10 駄菓子屋ダンジョンはじめました
サリアータでの生活も4日目。
3日目が抜けたって?気にするな。筋肉痛で熱が出たんで、外出禁止だっただけだ。
屋内でだらだらと魔石の加工して、魔力回復の合間に本を読んだりする実に怠惰で有意義な1日だった。
「寝る前にダンジョン開きしたって話は聞いたけど、賑わっているな」
朝8時前だってのに、駄菓子屋の前は順番待ちがてら駄菓子を齧る大人の姿がちらほらいる。
「30分10人入場で24時間営業だって。整理券も配られてる。今いる人はキャンセル待ちだとか」
この時間にメンテに行きますの連絡してあるから、入れないってことはないのが救いだ。
「やばいな。コンビニ社畜をこの世界に産み出してしまったのでは?」
道の隅っこに三角陣組んでのこそこそ話だ。その上をにゅっと影が射す。
「白玉狩りは社会貢献だからな。都が半分潰れてんだ、直接はなんにもできんけどなんとかしたい奴らの需要があるんだろう。建前上。
みろよ。いい年した、じじいどもの楽しそうなツラ。すっかり童心にかえってやがる」
アスターク教官の虚仮威しに、おっちゃんどもがゲラる。
「夜に開いてる店もいいもんだ。夜中、小腹が空いてひもじかったからな」
「おう、深夜はがきんちょファーストしなくていいし」
「やっぱ人間動かんと駄目だわ。おかげさんで飯が旨い」
「いい大人が駄菓子で腹を膨らませんじゃないよ!
米を食いな!海苔巻き1つ1マだよ!」
1マはおおよそ100円くらい。食品はリアルより物価安だ。
「やったー!ばあちゃん愛してる」
「あんたらの安い愛なんていらんさね。それ食いながら仕事にお行き。昼間は子供たちの時間だよ」
女店主は100年も前から老婆だったような風格がある。かつての子供たちは逆らうすべなく追いたてられた。
「30年来の客にひでえ!ほらよ、ぼっちゃんたち杏飴だ」
「イカを食って顎鍛えろ」
「『造水』あるか?それならやっぱ粉ジュースだな」
陽気なおっさんどもは、それぞれ通りすがりに菓子を置いて立ち去った。
ポカンとする勢いだ。
「知らないおじさんにお菓子を貰ってしまった」
日本だったらアウトだな?
「まあ、金額も小さいし贈収賄にはならんだろ」
そっち?!
「わざわざ出待ちしたっていうのに、ろくすっぽ感謝も言えないおたんこなすの精一杯さね。邪魔にならなきゃ貰ってやりな。品はうちの店のだから安心だよ。おや、知らないお子が1人いるね?」
「リュアルテです、マダム。初めまして」
これは逆らっちゃいけない人だ。やや丁寧めに挨拶する。
「これはご丁寧に、あたしゃエリンさね。見ての通り菓子屋のババアさ」
エリンさんは清潔感のあるロンクドレスに引っ詰め髪、小柄でふくよかで背筋の伸びた、そんな婆さまだ。
「エリン女史は茜通り商店街の顔役だ。礼儀正しい、いい子にはお優しい方だ。紳士として淑女にふさわしからぬ醜態をお見せすることのないように」
「なんだい、固いね。品のいいお子じゃないか。あたしが尻っぺたひっぱたくこともないだろうよ」
つまり悪さをするお子さんは黄金の右手が唸るんですね?
「ばーちゃんの尻叩きマジいてえよ?」
なにやったんだヨウル。異世界生活満喫してるな?
「そんな目で見るなよお前ら。ガキどもがヤンチャ過ぎて連帯責任だからって」
「ヨウル。あんたがチビたちのボスなんだからしっかり絞めな」
「ヨウルは面倒見がいいんだな」
「ボスちげーし、あいつらがなつこいだけだって!知らない奴に平気でついてくるし、心配になるだろ?!」
おまけにお人好し、と。このクラスの委員長さんはヨウルかアリアンで決まりだな。
「それよかさ。ばーちゃん、オレさ困ったことないか調べに来たんだけど!なんかない?!」
「そうは言ってもねえ。店は息子や義娘、孫たちが手伝ってくれるし、機材のメンテナンスは道具屋さんがしてくれるし。
お客が入りきらないのは勿体ないけど、大きなダンジョンはチビが迷ったら困るって話だろう?」
「あと3倍くらいなら拡げてもよさそーだけど、それするにはこっちの腕がないんだよな。新米だから」
「なにババアがやってる店にはちょうどさね。
それよかはビリビリ棒の数がぴったりだから、いくつか予備があってもいいね」
「技師に石は渡してあるのでそのうち道具屋がもってくるでしょう、受け取りをたのみます」
年輩の女性相手だからか教官も物腰が丁寧だ。
「あー!ヨウルだ、やっと起きたー!」
「ヨウルのダンジョン白玉しかいないよ、欠陥品?」
「あんまり寝すぎると根が生えるって母ちゃんがー」
「ええい、纏わりつくなジャリどもが!せめて、1人ずつ喋れ!」
時間制の入れ換えで、ダンジョンから出てきた子供の群れ。この中の一塊が、ヨウルに気づいて走り寄ってきた。
小学生換算ならおそらく低学年から中学年まで、朝から集団で賑々しい。
「白玉しかでないのは、お前らのための安全装置だ、このスカタン。
無駄な体力を使い果たせてやるぜっつう、ありがたーい親切だ。感謝しやがれ。
お前らに好きにさせるとロクなことしねえ。
そうだろ、なあ?
子供らだけで、街の外でくさったどこぞの阿呆ども?」
アグレッシブなお子さん達め。少し年嵩のオレらですら、がっちり保護者つきだったぞ。
「前は街の中だったもん!」
「そーだそーだ!」
大人が苦い顔してても平気なのが子供だよな。
目の前のヨウルしか見えていない辺りが視野が狭い。
これは後で叱られるだろう。
子供らは視野は狭いが目の前の人間はよく見ている。
だからこその反応だ。
ヨウルが心配はしていても、あまり怒ってないのがバレてる。
でも、崩落した場所を見ればどんな危険がありそうかわからないか?
いや、見る前に捕まったのか。あの黒々とした穴を見てしまえば、流石にこの能天気さはなかっただろう。
「あん?もう一度、お袋さんの前で軍人さんに叱ってもらうか?」
「…権力には屈しない…!」
「よし、わかった。ばーちゃん、コイツら躾してやってー。ちっとも懲りてないわ」
「あーん、ウソ、ウソ」
「やだな。本気じゃないって」
なんという御手本のような掌返し。
ヨウル頑張れ。
エンフィなんて、なんか良いものを見たというような慈愛の顔をしているし。
ちょっと、わかる。子供がクソガキムーブできるくらいには、サリアータは平穏だもんな。
なんかエンフィも相当な修羅場イベントを踏んでると見た。
崩落の被害はでかかったけど、街の連中は暴動も起こさずに歯を食い縛っている。
ありがたいことだ。
現地の民衆が暴発すると、プレイヤーはホント無力。一矢を射とうと、濁流は止まれるものではない。ただ勢いに巻き込まれるばかりだ。
「元気なのはいいことだ!ただ君たちになにかあったら、ヨウルが泣いてしまう」
頃合いを見計らってエンフィが助け船を出す。
「泣くわけないだろ!」
ヨウルが不満そうなので横から続ける。
「ほら、本人も認めている。無理をして、怪我でもしたら大変だぞ?」
HP全損して酷い目に合っている実例がここにいるからな。
「はわ、ヨウルってドウネンレーの友達いたの?!」
「ぼっちじゃなかった!」
「こんな毛並みのいいのどこで捕まえたの?!」
「ヨウル、大丈夫?ソガイカンない?」
なかなか失礼だな君ら。
この態度はヨウルの気を引きたくて仕方ないからだろうけど、やりすぎは疎まれるぞ?
飼い主の靴を隠すイッヌかな?
可愛くないわけではないのがなんとも。子育てって大変そうだ。世の中のお母さんお父さんお疲れさまです。
「今日はお前らと遊んでいる時間ねーの。お仕事中なの、おわかり?
ダンジョンがきちんと動いているか確認するの。散れ、散れ」
「ダンジョンいったよ!いっぱい倒した!」
「棒で叩くと、ぱぁんてなるのに、けってもぶっても魔石にならないの。なんで?」
「魔石いっぱいあるのに、おやつは1日1マまでなのひどいよね」
「お金ね。しょーらいのため貯めておけって、いつがしょーらい?」
「か え れ 。話はまた今度な」
「はーい」
巧く約束を取り付けられたことに、ヨウルはわかっているんだろうか。
自分から言い出さずに相手から言わせる子供たちのテクニックは見習うところがある。
目標を叶えたら速やかに撤退するあたり慣れてやしないか?
しかし親御さん的には子供の金の扱いが心配なわけか。
「白玉の魔石って買い取り価格1個1マだろ。入場料+ビリビリ棒貸し出しが5マで、1人15個は持ち帰るよな。得意なヤツは記録チャレンジしてるし。ちと、不味いか?」
「稼ぎがない子供にとっては大金だな。
稼いで貯めて使う、それを覚えさせるのに、【貯める】のモチベーションあげる手段があればいいのでは?」
「賛成だ。散財だけ覚えるのはよくない。
あと、私たちのビリビリ棒は自前の魔力で動くが、普及品は動力に魔石内蔵しているんだろう?
魔石は白玉ので、交換を30分ごと。最後までもつのか?
『エンチャント』した精石は、いわば回路基板でエネルギーとしては使われないのだろう?」
魔石は動力であり基板であり集積回路を兼ねたスーパー物質だ。ファンタジー世界でIC内蔵の賢い家電だって作れてしまう。
いくらロマンがあるからって、江戸時代の生活をしたいわけではないからなあ。
そこそこ快適な暮らしは維持しつつ、空に電線を張り巡らせたくない、政府ちゃんの苦肉の策だ。
「ビリビリ棒は出力が低い省エネ仕様だからそれは平気だ。何度か試作して貰って、『エンチャント』の調整をした」
触れてもパチッとするぐらい。
安全な品物って、試行錯誤されて作っているんだな。シミジミしたわ。
外出禁止だったから伝書鳩と化したアスターク教官の指示されるがままにオレはリテイクを繰り返しただけど、仕組みを考えたり、ガワを作ったり、検品したりする職人さんはみんな熟練のプロ。オレのとこだけ作業が滞っていたんじゃなかろうか。もしかしなくとも。
高威力でドッカンするのは楽だった。絞るのって難しい。
「初めて作ったのは、トレントが1撃だったな。あれはあれで使えるから意匠を変えて、エンフィとヨウルの武具にする予定だ。…リュアルテは体力をもどしてからな」
お気遣いなく。筋肉痛の熱でダウンする子なので、文句は御座いません。
潜ってみた白玉ダンジョンは快適だった。
空は花曇りで固定され、風もなし。
三和土で固めた地面は落ちた魔石を見失うこともなく、白玉の湧きも多いので獲物を取り合う心配もない。
草の上を歩くのは楽しい。でもそれは散歩だったらの話であって、棒切れを振るう作業をこなしていくなら余分な障害物はないほうがいいに決まっている。
「これ、結界外郭よりいいんじゃないか?」
アスターク教官の判断で、女子たちも急遽ダンジョンに召集された。
「おはよう」
「ござーましゅ!」
女子2人は手を繋いでいて仲がいい。
袴は前と同じだが、上の着物は別デザインだ。
アリアンは紺地に羽根欠けの紋白蝶。クロフリャカは同じく紺地に小花を散らしている。
ハレの日のではない、ケの日の装いの着物姿もいいものだ。
「助かるわ。位階もスキル修練も足りなくて、『調律』まで長そうだけど、外郭も野良のダンジョンも少し怖くて」
スカッ、ぽこん。
アリアンはまだ空振りが多いが、当たる回数も増えた模様。
人に求められる才能があるのも良いことばかりじゃないな。
アリアンの安堵した声に思う。
アスターク教官を真ん中に、外側に向け円陣を組んで白玉狩りの最中だ。
歩かなくてもいいのが有難い。
なるべく動きを少なくするのに『念動』で魔石を拾い、腰に下げたポーチに入れていく。
「アリアンん家は食堂だったんしょ?
コックさんに成りたかった?」
「多分ね。スキルもそっち方面に固まっていたし、今も料理は好きだし。
私ねファザコンだったんじゃないかしら。
お父さんのこと、なーんも覚えてないの。お父さんがいないから、食堂に未練がないのよ、きっと。
だからダンジョンマスターになるのはイヤじゃないわ。
ただ、魔物は怖くて。食材としては凄く好きだけど」
「アリアン嬢の感覚は正しい!
自分が脅威を覚える相手に立ち向かうのは蛮勇だ」
同意。勇敢なやつほど早く死ぬよね。
臆病は美徳。
「エンフィは凄いけど、リュアルテもずいぶん綺麗に動くのよね。私もクロちゃんと一緒に棒術の初歩を習いはじめたの。先は長いわ」
「誘って!そういうの!素人仲間なの見て判るでしょ?!」
「だってヨウルは、男の子だから力あるじゃない。
力がなくてもそれなりに動けるようにって、私たちは棒術を勧められたから。
それにビリビリ棒より柄が長いから今すぐ役立つわけでもないし」
「うう、そう言われると。オレが取り回しできそうなのは、メイスとかかな?
刃物は格好いいけど、抵抗あるし」
「クロね!そのうち棒に鎌をつけるの。お父さんやお兄ちゃんがね、ザーっと大きな鎌を振るってね、草をかるの。クロはいつも草はこびだったから楽しみ!」
「それ棒の先に回転する刃物でもよさそうじゃん」
おっ?草刈りなら一家言あるぞ?
刈払機取扱作業者安全衛生教育を(一応国家資格だ)きちんと受けたし。
免許なくても草刈機は使えはするけど、家庭内でも「バイト代を出すんですから資格はとっておきなさい」って婆さまに命令されたからだけどさ。
電動草刈り機の手軽さも、乗車型草刈り機の(庭で動かすぶんは運転免許要らない)パワーもそれぞれいいものだ。
「それって危険じゃないかしら?」
「安全装置の有無によるな!」
「ううん。クロは普通の鎌がいい。お父さんとお揃いのやつ」
それは残念。
実物を入手したら、試しに貸してもらおうかとおもったが、そんなに上手くはいかないか。
『採取』の熟練度稼ぎがてら、地道に草ひきしろよって天の配剤だな、きっと。
自分の性根的に、便利なスキルがあっても、さらに便利な機械があったらそっちに流れそうではある。
「リュアルテ、生きてるー?」
「今の、ところは」
心はお喋りでも、動きながら喋るにはスタミナが足りなくて。
「リュアルテは魔力特化型なのかしら?」
「いや、むしろ持ってるスキルは、この年で体育系のが3つもあるんだが。
怪我はするものじゃないな」
とは教官の弁。
種族スキルの『美髪』と、この前あるって聞いた『免疫』。あとひとつはなんだ?
前世で持ってたのは『整体』と『骨格強化』、『内臓強化』あたりだが。んー?
「わたし『整体』もってますか?」
『整体』は自動で体の歪みを矯正してくれるスキルだ。
将来の肩凝りや腰痛の心配がなくなるのはいいことじゃないか。多分、恐らく。でも正直、今の段階では何の役に立つのか謎のスキルだ。
リアルなら兎も角ゲームだし。
ちと、休憩。座らずその場で深呼吸だ。
「持ってるぞ。パッシブの上、『美髪』の他は止まっているから意識していないだろうが」
当たってしまった。
『整体』かあ、よりによって。ま、いいかクエストが進む。
該当人物と会話を重ねると教えてくれるようになるのかもしれない。
「『美髪』。だからその髪なのね。どんな手入れをしているのか、気になっていたのに」
「星がついたらスキル石を作ってもいいけど、常在スキルは練習で伸びるわけではないから。
エンフィも同種だから同スキル持ちだ。わたしのスキルの伸びが悪い場合、そっちから手に入れたらいい」
「私は構わない!だが、星がつくまで待ってほしい!」
「おー、頼んだぞお前ら。『美髪』の星2で『発毛』出るからな!
悲しいオッサンどもの希望となってやってくれ」
「『発毛』のスキル石を景品で出したらオッサンでダンジョン埋まりそう」
先は長いぞ、とらぬ狸では?
ああ、そうか。
「子供用の景品か?」
「ずっと考えてたけど名前入りポイントカードにスタンプ押す形式はどうかなって。
そしたら金を持ち歩かなくてもすむし、サイズだけ揃えた色んなスタンプとか、絶対あいつら好きそうだしいいだろ?
問題は用意する景品で、なにを出したらいいと思う?」
「【貯める】のを覚えさせるのなら、少し値がはった方がいいな」
「子供が欲しがる格好いいものと、保護者が納得するものは違うからな」
子供の頃ってわけわからんもの欲しがったりしたし。
ティラノサウルス(実物)の骨格標本とか、手に入れても管理に困るぞ園児のオレ。駄々こねしないでフィギュアや図鑑で納得すればいいものを。
親って本当大変だな(白目)。
「オレはスキルの教本があったら読みてー!ってなるけど、あいつらにそんな頭ある…といいなあ。むりかなあ」
「私たちまだ誰もスキル石まで進んでないから、そっち方面は無理にしても。
そうね。エンチャントなら役に立てるかしら。
スキル習得のスイッチになるような、それでいてその物自体が便利な道具とかを作ってもらうのはどうかしら?
水道型の『造水』とか、ライターで『点火』とか。
自分の魔力を使うタイプが訓練になっていいわ。家族で使い回してもいいし」
「いいな!あ、でもライターはあいつら駄目。余計なことをする確信しかねえ。むしろ練習用にオレが欲しい。
作ってもらうと、どれぐらい掛かりますか教官」
「控除ありでだいたい2千マだな。インフラに関わる生活スキルは、作るも売るもお上の補助が出る」
クエスト!
生活スキルを精石にエンチャントして納品しよう!
※このクエストは何度でも受けられます
報酬 功績ポイントシステム
功績ポイントを消費することによってお得な報酬を手に入れましょう!
景品の交換、閲覧は冒険者ギルドでおこなっております。
ああ、とうとう甦り系アイテムの実装かと騒がれたけど、そんなことはなかった功績ポイントシステムさんか。
いや、手に入りにくいスキル石とか買えて助かったけど。
甦り?ハッ、人生そんな都合のいいものがあるものか馬鹿め!
そう政府ちゃんが高笑いしている幻聴が聞こえてきそうだ。
「普通の民家なら照明は、全部屋にあるものではないのだろう?
わたしは手持ちランプを押す。オイルとは違って安全だから、親御さんも持たせやすいのでは?
独りでも夜の花摘に行きやすくなる。
あと、水筒。エンフィの真珠と合わせれば、生水を『浄化』できる」
「水筒!欲しい!
小包でね、送るの!
『精製』いっぱいして、クロも買う!」
「いいわね。お手紙と一緒だったら、きっと大喜びよ」
「クロ、小包好きよ。寮のごはんおいしーけど、おかーさんのオヤツ大好き。
魔力使うといつものオヤツすごくおいしー!ってなるの!」
クロフリャカはくふくふ笑う。
実家から救援物資が届いたのか。自分宛だけの便りは初めてだったんだろうな。それは嬉しかろう。
「そう言えば『雷光』の『エンチャント』をしていて気づいたんだが、スキル石の作成って、『エンチャント』の路線上にあるスキルなんだな」
「うん。精石に書き込むだけより、人にスキルを書き込む石を作る方が技能がいるだろうが。それがどうした?」
「『エンチャント』の数をこなせば、スキル石の加工の予習にならないだろうか。
持っているスキルはなんとなく、行けるか、行けないかわかるだろう?
そしてスキル石までは遠い感覚がある。
効率のいい修得法があればいいな、と」
「練習を沢山するにしても魔力が足りないものね」
オレたち魔力多いっていわれてるのに、すぐガス欠になるもんな。
『整体』じゃなくて『内臓強化』だったら、魔力の回復率が上がったんだけど。惜しい。
「試しに1人1つ、スキルを『エンチャント』しまくってみる?
効果があったらラッキーぐらいのつもりでさ。
教官ー!オレらの持っているスキルで、道具になっても需要があるのってありますかー?」
「まずは生活スキルは全て手固い。
ヨウルの『猫目』『挑発』『パチンコ』『造形』『金属加工』。
アリアンの『ジューサー』『泡立て』『発酵』『皮むき』『カット』。
クロフリャカの『治癒』『ヒール』『水操作』。
エンフィの『加熱』『減熱』『乾燥』『抽出』『合成』。
リュアルテの『雷光』『鋭利』『採取』『受粉』『散水』。
道具で作れるノウハウがあって、特に売れそうなのはそのあたりか」
みんな面白そうだな。
気になるが今は自分のスキルだ。へえ、『鋭利』もあるのか。
スキルの構成調査はアナウンスが流れないからまだ出揃ってないのだろうけど、大分判明してきたな。
「教官『鋭利』は精石にも付与ができるのですか?
刃物に直接かけて使うものでは?」
「むしろそれが裏技なんだが。刃物に『エンチャント』すると短時間しかもたんだろ。精石を組み込んであるのはいわゆる魔剣というやつだ」
つまり『魔石加工』より『エンチャント』できる人口が多いから、そちらの技術の方が広まっていると。
「魔剣。『洗浄』付きはアリだな」
血や脂が回った刃物は切れ味が鈍る。
スキルがあっても、なにも考えずスイッチ一つで綺麗になるのは楽そうだ。
「『加熱』で火の魔剣…はムリか。金属が熱で焼けてしまう」
「工具ならありでしょ。アーク溶接」
「なるほど、そっちか!」
「魔力のコストを考えると、やっぱり生活スキルがいいかしら?」
中の人がいる男連中は別にして、アリアンしっかりしてるよな。
本物の同年代と混じったらきっと、頭ひとつ抜けて大人びている。
「オレ、生活スキルないんだよなあ。んー『パチンコ』かな。鳥撃ちには勝手が良かったし。
『ターゲット』誰かある人ー?」
「クロ、あるよ!」
「一緒にやらね?」
「いいよ、お手伝いするね!」
出遅れたが結果オーライ。相性よさそうな組み合わせだ。
「エンフィは『ライト』がいいかもしれない。『ライト』と『雷光』は繋がりがあるスキルだし、種族特性的な要因と、ビリビリ棒を使っていることでスイッチをかなり踏んでいる。それで足りなくても教本の1冊も読めば『雷光』なら自力でとれそうだ」
腕の疲れが抜けたところでさて、もう少し頑張ろう。
目の前を通りすぎようとした白玉を、斬り捨て御免とポコっておく。
「勧めてくれたのでそうしよう。リュアルテはどうする?」
「わたしは『造水』か『洗浄』だな」
『点火』はストップかけられたし。
「私『洗浄』ないのよね。そっちを頼んでいいかしら。『造水』はあるから」
「そーいうことになったけど、教官としてはどーっすか?
職人さんの手配とか、色々と」
円の中心に立つ教官に視線が集まる。
「些事は任せろ。どうあっても赤は出さん」
きゃー教官格好いい。
快く出されるGOサインが素晴らしい。
「企画書は纏めておくが、きちんと読んでからサインするんだぞ。
こちらもなるべく簡易に作るが、わからん場合はサインはするな。
お前らは金の玉子を産む鶏だ。これから有象無象が涌いてくる。
わけわからんごちゃごちゃした契約書はお前らを騙すためのものだと思って突き返せ、いいな!絶対だぞ!」
凄く念を押しますね教官。
なにか事件があり申したか。
わかってないクロフリャカ、戸惑うアリアン。
ヨウルやエンフィは遠い目だ。
そうね。時々なんのゲームをしてるかわからなくなるね。