18 試作ダンジョンツクール君2,58
保健室隣の部屋に新たに併設された多目的ルームは、ベッド類が撤去されてしまっている。
従者組がお使いに出たのを機に、工作の時間に突入と思いきや、なんかハイテクなものが出てきてしまった。
丸い筐体のパソコンに、繋がれた3Dプリンターらしきメカ。
それらが部屋の中央にデデンと置いてある。
「試作ダンジョンツクール君2,58だ。
隣国のダンジョンマスターが最新機種に乗り換えたんで、お手頃価格で引き取らせてもらった純正品だ」
ほうほう。電源(?)をポチッとな。
ざっと見は、CADっぽい?
だいぶ簡略してあるっていうか、ボックス系のゲームの匂いがする。
1マスが1メートル換算ね。オケ。
0レベの雫石だと20メートル四方がおおよそ最大値で、それ以上は安全管理上推奨されないっと。へー、しらなかった。
ヨウルの白玉ダンジョンは上面積削って、横面積増やしてたんだな。
「面白いな!」
「先に使わせて貰ったけど、飽きない?」
「いや、見ているだけで楽しい!」
「教官、ダンジョンの天井や道幅って規格ありますか?」
「ダンジョンマスターによる。大形の魔物を出すならそれなりだしな。
乗り物をいれないなら人が余裕ですれ違えるくらいで十分だろう」
ちらりと教官を見上げる。大きい人もいるよな。道幅は4メートルっと。
1広場に2道を接合。すると接合部分に!マークが。タップすると【『調律』された雫石が必要です】そう表示される。
「扉同士は雫石で結ぶんですね!」
「魔石じゃ強度が不安だとよ。勿体ないがしゃあねえ」
道を出て右側に3調理加工室、4倉庫。
出入口が重ならないようにずらして動線を確保、左側に5バーベキュー場、6昼寝ができる芝生スペース。
各々3と4、5と6は繋がるように設定。
通路の先は折り返し形の7階段を置く。
「2階建てだな!」
そのつもり。
「ああ、2階から落とし穴のスロープドアで狩ったキノコを加工室に滑り落とす方式だ」
平面なのに上から物が滑り落ちてくるって頭バグるし。
「それなら加工室と調理室は分けた方が、いや、ダンジョンだから普通の部屋とは違うか」
うん。上部を削って高さ5メートル横55メートル四方で一先ず調理加工室と倉庫は設定してある。
バーベキュー場と芝生のスペースは圧迫感がないように高さは10メートル横40メートル四方の空間だ。
調理加工室とバーベキュー場、芝生の部屋には水道も敷く。
2階は8通路で9A、10B、11C、12Dの4部屋だ。この部屋の角に石積の井戸形落とし穴を各々設置する。
生きた魔物は通さないタイプの落とし穴は、うん、ゲートの設定にもあるし大丈夫だ。
一部屋あたり20体制限収集設定で、呼び寄せアンカーを設置の予定っと。
「イメージはだいたいこんな感じで、ダンジョンの動線とか、特にキッチン周りを識者の皆さんに見て貰いたいなと」
仕事のしやすさは道具の配置で決まってくるだろうし。もうそこら辺はお任せだ。
「1階広場に受付を置くんだな」
「はい、そこで武具の貸し出しもしたいな、と。ビリビリ棒プラスみたいなのを」
「刃物扱い不如意層の取り込みか」
ですです。
「それと条件の合った雷撃で倒すと、傷のない綺麗なキノコが採れるので」
「それがメインだろお前さんには。キノコは全部買い取りか?」
「魔石もキノコもお持ち帰りでもいいですよ。
採れたてをそのままバーベキューしようというのがコンセプトですし。
買い取りもするのは、採れたキノコを余さず流通に乗せたいだけです。
歩きキノコ美味しいけど、サイズ的には普通のご家庭ではもて余しますから。
干したりオイルに浸けたりなんかしたら、どの層も好みの分量で気軽に使えますよね?」
「血や臓物がでない魔物狩りは、ご婦人に優しい造りだな!」
「おっさんでも慣れないやつはいるぜ?
肉にしちまえば絶品の料理を作っても、丸のままだと尻込みするやつとかな」
教官は紙にペンを走らせている。
『念動』でペンを使っているのが逆に器用だ。
「適材適所ですね!」
「そうだな。ん、よし。プリントアウトすんぞ」
樹脂かプラスチックのような液体がぐにぐに動いて形を造る。
小包ほどのダンジョンの模型が設計図のまま仕上がった。
「もう、触っても構いませんか?」
「いいぞ」
許可が出たので持ち上げてみる。見た目どおり軽いが、丈夫そうだ。
「接合部分は赤で、追加施設は青か。倉庫も青いな?」
「0レベに冷涼な気候の洞窟ダンジョン出たので倉庫は冷蔵施設です。
キッチンのは岩清水が湧いたのがあるのでそれで」
「よし、次はエンフィやってみるか?」
「テルテル教官に製塩ダンジョンの資料をお願いしてありますので、それを拝読してからやってみたいです」
「そうか。なら、受付で模型を渡したら自由行動だ。ダンジョン行きたいなら教官をもう1人呼ぶがどうする?」
「ガチャりたいのでダンジョン行きます!」
「わたしも」
ガチャは悪い文明だ。ゆえに楽しい。
昨日はいつもは白玉しかいないダンジョンで、ごく稀な例を引いてピンクちゃん(牛)と会えた。只今熟成中のピンクちゃんは赤身の素敵なお肉らしい。今日もいい出会いがあるといいな。