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16 雀の千声 鶴の一声



「せいっ!」

 掛け声とともに、猫じゃらしの合間から飛び出た雀が吹き飛ばされる。

 それを走って拾いにいく犬の人。

 流石、犬族は足が早い。


「やだ!この杖楽しい!」

 アリアン嬢がエキサイトしておる。

 魔法の杖は少女の味方。はっきりわかるね。


「魔力の地力があると、道具で化けるわねぇ」


「アリアン嬢は攻撃スキルないのでしたか?」

 クロフリャカ嬢は村の面々に囲まれて少し離れた場所にいるが、残りは教官の側に並んで杖を振るっている。

 『ターゲット』は機能をカット、自前のスキルを使う。

 そして『パチンコ』。

 魔力を通すと空気の弾が打ち出される。すると狙った雀が面白いように落ちた。

 犬の人が落ちものを拾いにいってくれるのをいいことに、続けざまに発動させていく。


「そうよ。あなた達の年なら珍しくないわよ?

 大抵は位階上げを始めてから身につけるものだもの」


「じゃあ、オレ持っててラッキー!だったんすね。『パチンコ』当たらないの辛あってなりましたけど」


「遠距離スキルは『ターゲット』ありきですものね」


「教官、犬の人に当りそうで、怖いのですが!」

 長物の間合いの違いからか、エンフィは慎重に狙いをつけている。


「彼らは位階が高いのでこの杖の出力では傷一つつきません。それに念のためゴーグルも自前で用意してきた人のみ参加だから大丈夫だけど、…………狙って射線に飛び込んでくる駄、いえ、構ってちゃんがいたら教えて頂戴。出禁にするから」

 それはお日さまの下では出してはいけない性癖の人では?


「当たり屋をするひとが?」

 エンフィは声を潜める。

 そっちか。汚れているのはオレだった。


「そうね。そうだったら、いいわね。契約書を交わしている以上、裁判で勝つのはこちらだもの」

 間違ってなかった?!


「トト女史。いとけないダンジョンマスターの卵に、あまり偏見を与えないで下さいませんか?」

 どえらい美人(ただし男だ!)が、教官に苦言を入れる。

 影のようにひっそりしていたものだから、いきなり現れたようで驚いてしまう。


「そうね。少し攻撃的だったかしら」


「いえ、犬族の恥じる行いは私にも返ってきますので。

 裁判なんて手数をお掛けする必要はありませんと是非お伝えしたく。

 もし彼らが不埒な行いをするようであれば、この場で処断してもいいと、急遽、部族会議の許可を取り寄せてあります。が、その前に殴り飛ばして見せます。

 犬族はけして幼年者への性的搾取を許すものではありません。その事だけご留意いただけたらと」

 そしてこの美人、怖い。目がマジだ。


「サリー。あなたミックスだったかしら?

 犬種の血は入っているようだけど」

 白に近いプラチナの髪に獣の耳が飾りのように生えている。


「いいえ、4種混合なのでキメラですね。

 血は薄いかもしれませんが犬種の群れにも愛着はあるので、いらない失態は減らしていきたい所存です。

 …正直、幼いダンジョンマスターに誉めて貰うために狩猟犬の真似事をしたいと、聞いた時には、こいつら全員牢にブチ込んでやろうかと思いましたが」


「良かった。アタシの感覚が可笑しいのかしらって回ってきた書類を何度も読み返しちゃったわ」


「私も受け取った書類を燃やしてしまいそうになりました」


「教官、ゲストのお2人の紹介はないのでしょうか?」

 うん、実はもう1人静かにしている大きいのがいたりする。

 従者候補らしいこの2人、いつの間にか側に侍っていた。


「こちらの美人がサリー。大きいのがジャスミン。

 彼らは執事の訓練生だったけど、英雄症が発現したので冒険者になった経歴です。

 あなた達が人を使うのに慣れて貰うためにスカウトしてきました。

 側でお茶を淹れてくれたり、護衛として控えてたりしますがお仕事なので邪魔しないであげてね?」


「仕事の邪魔にならない程度なら、話をしても大丈夫でしょうか!」


「ええ、もちろん。でも今は位階上げがんばってね」


「はい!」



 鳥撃ちは楽しい。この後で美味しいお肉になるのも嬉しい。

 素晴らしいな『パチンコ』。

 【星の杖】のファンシーな外観にさえ目を瞑ればヒット商品間違いない。

 …だってこれ、結構ガチな武器だろ。

 なんの訓練もなく狙ったところに当たるのは、すごく便利であるからして、この杖の対象年齢は成人済みだ。

 お子さんにはとてもじゃないが怖くて持たせられない。

 そんなわけで狩猟後【星の杖】は教官によって回収された。

 ダンジョンマスターの魔力にあかせて散々使い倒したから良いテスターになったんじゃなかろうか。


 そしてダンジョンマスター組の代わりに走り回ってくれた犬の人。

 犬の人が猫じゃらしの草原をかけるさまは壮観だった。

 犬の人は、アスターク教官と同じくらい獣率が高い人が殆んどで、ふさふさのむくむくで、しゃらしゃらだった。

 毛並みは念入りに手入れされて、そんな彼らが尻尾をなびかせ走る姿は本当に綺麗だった。

 見たところ体格は男女の体の違いよりも、犬種の差によるものの方が大きいようだ。

 それでも群れのアルファばかりだからか、恵まれた体格の人ばかりだった。

 みな押し並べて迫力がある。

 いいよなあ。大きいわんこ。


「皆さん雀拾いお疲れさまでした。

 それぞれ1人ずつ自分の担当のダンジョンマスターに成果を報告して下さい。

 ダンジョンマスターはカウンターを押していきますから1羽ずつボックスに入れていって下さい。

 ボックスがいっぱいになったら声を掛けてくださいね。新しい箱をお出しします」

 教官の仕切りで、1人目のわんこが前に出てくる。


「今日はありがとう御座いました。

 仮とはいえ、ご主人さまの狩りに参じることができて大変楽しゅう御座いました」

 リストを眺める。

 挨拶をしてくれたのは番号札3番。…レルズさんか。

 中身は壮年の紳士のようだが、外側はラブリーなダルメシアンだ。

 上位者に誉めて貰いたいのなら、少し偉そうな口調を作ったらいいだろうか?


「レルズで良かったか?」


「はいっ!」


「良い子だ。お前は足が速いな」

 そっと手を伸ばす。

 背はリュアルテの方がずっと低いから屈まなくていい。

 背中や脇腹は流石に不味かろうと、耳の後ろや首回りをわしゃわしゃしてやる。


「レルズ、いい子、いい子」

 ちょっと短いが、よその子ならこんなものかと手を放すと、なにやら視線が集まっている。

 おや?


「…ご主人さま、レルズは幸せな犬です…!」

「はい、アウトー!」

「ちょ、こいつ、力、強!」

「てめえ、やめろレルズ、お前のせいでこの後のご褒美がなくなるだろうが!」


 レルズさんはなにもしてないのに、周りの犬族に大罪人のように囲まれて連れ去られてしまう。

 ええ?


「良い子にした犬を誉めるんだよな?」

「なにか、可笑しかったんだろうか!」

「いや、わかんねえ。急に触れたわけでもないし、撫でかたもゆっくりだったよな。足やしっぽに触れてもなかった」


「あなた達、正気?

 相手は成人男性よ?」

 アリアンはこめかみのあたりを揉んでいる。


「女子は不味いか?」


「男の子も、不味いわ。この先腹を撫でろって地面に転がられたらどうするの?」

 可愛いかな?

 ダルメシアンがゴロンゴロンしてたら頼まれなくても撫でに行くけど。


「別に構わないが…駄目か?」


「駄目よ。がぶってされてしまうわ?!」

 教官。なんか必死に犬の人が首ふってますけど?


「あのね、リュアルテ。位階を充分に上げたら、異種同士でも子供ができるのよ?」


「えっ。同性同士だぞ。まさか結婚したり子供できたりすんの?!」

 諭すようなアリアンの言にヨウルが目をむく。


「できるわ両方。子供をつくるのは、すごーく位階を積まないといけないけど」

 つまり。これは震える。


「さっき、わたしは男性相手にセクハラをしてしまったと…?

 謝ったら許して貰えるでしょうか」


「違う!…いえ、ある意味そうなのかしら?

 謝る必要は」

「ありません!」

「完璧なご褒美でした!」

「あれ、あたしもやって貰いたいです!」


「ないみたいね。あと、成人男女を無闇に撫でるのはいけません。いいわね。特に男子3人」

 そんなー!と犬の人らの悲鳴が上がるが。



「…なにか問題がありまして?」

 その一声で静かになった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] この世界、業が深い…
[良い点] 異種同性でもお子さんこさえられるのしゅげえですね。 なんかめっちゃときめくっす。
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