三話
黒い雲が見渡す限りの空を覆う日、大通りの見える人気のない横道を使って登校していた時に前方で倒れている人を見つけた。前日に降った雨で道には斑点模様のように水溜りができていたためその人は大変汚れていた。
(俺は基本面倒ごとは避けたい人間だと思ってる、だが、このまま前に進めば間違いなく面倒なことになる。ここは一旦来た道を引き返して別の道を使う方が得策だな)
後ろに体を向けようとしたとき偶然と倒れている人が起き上がり目が合ってしまった。俺はため息を一つついた。
「大丈夫ですか、お怪我はありませんか」
「あっ…はい大丈夫です。ありがとうございます。」
近寄って見えた顔は、入学当日に三回謝罪をしてきた少女で間違いなかった。
(俺は何をしてるんだろう、今まで俺が人を家に呼んだことなんて人生で一度もなかったのに、学校でちょっとぶつかっただけの人を簡単に家に上げてしまうなんて、おかげで入学してすぐに皆勤賞はなくなったよ。まぁしょうがないな、今のうちに服用意しとくか)
妹の部屋に侵入し適当な服を選ぶ姿はまさに変態に見えるだろう。完全犯罪とはこういうことを言うのだと身をもって実感した。
ゆで卵のように張りのある肌をこれでもかと見せつけながら妹の服を着て俺の前に現れた少女は、季節外れの天の川を頭になびかせ床を見ながら感謝した。
「ありがとうございます…お風呂だけでなく服までも貸してもらえるなんて申し訳ないです。あの…もしよかったら…あの……何かお礼をさせてください」
(この子は今自分で何を言ってるのかしっかりと認識できているんだろうか。これがもし俺じゃなかったらどんな事されてたかわからないぞ、いや、別に変なことなんて考えてないし、俺だって理性のある人間だし、大丈夫だ落ち着け俺)
「急には思いつかないから思いついたらその時に伝える」
この時の自分に盛大な賞賛を送りたい。
その後、少女は学校に欠席の連絡を入れて自宅へと足を運び、俺は再びあの道を通り学校へ向かった。雲の色が少し薄くなってる気がした。