21 ノベルの台所
ダンジョンは【睡蓮荘】と冒険者ギルドの中間点に築くこととなった。
背の高い建物に登ると崩落現場が見える一等地だ。なまじアパートが立ち並ぶ住宅地なだけに恐ろしい。
これは至急ダンジョンを詰めて、地盤強化をしなければ。
ヤバい。歓迎される予感しかしない。
業者によって、あっという間に搬入、設営されるダンジョンモニュメント。重量物なのに『体内倉庫』さまさまだ。
駅のダンジョンではないのでモニュメントは、どノーマルな標準タイプだ。
使い古されて枯れた技術っていいよな。初心者が扱っても安心感がある。
モニュメントの正面、ゲート頭上には家紋を入れる場所があった。
オリジナル家紋も作れるようだが、絵心不如意なので既存のものから選ぶ。
【竹の輪に篠笹に月】、これにしよう。ここはデザイン優先だ。
浮かび上がるホログラムは、なかなか乙で格好よろしい。
中2回路がギュンギュンする。
クエスト!
ダンジョンに名前をつけましょう!
ダンジョン開き、おめでとう御座います!
報酬【 】ダンジョンオーナー権利
※1日につき功績ポイント10が付与されます。
うーん。ダンジョンの名前かあ。
あまり奇をてらっても恥ずかしいし、きのこ、バーベキュー、食べ放題、銭湯…うーん。とりとめない。
いいや【ノベルの台所】で。
家紋はリアルの名字に寄せたんだから、ダンジョン名はリュアルテくん家からもらおうっと。
「ノベルの台所、ですか?」
オルレアが首を傾げる。可愛いかよ。
「滅んだ村だが名前くらいは残ってもいいだろう」
……いや、適当に付けただけだから。
はっと何かに気づかないで、それは多分勘違いだから。
「うちの料理人は家庭料理が得意なのです。いい名前を頂きました。
もちろん抜け毛飛散防止のピアスをしていますから、衛生面も万全ですよ」
えええ。なんで泣きそうなのよ、いい大人が。
わんこの姿でそれは卑怯だろ。
「それはいい報せだ。
美味しいものを食べると幸せになるだろう?
ノベルの名前を聞くと腹が減る。何度でも通いたい。そんなダンジョンを運営してくれると嬉しいな」
背中を軽く叩いて、その横をすり抜ける。
「教官、ダンジョンの製作中はどうします?」
「護衛は付けさせてくれ。今日は俺とサリーだ」
「わかりました。指差し確認しながら造っていくので、間違いや異変があったら教えてください。
では、いきます。ゲート解放」
既に『調律』で専有化してある雫石をゲートモニュメントに固定する。
これでゲートが繋がった。
「エントランス作成。高さ10、横40×40」
ゲートに繋がる部屋を造る。エントランスの一部は2階建て。これは大工さんにお任せだ。
部屋の設定は常春、日中。
床の一部は土にする。メインの敷き石は黒と白で、円と四角を重ねて遊んでみる。
初心者がやった刺し子みたいに線がよれた気がするが、ホールは床材を敷くと聞いたからの犯行だ。問題ない、問題ない。
うん。ダンジョンをハッチポッチするだけならそう魔力はかからないな。
「エントランス部分の設置が終わりました」
告げてダンジョンに入る。
「おお、こりゃあいい」
建物が立つ位置は分かりやすいようにライン取りもしてある。
「歪んでいるのが味です。ということにします。『計測』が取れたら綺麗な模様がつけられそうなので、期間限定ですよ」
取れるといいね。予定は未定だ。
「床材で隠しちまうのが勿体ねえな」
危ない。誉めてくれると木に登ってしまう。
「床を敷くと聞いての悪戯ですから。
次、1階メイン通路いきます」
よっこらしょと、『体内倉庫』からドアを取り出す。
コンビニとかの自動ドアをSFファンタジー風にしたらこれになる。
適合規格で数が揃ったのは、このタイプしかなかったからだけど金属製の自動ドアは頑丈そうで、簡単には破れなさそうな強者感があっていい。
「エントランス、1階メイン通路、接合位置よし」
ズレもなく指定の場所に取り出せたんで、そのまま『調律』済みの雫石で接合、解放っと。
そしてまたドアから繋がる通路を継ぎ接ぎし、雫石を消費して造っていく。
あとはその作業の繰り返しだ。
後から大工さんが階段を作ってくれる予定のスロープは、角度を念入りに確かめはしたけど難しいのはそれぐらい。
台車で行き来するかもしれないから、専用のスロープも造ったし何度もやり直さなくてすむよう確かめながら造った。
この階段は本来必要ない無駄な遊びなんだけど、将来のダンジョン制作で階段も必要になってくるだろうから今のうちに練習しておく。
あと利便性を考慮し過ぎて変に空間を繋げると、迷子を量産しそうという理由も一応はある。
うーん見事な継ぎ接ぎダンジョン。
『調律』まで済ませた雫石って世間では貴重品なんだけど、モリモリなくなっていくぞ。
1、2階部分の箱も問題なし。予定通りさくさく終わる。
「魔物収集用のアンカー打ちます」
ドアの繋ぎ忘れなし。
2階の魔物部屋から加工室の繋ぎもオーケー。
いよいよお待ちかねのメインディッシュだ。
魔物呼び寄せアンカーの打ち込みをする。
これで本格的に魔物の沸くダンジョンになる。
やや、緊張しながらダンジョンの外に向けて、魔力の海、次元の狭間へとアンカーを打つ。
アンカーに埋めてあるのは、歩きキノコの魔石だ。
手順どおりにことは成した。
どこか失敗なければ、アンカーは役目を果たしてくれるはず。
上手くいってくれよと、気を揉むことしばし、歩きキノコがポップする。
成功だ。詰めていた息を長く吐く。
「一先ず狩ってしまいますね『サンダー』」
魔石を回収して、キノコを井戸に落とす。そうしている間に、また沸いた。
…えっ、早くね?
「ちょうどいい沸き具合ですかね?」
「退屈しない、いい案配だが魔影が濃いな」
教官は渋い顔だ。
「どんどん狩って貰って、ダンジョン経由で魔力を抜いていくしかなさそうですね」
これ以上の崩落はお断りだ。
「そうだな」
踊り子豆の部屋も同じく専用アンカーを打ち込んで、沸くのを確認した。
同じように倒して撤収。
植物系の魔物は雷が好きで寄ってくるくせ、HPの貫通がのってくれる。ありがたや。
ひとつ、息をつく。
今回の作業はこれで終了だ。魔力はあるけど雫石が足りない。
まだなにも置いていない加工室に転がるキノコや豆を拾って外に出る。
すると、どっと歓声が浴びせられた。
なにごとかと思う間もなく2つの背に守られる。
同時にクエスト報酬が振り込まれた。
クエスト達成!
【ノベルの台所】のオーナー権を手にいれました。
オルレア グッドマン が眷属に参入しました。
※ダンジョンマスターは眷属が増えるほどやれることが増えます。
世界を支える一柱が君よ。栄光あれ。
眷属?
気になるが後回しだ。
「教官、サリー?」
「人が多い。抱えるぞ」
教官の左腕に乗せられる。そしてサリーが前に立つ。
「騒ぐな!仕事を終えられて、マスターは消耗しておいでだ!」
サリーの大喝に群衆が静まる。
「マスターにはお休み頂きたい。道を開けてくれ」
おずおずといった体で人波が割れた。
そのかわりに人の視線が圧力になって押し寄せてくる。
一挙一動を千の目が見る。
うん。ある意味、丁度いい。
「オルレア、あとを任せる」
責任者はこいつです。
ちょっと疲れたふりで、目を瞑って教官にもたれる。
そういうことでいいんだよな?
確認したいが、人の目があるからそれも出来ない。
無言で犬耳メイド集団が陣形を組む。鉄壁のガードの構えだ。そのまま速やかに移送される。
なんか、大事になってないか?
【睡蓮荘】に取り急ぎ戻される。
がっちり固められた警備に物々しさを見取ったホテルスタッフが顔色を変えて、あちこちに連絡を走らせている。
それを受けてテルテル教官が素晴らしい速さで到着した。
「走りながら事情は聞いた。すぐやることは?」
サリーがドアを開けると挨拶もなく、アスターク教官に問いかける。
「今はない。だが、これから先こいつらが外に出るなら常設の警備がいるだろう。
悪意はなくても押し寄せる人波はそれだけで脅威だ」
ほっと、テルテル教官の雰囲気が弛む。
「そうね。グッドマンさんちのコが居てくれて良かったわ。
リュアルテくん、驚いたでしょ。怖くなかった?」
「ずいぶん人が集まっていて確かに驚きましたが、何もないよう守って貰いましたので。怖いことなんてひとつもありませんでしたよ、わたしは。
エンフィは大丈夫なんですか?」
あいつも製塩所の下見にいったはずだ。
今の状況は条件が整ったらダンジョン建造はすぐにでもというスピードだから、ひょっとしたらひょっとする。
「エンフィくんのは民間人入れないし、お役人が側にごろごろいるし騒ぎになりにくいね。
でも連絡を受けて、警備は増員させたよ。
ヨウルくんはモニュメントも最小だし、設置は室内だしでステルスしてる。
ダンジョンマスターが来ている!って噂が流れるころには移動してたみたい」
巧くすり抜けたのか。ヨウルって、そういうとこあるよな。
「お嬢さんたちはどうした?」
「女子寮で鳥撃ちの戦果を解体してたって。『解体』スキル自力で覚える気らしいよ?いやいや、頼もしいね。
そういやリュアルテくんも持ってたね『解体』」
「わたしの雀は『体内倉庫』が解禁したので、夜、寝ている間に余剰回復魔力で『解体』しました。
これはオルレアに預けて食べて貰おうかな、と」
「あの数、一晩で『解体』したの?」
教官たちは連絡が密なんで悪さをするとすぐバレる。
「体感的には魔力しか使っていません」
『解体』はオートに限る。
確かに自分の手でやったほうがスキルの伸びはいいよ。でも、オレはパスな!
「普通は魔力足りないんだよなあ。リュアルテくん今レベル幾つよ?」
「レベル1になりました」
「ああ、そうね。ようやくデバフ常態化解除だもんね、おめでとう。
レベル1でその魔力量かー。
それと。グッドマンさん、今は修羅場だから買い取りに来てくれるのは難しいかも」
「いえ、差し入れにしたいんです。
指示もろくに出さずお任せしてしまったスタッフへ慰労もかねて、ですね。
料理人がスタッフの中にいるようですので、そのまま渡してもいいかなと」
悪いことした自覚はある。
だけどどうしたって、オレの姿がないほうが騒ぎの収まりはよかった筈だ。
なんとかしようにもオレには群衆を纏めるような話術なんて持ち合わせがない。
素直に戦略的転身をきめるが勝ちだ。
うん。エンフィあたりなら、溢れるコミュ力でなんとかしそうな気がするな。でもオレは無理なものは無理。
「それならまだホテル前でメイドさんらが上の連絡待っていたから、呼んで来ようか?」
「はい。迎えにいったら駄目で、この場で待機ですね」
「そゆこと。リュアルテくん100点!
ダンジョン建造もお疲れさま。サリアータの住人としてとても嬉しい。ありがとね」
「テルテルはヨウルと合流か?」
「ヘンリエッタ女史がいるなら平気だろうけど念のためね。
じゃあね、また。リュアルテくん」
辞去の挨拶をしながら、ソースの匂いをさせる袋を渡してくる。 紙袋はじんわり温かい。
「それ快気祝いね!ご賞味あれ!」
テルテル教官は片手を上げて出ていった。
「ありがとう御座います、頂きます!
…貰ってしまいました」
なんか、照れる。
テルテル教官の感謝の言葉は、子どもむけで平易なものだ。だからか、すとんと胸に落ちてくすぐったい。
「ホテルじゃ屋台メシ出ないからな。上品で体にいいモンばっかじゃつまらんだろってことじゃねえのか」
「ここのホテルのご飯、美味しいですよね。それはそうとしてソースの匂いって背徳的です」
あーいい匂い。腹へった。
「昼飯には少し早いな。冷めないうちにしまっとけ」
忠告ごもっとも。熱々の包みを『体内倉庫』に入れる。
そうしている間に呼び鈴が鳴らされる。
「失礼いたします!お呼びと聞いて伺いました!」
部屋が広くてよかった。
6人の犬耳メイドさんたちは、一糸乱れぬ滑らかさで整列した。なにこれプロい。
本職はメイドさんじゃなくて現役軍人の間違いじゃないの?
「挨拶をする間もなかったな。
わたしはリュアルテだ。オルレアの群れの子たち。
これから顔を見ることも増えるだろう、よろしく頼む」
「「「「「「はっ!」」」」」
「わたしはこの後に眠りに入り、数日は目を覚まさない。ダンジョンを造りかけのまま、眠りに落ちるのは口惜しいが致し方ないこと。
故に「オルレアの采配に期待する」そう伝言を頼みたい」
「畏まりました!必ずお伝えいたします!」
皆さん尻尾がぶんぶんだ。
『体内倉庫』から雀を取り出す。
手前味噌だが良い肉だ。丸々として実に食いでがありそうである。
6人だから1人2ケースずつだ。
『体内倉庫』まだ小さいから大扉が全部入らなくて、教官に持って貰ったんだよな。雀でもうみっちみちで。
「それと、オルレアの群れには良い料理人がいると聞いた。
狩って捌いたままの姿だが、皆で食べて欲しい」
「っありがとう御座います!拝領いたします!」
隊長格の子が代表して受け取ってくれた。するすると『体内倉庫』に仕舞う。
おや?もしかして余裕あるな?
よいことだ。
「『体内倉庫』にまだ空きはあるか?」
はい、お代わり入りまーす。




