205 双葉姉さん
「リュー、疲れたならベッドで寝たらどうだ!」
炬燵の向こう側から声が降るが、心配無用。
朝のランではへばっていたけど、あれは全力疾走と『スピードスター』のコラボだったからだ。
レベルが低いせいか、それとも前世の小器用さが発露したのか。
ブースト系スキルを使うコツを掴めた気がする。
まあ、それでもいつものメニューの半分ほどで力尽きたのは、転生したてのご愛敬。
それは魔力も同様だ。
「うんにゃ、元気。元気だけど、魔力が5割を切ったから、ちと休憩。
いつものペースだと、ウッカリ魔力枯渇りそうだから用心してるだけー」
他の連中がせっせと魔石をジャラつかせる中、ジャージ姿のまま炬燵に潜り、ゴロ寝しながら携帯を弄る蜜の味よ。
師走の30日はご近所さんらと、チビどもを集めた真っ昼間の忘年会。若い男手として餅つきイベントの運営スタッフやっているから、よりサボりの背徳感がマシマシだ。
「………なんか、今のお前さんが怠惰にしてると違和感あるわー」
要はオレの頭の上に蜜柑を載せてくる。なんぞね?
「わかる!あちらのリューは、いつも所作が美しいからな!」
えー。エンフィの中の人に誉められてもなー。
「だって、あっちでだらしなくしていると、すわ何事かと医者を呼ばれてしまうから………」
「…ああ!」
「あー………」
そう、ぬくぬくのおこたでグダついていると、時計が鳴った。
【篠宮さん、アポの相手がおいでです】
と、受付から連絡が入った。
炬燵の魔力には逆らい難いが、この時間の妹たちは野菜の下処理戦争の真っ最中だ。
「どうぞ」
そのまま出ようとしたら、サリーに着替えろと服を寄越されてしまった。
はい、無精しません。
手早く着替えて、正面カウンターに向かう。
裾下ろしされてきたバトルドレスは、他も手直しされたのか体にぴったり馴染む。
オートクチュールのジーンズとか中々に頭の悪い代物だが、素材が蜘蛛絹と繭茸の混合なんで高度な裁縫スキルがないと作れない代物だ。
つまり【装備品は、装備しないと使えないぜ】。ってこと。持っているだけじゃダメなんだよな。当たり前だけどさ。
ストレートジーンズ 防刃
インナー +2 HP装甲
Vネックのニット 防弾
スニーカー +2 HP回復
それに中指と手首にアクセサリ。『器用な指先』と『HP強化』だ。
オレはMP系は回復も強化も自前である代わりに、HP系は両方まだない。忖度されてしまった装備品だ。
へなちょこボーイで、すまんな!
このスキル、要と幸にはあるんだよなあ……。
清潔なロビーに使い込んだ台車でゴロゴロと乗り込み、餅入り番重を運んで来たのは馴染みの顔だ。
ショートカットの耳元に、赤いピアスが揺れている。
「おひさ、双葉姉さん」
「久しぶり!
やだ。流くん……うわあ。
ちょっと逢わないうちに美人さんになっちゃって」
挨拶もそこそこ。
頤を奪われて、右に左とチェックをされる。
ううむ。相変わらずの弟扱い。
餅の配達人は十和子伯母さん家の、次女の双葉姉さんだ。
風呂にも入れて貰っていた、近所住まいの従姉さんなんて実の姉と同様だ。
もう、好き勝手に成されるままである。
「双葉姉さん。それはオレのセリフでは?」
オレンジの口紅が似合うのって、大人の女の人だよなあ。
化粧が見慣れなくて少し照れる。
「お化粧はね、仕方ないの。女の武器なの。
うう、若さ溢れる天然もののツヤツヤほっぺェ……!」
いや、今のオレの見場のコンディションは、大概サリーの作品だから人工物だぞ?
サリーはオレの見栄えが誉められて、なんとはなしに自慢げだ。
「レベルアップすれば少なくとも健康には近くなるから。
双葉姉さん、ストレスで帯状疱疹出たんだろ?」
会社で倒れたと聞いた時には、肝が冷えた。
「ん。その節はご心配かけました。
今は治っているんだよ?
位階上げ。お祖母ちゃんに、キャリーして貰えって言われたけど本当にいいの?
流くん、忙しいんでしょ」
それはこちらが言い出したことだし。
「転生あけで、クエストは控えめにしているんで平気。
それに姉さんたちには、折角入った会社を辞めさせちゃった責任がなあ」
「あっ。水くさいのはナシよ。私たちから協力するって言い出したんだから!
地元が面白いことになっていたら、やっぱり楽しみだもの。
それに家には帰らないで社宅に入るし」
「あー……。伯父さんは、まだ駄目?」
「……都会に出たら父さんより酷い男なんて、一山いくらでいたけどねー。
話していると、どうしてもイラっとしちゃう。
お互いに身内で甘えちゃうのがいけないのよ。
ああ、この人私に全く興味ないんだなー。ってよっぽど酷いのは、それぐらいなのにね。
ちょっと離れている方が、怒りっぽい娘じゃなくていられるみたい」
姉さんの声は平坦だ。
そんなことないよと、言えんのがなあ。
伯父さんは仕事場でなら最高に頼りになるけれど、それ以外は十和子伯母さんのフォローが必要な人だ。
まして双葉姉さんの上の初穂姉さんは、言葉通り伯父さんの関心の薄さが災いして死にかけた。
それを目の当たりにした双葉姉さんが自分の父親に対して、心が狭くなるのは如何ともし難い。
学校帰りの双葉姉さんが泣きながら【お姉ちゃんが死んじゃう!】ってうちに飛び込んできた一連の騒動の時、オレは就学児以前だったからよくわかってなかったが、あとから聞けばそれはちょっとどうよと思う話だった。
具合を悪くして休んだ娘が、どうしても腹が痛いから病院に行きたいってその時家にいた父親に頼んだら、保険証のありかがわからないから母親が帰ってきてからにしてくれ、だもんなー。
伯父さんはオレから見ればあれで情がないわけじゃないと思うんだけど、気が回らないというか、際立つ一芸があるぶん、他が手抜きをしているように見えて損だというか。
伯父さんを好きで結婚した伯母さんでも、初穂姉さんの虫垂炎が爆発しかけた時は離婚の一言がちらついたらしいし。
「まあ、伯父さんは爺さまにでも任せて、婆さまや伯母さんとたまには遊びに行ったらいいよ。
姉さんたちには、うちの妹らも構って貰いたがってるし」
「百花おばちゃん家の子たちは、やっぱり全員可愛いなあ!
……地元に帰って正解だった!
新しい職場は活気があるし、みっちゃんも凄く喜んでくれたしさ。私、歓迎されている!」
「なにを当然。双葉姉さんたちが外に出るのを選んだなら邪魔をしたらいけないけど、地元に居てくれたら嬉しいのにってずっと思ってた」
遊びにいくといつも優しく構ってくれた、年上の従姉が嫌いな人間とか、まずいないよな?
地元に帰ってくれてとても嬉しい。
「……お、おうふ。久しぶりの流くんは、効くわあ。
素直でよろしい、花丸です。流くんたちはワシが育てた……!」
まあ、そうかも?
ご近所に子どもが少なかったから、その分付き合いは深いと思われ。
「九九もひらがなも姉さんたちに習ったっけ」
オレが初子の男にも関わらず喋り初めが早かったって聞くのは、近所に住んでいた姉さんたちが沢山構ってくれたからだ。
「……っと、サリー、広崎さん。紹介させて。
彼女、篠宮双葉さん。
うちの爺さまの孫でオレの従姉。殆んど実姉な感じで育った仲で、篠宮ダンジョンの経理として入ってくれる。
だからこれからちょくちょく顔を合わせることになると思う」
いかん。懐かしさにテンション上がって、すっかり身内の会話だった。
「佐里江伽凛と申します。秘書という名の何でも屋をしております」
「広崎重悟です。護衛をしています。
なにもしないでただ突っ立っている時は、背景の木みたいにスルーしてくれるとありがたいです。
そして、全力!彼女募集中です!」
おっと、広崎さん。出だしナンパは許されざるよ?
「はい、…は?
えっと。篠宮双葉です。従兄弟がいつもお世話になってます?
彼氏はいません??」
なんなん、このノリ。いや、双葉姉さんは広崎さんに釣られなくてもいいから。
「そうですか、それは嬉しいですね!」
戸惑いながら名刺交換はキッチリこなすのが社会人だ。
お互いの名刺ケースの上にカードを置いて交換している。
オレも高校出たら、名刺作ろう。
最近人によく会うんで、誰が誰だかわからなくなる。
貰った名刺と『録画』から顔画像を紐付け作ったデータベースが頼りだ。
「流く……従兄弟は、アバター同化で金髪になったと聞きましたけど、皆さんもそうなんですか?」
オレらに取り囲まれると、人並み普通な双葉姉さんがとりわけ小柄だ。
山々に囲まれた状態の双葉姉さんの視線は、頭の天辺あたりで固定されている。
オレは金髪。サリーはプラチナブロンドで、広崎さんにいたっては紫髪だ。
「はい。そうです」
「俺は髪の色くらいですけど、佐里江さんは、20センチ以上背を伸ばしていますよ」
それな。広崎さんは自前のマッチョだ。
「ほわー。髪の毛が傷まないでカラーリング出来るのはいいですね。
私もレベルアップ頑張ろうかな」
「双葉姉さん、髪染めたいの?」
天使の環のある黒髪なのに勿体ない。
「染めたら、染料が合わなくて酷い目にあったの。
その後に帯状疱疹をやったから、体調自体悪かったのかもしれないけどノーリスクで波打つ栗毛になれるのは嬉しいかなって」
双葉姉さんのアバター栗毛なんか。
十和子伯母さん、生まれつき髪の色が明るくて、かーさんも幼心に羨ましかったって言ってたなそういや。娘なら尚更か。
「でもレベルアップすると、結構変わるよ?
ほら、コレ」
どーん。
『変化』を解いて角を出す。
炬燵でゴロると引っ掻けて鬱陶しいから角は消していた。
「わ!わわわ!かわゆい!
え、すご。角だ!キラキラしてる!
……生えてるの、痛くない?!」
なんかうちの身内、誰もが角の反応良くて驚く。篠宮家って、そういう中二マインドなん?
「痛くないよ。でも、流石にお触り禁止な?」
角は成人してから生えるもんなので、親兄妹でもろくに触らせないもんだ。
例外は恋人や医者に床屋、物心つかない我が子ぐらいだそう。
頬っぺたくらいならまあいいけど、角はやはり恥ずかしい。
「ぼんやりレベルアップするとアバター融合が自動的に進むから、好きなとこだけ似たいって普段から強く意識するのがポイントっぽい」
「ああー……。流くん、そーいうカスタマイズを面倒臭がっちゃったタイプなんだね。
でも面影がないほど変わったわけじゃないし、ナイス成長。
成人竜族の角とか、大正義だよ」
ビッと力強く親指が立てられる。
「ん。ありがと。ところで双葉姉さんは、撹拌世界ではなにする人ぞ?」
「『テイム』と縫子を嗜んでいる感じかなー。あっちの刺繍文化は実利的だし、ちょっと凄いよね。触発されてる。
レベルは20を越えたとこ。
ちなみに初穂姉さんは魔石鑑定士を目指しているって」
相変わらず、ここの姉妹はインドアな。VRで伸びた余暇を丸々趣味に費やしている。
「MPには余裕あるアバター?」
「あっ、そういう。そうそう姉さんも私も純魔だよ」
「姉さんたちにも、妖精オーナーになって貰っても平気?」
「OK!台風地震、野良ダンジョンの氾濫が起きた時、地元の皆を収納して篠宮ダンジョンに逃げ込めばいいんでしょ?
『テイム』か『猟銃』が出るまでは、引率をお願いするね!」
「よし頼んだ、双葉姉さん」
流石姉さん、話が早い。
こういう気構えは本家の娘だ。
「最近の気象や、野良ダンジョン発生指数、不穏だもんね。
姉さんと合わせて、帰ってきましたってご近所さんにもお年始の挨拶回りをするでしょ?
そこで妖精さんと顔通しをしとけば、いざっていう時私がそこにいなくても頼って貰えるよね」
「ご立派です。篠宮くんたちといい、皆さんお若いのに、地元の貢献に躊躇いありませんね」
広崎さん、さてはシティボーイだな?
土仕事って結局は人手よ。周りに協力して貰わなくては立ち行かない。
「うちって、地元じゃ、大正、昭和のはじめぐらいまでは橋を建てたり道を普請する時は音頭をとる家だったんですよ。
その名残で、お互い頼ったり頼られたりっていう結びつきはまだありますね」
田舎あるある。
政府ちゃんがお殿さまだったころは、こんなド田舎まで道の普請なんかしてくれないから地元で勝手にやるしかなかったあれそれ。
今じゃ国が道の面倒見てくれるよって当時のご先祖さまに教えたら、羨ましさに憤死しそう。死んでるけど。
「お話し中にすみません。
妖精ラボから返信が入りました。いつでも訪ねていいそうです」
端末で連絡を取りつけていたサリーが、声を掛けてくれる。
「んじゃ、双葉姉さん。今日は妖精さんを発注してからレベリングコースで」
転生後の心配をして、駆けつけてくれた親戚衆は大事にせねば。
「ご馳走になります!
あとこれ、妖精さんのローン計画書ね。ざっと叩き台作ってみたから読んでみて」
「妖精さんの代金は篠宮ダンジョンに紐付けとくぞ?」
社用として倉庫スペースを借りるしさ。
「んー。多分買い取りしたくなると思うのよ。わたしだって将来、お嫁に行くかもしれないしね。
それに妖精さんを売り出す時の叩き台があった方がいいでしょ?
最低でもこれだけって基準があれば、無理を言う人も少なくなるだろうし」
「別にいいのに。うちでしばらく働いて貰うなら必要経費だし。
っていうか、むしろ双葉姉さんの妖精を使わせて貰う立場なのになあ」
「ダーメ。妖精さんはお高いけど、兼業冒険者なら買えない値段じゃないと証明してみせるわ」
「双葉姉さん、走るの嫌いなのに冒険者して大丈夫?」
「私、スナイパーで取れた獲物はテイムした子に拾って貰う構成なの。
系統としては『体内倉庫』に紐付けしてある『解体』がウリの食肉業者ね。管理ダンジョンありきで活動しているのよ」
「野良ダンジョンには、むかなそうだ」
狩猟スタイルは守りが薄そう。
「そうね。街の外に出たことすらないわ。
でも、リアルじゃ野良ダンジョンはまだ民間に解放されていないでしょ?
そっちでの運用は私には無謀だから考えてないの。
3か月経って、仮免許から本免許になったらだけど。そうしたら管理ダンジョンの従業員時間外パスが効率よく使えるようになるから、それからが本番ね」
姉さんに促されて荷物を仕舞う。
包丁を入れるラインが入った餅用ビニール袋に入れられたのし餅は、たっぷり5重だ。頼もしい。
おっと、鏡餅セットもついているな。これはGM筐体の上に飾ってしんぜよう。
きっと面白がってくれるはずだ。
「この重箱は?」
「お察しのとおり母さんの御節よ。皆さんと召し上がってね。だって」
ひゃっふい!
オレ、十和子伯母さんの田作り大好き。甘辛ダレに胡桃が絡んで最強だ。
煮干しは特に好きって訳じゃないけれど、これだけは別。
年明けの楽しみが増えた。要や幸たちとこれは食べよう。
そうして5レベル分きっかりレベリングをこなした双葉姉さんは、妹たちをギュっギュとハグし、妖精さんを一匹連れて帰っていった。
柴犬の毛足を長くしたような、ふわっふわで狩猟犬サイズのミックスだ。
あの愛想の良さは、いい営業部長になりそうである。よきかな。
そしていい機会なので、広崎さんにも妖精さんを作って貰った。
「俺も、とうとう借金もちかあ……」
すまんて。
真っ当な公務員にとんでもない額の負債を負わせてしまったぜ。
双葉姉さんたちと同じく、ある時払いの利子なしでいいから!
いっしょにプライベートで野良ダンジョンに潜ろうな!
「ごしゅじん!
ローンはじぶんではらいまする!ごあんしんめされ!」
そしてヤル気満々吠えたてるのが、広崎さんちの太郎丸だ。
黒く短い尻尾をしたたたた!と振っている。
彼は斥候と治癒士ジョブもちの医療忍犬だ。属性が多い。
太郎丸が自力で身請け料を稼ぎたい!と主張したので彼の妖精核には、いつもの水玉以外にもサービスで、需要が決してなくならない機械用のオイルスライムの湧き槽を仕立てた。
オイルスライムは吐き気を催す毒を吐くが、妖精さんは毒無効だ。
スライム関連クエストは単価が安いし依頼が溜まりがちなので、隙間に丁度フィットするんじゃないかな?
あまり妖精さんを使って荒稼ぎすると人聞きもよろしくないだろう。人が倦厭しがちな依頼が狙い目だ。
依頼料が安くても食堂のクエストならば、皆こぞって受けるけど他はなかなかといったところ。
仕事ならいざ知らず、隙間時間を利用しての依頼を受けようとなるとなると皆、美味しいところから選ぼうとする。そんなもんだ。
オレも雷特効が乗るところから、まずクエストを探している。
現在夕方7時ちょっと前だ。
場所はいつもの杏子畑。部活動のメンバー待ち中だ。
合唱部は正月合わせの変わり種で、今は【高砂】の唄いをやっている。
高砂や この浦舟に 帆を上げて
って、ヤツだ。
夫婦の絆や長寿を祝う唄いで、昔は祝い事の定番で唄われるものだったそうだ。
唄いに参加したのは初めてだけど、ガチに大人数でやると迫力がある。
この高砂。なんとなーくエンフィの種族、【天月舟】の正式名称がこの歌詞に似ていてさ。あいつのテーマソングっぽくて笑えてくる。
「そう言えば先に広崎さんも転生していたけど、今レベル幾つです?
それとジョブはなにか増やしました?」
「レベル42でジョブは戦士、斥候、狩人。そのうち入れようと目論んでいるのは、細工士だな。なんでだい?」
おお、ジョブが多い。
「ジョブに錬金術士を取ったけど、そのお陰では器用さが上がった気がしなくて……MPは増えましたけど。
器用さをもっと上げたいなら、どうすればいいと思います?」
器用さの極み。ニンジャをしている先達に質問だ。
「撹拌世界の錬金術士は、まず最初に魔力ありきで魔法使いの派生だからね。
細かい専門に別れれば、また話は変わってくるだろうけど。
そうだね。器用さを伸ばしたいなら、流士くんのスキルなら、そのまま『刺繍』を地道に頑張ればいいと思うよ?
ジョブは……うん。未習得の盾士はそれほど器用さはいらないかな?
もちろんあれば嬉しいけれど」
だよなー。
「楽しいことや得意なことばかりしてると、伸ばしたいステータスが疎かになりません?
全力で走るとコケるのって、足りてなかったのは器用さですよね?」
前世の貯金で転生したら器用さは増えたような感じはあるが、まだ足りない。
ちらっと見掛けた万里なんて転生前だというのに、足が早いのなんの。正に流星。
『スピードスター』の可能性を見た。
エンジンの出力をコントロールするには技術がいる。
多分オレに一番足りてないステータスは器用さだ。
「それはあるね。でも体は動かして覚えるのが一番確実だ。
本当は、もっとゆっくりレベルを上げさせてあげたいんだけど」
「今レベル21なんで、50を過ぎたらスピードを落とします。
今だと超極小タイプの雫石で負荷は丁度いいですし……50ぐらいあれば転生明け、ダンジョンマスター活動にも本格復帰できるんじゃないかと思うんですよ」
ジョブに就くと基礎能力にプラスがつく。だからメモリをケチるよう教導されているオレらでも、迷わずジョブを入れている。
撹拌世界で新しいジョブが手に入る度に、転生マラソンになりそうだ。
リアルでの転生一番乗りはオレだったが、要も幸もジョブでメモリがパンパンになってる。オレが復帰したら順次に転生の予定だ。
位階の低い今だと魔力量の問題がある。星砕きして朝顔の種ほどに小さくした雫石でも『調律』の連発するのは難しい。
『精製』やアンカーを打ち込む作業はやれるんで、次回のマラソンは仕事の予定を効率よく立ててから転生に望んだら良さそうだ。
ビーっ!
時間になって集まってきたサークルメンバーの腕時計が、一斉に鳴る。
なんだ?
端末を取りだそうとする前に、広崎さんに手を引かれた。
「篠宮くんはまず安全な場所に!」
避難指示を受けて移動の最中、要と三宅さんとかち合った。
「僕たちは、今から野良ダンジョンを摘みに大阪に飛ぶよ。
日本は大阪方面と、神奈川、東京に掛けて。2つの地脈方面で野良ダンジョンの発生指数が跳ね上がった。
篠宮くんはギリギリまでレベルを上げておいて欲しい。
その間に替わりのヘリを寄越すから。
詳しい話は端末に流すから、確認しておいてね!」
三宅さんは行動が早い。
「はい、わかりました」
「佐里江くんも頼むよ!」
「はい」
「そーいうことで、ちょっくら先に掃除に行ってくるわー。
速報出たからビビったけど、注意報レベルだってさ。
増した地脈の水位の上下幅を測るデータ集めで、野良ダンジョン摘みをするのと、ダンジョン詰め込みは急遽、合わせてやっておきたいってよ」
んん?
震度1でも流れる地震速報みたいなもん?
一瞬、すわ鎌倉かと角の先がビビっとなったが、勘違いか。
「なる。仕事が終わったら、正月に打ち上げやろう」
篠宮家正月名物、畑の真ん中バーベキューにご招待だ。
「おーう。お互い頑張ろうぜ」
手を振って別れる。
しかしだ。とうとうダンジョンの発生指数が注意報レベルに達したのか。
驚いた。心配していたよりずっと地脈の水位が上がってくるのが早い。
……うちは研究施設ラインと同じ地脈だから汲み出し量もそこそこあるけど、こうなると油断せずにダンジョンの地元誘致をしていて正解だったな。
終末ものの物語は楽しいけれど、それのリアルプレイヤーになるのは御免被る。
コメント、いいね、評価、誤字報告等、感謝です。いつも励みにしています。
登場人物紹介、案外読んでくださる方がいらっしゃいました。
冗長なので、大勢にはスルーされるものだとばかり。はわわ。
※設定揺れしてたサリーさんは、こっそり修正しました。やっちまったぜ…!
教えてくださって感謝です。
ちなみに以下は変わってません。
基礎3職だけは、ゲームと同じくリアルもどのスキルも封入出来ます。
GMはゲームの皮を被ってますが教導システムでもありますので、基本ジョブだけはこの仕様です。
どの道に行くとしても、治癒士、戦士、魔法使いのジョブスキルは腐りません。
ツリーを生やす根になります。
本来冒険者としては必須だろう【見習い冒険者】が基礎に入っていないのは、メインとなる『倫理』や『体内倉庫』などは発展がなく、ある意味ピンとして完成されているスキル群であるからです。
それと、詳しいメモリとスキルに関しましては語り手の興味が向いたら、もしくは掲示板のネタがたまったら開示されるかもしれません。されないかもしれません。
でも冒険者に好まれるスキルは、例として幾つか出しておきますね。
戦闘スキルだと、得物に魔力を載せて切り裂く『スラッシュ』。あたりが人気です。メモリコストは500。
最初から使い勝手が良くて、使い込むほど強くなる武器職御用達の基礎です。
魔法系統職は実をいうと、天才向けのスキルはありません。
ライン工よろしく魔力回路をコツコツ鍛えてからが、魔法使いは本番です。
スキルの試行回数こそがものを言います。
『ヒール』等のどうしても必要で取るもの以外は、種族等で生来スキルの下駄を履いている恩恵があったら、そこを取っ掛かりに伸ばすことをギルドの相談室は強く薦めています。
なにせ生来スキルはMP消費がやや軽いですから。
魔力回路を鍛えるのに、ハム車を沢山回していってねー♡
ってことです。
なので案外生産職は強い魔法を使えたりします。体力モヤシでは冒険者は難しいですけど。
オルスティンが魔法スキルを入れていたの、あれは趣味です。
悲しい事実として、彼は斧をブン回す方がずっとお強くていらっしゃいます。
まあ、少年時代の憧れをものにする大人の趣味にはコストが掛かりますよね。
ちなみにサバイバルイベントで日本人プレイヤーが自由枠で選んだスキルは『体内倉庫』を差し置き、『造水』、『洗浄』が2強でした。
ヒュー。流石は冒険者さんたち、わかってる!
GMはニッコニコです。
水不足イベントは、こっそりポケットに仕舞われましたよ。




