1 はじめましてのセカンドアバター
……アンケートの集計が完了しました。
必須条件5項目のうち
男性
全年齢
狩猟
採取
生産
上記が選択されました。
この条件でアバターをランダム生成をしてもよろしいでしょうか?
※ ランダムで生成されたアバターは、頂いたアンケート、今までのゲームプレイ等、貴方の情報をもとに最適化しています。
よってアバターのステータスなどが高くなる傾向にありますが、名前、種族、容姿、年齢、ステータスの全てがカスタマイズ不可能になります。
『はい』
アバターを生成しています。しばらくお待ちください。
………お待たせしました。
貴方の身分はサリアータ冒険者幼年学校の新入生です。
ステータスを開示します。
リュアルテ ノベル サリアータ
年齢 12歳
性別 男
種族 エルブルト
容姿 金髪 金目 現在、やや痩せぎす
特記 衰弱状態
経歴
サリアータ界面大崩落により、貴方は名前以外の全てを失いました。
家族やそれに伴うコミュニティ。大怪我をしたせいか、精神的なものか、大切だったはずの【誰か】の記憶すら貴方にはありません。
リュアルテ ノベル サリアータ
それが貴方の名前です。
崩落したノベル村のリュアルテは、新たな名前をひとつ得ました。
年若く、寄る辺のない貴方は、サリアータ迷宮領主の預かり子となったのです。
数多い養子の中の一人とはいえ、貴種の子ならば教養は必須。
かくして貴方は心の備えもないままに、これから設備を調えていく予定のサリアータ冒険者幼年学校第0期生として学びの門をくぐることと相成りました。
貴方の物語はここから始まります。
「重いわ」
セカンドアバターのリュアルテくん。ちと君、不幸すぎやしないかね?
待機ポーズの少年は、勿論何も応えやしない。
少年は表情さえあれば、可愛かったに違いない。
しかし目の虚ろなところとか、そのままホラー映画に映っても違和感がないありさまだ。手足なんて棒きれのように細っこい。
容姿の特記に痩せぎすとあるが、これはもう入院が必要なレベル手前で痛々しかった。
もやっとする。
そりゃあ、まあ。
ドラマのないゲームなんて退屈だろうし?
だけどランダム生成の、一般プレイヤ-用アバターだぞ。運営は容赦なく業をのせすぎではなかろうか。
アバター決定前の光球状態じゃなければ、頭をかきむしりたいところだ。
決めた。
これはもう、この子で決まりだ。
次ページに表示されるはずのスキル周辺は見ずにスキップする。
この外見だ。初期能力値はファーストアバターの半分あれば、御の字とする。
切った張ったは前の奴だけでいい。そうしとく。
2体目はほのぼのスローライフ。ファンタジーで田舎暮らしする予定だ。頑張ってキャラ厳選はしなくてもいいし、なによりもだ。ここでリュアルテくんを選ばないと、運営にこの子が現地民として出されてしまう。それは避けて置きたい。切実に。
というのもこの『異界撹拌』。国営18禁ファンタジーVRMMOだ。
運営の方針に意見は、なきにしもあらず。
いや、浸かっているゲーム沼住人ほど注文が多くなるものなのだ。不平不満はお許しあれ。
このゲーム、間違いなく神である。神であるが。
ちょっとまあ、色々あれだ。
ハード面は称賛しかない。
寝ている間にゲーム出来て、睡眠バッチリ、体調スッキリ。ゲーム内では時間加速しています。3時間が1日計算です。しかもVRで、五感も搭載してますよ。そうくれば、技術の進歩ってスゲーな、ようわからんけど。ってなる。一般人的に。
原理はさっぱりでも家電は使える。そんなノリで。
これだけ技術をぶち込めば主催がお国なのは、そらまあそうかと納得だ。
うちの周りだけでも、なんか妙な法案が通ったなーと思ったらあれよあれよ。うちの爺さまのキャベツ畑に、立派な塔が建てられてしまって驚いたし。
こういった施設を全国津々浦々整えるには、民営では無理だという話だ。
資本の問題だけじゃなくて、畑潰すのスゲー嫌がるうちの爺さまみたいな地権者もいるしさ。
だからといって後回しにするのは、素人判断でも問題外ってゲームしてればわかってしまう。
寝ている時間で勉強したり遊べますよってのは、『異界撹拌』がサービス終了しても使い回しが効く技術だ。ゲームで経験を蓄積しといて、ブラッシュアップしてる最中と見た。
日を追うごとにどんどこ増えていく協賛国家、ユーザー数に政府ちゃんたちの本気を感じる。
そんなこんなで政府ちゃんのお膝元、日本サーバーは倫理観お高めで運営されていたりする。
なにせ日本の法律でアウトな行為は銃刀法以外、大抵が憲兵さんにしょっ引かれる仕様だ。ゲームなのに。
……脱獄も出来ない刑務所プレイのどこに需要があるんだろうな?
そんな治安はよろしい『異界撹拌』。何が問題かと言えばイベントストーリーだ。
情はある。だからこそ鬼畜生と評判だ。
卑近な例で自分の例を出しておく。
3カ月前頃の話だ。
件の関連施設のあれそれで、もともと持っていたゲームのチケットを爺さまが譲ってくれたのだ。
爺さまとしては政府ちゃんに散々駄々こねした手前、自分で使うのは複雑だったらしい。
タイミング良く、オレの地元大学の推薦が通った折だった。
日常では高価すぎるプレゼントも、一足早い入学祝いの名目があったために遠慮せずに受け取れた。
まあ、流用品とはいえ嬉しかったな。
最先端の娯楽品が、棚からぼた餅。浮かれるなって無理な話だ。
受験対策、部活の引継ぎ。やるべきことは済ませた後。
すでに配信が始まっていたゲームは、人気も上々。
人生初のVRMMO。血沸き肉踊るファンタジー、付け加えるなら成人向け!
当方、健康な青少年。心ときめかないはずがなく。
気持ちが急くまま作成したファーストアバターくんなんて、アンケート補助すらなしの一発ぶり。完全ランダム生成だった。
わくわく速攻ログインしてみれば。もうね、うん。
現地は異世界間の戦争開始秒読みで。
ぶちまけられる血飛沫、ホットスタート。
VRの戦闘にビビりつつストーリーを追えば、いい奴も悪い奴も容赦なく死んでいく。ヒロイック成分のもりもりっぷりに、何度心を抉られたことか分からない。
プレイヤ-も死ねばキャラロストだから、このゲーム人命が本当に儚かった。自キャラが何故、あの環境で生き残れたか不思議でならない。
『異界撹拌』が成人向けなのはさもありなんだ。
二次元のゲームや映画ならありふれた物語でも『異界撹拌』はVRなんだぞ?
五感がリアル!
なんで異界間人類同士の争いとか、えげつないシナリオを組んでくるんですかね。運営ぇ。
そりゃエロがなかったとは言わないが、エロがなくても18禁だろこのゲームは!
表現の規制に配慮してくれるやさしさは、ストーリーにも欲しかった。
そんな『異界撹拌』。
なんの勿体ない精神か、プレイヤ-が作成して使われなかったアバターは現地民として登場する。
こんな心に傷持ち設定のある子を運営に渡したら『ああ、あの子は可哀想だったね…』的なイベントにされてしまう。経験からして。
やはり鬱は作らない、作らせないに限る。
このゲーム、ロープレは基本だ。
12歳なんてリアル妹たちより年下だけど、なんとかなるだろ。
まずは沢山食べて、太らせないと。
先ほどからずっと点滅しているスタートの文字をタップする。
一度、目の前が暗くなった。
ムービーが流れる合図だ。
黄金の海。
鳥の視点なのだろう。
上空から眺めれば、豊かに実るのは風そよぐ稲穂だ。
物語の舞台。サリアータはどうやら穀倉地帯らしかった。
北には山脈。南は海。大地の綠影が色濃く、ポツポツと散見する荘園は人の暮らしを想像させる。
しかし、綺麗だとため息をつくには不穏だった。
荘園から伸びる道。たどり着く先には、黒い大穴がぱっくりと口を空けている。
在りし日は、うつくしかっただろう、サリアータ。
白い都は、半月のように欠けていた。
リュアルテ ノベル サリアータ
貴方の目標はダンジョンマスターになることです。