14 セッション1 お嬢さまレベル3
それからの道中でお嬢さま一行はセクシー大根3本の収穫と、ウサギ2羽を狩猟した。
一度GMがセクシー大根戦でクリティカル出した時にはヒヤリとしたが、対象はタツミだったので『ヒール』2発を戦闘後速やかキメて回復し、事なきを得た。
戦闘中『ヒール』使うの怖い。シノブ嬢に攻撃を通すと、HP全損しかねない。
ヒヤヒヤしながら耐えたが、タツミが丈夫な子で良かった。
そこでゲームを一旦中断して、教官は件のババロアを取りに行った。
しゃべくりながらの作業で貯まった精石ケース10ダースを各々お会計して持ち去ったから、こんな夕方遅くにまだ働いている職人諸氏がいるらしい。お疲れさまだ。
レベルの低い精石すら需要が高いのは、うすら寒さを覚える。
上位の精石って絶対足りていないだろ、これ。
なんかイヤなイベントが潜伏進行してそうだ。
「レベル1ダンジョンってさ、コレゲームならいいけど3人で攻略って大変じゃないかなぁ」
精石の弾ごめに飽きて『パチンコ』を『エンチャント』し始めたヨウルがぼやく。
『パチンコ』はコストが軽いから、白玉の精石で『エンチャント』できてお得感がある。
「実際戦うのであれば『ヒール』で回復するにせよ、HPを減らすのは極力避けたい!」
エンフィはながら作業なら、同じ仕事の繰り返しも苦にならないらしく、『ライト』の『エンチャント』を延々としている。
「同感だ。『治癒』持ちと『結界』、遠距離の攻撃が欲しい」
『ヒール』ではHP貫通した場合の怪我は治療してくれない。
HPはいわば微細なベールを幾重にも重ねた結界で、『ヒール』はその結界専用の修復材だ。『治癒』と『ヒール』は用途が違う。
「レベルが上がれば覚えるにしてもさ、そしたら敵も使ってくるんだろうし。
スキルが、スキルが足りん…!」
5レベル位になれば最低限のスキルが揃いそうだけど。効率を求めると、皆同じようなスキル構成にならないか、これ。
悩ましい。面白そうなスキル優先すると、お荷物になるけど、お嬢さまやるならフレーバーなスキルがあってもいいのでは。
「…なあ、話は変わるけど。
今、気づいた。
リュアルテ『精製』するのやけに早くね?」
数個纏めて『精製』かけるより、1つずつ作った方がMP消費が少ないんで、チマチマ『精製』したり、時折『洗浄』の『エンチャント』したりしていたが、確かに自前の山が大きい。
「『調律』はゲーム中やろうとすると、人の話を聴き飛ばすから、わたしはあまり『エンチャント』してなかったし、『精製』だけなら工程が少ないからじゃないか?」
「いや、リュアルテはおそらく錬金術系のスキルか魔法系のスキルのバフがあると見た!
このスキル表に乗ってないだろうか」
なるほど?
エンフィも経験者だから信憑性がある。
ステータス出ないと【やることリスト】の再表示できないから、うっかり他のことに気をとられて自分のスキル調べるの忘れがちだ。
「スキル、色々あるんだな。これで全部じゃないんだろう?」
お役立ちやネタスキル。各種取り揃えてみました。シナジー効果は自分たちで探してね?そう言いたげな雑多ぶり。
リュアルテもタツミもガチな構成を目指してないので気楽にスキル群を眺める。
この一度読めば一字一句たりとも欠落なく覚えられる司書スキルとか、リアルで欲しい。すごく欲しい。
あ。
水面に一滴、雫が落ちた。そんな感覚。
『緑の指』。
…多分、これを持っている。
俄然、やる気になってページを捲る。
文字が目に入るなり、反応したのは『魔力の心得』だった。
生活スキルのカテゴリだ。
テキストには、素質開花の一助になる。そう書かれている。
前世でも持っていて、特に使った記憶がないのにやたら伸びてたスキルのひとつだ。
クエスト達成!
おめでとう御座います!
リュアルテのスキル調査が全て終了しました!
報酬 『探索』がスキルに加わります!
※探索レベル1はMPを使わない教養スキルです。
知識を深め、人と友誼を結び、世界の謎に立ち向かおうとする君に幸あれ。
「あー…」
これはルールブックさんの後押しが強力でしたね。
『緑の指』なんて初耳のスキルだ。
…へぇ、植物育成にボーナス。
なんとはなしに桃の木と意志疎通が出きるような気がしたのは、メルヘンや勘違いじゃなかったと。
切り良くクエストが片付いたところで、教官が戻ってくる。
「目星ついちゃった?」
「『魔力の心得』が怪しいな。素質開花の一助になるとされる」
「生活スキルの分類にしては、コストが重いか」
エンフィの指摘どおり、『魔力の心得』は中位スキル程度のコストがかかる。
『エンチャント』するならトレントより上の魔石じゃないと収まらなさそうだ。
「『魔力の心得』は魔力素質のない人間も、スキルを使えるようにしてくれるスキルだな。
MPを製造する形ない臓器が腹ん中に作られるとでも思ってくれ。MPがないとスキルは多くは役立たずになるから、魔力のないやつは優先的に補助が受けられる。
それが、どうした?」
「リュアルテはスキル運用が得意そうなので、補助になるスキルがあるか尋ねました」
「そしたら『魔力の心得』がそうなんじゃないかーって。そうなんです?」
「すまん、わからん。後で識者に聴いておく。
…確かにリュアルテは食事量にしては魔力の回復量が多いな」
3食オヤツつきで、ダイエットしているのを咎めるような口振りはやめて欲しい。
最初こそ丸々1食は食べきれなかったが、今は普通に食べている。
「効率が上がるか試しに『魔力の心得』をエンチャントして、何かの発動体にでもして貰います?」
「おう、頼むわ。代金は品が出来てからの査定になっちまうが。
どの魔石が良さそうだ?」
ゴトゴトと出されたサンプルの中で、赤っぽい魔石が丁度だったので選ぶ。
「これを。代金のことは了解です。
あ、アリアンが『ジューサー』をエンチャントした道具をつくるなら、それと交換でもいいですよ。
そうしたら桃のジュースをご馳走します」
「針蜥蜴のだな、わかった。手持ちの在庫は3つだけだが、それで頼む。
品を優先して回すのは承知した。でも物々交換は税金の管理が難しくなるから勘弁してくれ。そして桃の差し入れは是非頼む。
ほら、少し作業の手を止めろ。ババロア持ってきたぞ」
サンプルが仕舞われて、ケーキスタンドが出てきた。
食器って大事なんだな。
硝子のケーキスタンドは涼やかで、初心者作のお菓子の格を上げてくれるようだ。
「教官。合間、合間で摘まんでるのに、腹一杯にならないの変じゃないっすか?」
「それだけ魔力使ってるんだ、当たり前だろ。
魔力は空気中に漂っているが、呼吸で取り込んだそれを使うのは、カロリーが必要だ。
魔力使ってるのに今は食べたくないなあってなったら、魔力使う方をやめろ。成長期のお前さんらの体の方が大事だ」
「えっ、美味しいものが遠慮なく食べられるのって幸せでは?」
「私はお握りだったら幾つでも食べられますが!」
「塩昆布と梅、たらまよ、からあげ酢醤油、たくわんと白ごま。どの具材もいいよな」
「なんでお前ら此処にないものの話をするわけ?!
ババロア食え!」
「普通に美味い」
「個性を出して尚且つ美味いのがプロなんだろう!
私はごく平凡なおうちご飯も愛している」
「食い気があって何よりだ。
お前さんらの『体内倉庫』が広がったら、買い出しグルメツアーやろうな。
さて、次はボス戦で止めちまったな。
此処のボスはダイスの合計で決める。
各々2回降ってくれ」
「3、5っす」「5、2でした」「6、6です!」
「此処で、クリティカルでちまうのか。
しょうがねえな。ダイスばかりはな。
冒険者諸君。よくぞ最奥の地に辿り着いた。
ダンジョンのボス戦こそは冒険者の花。
初めての探索に、さぞ胸踊らせていただろう。
そんな君たちにこの事を告げなくてはいけないのはとても辛い。
しかし、現実とは時に滑稽である。
レベル1ダンジョンボス【嘆きのヒマワリ】。
彼、もしくは彼女は、ずっと待っている。
まともに背も伸ばせない、窮屈な迷宮のなか、たったひとりで。
拙がいつか枯れ果てて、結実した種子が零れ落ち、鳥に啄まれ運ばれて、いつか新たに芽吹く地のことを。
青空の下、高く咲く我らの、夢を見ながら。
このダンジョンから連れ出してくれる誰かのことを首を長くして待っている。
嘆きのヒマワリは、君たちの姿を認めたのだろう。
感に耐えかねたかのように、その巨体を強く震わせる。
そして君たちが呆気にとられているうちに妖しいほど美しかったその姿を、無惨に萎ませてしまう。
嘆きのヒマワリ戦終了だ」
「…そんな予感はしてた…!」
エンフィがクリティカルした瞬間、やっちまったと悟った。うん。
「実際に、稀に良くあるからな。卓上演習でやっておくと、同様の件に当たると、ああ、これ知ってるヤツだと、諦めて対処しやすくなる」
知らないで出会ってしまった冒険者はそりゃあ驚くだろうな。
「ヒマワリは採取してもいいのでしょうか」
クリティカル出したエンフィも心なしかしょんぼりしている。
「いいぞ。魔石はレアボスだけあって200マだ。種子も製菓材料としては高級品だ」
「「カヨコ叔母さまのお土産ができましたわ!」シノブ嬢とサユリ嬢の微妙な空気をものともせず、タツミは笑顔で収穫します」
「「綺麗な花なのにせっかちさんですのね」タツミ姫の笑顔に慰められて、サユリは気を取り直します」
「「戦っていたらお強い敵でしたでしょうに」キラキラの魔石を眺めて、シノブはため息なんぞをついてみます」
「…ここでサユリは女装姿の美少年に何故か、色っぽさを感じてドキドキしなければいけないんだろうか?」
「いらないです!」
「楽しかったらいいと思う」
「うん、ピンとこないからやめよう!
きっとサユリの心はまだ幼いのだな。槍の訓練ばかりしていたのやもしれん!」
「このパーティー唯一のインテリ層が脳筋になってしまうのは、よろしくない。そうだな、勉学を積むにも忙しかったのではないか?」
「だから文武両道であると。こうやって設定がつけられてくんだな。
お嬢さまだからって、高飛車だったり、我が儘だったりしなくていいのな」
「考えつかなかった…!」
「きっとまだ見ぬクラスメイトにはいてくれるんだろう。それか、まだ猫を被っているのか。
特に綺麗目クールに振る舞っているシノブ嬢の内心は愉快なことになっていそうだ」
「なにも考えてなかったとは言えない。言うけど。
シノブちゃん、可愛らしいおつむしてるし。あまり深く物を考えてないのでは?」
「それはそれで大物だな!
さて、ボス戦は終わったが。現在は、6時くらいか。ここは、泊まりでいいか?」
「街中を歩くのではないのだから、一泊したい」
VRの夜陰は、何が出てこなくても恐ろしい。それを知って夜道を帰れとか鬼畜はしない。
「ダンジョンの中で泊まるのと、外で泊まるのはどっちがいいんだろ」
「GM ダンジョンボスや魔物のリポップはありますか?」
「このダンジョンは1月前に同じ依頼を受けている。その期間中に増えたのが、今回戦った魔物だ。ボスの再現は最低2週はかかるとする」
「ボスの間でキャンプ?」
「だな」
「GM、ここで泊まりたいのですが、可能でしょうか!」
「許可しよう。宿泊プランはどうする?
MPHPを全回復するには6時間かかるが」
「見張りは立てるとして、シノブ以外は2人態勢が無難だな」
「なんでシノブぼっち?!」
「『探索』持ちだからだが?」
「あっ、そーいう。
まず姫さんはゆっくり寝て貰いたいよな。
MPの回復的にも、主的にも」
「朝7時に起きるなら、タツミとサユリ嬢が先に寝て6時間交代でシノブ嬢が寝るのでいいのでは?」
「じゃあそれで。あー、薪を余計に拾ってくるんだった」
「それと今度からは、持ち運べる竈がいるな!
万一を備えて火打石を用意したが、それもマッチと新聞紙で良かった気がする」
「ロマン装備が文明に駆逐される瞬間を見た。
サユリ嬢は、きっと本格的なボーイスカウト訓練を受けてしまったんだろう」
「野外用の椅子とかテーブルもあったら良かったのかも。
焚き火でウサギの串焼きとか、やってみたかったなあ」
「『解体』誰も覚えてないよな?」
勿論お嬢さまたちのことである。
「お嬢さまには必要ないっしょ。次回があったらシノブが覚えるんじゃね。多分。
『解体』って何が必要?」
「解体用ナイフ。ロープ。丈夫なS字フック。滑車」
「穴掘り用のスコップ。清潔なパッド。バケツ。浄水。タオル。軍手。指導員」
「何より大事なのは挫けぬ心」
「それは重要だな!」
「道具の語群の不穏さよ。…ああ、まあ、そうね。『解体』ってそうなるかぁ」
「魚を捌くのから始めたらどうだろうか!
大きめの魚が捌けると、重宝されるぞ」
お正月の鮭とか、釣果の頂き物とかな。
魚を捌くのはうちでは爺さまの役目だが、『解体』習得あたりから、手伝わされるのが増えてきた。
なんでばれてるのか年寄り怖い。
「寝る前に何かすることあるか?」
「タツミは枯れたヒマワリを適当に伐採して、焚き火を作ります。
食事の後に『造水』で皆の水筒の中身を入れ替えします。小鍋にも入れます。食器セットとオヤツを2マ分出しておきます。
「夜中にお八つはいけないことですけど、行軍中なら許されますわよね?」
最初の見張り役のシノブ嬢に渡します」
ノリでその場にある、粉ジュースや杏飴やらをヨウルに渡す。
「うわあ、シノブが篭絡される。
シノブの体格的に小さいころろくなもの食べてなさそうだし。
お嬢さま教育でお菓子の食べ方は習っても、駄菓子とか初体験だったりして。
つい、「これは食べられるのですか?」とか聞いちゃいそう」
「「小さいころに皆さんが召し上がるお八つなのですって。わたくしも初めてですので楽しみなのです。サユリさまはご存知でして?」世情に疎いお仲間がいた。一緒ね、嬉しいと、タツミはニコニコです」
「「まあ、懐かしい。お兄さまが一度だけお土産に持ってきて下さいました」そう、さらりと兄を増やしておきます。サユリがロストしたら遺志を継いでパーティーに参加させます!」
ひとりお嬢さまから逃げられると思うなよ?
「タツミは焚き火の熱に照らされながら、唐突にこの大切な仲間たちを失いたくないと強く思いました。
今日の立ち振舞いは拙かった。皆を守って揺るぎなく立てるようになろうと決意します」
「殿の密命を受けた忍者は、この場で一番に散るのは己だと自負がありそうっすよ?
お嬢さま2人とは立場が違いますよねぇ。
なにかあったら泣く家族なんていないでしょーし。精々が無能がと、忍び頭に吐き捨てられるぐらい?」
ははは。醜い争いだ。
「麗しい友情だな?」
お話の中ではそうですね。
「折角作ったキャラなんだ、末長く活躍させてやってくれ」
まあ、ダテの姫が若くしておエドで客死したら、不味そうではある。
ほら、パパン。いつまでたってもヤンチャが過ぎるから。
「何事もなく夜も更けて交代の時間だ。
就寝組はダイスを振ってくれ」
「1、3」「4、5です!」
「なら、サユリ嬢は起きられた。タツミ姫はシラカワヨフネだな。ぐっすり眠っている」
「あ、GM。2人が寝ている間に簡単な鳴子を仕掛けたことにしていいっすか?
シノブは忍者なので、こゆことできそうっすけど」
「忍者か。そうだな、許可しよう。もしなにかあった際は判定にボーナスをつける」
「「お時間ですけど、まだタツミさまはお目覚めになりませんの。
声を掛けさせて頂けばいいのですが、昨日は大分魔力をお使いでしたでしょう?
もう少しお休みさせてさしあげたいのですが」サユリは声を落として従者同士の会話をします」
「「そうですわね。本当は守られなくてはならない方に前線をお任せしなくてはならない我が身の虚弱さが恨めしい。
せめてゆっくりお休み頂きたいとわたくしも思っていましたの」シノブは頷きます」
「「あら、鳴り物を仕掛けてくださったのね。これならわたくし1人でも、寝屋の番が勤まりそうです」同じ年頃、同じ立場にありながら気の回る同僚に、サユリは自分のいたらなさを覚え、少し恥じました」
「「あら。わたくし、徹夜は得意ですのよ」ってGM、徹夜のペナルティってありますかー?」
「1日目は全能力-1な。2日目以降はGM個々の裁量による。徹夜するか?」
「姫さんはいつ頃起きます?」
「リュアルテはダイスを1つ振れ。1につき30分経過な」
コロリン。
「2です」
「では1時間後アタフタとタツミ姫が起きてくる」
「「もうっ、起こしてくださいまし!
お寝坊さんなわたくしがいけないんですけども!」お味噌にされてプリプリしてます」
「「おはよう御座います。さ、暖かいタオルができましてよ」反応が可愛らしかったので、サユリはタツミ姫をいつも甘やかしているのでしょう。そっと蒸しタオルを差し出します」
「「では少し休ませて頂きますわね」タツミ姫と小さな個室で休むことを回避したシノブは心の中で勝利のポーズを決めます。なにしろバレたらハラキリ案件っすので」
「朝だな。身支度や食事を済ませて8時でいいな。さあ、どうする?」
「雫石を『体内倉庫』に入れて帰ります」
「『体内倉庫』持ちはタツミ姫だけだな。よし、振れ。ダイスは2つだ」
「3、3」
「レベル1ダンジョンの雫石(並)だな。
ヒマワリの巨体の影に、雫石はチラチラとした輝きで佇んでいた。
タツミ姫が手を伸ばすと、岩肌から零れ落ちるかのように掌に収まる。
竜の手には宝珠があるものだ。
いまはまだ、姫君の手にはささやかすぎる代物だが、いずれ相応しい宝を手にするのに違いはなかった。
タツミ姫は覚悟を決めて、宝珠を『体内倉庫』にしまう。
くらりとする感覚がある。
此れが【酔う】ということらしい。
なるほど、これは長時間になればなるほど苦になるであろう。その予感がすでにある。
システム的には1時間毎、体力-1だ。
雫石を外に出さない限り効果は永続、回復もおなじだけ時間がかかるとする」
「ヒェ、体力が減るとHPも減るのでは?」
「現実でもそうなるからな。仕様だ。
ダンジョンを出るまで1時間+3時間の行程だな。
折角なので1人1回2個のダイスだ」
「ゴメン。1、1」
「靴紐が切れて、転んだ。HP-3。及び1時間のタイムロスだ」
「うわ、悪い」
「ダイスばかりは仕方ない、気にするな!」
「GM。タツミは『ヒール』をシノブ嬢にかけます」
「え、いいって、もう帰るし」
「シノブ嬢がそんな素振りを見せるので「練習したいのです。ごめん遊ばせ」と『ヒール』です」
「このお姫さん、強いぞ?」
「理詰めで叱れば止まるので、分かりやすく教えてどうぞ。
小難しい言い回しだと、きっと意味が汲み取れません。知性10なので」
「この姫さん、知性10の猫被りしているタイプの姫さんだ…!」
「ダイスの道標は絶対なるゆえ、抜け道は探したいですにゃん」
「やり過ぎるとGMに叱られそうだにゃん!」
エンフィ、ノリがいいなお前。
「その時は潔く諦める。わたしが楽しくても周りがそうでないのなら意味がないゲームだろうし、っと、GM5、1です」
「行きは気が付かなかったが、オジゾウサマが道行く人を慈愛深く見守っている。
手を合わせていくか?」
「「まあ!こんなところにお地蔵さまがいらっしゃったわ!」と、タツミは小さめのお菓子を1つ供えて手を合わせます」
「サユリもタツミ姫にならいます」
「同じく。内心は育ちのいい人は違うなと思ってたりします」
「3人は、なにか大きな存在に頭を優しく撫でられたような気がしました。
この先、1度だけダイスの振り直しができるぞ」
「…これ、とんでもないアーティファクトでは?!」
「なして?」
「ボス戦、GMのクリティカル、プレイヤー阿鼻叫喚。それがなかったことになりますね?」
「現世利益が過ぎる。お地蔵さま、そんな菓子1つでご利益くばって大丈夫なん?」
「このオジゾウサマに会えるのは1度きりだ。得難い経験をしたところでエンフィ」
「はい。4、2でした!」
「また6か。イベント消失の場合はと、…指定がないな。
なにごともなく、順調に帰ることができました。
さて、エンディングだ。
とある瀟洒な邸宅にて。
姪の【初めてのお使い】の帰りをソワソワと待っているご婦人の姿がありました。
ご婦人の名前は カヨコ シジョウ。
一代貴族の家に生まれながら、エドが誇るダンジョンマスターの雄として名を挙げつつある立志の人です。
いま、カヨコさんの元に使い魔が戻ってきました。
気の利く従者をダンジョン近くに侍らせていたのは、可愛い姪に過干渉を嫌われたくない叔母さまの秘密です。
報せによると3人は無事ダンジョンを踏破し、帰途についたとのことです。
さあ、のんびりしてはいられません。
お腹を空かせて帰ってくるあの子たちのためにご馳走を用意しませんと。
お駄賃はなにを用意しましょうか。
奮発したいところですが、あまり高過ぎるものもよくありません。
あの子達はまだお尻に卵の殻をつけたヒヨコさんです。
立派な冒険者になるためにはそれなりの手順があることも、ベテランの域にもう一歩のところにいるダンジョンマスターは知っていました。
あの子達の冒険に相応しい、でも素晴らしいものを用意しなくてはね。
東の都の魔女さまは楽しげに微笑みました。
全員生還のグッドエンドだ」
えーと。
「つまりダンジョンマスターの手のひらの上エンド?」
「ラスボス格を気軽に出したら乗っ取られるに決まってるだろ?」
「オレたちはラスボス候補生だったんだ…」
「シナリオ的には悪いダンジョンマスターも出てくる」
「参考までに、どんな悪いことを?」
どこぞの魔王リスペクトで王女をさらったりするんだろうか。
「主に脱税だな。黒幕の悪党に騙されているケースも多い。
あまりに有名になりすぎてもう使えないからネタばれするが貧乏貴族の3男坊のシンさんや、チリメンドンヤのご隠居のダンジョンマスターは、チェーンシナリオでさんざんラスボスムーブを咬ました挙げ句、実は潜入捜査官だったりもする」
そりゃあ、双方とも体制側のお人だし。
「リザルトするぞ。
饅頭ウサギ、計4羽 (魔石20+肉毛皮20)×4=160
セクシー大根、計3本 (魔石30+青果5)×3=105
嘆きのヒマワリ、計1輪 (魔石200+種子40)=240
拾得物、プラチナダイヤモンドリング 1500
合計 2005マ。
+1人500マのギルド報酬。
経験値は1人+500ポイント
レベル2に昇格だ。スキルを1つ覚えられるぞ。
それと+4の能力が足される。これはダイスで次回冒頭で振る。
雫石の代金でカヨコさんのご褒美があるがそれも次回だ。
エンチャント付の道具が1つ、3000マまでのヤツが貰えるから、皆で考えておくように。
分配はどうする?」
「種子は姫さんの叔母さんにお土産でいいよな?
さんざん飲み食いさせて貰うみたいだし」
「同意する!
1人500マ分配で、残りはパーティー資金でどうだろうか!」
「そうだな。食糧や薬、遠征先の宿代とかが別会計なのは計算が楽だ。
それでどうでしょうかGM?」
「了解した。これで【見習い冒険者レベル1】閉幕だ。
お疲れさまでした」
「「「お疲れさまでした!」」」
シークレットクエスト!
あなたは『TRPG 異界撹拌』のプレイヤーになりました!
初回イベントクリア特典。
タツミ シジョウ のスキルが1つ使えるようになります。
サプリメント『TRPG 異界撹拌ニホン諸事録』をプレイしました!
称号『世界の謎を追う者』を手にいれました!
タツミ シジョウ が様々な経験を経て強化されると、プレイヤーに恩恵が与えられます。レッツエンジョイTRPG!
は?




