始まり
イヤホンから聴こえてくる潤った歌声が耳を満たしている。周りの視線の先にはきれいな桜の花が舞っていて、まるでこの俺を皮肉っているようだった。
「この学校綺麗だね」
「そうだね、私たちのいた学校とは大違いだよ」
「あの学校が汚かっただけだよ。あっ!そういえばあとで体育館だよね」
そんな会話が後ろのげた箱から聞こえてきた。
校門で渡された指示用紙に従い靴をしまった時、高層雲のような香りに包まれた。すると右側から少しおびえたような声が聞こえた。
「あの…すいません」
左右であべこべな世界を聴きながら黙って会釈をした。そして再び自分の世界に一つになった。
周りを見渡し人がたくさんいる壁際の方に進み名前が書いてある張り紙を眺め”高橋 真翔”の文字を探した。だがやはり一筋縄では見つからない、変わった名前が多いせいで余計に見つけにくい。周りのスペシャルな人たちが少なくなるまで迷惑にならないちょうどいい場所を見つけて待つことにした。下駄箱から校内に上がってくる人たちの視線を受けながら待ったおかげで自分の名前を確認し、割り振られた教室にたどり着くことができた。
丁寧に50音順に並べられた名前に従って皆席に着いているのを真似して俺も席に着いた。一息ついたその時、右の肩にやさしい衝撃が1度感じられた。そちらを見てみると、体をこちらに向け左手の人差し指を軽く曲げてこちらを指さす少女の姿があった。口をパクパクさせている彼女を見て俺は慌てて携帯の電源を切って両耳についている耳栓を取った。
「ごめn…聞こえなかっt…」
「あっ…すいません、何でもないです」
(いったい何だったんだろうか、いやがらせなのかそれとも何かの罰ゲームなのか、それにしても久しぶりにこんな体験をしたような気がする、しかも星空に浮かぶ真ん丸な月のようにきれいな人だった。もう二度とこんな機会は無いだろう。)