九話
「高橋君ちょっといいか」
朝のホームルームが終わり、1時間目の授業の準備をしようと教室の外にあるロッカーに物を取り良くふりをして人のいない教室から脱出しようとしていた頃だった。黒板の方から嫌な声がし、恐る恐る見てみると案の定今浪先生がこちらを見ていた。俺は身柄を抑えられた容疑者のように教卓へと向かっていった。
「どうしましたか」
「部活には入らないのか」
「今のところは入らないつもりです」
「そうか、別に無理にとは言わないが部活に入るのも悪くないぞ。もし心変わりしたならいつでも言ってくれたまえ」
「わかりました」
(何でここまでしてこの人は部活に入れたがるのか、確かこの学校のパンフレットに生徒の入部率が99%以上という売り文句がでかでかと1ページに書いてあった気がしたな。きっと部活動に入らない生徒がいたら教師側に何らかのペナルティがあるのだろう。まだしばらくは部活の押し売りが始まるんだな)
授業の準備をするため廊下にあるそれぞれに割り振られたロッカーの中に物を取りに行った時、つい天の川に見惚れてしまった。こちらに気づいた少女は慌てて教室の中に逃げて行った。落ち込みながらロッカーの物を取り、逃げて行った少女を追うようにして教室に戻り、隣の席に置くと、右側から少女の声が聞こえた。
「あの、真翔くん」
してるはずのない耳栓をしてないことをしっかりと耳で確認しながら少女のほうを見た。
「この前はありがとうございました。これ、借りたお洋服です」
差し出された紙袋の中には菓子折りが入っていてその上に白い封筒が入っていた。中の妹のお気に入りの下着が見えないように洋服一式が巾着袋に入っているようだ。
「わかった、この上の箱はお礼の品ってことでいいの」
「はい、そうです」
(この菓子は結衣が喜びそうだな)
その後ロッカーまで1往復して席に着いた。
外に見える高積雲はいつも通り浮いていた。