五話
汗をかいた体のせいか湿度の高い更衣室をいち早く抜け出して帰路についた。
「ただいま」
「お帰りお兄ちゃん」
そう言葉を交わすと妹は俺を避けるように部屋に戻った。
(なんか今日、結衣のやつそっけないな、きっと学校で友達と喧嘩でもしたんだろう、あとで何があったか少し探ってみるか)
部屋で漫画を読んでいると扉が3回ノックされて開いた。扉の向こうには妹が立っていた。
「お兄ちゃんちょといい」
「何かあったのか」
「私の服がなんか無くなってるんだよね」
俺は一瞬にしてすべてを察した。朝とは違う暗い妹の表情、帰った時のそっけない態度、つまりこれは俺が原因だ。
「しかも、洋服一式が丁度無くなってて下着も気に入ってたやつが無くなってて…」
「それは残念だったな、きっとそのうちまた出てくるよ」
俺の体中から汗が噴き出していた。
「実はね、漁られた痕跡があって、私いつも引き出しは半開きのままにしておく癖があるんだけど、学校から帰ってきたらちゃんと閉まってたの」
「そ、そうか、それは怖いな」
「お兄ちゃん…隠してないで自白しなよ。汗だらだらだしキョドりすぎてて気持ち悪いよ」
(がぁぁぁぁ、俺ってそんなに顔に出やすいタイプなのか、いや、むしろ出にくいタイプだと思う、小学校の担任にも『もっと表情豊かにしましょう』と通知表に書かれるくらいだ。だとしたらさすが俺の妹だな)
「ゆ…結衣…これには訳があって…」
そこまで言ったところで勢いよく扉が閉められた。
(俺の人生は今をもって終わってしまった。神様、次は動物園でちやほやされるパンダになりたいです。だけどここまで積み重ねてきた人生だ、とりあえず最後までやることはやろう)
俺は妹の部屋の前でひたすら謝ったが中から反応はない、ノックして入ろうとしたが扉が1ミリも動かなかった。
いったん部屋に戻ってじっくりと作戦を練ることにした。