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17 ステータスさんいらっしゃい



 午後からはダンジョン模型制作だ。

 その前の昼休みで、魔力を使いきるのはお約束。

 【睡蓮荘】の中庭に設えてある東屋でじゃらじゃら卓を囲んでいる。

 午前中の出来事を教官に話すと爆笑された。

 笑い話だ、笑ってくれ。


「楽しかったんだろ。ならいいじゃねぇか」


「セクハラになるとは夢にも思わず」


「お前さんらは年も若いし、位階が低いから気が回らなくてもしゃあない。

 獣人の男は、お前さんらにとっちゃ完全な対象外ってことだろ。その手のことは年上で位階が高い方が気配りするもんだ。

 お前さんらが怒られるとしたら、アリアン嬢やクロフリャカ嬢くらいの年のお嬢さんに度を越えてベタついたとしたらだ」

 失敬な。


「女の子にそんなことしません」

 妹より下の子なんて、完全な庇護対象だ。


「だよな。年若い近種族の異性にそういった遠慮があるのは、逆説的に将来を共にしたい伴侶の候補に入るからともいえる。

 トトがピリピリしてたのも訳があるわけだ。

 まず承知して欲しいのは、位階を積むとどの人種も、種族差、性差の順に番候補の範囲が広がる傾向があるってことだ。

 位階が上がると体は丈夫になるし、魔力も上がる。スキルも増えれば、寿命だって伸びちまう。

 ある意味別の種族に進化しちまうようなもんだろう?

 長い人生、気の合うやつと幸せに暮らしたいってなるのかね。

 位階が高くなるほど、惚れた腫れたの事情はおおらかになりがちだ」

 まあ、わかる。中の人とガワの性別が違うのはMMO時代からの伝統だし。


「でもオレ、彼女は女の子がいいな」

 3人して頷き合う。

 男の彼女はハードル高い。


「位階上げしてもそういう男は多いぞ。

 むしろ激しく異種族や同性と番うのを嫌がるタイプも多い。あるいは異種族はオーケーでも同性は駄目とかな。

 各々趣向は様々だから一概には纏められんが、概ねどこでも異種、同性婚は認められている。

 ただし、子供に手を出すのは全面的にアウトだ。

 そして犬族の愛情表現のひとつに顔を舐めるというものがある。

 同族の子供たちを群れのアルファが愛情深く顔を舐めても、種族の伝来のものだ。なんら恥じるものではない。

 しかし他種の子供に、それも位階も高くて群れのアルファになるような、性愛の間口が広いと推察される人物が、だ。のし掛かって顔を舐めるとしたら。

 な、普通に問題だろ?

 おまけにお前さんらはダンジョンマスターの雛だ。いずれ位階を上げてくるのは想像に難くないよな?」

 ………………やっべー。


「わたしは犬の人に社会的瑕疵を与えるところだったんですね」

 檻の中でしょんぼりしているダルメシアンを想像すると心が痛む。


「ま、犬の会の連中は、ギリギリ法律を犯してないだけの確信犯じゃないかとの疑いがある。

 犬族の主従関連は恋愛あり派となし派があるから、ただ主を探しているだけの者も大勢いたんだろうが、そうじゃない奴もいたかもしれない。

 その手の輩はある程度の警戒心を持ちつつ、交流するように。

 15歳で成人したら、ハニートラップをいつ仕掛けられても可笑しくないからな、お前ら」


「それでも犬の人たちを紹介してくれたのは、なにか理由があるのでしょうか!」


「犬族は俊敏で賢く、規律正しい行動も得意だ。

 官憲や軍、ガードマン。幅広い分野で活躍している。位階上げにも熱心だ。

 雇用と顧客。両方の面で知り合って損はないと判断した」

 ああ、道理で手並み鮮やかな捕らえ方だったわけだ。

 なにが起きたか分からないくらい、あっという間だった。


「犬のお巡りさん!それは心強い!」

 エンフィがそう力強く頷いた時だった。


「お!」

 バシンと教官が膝を打つ。


「やったな、リュアルテ。おめでとう。

 体育系スキルのスイッチが入ってるぞ。これで一先ず安心だな」

 教官は作業中、MPの推移を時折監視している。どうやら『鑑定』でいい結果が出たようだ。


「おお、めでたい」

「おめでとう!

 今日は歩いても息切れしなかったな!」

 エンフィ、よく見てるな。指摘されるまで頭になかった。


「ありがとう御座います」


「鳥撃ちが効いたな。沢山落としてきただろう」


「犬の人が一直線に走っていく姿が可愛くて」


「リュアルテさー。遠くの雀ばっか狙ってただろ。ドSっぽい」

 せやかてヨウル。


「いっぱい走ったほうが楽しいかなって」

 フリスビーは遠くに投げるものじゃないか?


「リュアルテは犬族のいい主人になりそうだな。犬の多頭飼いに興味はあるか?」

 この世界特有の慣用句なのかもだけど、人を飼うって表現はアレだ。


「犬族のビジュアルはとても好ましいですが、恋人になりたいわけではないです。

 それに今の段階では、犬族の主になるのは躊躇いがあります。

 ごっこ遊びならまだしも、真剣に仕えたいと思ってくれるには、わたしには経済力とか爵位とか色々足りないでしょう?」


「よし、サリー。犬族を代表して意見を頼む」

 うん。実は美人のお兄さんも大きなお兄さんもいたりする。

 少し離れた場所でテキストを開いているあたりガチ従者ってわけではなさそうだ。


 雪白の髪に銀の睫毛、覗く瞳は星のよう。

 教官に招かれて寄ってきたが、夢魔でもないのにこんな人がいるんだなと感心してしまう。


「ダンジョンマスターに配下に下れと命じられて、喜ばないフリーの犬族はありえません。

 本能に根差した衝動というのは質が悪いものです。

 幸い、私は他の血が混じっているのでそれ程ではありませんが、あなたの号令で走るのは楽しそうだと思いましたよ。

 純血に近ければ近いほど、その衝動は大きいでしょうね」

 えーっと。


「じゃあサリー、うちの子になる?」

「是非!

 じゃなくて!

 そのおおらかな態度は危ういと意見を申し上げたく!」


「リュアルテ、振られたん?」


「振ってはおりませんが!」

 なかなか愉快な人かな白い兄さん。


「いいんじゃないか。どうせ成人までの3年は試用期間なんだ。

 サリーが仮の筆頭従者なら、リュアルテの犬族の運用が簡易になる」


「教官。お給料はいかほど用意したらいいですか?」

 問題はそこだ。


「リュアルテが学生のうちはない。というか出しちゃならん。

 サリーやジャスミンの立場は書生だ。

 本分は学生で、従者業は奨学金を貰うかわりのバイトみたいなもんだ。

 勉強と位階上げの合間にお前さんらが従者という存在に慣れる訓練材料になってくれるんだ。

 あまり困らせるなよ」


「教官殿。では、俺はエンフィ殿につけばよろしいか?」

 掠れたバリトン。ジャスミンは大きな体に似合った肉厚な声をしていた。


「そうだな。頼めるか?」


「畏まりまして。そんなわけで、よろしくな!」


「ああ、よろしく。ジャスミンは獣人か?

 立派な角だ!」

 ジャスミンの渦巻く黒髪には真珠めいた光沢の白い角が2本生えていた。

 角というより未来宇宙的なヘッドパーツのようにも見える。

 蜂蜜色の肌といい、滴るような色悪ぶりだ。


「それがよくわかんねえんだわ。気が付いたら従者研修を受けていてな。

 俺より周りが困ったんじゃないのかねぇ。

 なにせ提出してあった書類の履歴は出鱈目でな。これは不味いと出頭したら、なんだかんだと調べて貰って問題なしと解放されちまった寸法よ。

 従者としては護衛よりだな。まあ、頼むわお姫さん」


「なにか勘違いがあるようだ。前世ならいざ知らず生憎今世は男に生まれてな!」


「残念だな。お前なら傾国もいけたのに」


「ダンジョンマスターなら造るほうだな。そちらのほうが私の好みだ」


「なるほど。うん、悪くないな」

 ジャスミンはエンフィの関係者か。リアルの知り合いにお嬢さまやってたバレってきついな。


「ヨウル」


「ふぁい?」


「他人事のような顔してるが、お前さんが一番従者決めにバチバチやってんだぞ。

 なぁ、白玉ダンジョンのチームリーダー?

 エリート官僚のなかでもこれぞって人が何人も手をあげて席を取り合ってる状態だと聞いた。

 白玉ダンジョンの外回りをしてもらう関係で、お前さんのは長い時間寝ちまう英雄症ではない人が選ばれるだろうが。

 この後、メイスの訓練の間にも挨拶にくるそうだぞ」


「マジで!」


「マジだ。暫く付き合ってみて相性が悪い場合は人員移動もあるそうだから頑張れ」


「うう。逃げ道を塞がれた…」

 時間だからと迎えに来た、トト教官に連れられて去るその背中が煤けている。



「さて、ちょいと学生証を触らせてくれ」

 指示通り差し出すと、教官は金色のタクトでなにやら操作する。


「ステータス解禁だ。『体内倉庫』らのスキルも封印解いたから、今後は使えるようになる。よく、頑張ったな」


「はい。ありがとう御座います」

 ジャスミンが周りの方が大変だったんじゃないか、と言っていたがこちらもそうだ。

 大事にして貰った分だけ返していけるといいな。


「『ステータス』見てみます」

 そんなわけでご開帳。


 リュアルテ ノベル サリアータ


 性別 男  年齢12  レベル1


 HP50 MP550



 スキル


 スキル石枠(残メモリ78)

 ステータス 宝物庫 解錠 施錠 体内倉庫


 生活スキル

 魔力の心得☆☆【】 洗浄☆【】(ツリーが解放されます!)

 ライト 造水☆【】

 解体 鋏 念動 そよ風☆【】

 ターゲット☆【】

 

 体育系スキル

 整体 免疫 美髪(種族由来 輝く髪のエルブルト)


 生産スキル

 魔石加工(L) 精製 調律 エンチャント

 (念動+鋏+ターゲット)→採取

 (そよ風 ターゲット)→受粉☆【風媒】

 (そよ風 造水)→散水☆【夏至夜風】



 戦闘スキル

 (ターゲット+雷光)→サンダー☆【】

 鋭利


 一般スキル(教養)

 礼法 探索


 特殊スキル

 緑の指(L)


 タツミ シジョウ(スキルを一つお選び下さい)



 TRPGではあった体力や精神の欄がないのは仕様だ。

 マスクデータはあるんだろうが、プレイヤーには公開されていない。

 しかし覚悟はしてたがHPのお可愛らしいことよ。

 そして燦然と輝くレベル1。雀だけの経験値でも、レベル5ぶんくらいは稼いだというのに、どんな状態だったのかオレ。これは過保護にされても仕方あるまい。


 とりあえず『洗浄』のツリーが解放されたんで無料メモリで覚えられる『洗口』をチョイス。『毛穴洗浄』とかわけわからん。微細な汚れでも落ちたりするのか?アクセとか、メガネのビスとか。


 『魔力の心得』とか『造水』とか幾つか星がついたんで、専用のスキル名がつけられるようになったけどそのままでいいや。

 リュアルテくんは『受粉』や『散水』をきちんと登録してたみたいだけど。…うん、これはそのまま残しておこう。

 リュアルテくん、中二のはしりだったんだなあ。微笑ましい。

 星がつくほど使い込んでいるし、自分で考えた名前をつけちゃうぐらい、新しいスキルが嬉しかったんだろうな。


 タツミ姫のスキルは『ヒール』を選ぶ。

 すると『ヒール』は戦闘スキルに編纂された。

 メモリ消費は驚きの10だ。前は150くらいかかったのに。なんか妙に悔しいぞ。


 にしても、この☆って幾つまであるんだろう?

 前世では『魔力の心得』が☆8まで行ったけどまだ上があったんだよな。謎だ。


 そうだ、忘れないうちに学生証と手帳は『体内倉庫』の大事なものにしまっておこう。


「なにかいいことあったか?」


「『探索』と『ヒール』覚えました」


「は?!」


「教官!私も『二重』と『算術』覚えました!」

 『二重』はサユリのスキルで、対ボス戦でお目見えする筈だった必殺技の2回攻撃だ。

 『算術』はしらん。


「エンフィ。『算術』って?」


「で、…多機能な算盤みたいなスキルだな!」

 で?電卓か。なるほど。


「いいスキルだぜ、それ。上手いこと『計測』に繋げると、生産系は勿論、戦術的にも幅が広がる」


「ふむ。例えば?」


「生産系なら調合、建築、被服縫製、その他、纏めてお役立ち。目測でサイズが計れるようになる。

 戦術的は『ターゲット』。これが抜群に楽になる。ストレスフリーの射ちっぱなしよ。

 経理関連はいわずもがなで、それと鑑定関連にも必須スキルだったはずだ。ですよね?」

 確認をとられて、教官は肯定した。


「そうだな。鑑定系は教養スキルが複合でいる。『算術』『計測』もそのうちに入る。

 …お前さんら、本当ポコポコ覚えるな。

 サリー、ジャスミン。コイツらが無理しないよう監督頼む」


「かしこまりました」

「承知」


「『算術』ってどうおぼえたんだ?」

 これは聞いとかなければ。


「推奨ドリルをやった!

 だいたい因数分解あたりで覚えたぞ。

 1人だと魔力回復の時間が退屈でな!」

 うん。本の借り出しは1日1冊までなのは少ない。


「あんたらは泳がないと死ぬ回遊魚かなんかか」


「エンフィ言われてるぞ」


「ごく最近まで、毎日体力が尽きて気絶していたリューに言われてもな!」


「人聞きが悪い。ちょっと寝つきが良かっただけだろう」


「……今日からリュアルテは個室移動のつもりだが、早まったか。

 エンフィ、リュアルテ、一応尋ねるが隣室に人がいると落ち着かんタイプか?」


「特には」

「大丈夫です!」


「サリー、ジャスミン。こいつらの箱大きいのに移すから、同居してくれ」


「部屋の掃除らは私に任せて頂けても?」


「構わないがなにか問題が」


「いえ、知らない女性や男性が裸で部屋にいたことがありまして。鍵の管理者は数が少ないほどありがたく」

 その握った拳は全員殴り飛ばしたぜってことだろうか。


「ダンジョンマスターの居室で悪さをする奴なんて…世の中広いからな。

 マスターキー以外は1人1つずつ配布で残りは回収ののち従者組に預けるでいいな」


「感謝します」

「了解」


「ついでにダンジョンマスター用資金の現金カードや、振り込み専用のギルドカードも預けておく。

 暫く様子を見ていたが、こいつら自分用の衣類や小物を買おうとせん。

 まだ子供だから最上級品は避けるにしても、格に相応しい品のいいものを揃えてやってくれ。

 これは領収書をレポートの形で提出して欲しい。成績にプラスがつく。

 冒険者カードを渡した意味はわかるな?

 俺を通しての買い取りより、冒険者ギルドに直接卸した方がいい値がつくし、貢献度も査定がつく。

 こっちは主従ともだから、上手く使え」


「…特に節制したつもりはないんだが」

 同意。快適に過ごさせて貰ってますが?


「ダンジョンマスターが経済まわさんでどうする。それでなくてもサリアータは高級品の買い控えが起きてんだぜ。

 カンフルになるほどパアッと使えとは言わんが必要なもんくらいは揃えさせろよな」

 あ、はい。左様で。


「現金カードは月極めで限度額があるが、正当な理由があれば追加も用意するそうだ。

 これらは返却のいらない金だが、ダンジョンマスターの身になる使い方をして貰いたいな」

 身になるものか。なにがいいかな?

 スキルを磨くのと増やすのどっちが効率いいんだろ。

 サリーと目が合うと素晴らしく麗しい笑みを向けられる。


「一先ず、ドリルは買いましょうか。他は私にお任せください」


 

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読み直していて思ったのですが、スキルの後ろにある(L)って何の略なんでしょうか…? あと雷光が単品でも戦闘スキル扱いなのかがちょっと気になりました
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