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8 なんでこうなった

状況把握できないまま、メイドたちの手で何故か体を磨かれていく私は必死に考えた。

何もわからぬまま流されていては、取り返しのつかないことになるという不安から記憶を遡り予兆を探る。


良い匂いのするお風呂に浸かりながら、大臣の仕事が原因であることは明白であると厳しい顔を作る。すぐに顔のマッサージが入って台無しにされたが、頭の中は冷静でいなければ。


革命が起きたのは、今日の朝である。皇族は朝議も謁見も面倒に感じており、滅多に行われることがない。なので、新たな商団としてやってきた革命軍が本日最初に皇帝と謁見した。


楽々と王城に入り、皇帝夫妻と会うことに成功するとすぐに捕縛されて終わり。戦争にもならなかったというのだから驚きである。戦国時代の武将が一夜にして城を占拠した話を思い出したが、本当に誰も死ぬことはなかったので穏健派というか優しいというか。愚かだとか評されるだろうが、私的に言えば嫌いじゃない。恨むほどの非道が降りかからなかったからこその意見だろうけど。


さて、その革命軍であるがジギル村の人たちであるらしい。保護も補償も何もない、一方的に虐げる軍法会議ものの悪行の被害者たちである。


嘆願書を見て何とかしたいと思ったことは間違いないのだが、私が今回の革命の主犯格と言われる謂れはない。商売の幅を広げたいという、商人のギンロを呼んで自由が利く許可証を発行してあげただけなのだ。


もちろん一応少しは考えてジギル村への交通路の整備と交易をおこなうことを条件としたし、許可証を使用するときは報告必須。ギンロも承諾して、あとはお願いと丸投げしたのだ。


それか王宮でギルドマスターと遭遇した時、流行り病の治療薬に必要な素材の情報を渡したことだろうか。ギルドがジギル村へ行くための許可証を申請したので、それを受理。素材は無事に入手できたらしく、多くの人が助けられたと報告兼お礼の手紙が届いた。手紙と一緒に、ギルドのブラックカードも入っていて。どうやらこのカードでお買い物すると、ギルドがその分のお金を支払ってくれるらしい。使いにくいと思う以前に、お買い物に行くことないんですけどね。


あとは、何があったっけ。大臣に「何の特徴もない顔と体をしてつまらない」だの「役立たずの無駄飯食らいに仕事を与えてやっている私に感謝しろ」だのといつものパワハラを受けて怒りが爆発したことがあった。悔しくて腹立たしく思う気持ちのまま、大臣の隠し金庫を荒らそうと鍵束を手に取る。


一つ一つ確かめていって、やっと開いたと思えば一枚の紙が入ってるだけで面白いものはなかったけれど。あれ、そういえば金庫のカギ閉めたっけ?そのあと誰に見られても困らないように覚えたての古代語で大臣の悪口を書きなぐり、紙飛行機にして飛ばしたことは覚えているけど。まあ、それは関係ないか。


そのぐらいだろうか。大臣の印章ありきのもので、言うなれば大臣が主犯格となるんじゃないだろうか。


昨日の夜、大臣にそこら辺のことがバレて物凄く怒られた。執務室に殴り込みかというような勢いで、私は机を挟んで逃げ回る。大きな体に鈍い動きの大臣に捕まるほど鈍くはない。苛立つ大臣は国家反逆罪だと騒ぐが、けれど私に一任した大臣が黙認したことも同然であるというのに大丈夫ですかと言い返した。これ見よがしに、大臣の印章を見せびらかせて。真っ青な顔で絶句する大臣の姿には、スッキリとした晴れやかな気持ちになったのは我ながら性格が悪いが。


すぐに怒りで沸騰した大臣に殴られそうになったが、結果的に大臣は何もできなかった。一瞬放心したようだったが、何だったのだろう。まあ、痛い思いなんてしたくはないから助かったけれど。


その後は逃げるが勝ちと「一蓮托生ですのでお忘れなく、では失礼します!」と言い逃げして早急に夜逃げの準備を始めた。大したものは持っていないから、すぐに終わると思ったのだが意外と時間がかかる。ちょっとしたお金になりそうなものを集め、脱出に必要な道具の準備をする。使徒は一応国から保護される立場であるから表立っては害を与えることは出来ないが、あの大臣の勢いでは暗殺者を雇ったりしそうだ。ナルキスは心配しすぎだと呑気なことを言っていたけれど、こちとら命がかかってるのだ。危険に晒されるのは初めてではないにせよ、必死なのは当然だ。


早朝に出入り業者が来る。それに便乗して逃げる算段だ。そのために王城に来た商人を捕まえて、次回は一般的な服を用意して欲しいとお願いして入手した代物を着こんだ。それらしいカバンも用意し、演技の練習も行なって。だが予定されていた業者はこなかったし、別の騒ぎが起きたので予定変更。第二の策では、詰所にある兵の服を借りて成りすますつもりだったのだが、商人ギンロが来て衝撃の事実を告白したことで計画は頓挫することになった。なんで、私が国を滅ぼす計画をしなければならないのだ。そんな話をギンロとした覚えが全くないのだが。真の黒幕を隠す隠れ蓑にしても、何故私が選ばれなければならなかったのか。


結局ビリーバーズ帝国の皇族や大臣たちが一様に御用改めになったが、冤罪をかけられ犯人に仕立てられた私が逃げられるはずもなく。


「ギンロ様がご用意された、一級品のドレスです。その後はお化粧を施させていただきます」


光沢があって、シルクのような柔らかさのマーメイドドレスだ。とっても素敵で憧れるが、自分が着るとなると全力で拒否したくなる。


だって胸元が凄くあいているし、体のラインがもろに出る。私がこんなものを着たら、それだけで人の目を穢した犯罪になるんじゃないかと思う。


「あの、他のドレスはないですか?」


「巫女さま、私どもに敬語は不要です。どうぞお気軽にお話しください」


「その、私にとって難しいことなので、お時間を頂けると幸いです」


「承知いたしました。お心を許していただけるよう、私どもも精進してまいります」


メイド長は優しく微笑みながら許してくれた。以前メイドに成りすまして怒られた時は物凄く怖かったが、とってもいい人だ。ほわっと心が温かくなった。


「それで、ドレスなんですけど。もっとふんわりとしたものって、ないですか?」


体のラインが隠れるような、露出の少ない物がいい。


「ご心配なさらないで下さい。巫女さまはとてもお美しいですから、お似合いになるはずですよ。ギンロ様のセンスは素晴らしいですから、信用して頂いて間違いございません」


さあ、お時間があまりございませんからと押し切られてしまう。恐ろしさを覚えるほどピッタリサイズであったため、ドレスを破くことがなかったことは不幸中の幸いか。スキンケアから始まる二時間にも及ぶお化粧と髪もハーフアップされて、やっと完成。


「本当に神がかった美しさです。どうして今まで気づかなかったのか、不思議でなりません」


「えーと…ありがとう、ございます」


メイドたちが絶賛してくれて、私は恥ずかしさのあまり茹でダコになったように熱くなる。全身鏡を見れば、なるほどメイドたちの力量が高いから馬子にも衣裳だ。自分でも、ちょっと綺麗かもしれないと嬉しくなって心が弾む。


「サジタリウス様をお通しして、よろしいでしょうか?」


いきなり出てきた「サジタリウス様というワード」に、私は混乱しつつ何故かと訊ねるとメイドはポッと夢見る乙女のような可愛らしい顔をした。なんでも、これから行われる戦勝パーティーのエスコートをしてくれるらしい。神様にエスコートしてもらう訳にもいかないし、一人では参加は寂しすぎるから有難い申し出だろう。


伯爵さまが見られるなんて、と喜ぶメイドたちから女性人気の高い人物であることが窺える。なんでもサジタリウス様は王国一の美男子として名を馳せた人だったらしく、存在そのものが色気の塊なのだとか。まあ、どれだけ美しくても人間の範囲内。ナルキスは人外の美しさだし、耐性はあるはずだからドギマギし過ぎて醜態を晒すなんてことはないだろう。メイドたちの口から次々と飛び出してくる賛辞を、そうなんだと相づちだけ打って流す。


「さあ、あなた達は端に寄っていなさい。静かにしているんですよ」


メイド長が軽く手を叩いて指示を出すと、メイドたちは素早く壁際によって頭を下げた。礼儀作法なんて皆無だし、お誕生日パーティーしか参加したことがない。それでも大丈夫だと言われたが、やはり少しでも失礼にならないようにしたい。


淑女の礼って、どうやるんだっけ。何かの漫画で見た覚えがあるんだけど。そういえばダンスは必要なんだろうかと考え事は尽きない。


あれ、そういえば。革命の関係者というか首謀者扱いになっていることについて考えることをいつの間にか止めてしまっていたことに今更ながら気づく。そもそも私が戦勝パーティーの参加者であること自体もおかしい。何か誤解だとか勘違いがあるのは間違いないが、その認識をどう正したらいいのか。正せたとして、私は生きていられるのか。


私の行動で国が変わったなんて、重すぎる。救世主とも言われたが、私は断じてそんな人物ではないのだ。救世主を騙ったとして私も牢獄行き?そんなこと自称したこともないのに?


「どこか遠くに行きたい…」


呟きは静かになった部屋ではよく聞こえただろうに、拾ってくれる者はいない。私がお風呂に入っている間は暇だからと出ていったナルキスも、まだ帰って来ていなかった。これ、最悪の想像が現実になったら詰んでいるのでは?


そして私の耳に、部屋の扉が開く音がした。


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