八話
太陽の仕事が一日の後半に差し掛かった時、俺の膝の上には物語のお姫様の頭が乗っかっていた。
「おい、どうしたんだよ、大丈夫か」
「心配するなら早くそこをどいてほしいんだけど」
彼女の倒れ方はとても演技を疑う余地はなかった。ベンチの上を渡し彼女に話を聞いた。
「どこか悪いのか」
「大丈夫、私低血圧なだけでいつもここで散歩の途中に休んでるの。今日はうっかり寄り道をしちゃったってわけ」
「そうか、それは大変だな」
(低血圧なのか、そういえば昔に友達と遊んでた時俺が柵に頭をぶつけて血が大量に出た記憶がある。その時自分の頭から出る血を見て死を覚悟したな。気を失って気づいたら病院のベットの上で、少し歩くだけですぐにフラフラになるほどに血圧が低くなってた。この子は今その状態なんだろう)
「それよりいつもいなかったのに何で今日に限ってここにあんたがいるのよ」
「ランニングの休憩だ」
「そう、じゃあ早く行かないと足に乳酸たまって走れなくなるわよ」
「さっき目の前で人が倒れたんだ、この場を離れられるわけないだろ」
彼女の刻むリズムが遅くなるのを感じた。
「あなたってロリコンだったのね」
俺はこいつを置いて家に帰ろうとか思った。
それからは一言も話さないまま時間が経過した。彼女は見た目に似合わず老婆のようにゆっくりと立ち上がり水道の方へと向かい、蛇口をひねり彼女のもとに透き通った水が向かっていく。その水に彼女は腰を丸めてキスをした。その光景はどこか現実離れしたファンタジーの世界の姫のように見える。その後、彼女は『ありがとう』その一言を残してまっすぐに公園を出て行った。
いつもより長い時間をかけて帰る道のすれ違う人たちはなんだか嬉しそうに見えた。