中は『精製』までに留めておく。

 本格的な『加工』となる『調律』は、帰参してからの作業としよう。こちらは消費魔力がかなり多い」

 1個、2個だったら現場での『調律』も全然ありだけどさ。

 ここら辺はケースバイケースかなあ?


「……差し出がましいことを尋ねました。ご容赦を」


「いや、我らは纏う常識からして違う。疑問を抱いたまま、行き違いがあっても面白くない。

 質問は受け付けよう。わたしも若輩ゆえ、ものを知らず答えられないことも多いだろうが」

 こちらとしては好奇心でいっぱいなので、お喋りしたい。

 仲良くしようぜ?


 なのに会話どころか、視線を向けるだけで他の軍人さんには固まられる悲しみよ。

 オレって嫌われてない?

 これから戦闘あるのに大丈夫?


 リュアルテくんですらこれほどのメデューサムーブかまさなかった。

 辛うじて夏草少佐がお話してくれるからいいけどさ。


 そうでなかったら拗ねてたところだ。





 コメント、いいね、評価、誤字報告等、ありがとう御座います。


 異文化交流。お互い馬脚を晒すにはしばらく時間が掛かるのじゃ。




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― 新着の感想 ―
[一言] 異世界のやんごとなき方になにかしてしまったら一族郎党責任取らされるかもと思えばやむなしの反応。 面白すぎて一気見してしまいました
[一言] ・一見自分達の幼体のさらに小型版に見える ・伝説の()ダンジョンマスター ・鱗族よりだと竜のカリスマも通っている可能性 そりゃあちらさんもどう対応したらいいのか分からなくなって固まりますよ…
[一言] お互いにガチガチなのが微笑ましいですが、実際にこんな状況には放り込まれたくないですね! 胃に穴があきそう。 調律の場面は見せても良いのか悩みますね。 地球でもおかしな宗教ができてたくらい神…
感想一覧
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